堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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前回が微妙なだけに、今回は砂糖注意です。


第39話 こうして彼と彼女の生活は始まる

 何とも傍から見れば赤面するような昼食を終えた二人。

その後二人は教室に戻り、再び授業を受ける。

だがその顔は共にトマトのように真っ赤であった。そのことから色々な憶測が飛び交うが、概ねレイナーレはクラスメイトに応援され、湊は男子からからかわれ羨望の眼差しを向けられた。ただし変態3人組は妬ましい目で睨んできたが。

そして時間は放課後となり、生徒は各自に動き始める。

部活に行く者、委員会に行く者、そのまま学校から帰り帰り道にどこに寄ろうかと相談する者など、様々だ。

そのためか教室内は和気藹々とした雰囲気になる。そんな雰囲気の中、いつもなら一人で帰り支度を始める湊だが、今回はそうではない。

帰り自宅を始める湊に笑顔を浮かべレイナーレが話しかける。

 

「そ、それじゃあ蒼崎君、一緒に……帰りましょうか」

 

その言葉を言いながら顔が熱くなるのを感じるレイナーレ。

学園生活を送る上で一度は言ってみたい台詞を言えた嬉しい気持ちと、その言葉の先にある湊の家に一緒に帰るということへの家族のようなやり取りへの気恥ずかしさが入り交じった何とも言えない高揚感がその心に湧き起こる。そのためか、彼女の顔は桜色に染まっていた。

誰が見ても目を奪われてしまうほどに可愛らしいその様子に、周りの生徒はついつい目が行ってしまう。それ程今の彼女は魅力に溢れていた。

そんな彼女に湊は笑顔で応える。

 

「そうですね、一緒に帰りましょう」

「うん!」

 

湊の返事を聞いてレイナーレの顔が花が咲いたような笑みが浮かび上がった。

その心温まる笑顔に周りのクラスメイトは。ほうっと感嘆の溜息を吐く。

そして変態3人が血涙を流していることなど気付かずに、湊はレイナーレに手を引かれながら教室から出て行った。

 そしてその帰り道、二人は肩が触れあうくらい身を寄せ合いながら帰り道を歩いて行く。

湊はレイナーレの手の感触にドキドキし、レイナーレは湊とこんな近くで一緒に帰っていることにドキドキしていた。

 

「すみません、こんなに手を引いてもらって。杖があるのに甘えてしまって申し訳ないです」

 

歩いている最中、何か話題はないかと思いながら歩いていた湊は取りあえずお礼と謝罪をする。自分の事情を知っていて、そして助けてくれるレイナーレに感謝すると共に、杖があるのにレイナーレに甘えてしまっていることへの罪悪感から頭を下げる湊。

そう言われたレイナーレは顔を赤らめつつも繋いでいる手をきゅっと握りながら答えた。

 

「ううん、寧ろこうやって蒼崎君のことを助けられることが嬉しいから、もっと頼って欲しいかな。そのための『留学』なんだしね」

「っ!? そ、そう言われると謝れないじゃないですか……」

 

自分のためにそうしていると言われ、嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が熱くなるのを感じた湊。その顔を悟られたくないと少し顔を背けつつ答えるが、レイナーレにはばっちりと見られていたりする。

 

(蒼崎君ったら、恥ずかしがってる……可愛い………)

 

いつもは妙に落ち着いているからか周りの男子よりも大人に見える湊。そんな湊が恥じらい幼子のような意地を張っている姿は妙にギャップ差を感じさせ、レイナーレはそんな想い人の姿を見て可愛いと思い顔を赤らめ見つめる。

そしてこれから言うことにかなり大胆なことをしていると自覚し、恥ながらも湊に話しかけた。

 

「それに……これからは一緒に暮らすんだから、もっと気兼ねなく頼って。私も蒼崎君には助けられてばかりだから、私も蒼崎君のことを助けたいの。い、一緒の家に住むんだから、お互いに助け合わないとね……」

 

言いながらもその意味に顔を真っ赤にするレイナーレ。

つまりこれからしばらくは湊の家で、『家族同然』に暮らすのだから気兼ねなく頼って欲しいということだ。

その家族という部分が彼女にとっては『新婚』という言葉に置き換わりかけていることは言わなくてもわかるだろう。

別に本人だってちゃんと分かってはいるのだ。だが、頭で理解していても心がその未来を妄想したいと叫ぶ。

 

(い、一緒に、蒼崎君の家で一緒に暮らす……それってつまり、寝るときもご飯食べるときも一緒っていうことだから………新婚さんみたいよね……って、何考えてるの、私!? そんな、『まだ早い』わよ、そんなこと。で、でも、思うだけなら……え、えへへへへ…………)

 

思考がドピンクになりかけ、湊を夫と呼びながら一緒のソファで甘える様に身を寄せる自分の姿を妄想し悦に浸りかけるレイナーレ。これが傍から見れば顔を赤くしながら潤んだ瞳で湊を見つめる美少女にしか見えないというのだから、美少女というのは役得である。もしこれが兵藤 一誠だったのなら、即座にクラスの女子達から集団リンチに遭っていたことだろう。

だが、あまりそんな事ばかり考えていると湊に感づかれると考え直し、軽く咳払いしてレイナーレは表情を引き締める。

正直、そうでもしないと表情が緩んではしたないと所を感づかれてしまうと思ったから。

湊はそんなレイナーレの様子を握られた手の温もりから少しばかり察していたりする。

 

(あ、何かレイナーレさんが考え込んでる。一体何を考えてるんだろう?)

 

知らぬが仏と言うべきか、いや、寧ろ知ってくっついちまえと言うべきか。

二人の微妙な距離感を見ている者ならそう思うだろう。

そんな二人だが、考え込んでいても仕方ないと互いに何か話そうと思った。

 

「そ、そういえば……レイナーレさん、どうでした、学校は?」

 

無難にそんな話を振る湊。

その話にレイナーレは実に楽しそうに笑いながら答えた。

 

「えぇ、とっても楽しかったわ。まだ初日だから全部を知ったわけではないけれど、それでも充分タメになった。堕天使って学校とかないから、本当に新鮮で面白いことばかりで、色々な人と知り合えたし、何か凄いとしか言いようがないかも」

「それはよかったです。レイナーレさんが喜んでくれると僕も嬉しいですから」

「そ、そうなんだ………」

 

そんな気恥ずかしい台詞を言われレイナーレは再び頬を赤く染めてしまう。

だが、その心は喜びで満たされていた。

それは逆に、レイナーレも湊が喜んでくれれば嬉しいからだ。

そんな相思相愛のような事を考え、ぁぅぁぅとしつつもレイナーレは嬉しそうに微笑む。

それからも湊が学校生活の授業や交友関係などを色々と質問形式でレイナーレに問う。それにレイナーレは嬉しそうに答えていった。

 

「あ、そう言えば……お昼のお弁当、本当に美味しかったです」

 

昼に食べたお弁当の味を思い出しながら湊が感想を言うと、レイナーレは褒められたことの嬉しさで顔がニヤケかける。

大好きな人に作った料理を褒められることほど恋する乙女にとって喜ばしいことはない。

だからこそ、彼女は熱くなっていく頬に手を当てつつも湊に嬉しそうに言う。

 

「そう言ってもらえると、凄く嬉しい。あ、蒼崎君に食べて貰いたくて、一生懸命頑張って作ったの。これから一緒に暮らすなら、家事は出来た方が良いと思ったから……蒼崎君に美味しいものを食べてもらいたいから……」

「そ、そうですか……」

 

レイナーレの想いの籠もった言葉に湊は顔を真っ赤にしてしまう。

何度も言うが、これでもまだ付き合っていないし告白もしていない間柄だ。

いい加減に付き合えよッ! とは言わないで温かい目で見て貰いたい。

湊は自分に食べて貰いたいから作って来たと言われ、嬉しくて嬉しくてどうしようもなくなる。

彼だって男だ。女子からそんな事を言われれば、嬉しくなるものだ。それも好きな女子からなら尚更に。

そんな初々しくも赤面必須な二人はこの後もそんな会話を幾度となく繰り広げては顔を真っ赤に染めて恥じらっていく。

傍から見ればバカップル。だが、その微笑ましい光景にイチャモンをつける者はいなかった。

 そうこうして歩くこと数十分。

湊とレイナーレは目的地である湊が部屋を借りているアパートに着いた。

そして共に部屋の前に行くと、湊は鞄の中からカギを取り出すと扉に差し込み解錠した。

そしてレイナーレに少し待つように言おうとしたのだが、その前に手を引っ張られた。

 

「あ、あの、蒼崎君……実はお願いがあるの……」

「お願いですか?」

「うん。そのね……先に部屋に上がらせて貰っていい? た、ただ、玄関で待てるだけだから。その……駄目……かな?」

 

少し不安そうなレイナーレに湊は笑いかけながら返事を返す。

 

「いいえ、それぐらい問題無いですよ。だってここは……今日からレイナーレさんの家でもあるわけですから」

「蒼崎君………」

 

感激して目が潤むレイナーレ。

そして彼女はお礼を言いながら湊より先に部屋の扉を開けて中に入った。

そして湊に入って良いと言ったので、湊は普通に扉を開けて玄関へと入る。

 

「お、お帰りなさい、蒼崎君。そ、その、今日からお世話になります! す、末永くお願いします」

 

レイナーレは湊にそう言って深々と頭を下げる。

その姿勢は正座であり三つ指を立てて頭を下げていた。様子だけみれば新婚の若奥さんにしか見えない。

そんな男なら胸躍るレイナーレの姿を見えない湊だが、それでも胸には暖かい気持ちで一杯になった。

久しく聞いていない、誰かからの出迎えの言葉。

それを受けて、彼は心底嬉しそうに返事を返した。

 

「えぇ、ただいま、レイナーレさん」

 

 

 

 こうして二人の同居生活は始まりを告げた。

 

 

 


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