見ていて砂糖を吐くかも知れませんので注意。
レイナーレが駒王学園に通い始め、約一週間が経過した。
最初こそ周りが浮き足立っていたが、一週間も経てば大体は落ち着き始めて彼女もすっかり駒王学園の生徒として馴染んでいる。
そんな彼女の日常と言えば、実に青春をしていた。
それを深く語るのはあまりにも気恥ずかしく、青臭くてどうしようもなく口からナニカが漏れ出そうだ。なので簡潔に語ろう。
朝、目が覚めるとともに彼女が最初に確認するのは、湊の寝顔である。
日が昇り辺りが明るくなった頃にレイナーレは目を覚ます。
時間にして大体六時半頃だろうか。少し早めに目を覚ますのは、彼女が湊のために朝食と弁当を作るためだ。だが、それを行う前に少しばかり隣の布団で寝ている湊の様子を観察する。
湊はまだこの時間は眠っており、穏やかで少しばかり幼いような寝顔をしている。それを眺めるレイナーレはずっと見ていたい気持ちに駆られそうになるが、それを堪えつつもやはり幸せそうに湊の寝顔を見つめるのである。
「うふふ、湊君…今日も可愛い寝顔……」
彼は他の感覚が鋭いのか、ちょっとした音でも敏感に反応してしまい、直ぐに目を覚ます。だからレイナーレが湊の寝顔を見つめるのは五分程度。
湊の部屋で暮らすようになり、それからずっとそうしている。
それまでの間に寝ている湊にキスしたいという欲求に駆られ顔を近づけたこともあったが、あと少しで唇が触れ合うというところで湊が気配を察して目を覚ましてしまい、レイナーレは自分が如何にはしたない真似をしたのかということを自覚させられて羞恥で顔が真っ赤になった。
と、実に恋する少女らしいお茶目な一面を出したわけで、その後も二回ほどチャレンジしてみるも全て失敗。挙げ句は湊自身もレイナーレの顔が間近にあることに気付き、互いに呼吸が感じ会えるほどの距離にあることで赤面することになり、その日の朝が気まずくなったりもした。
だからこそ、一週間でレイナーレの朝はこれで落ち着き始めた。
ただ見ているだけでも心が満たされるから。
そして五分程見れば、そこからは蒼崎家にホームステイ、もとい蒼崎家の若奥様として家事を開始し始める。ちなみに誤字にあらずだ。この二人の様子ならそれで充分に通るだろう。
それから約四十五分後に湊が起床。
レイナーレはそんな彼に優しく微笑みながら声をかけ、共に朝食を食べる。
ここで少し変わっているのは、朝食は湊自らで食べること。
いや、変な意味ではなく、そのままの意味だ。
目が見えないということで、今まで手で食べられるものばかり食べてきた湊。それは良くないとレイナーレが食事を作るわけだが、その料理は一般家庭に出る物ばかりだ。つまり箸やスプーン、フォークを使うものばかりである。
湊だって使えないわけではない。多少の苦労はするが、それらを用いて食事をすることは出来る。だが、レイナーレは過保護なのか、湊に苦労させまいとよく湊に食べさせてあげているのだ。
実はコレ、当然彼女の欲である。好きな人に頼って貰い、そうして御奉仕しているというのは何というか若々しくて気恥ずかしいが嬉しくなるもののようだ。
それで美味しいと喜んで貰えればそれこそ幸せになるくらい。
だが、流石の湊もコレには駄目出しした。
昼食は時間制限があるので仕方ない。夕飯は一番凝っているものが多いので、レイナーレのお願いと言うこともあって従っている、実際には湊も嬉しいのだが。
だが、朝だけは止めて貰った。確かに時間は制限があるが基本朝食というのは軽い物で有り、トーストにスープといったものだ。それぐらいなら湊でも一人で食べられるということで止めて貰ったのだ。
あまり甘えてばかりでは男としてどうかというプライドもある。
レイナーレはその事に仕方ないと聞き入れたが、その内心では湊の心情を察して可愛いと頬を緩めていたりした。
そう言うわけで朝食を食べ終え、準備を行うと一緒に登校を始める。
今ではすっかり皆が見かけるような二人の登校姿。
レイナーレに身を寄せ合わせながら手を引かれる湊。その様子は初々しい恋人同士にしか見えず、周りを歩く人々は顔を赤らめながら二人に見入ってしまう。
何度もレイナーレは言うが、『これは介護よ!』である。誰がなんと言おうとも、これは彼女にとって介護らしい。随分とお熱い介護なものだ。
そして学校では普通に授業を受け、二人が学園生活を満喫している。
そのままあっという間に時間は過ぎてお昼。
湊はレイナーレに連れられて屋上や外のベンチに座ると、彼女と一緒にお弁当を食べるのだ。
当然朝に彼女が彼のために用意した、何処に出しても恥ずかしくない『愛妻弁当』を。
これは当初は教室で食べようとしていたレイナーレだったのだが、湊に食べさせていることに女子からは顔を真っ赤にされつつも羨望の眼差しを向けられ、男子の、それも一部……と言うかはっきり言って兵藤、元浜、松田の三人から血涙を流しながらの妬ましそうな視線に気まずくなったため、こうして人気が少ないところで食べるようにしたのだ。
湊は差し出された箸を毎回顔を真っ赤にしながらも口を開けて受け入れ、その度に凄く嬉しそうに笑いながらレイナーレに感想を言う。
「今日も凄く美味しいです! すみません、毎朝からこんなに美味しい料理を作って貰って。僕は何も返せないのに」
その言葉にレイナーレは湊に暖かく穏やかな笑顔でこう答えるのだ。
「うぅん、そんなことない。私は蒼崎君が美味しいって言ってくれることが嬉しいから、だから作ってるの。蒼崎君に喜んで貰いたいから……」
「レイナーレさん……」
互いに赤面し合いつつもどこか幸せそうな雰囲気を醸し出す二人。
きっとこの様子を兵藤達が見ていたら、殺意のあまりに狂ってしまいそうだ。
因みに……これでもレイナーレは『介護』だと言い張る。なんて介護という言葉は便利なのだろうか。
そして放課後。
二人は一緒にオカルト研究部に顔を出しに行く。
旧校舎にいつもと同じように向かい、そして中に入る。
部室で待っていたリアス達悪魔にもう慣れ親しんだ友の様にレイナーレは声をかけ、湊も慣れたのかリラックスした様子で皆に挨拶をする。
そして始まるのは、部活動と言う名のお茶会。
朱乃が入れたお茶と小猫がお気に入りというお菓子を味わいながら皆で楽しく会話をする。
主にリアスやレイナーレからは双方の苦労話。朱乃にはレイナーレが時たま和食のレシピを教えて貰ったり、小猫には女子らしく何処のお店のスィーツが美味しいのかを聞いたりなど、実に世間的な話や年相応な話などをしている。
湊はと言えば、よく祐斗と会話をしているが、此方は少し毛色が違う。
湊の世界について聞き、その気配を鋭く察することが出来る感性について『妙に身体を触りながら』聞いてくるのだ。
湊は気にしていないのだが、レイナーレはそれはもう凄く気にしており、たまに祐斗に警戒を顕わにして湊くっついては赤面するということが何度かあった。
「~~~~~っ! 木場君、蒼崎君にちょっと近いんじゃない! 蒼崎君、大丈夫………あ、ご、ごめんなさい!」
「そ、そんな、謝らなくても……」
こんな感じだ。
その様子に朱乃は朗らかに笑い、リアスは少し赤面しつつ呆れ、小猫は少し興味ありげに青春していると口にする。祐斗だけは何の事かわからないようだが。
そんな部活というには実に失礼な部活動をした後、湊とレイナーレは下校する。
リアス達は悪魔の仕事があるので引き続き部室に残るようだ。
帰り道、もう当たり前なのに未だにドキドキしている二人は互いに手を繋ぎながら帰る。
そして帰り道に食事の材料や生活用品を一緒に買っていくのだが、もうすっかり顔なじみになったスーパーでよく店員にからかわれることが多い。
「あら、今日も旦那さんと一緒にお買い物? 仲が良いわね~」
「そ、そんなぁ、旦那様だなんて……ぁぅぁぅ……」
「そ、そうですよ、僕なんかがレイナーレさんの、その、夫だなんて………」
いい加減にしてもらいたい。
そんな感じに冷やかされつつも何処か嬉しい二人は、その暖かな気持ちと共に帰宅。
そして着替えてから各々行動し、一緒に夕飯を食べて風呂を別々に入り就寝する。夕飯まで一々説明などしなくて良いだろう。きっと皆お腹いっぱいだろうから。
また……未だにレイナーレが寝るときに湊に手を握って貰っているのは皆に内緒だ。コレも又、湊にもしもの事があったときの『介護』らしい。
本当、介護というのは万能だ。
コレが大まかな彼女と彼の一日。
もっと細かく説明したら切りがなく、『被害者』が増え続ける一方だろう
だからこれで一通りお終い。
ただし、レイナーレは眠っている湊に必ずこの言葉をかける。
「今日も楽しかったね。明日はもっと………湊君と一緒にいたいな」
そして湊に気付かれぬように繋いだ手に軽くキスをし、顔を赤らめながら彼女は幸せそうに眠りに就くのだ。
何度でも言おう。
『いい加減にしろ』と。