堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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少しお気に入りが下がり始めていることに戦々恐々としている作者です。
さて、今回の話はある意味において、この物語で重要な話になります。


第52話 彼女は彼と病院にいくことに。

 学園生活もすっかり板に付き始め、レイナーレは年相応に学園生活を謳歌していた。

毎朝湊を起こし、彼のために毎日食事を作り一緒に食べ、彼と共に登校する。

今までにない程に湊と共に過ごす時間が増えたレイナーレは、それこそ毎日が幸せとドキドキで満たされた。

湊のちょっとした些細な行動一つ、湊の微笑みながらの発言に胸をときめかせ、赤面して慌てる湊を愛おしいと感じ頬を緩める。

恋する彼女にとってこの時間はまさに今まで以上に波乱に未知。しかし、とても心が弾む。

そんな青春真っ盛りなレイナーレだが、この日はいつもより少し様子が違っていた。

朝、いつもと同じように起きて朝食を鼻歌を口ずさみながら作り、湊を優しく起こす。

そして朝食を一緒に食べるのだが、その時のレイナーレの様子はいつもと少し違う。

妙にそわそわとしていて、目が湊の方に何度も向けている。

この少女が好きな相手の事をよく見ているのはいつものことなのだが、今回のような落ち着きのない様子なのは初めてだ。

湊はそれに気付かないのか、レイナーレの朝食を実に幸せそうに味わいながら食べていた。

普段の彼女なら、そんな湊を見て顔を赤らめつつ嬉しそうに微笑んでいるものだが、そうではない。

一体何が彼女をそうさせているのか? 

それは………今日という曜日が原因である。

今日は土曜日。世間一般における学校では休みである。

つまり、今日は湊と『一日中ずっと一緒にいられる』のだ。

学校に通って一緒に過ごしているレイナーレだが、それとプライベートでは少し違ってくる。

だからこそ、レイナーレは落ち着かないのだ。

この休みを、学生になって初めての休みを、湊と一緒にどう過ごすのか? それが彼女を落ち着かなくさせ悩ませているのだ。

彼女の中では色々と妄想が膨らんでいく。

湊と一緒にどこかに出掛け楽しい時間を過ごしたり、二人っきりでこの部屋でのんびり過ごし、出来れば膝枕をして耳掃除をしてあげたいなぁ~、など。

考えた途端に顔を真っ赤にして色々と表情が変わる顔は見ていて面白いかも知れない。彼女が今、唯一救われていることがあるとすれば、それはそんな面白可笑しい表情を湊に見られないことだろう。

そんなレイナーレだが、いつまでもそうしている訳にはいかないということは分かっている。

だからこそ、彼女は意を決して湊に話しかけた。

 

「あ、あの、蒼崎君……」

「どうしました、レイナーレさん? 何か緊張しているようですけど」

 

レイナーレの声から緊張していることを察して心配そうにする湊。

そんな湊に申し訳に気持ちと心配して貰えたことへの喜びが混じり、何とも言えない顔をしながらレイナーレは緊張を高めつつ答える。

 

「そ、そのね……今日のご予定はどうなのかなって、思って………」

 

顔を真っ赤にして消え入りそうな声で問うレイナーレ。

そんな様子でよくデートに誘ったり出来たな、とは突っ込んではいけない。彼女も一生懸命なのだから。

そんなレイナーレに対し、湊は聞かれた意味を理解するのに少しだけ時間を要した。

誰の予定なのかと聞かれ、自分のことだと思わなかったからだ。

だからなのか、少し苦笑しながら湊は答えた。

 

「今日は………病院に行こうと思ってます」

「病院!?」

 

病院を聞かされ、レイナーレの顔は一気に緩んだ物から真面目な物に変わる。

そのまま真剣な様子でレイナーレは湊に話しかけた。

 

「何処か悪いの、蒼崎君! 寒気は、熱は? ごめんなさい、体調が悪いと知っていればもっと消化に良いものを作ったのに!」

 

それは自分を責める言葉でもあった。

湊と一緒に過ごして約一週間も経過したのだ。それまで介護の名目でずっと一緒にいたのに、湊の体調が悪いことに気付けなかったことをレイナーレは悔いた。

そして彼女は心底心配そうに湊の額に手を当てて熱を測り始める。

その柔らかくもひんやりとした掌の感触に顔を赤面させる湊は、少し慌てた様子でレイナーレに話しかけた。

 

「いえ、別にそういうわけじゃないですよ。体調も問題ありませんし、レイナーレさんに毎日美味しくて身体に良い食事を食べさせて貰ってますから身体は健康です」

「そ、そう? ならいいんだけど……(いきないそんな風に褒めるなんて、湊君……反則よ! どうしよう、顔が嬉しくてにやけそうになっちゃう)」

 

湊のその言葉に顔を赤くして照れるレイナーレ。

その心は褒められたことへの喜びは勿論、湊の体調が良好であることへの安心もあった。

そんなレイナーレを察してなのか、湊は苦笑しながらその理由を話し始めた。

 

「いえ、朝から心配をかけてすみません。実は前からずっと病院に通ってるんですよ」

「前から?」

「えぇ、目が見えなくなってからずっと。ここ数年は落ち着いてきてるので、二週間に一回ですけど、病院の先生に来るように言われていて」

 

それを聞いてレイナーレは少し不安そうにしていたが、湊は苦笑したまま語る。

曰く、最初は交通事故で負った負傷の治療。そして失明してからはその目の治療。

失明していて治療というのもどうかと思うのだが、処置しなければ眼球が腐るなり何なりと悪影響が出るためだ。湊の眼球は未だに摘出されていないのである。

何故しないのかということに関して、レイナーレは聞くことが出来ない。

そんなことを表立って本人に聞けるわけがないのだ。一番そのことにを気に病んでいる本人に問えるわけがない。

だからこそ、レイナーレは少し真剣な、それでいて湊のことを心の底から心配して湊に話しかけた。

 

「だったら……私も一緒に行く」

「え、そんな、休みなのに悪いですよ」

 

レイナーレの言葉に申し訳なさそうに湊は返すが、レイナーレはそれを首を横に振って断る。

 

「蒼崎君のこと、もっと知りたいの。それで、少しでも私なんかで手伝えることがあるんだったら、手伝いたいから。蒼崎君のこと、少しでも助けたいって……だから……」

 

そう言いつつレイナーレの瞳はどんどん潤んでいく。

 

「その……ごめんなさい。こういうのって、その……重いよね」

 

湊の反応がないことから引かれたんじゃないかと思い、泣きそうになるレイナーレ。

そんな彼女に湊は少し間を開けた後に、口を開いた。

 

「そんなことないですよ。ただ……こんなにもレイナーレさんに心配してもらえてると思うと、情けないのですが嬉しくて」

 

照れ隠し気味に頬を掻きながら湊はそう言い、レイナーレに向かって手を差しだし笑顔を向けた。

 

「こんな僕ですが、助けて貰えますか?」

 

その誘いにレイナーレは心底嬉しそうに笑い、答えた。

 

「はい、喜んで!」

 

 

 

 こうしてレイナーレの初めての土曜休みは、湊と一緒に病院に行くことになった。

 

 


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