皆、やっぱり甘い方が良いんでしょうね。正直作者もそっちの方が大好きです!
出来ればお気に入りを抜けた人とかには改善点とかの指摘をしていただければ嬉しいですね。
レイナーレはその日も湊と共に学園に登校する。
彼女は大好きな湊と共に過ごせることに本当に喜び、この日も彼女はその喜びを噛み締めていた。
そんな幸せな彼女はこの後、あんな事になるなんて、この時は思ってもみなかった……。
「これで授業を終わりにします」
教壇に立つ教師からその言葉が発せられると共に、授業終了のチャイムが学園内に鳴り響いた。
そして学生達は皆昼食を取るために皆活気に溢れ、各自に行動を開始する。
ある者は学食へ向かい、またある者は弁当を広げる。そしてまたある者は、買って来たであろうパンなどを食べ始める。
そんな中、もう毎度の事になりつつあるようにレイナーレは湊に話しかけた。
「蒼崎君、お昼ご飯食べに行こう!」
「え、えぇ……」
レイナーレはそれはもう嬉しそうに笑みを浮かべながら湊を誘い、湊はそんな彼女に微笑み返しながら返事を返す。
しかし、その笑みはいつもより若干堅い。
何せこの時、湊の体温は明らかに通常時よりも高くなっていたのだから。
彼は自分の体調がかなり悪いことは分かっていた。しかし、レイナーレに心配をかけたくなかったのだ。湊の知るレイナーレという女性は心優しい人だ、きっと心配して心を痛める。
彼女にそんな悲しそうな顔はして欲しくないし、せっかく毎日楽しんでいる学園生活に横槍を入れたくはない。
だからこそ、湊は耐えた。
何、彼にとってこんなことはよくあることだ。今に始まった話ではない。
この身体は柔であり、病気がちなのは昔からだ。
だから何てことはない。
そう割り切っていたが、それでもこの風邪は彼の予想よりも酷いようだ。
湊はふらつく身体を持ち上げながら、レイナーレに手を引かれ屋上に向かう。
彼女の嬉しそうな雰囲気を感じながら、彼女に気取られぬように気を付けながら。
そしていつもの様に屋上に出て、二人の定位置になりつつあるベンチへとい向かう。
「今日はね、玉子焼きの味を少し変えてみたの。蒼崎君の口に合えば嬉しいんだけど」
頬を赤らめながら湊にそう言うレイナーレ。
そんな彼女の可愛らしい声に胸が暖かくなるのを感じる湊だが、正直意識が朦朧とし始めていた。
カチャカチャと音がすることからお弁当を広げていることが窺える。
そして鼻腔をくすぐる美味しいそうな香りに期待が高鳴っていく。きっと彼女のお弁当は今回もまた、とても美味しいのだろう。
湊は食べなくても分かっていた。もう彼女と暮らし始めてからずっと彼女の料理を食べているのだ。如何に彼女が料理上手なのかは充分に知っている。
だから彼は笑う。彼女が笑顔を浮かべていることを思い描きながら。
そして気が付けば、彼の意識は消えていた。
「蒼崎君、コレなんだけ………ど、どうぞ、あ~ん」
屋上ということもあって人目がない。それもあってか、レイナーレは此処では教室よりも大胆に湊と接する。それでも恥じらいはあるのか、声に羞恥がにじみ出ていた。
しかし、いつもなら同じように恥ずかしがりながらも口を開けてくれる湊が今日に限っては何も応えない。
もしかして聞こえなかったのだろうか? そう彼女は思い、湊に少し不安そうな声で話しかけた。
「蒼崎君、どうかしたの?」
しかし、湊は何も答えない。
それがレイナーレには不安に感じた。もしかして自分は何か彼の気に障るようなことをしたのだろうかと。
だからこそ、湊の肩にそっと触れた。
そして何が悪かったのかを聞こうとして………顔が凍り付いた。
レイナーレの目の前には、座っていたベンチ方湊が崩れ落ちた。
彼女の耳に湊が床に倒れる音が響く。
そしてやっと彼女も気が付いた。湊の本当に苦しそうな苦悶の表情を浮かべて息苦しそうにしていることに。
「み、湊君っ!?」
目の前で起こった事に驚愕し困惑するレイナーレ。
それまで会話をしていた湊が急に倒れたことに、彼女は混乱していた。
何で、どうして! そんな言葉が頭の中を満たすが、今はそれどころではない。
湊は、レイナーレは大好きな男の子が死んでしまうんじゃないかと思い、冷静では居られない。
「どうしよう、どうしよう!!」
湊を慌てて抱き起こすレイナーレ。
その途端、湊の身体がかなり熱いことに気が付いた。
「熱っ!? 凄い熱じゃない!」
湊の身体が発している高熱に驚き、レイナーレはそれこそどうしようもなく困惑してしまう。
こういっては悪いが、この堕天使……まったくもって人間の看護について学んでいない。
いや、湊のことを支えるために視覚障害者の介護については勉強したのだが、人間の病に関してはまったくしていなかったのだ。堕天使や悪魔といった存在は姿形こそ人間に近いが、その肉体のポテンシャルに関してはまったく別物だ。つまり、人間がダウンするほどの状態であろうと彼等にとっては何でもないのである。そういったこともあってか、彼女は人間の病というものをまったく知らなかったのである。人間の『脆弱性』というものを知識としては知っていたが、こうして見せつけられるとは思わなかった。
だからこそ、この状況に彼女はどうして良いのか分からず混乱する。
(どうしよう、このままじゃ湊君が死んじゃう! でも、どうすればいいの……)
いくらレイナーレでもどうすれば良いのかは分かってはいる。
普通なら、湊を病院に連れて行くべきだとは分かってはいるのだ。しかし、同時に今の湊を動かして良いのかと考えてしまう。こんな苦しそうな湊に変な負担を掛けるわけにはいかないのではないかと。
だからこそ、悩む。自分が彼のためにどうすれば良いのかと。
そこで思い当たったのは、通常の堕天使ならまず考えられない方法であった。
レイナーレは懐から取り出した携帯電話(アザゼル名義)である人物に通話を掛け始めた。
そして電話越しに聞こえるコールが三回目になったところで繋がった。
『もしもし、あなたから掛けてくるなんて珍しいじゃない?』
電話越しに聞こえ始めた声は落ち着きのある優美な声。その持ち主の名を彼女は叫んだ。
「どうしようリアス! どうしよう!」
そう、レイナーレが電話を掛けたのは、この土地の支配者であるリアス・グレモリーだ。
彼女はレイナーレの混乱しきった声を聞き、レイナーレに落ち着くように言う。
『落ち着きなさい、レイナーレ。一体何があったのよ?』
「このままじゃ湊君が……湊君が死んじゃう! どうしよう、リアス! どうしたらいいの!」
しかし、まったく落ち着かないレイナーレは、リアスに縋る思いで話しかける。
そんな彼女にリアスは流石にこのままじゃ埒が空かないと判断したのか大きな声をレイナーレに叫ぶ。
『落ち着きなさい、このポンコツ堕天使! まず蒼崎君に何があったのか説明して。それで今はどこにいるの!』
「っ!?」
一喝されてビクンとレイナーレの身体が震える。
それと共に、やっと事態に対して冷静になり始めた。
そしてまずすべき事である湊の状態や状況をリアスに話し始めた。
「今は屋上にいるの。それでいつも通り一緒にお昼ご飯を食べようと思ったんだけど、蒼崎君から返事がなくて……それでどうしたのかなって思って声をかけようとしたら蒼崎君が倒れて……身体に触ったら熱くなってて……どうしたらいいの、リアス! このまま湊君が死んじゃうなんてこと、ないよね……」
リアスに説明しながら泣き始めるレイナーレ。
その瞳からは次々に涙が溢れ出し、湊が死んでしまうかもしれないと恐怖を感じていた。好きな人が目の前で苦しんでいることが辛かった。それをどうすることも出来ない自分が悔しくて情けなくて仕方なかった。
そんなレイナーレに、リアスは優しくもしっかりとした声で話しかける。
『今から朱乃と急いでそっちに行くから待ってなさい。あの子も元は人間だから、今の蒼崎君がどういう状態なのか多少は分かるはずよ。それで症状を見て命に関わるくらい危険なら即救急車。余裕がありそうならタクシーを呼んであげるから、それまでしっかりあなたが見てて! いい、今この彼を助けてあげられるのはあなただけなんだから、しっかりしなさい! 好きな男の子の窮地にみっともない姿を見せないで、しゃんとして彼を助けてあげなさい。それが良い女というものよ』
そして通話が切られると共に、レイナーレは湊の身体を優しく抱きしめる。
今までこうして抱きしめたことはなかったが、ドキドキとはしても別の意味でしかならない。
いつもよりも熱い身体。そして苦しむ湊が少しでもその苦しみが和らぐように、彼の身体を抱きしめながらレイナーレは湊に囁いた。
「湊君、待ってて。今すぐ助けてあげるからね………」
そして電話から約2分と言う短時間で来たリアスと朱乃により、湊の状態が調べられた。
その結果…………。
「診た限り、ただの風邪ですわね。普通に家で薬を飲んで療養すれば治りますわ。ただし、これ以上症状が悪化するようなら病院に連絡を」
とのことであり、命に関わるほど危険ではなかった。
それを聞いた途端、レイナーレは崩れ落ちて盛大に泣き出し、湊が死ななくてよかったと心底思った。
そんな彼女にリアスと朱乃の二人は仕方ないなぁといった目で暖かく見守ったが、それでも彼女を軽く叱りつけた。
「愛しの彼が無事なのはよかったけど、それよりも早く彼を自宅に送りなさい。タクシーを呼んであげるから」
「荷物とかはわたくし達で運んでさしあげますから、お気になさらず。早く彼を寝かせてあげて下さい」
その言葉にレイナーレはヒクヒクと涙を堪えつつ、力強く頷いた。
「うん、分かった! ありがとう、二人共!」
こうして湊はレイナーレに抱えられて(お姫様抱っこ)学校からタクシーで湊の住んでいるアパートに帰ることになった。
尚、湊をお姫様抱っこで運んだ理由はこの方法が一番湊に負担が掛からないからだ。
この時は必死だったので気付いていなかったが、レイナーレはこの事を後日思い出し、思いっきり恥ずかしがった。
一応言っておきますが…………。
次回、砂糖の雪崩に注意して下さい。
タメがあった分、『盛大』にやらかす予定なので。