堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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大人って奴は………。これはそんな風に感じさせられる話ですね。


第33話 彼女の想いはバレバレであった。

 今、レイナーレはリアスと共にある部屋の前にいた。

周りと比べても特に変わった物があるわけでもない一室。だが、その扉の奥から感じられる強大な気配にアザゼルで慣れているレイナーレでも恐怖を感じ身が竦む。

 

「この中に………」

「えぇ、お兄様が待っているわ」

 

緊張に顔を強ばらせるレイナーレに、リアスは笑みを浮かべながら答えた。

それを聞いて改めて意識させられる……魔王と会うということを。

失礼があってはいけないと身なりを気にし始めるレイナーレ。そんな彼女を見てリアスはクスクスと笑った。

 

「落ち着きなさい。何も取って食おうってわけじゃないんだから。お兄様はとてもお優しいから安心しなさい」

「そう言われても………ぁ~~~~、緊張しちゃう~~~~~~」

 

まるで受験を受ける学生のように緊張し落ち着かないレイナーレ。そんな状態でこの先大丈夫なのかと、相手が堕天使であっても心配になってしまうリアス。

 

「もう、いつまでもそうしてないで早く入りなさい」

「そう何だけど………うぅ~~~~~~」

 

イマイチ踏ん切りが付かないレイナーレを見かねてか、リアスは先に扉に向かって声をかけた。

 

「お兄様、堕天使の親善大使の方が見えられました」

『そうか。なら、入っていただきなさい』

 

少し渋さを感じさせる声が扉越しから聞こえ、レイナーレの身体はびくりと震える。

そしてリアスは笑いながら扉の方を指した。

 

「ほら、早く」

「もう、わかったわよ! どうせここでウジウジしてたってどうしようもないんだから!」

 

若干怒り気味になりつつ、レイナーレは扉の先に向かって声をかけた。

 

「失礼します」

『どうぞ』

 

返事を聞き次第、扉を開けてレイナーレとリアスは中へと入る。

室内は少し豪華な感じであるが嫌みな感じはしない。実に仕事がしやすそうな部屋であった。

そんな部屋の奥にあるデスクに、今回の目的の人物はいた。

 

「やぁ、初めまして。私がこの学園の理事長のサーゼクス・ルシファーだ」

 

レイナーレに軽く会釈をして挨拶してきたのは、リアスと同じ紅髪をした歳若い男。ぱっと見は20代後半に見え、その威厳ある声のわりには甘いマスクをした好青年の様に見える。

だが、それでも彼が魔王であるということは、その身から隠しきれない魔力で嫌と言うほどに分かった。

だからこそ、レイナーレは身を震わせつつも姿勢を正して失礼がないように挨拶した。

 

「初めまして。『神の子を見張る者』から親善大使の命を受けました、レイナーレと申します。以後、お見知りおきを」

 

ソーナにしたとき以上に丁寧な挨拶をするレイナーレ。

そんなレイナーレを見てサーゼクスは明るく微笑むと、近くの来客用のソファに座るよう勧める。

勧められたレイナーレは恐縮しつつソファにゆっくりと腰掛け、リアスもレイナーレの向かいのソファに座った。

 

「まず、親善大使の任、ご苦労様。こうして我々と歩んでくれることを心より感謝するよ」

「は、はい! 此方こそ、ありがとうございます。過去の遺恨が未だ残っている相手に歩み寄ろうと手を差し伸べて下さったこと、感謝します」

「ふふふ、そう畏まらなくていいよ。ここではただの理事長にすぎないのだから」

 

緊張し声が強ばるレイナーレにサーゼクスは大人らしい余裕を持った笑みで笑いかけるが、魔王であることを差し引いてもこの学園の最高責任者。偉いことに変わりはなく、レイナーレの態度は変わらず恐縮しまままだ。

 

「それにね。過去の遺恨に縛られていては、いつまでも先には進めない。未来ある若者達には、そんなことに捕らわれず可能性を求めて羽ばたいて貰いたいのだよ。だからこそ、まずはこの休戦協定が第一歩。敵対している者同士が過去の遺恨を水に流し、共に手を取り合うことでより新しい可能性を広げる。そんな互いに高め合えるような親しい間柄になれることを私は願っているんだよ」

 

サーゼクスはそう語ると、レイナーレとリアスの二人を見つめた。

 

「今の君達のような、そんな間柄のようにね」

 

そう言われる二人だが、何とも言いがたく苦笑を浮かべるのみであった。

レイナーレは別にリアスと親しいというわけでなく、リアスもまた堕天使らしからぬレイナーレにどう接すればよいのか悩んでいるのだから。

そんな二人の信条もいざ知らず、サーゼクスは苦笑を浮かべながら話を進めた。

 

「おっと、すまないね。どうも若者に熱く語り聞かせてしまうのは年寄りの性か

。まぁ、取りあえず君の親善大使としての話と留学生としての転入の手続きをしていこうか」

「は、はい!」

 

それから始まったのは親善大使としての仕事の話などだが、此方は寧ろ何もやることがなかった。

この学園に通い、人間に害を及ぼすことなく正体を隠しながら生活すればそれで良いとのこと。

元から人間を嫌っていないレイナーレには何も問題は無い。

次に留学生として転入手続きの書類を書くことになったのだが、そこでレイナーレはあることに気が付いた。

それは、書類を書く上で一番重要なこと。

 

「あ、私……名前をどうすればいいんだろう?」

 

そう、堕天使には名字がないのだ。

リアス達悪魔には基本名字はあるが、堕天使は名字がなく名前のみ。

アザゼル然り、シェハムザ然り、バラキエル然り、カワラーナやミッテルトもそうだ。

流石に人間界で名字がない人間というのはそうはいないだろう。つまり必然的に名字を付ける必要が出て来るのだ。

言い方は悪いが偽名。しかし、これも仕方ない事。

故にレイナーレは嘘を付く事への罪悪感に苛まれつつも考える。

どんな名字がいいのかと。

 

(名字かぁ~……考えたことなかったからなぁ~。私が知ってる名字と言えば……蒼崎君の名字だけど………蒼崎……蒼崎 レイナーレ……いいかも)

 

真面目な話し合いだというのに、乙女な思考が入り交じり新婚生活を妄想しかけるレイナーレ。頬が赤くなり、瞳が熱を持って潤み始め、口元は幸せそうにニヤケ始める。

その様子を見たリアスは、またかぁ~、と呆れ返り白い目をレイナーレに向け、サーゼクスは何やら愉快そうに笑みを浮かべている。

そして彼はレイナーレに暖かい微笑みを向けながら言った。

 

「あぁ、君の名字の件なんだが……既にアザゼルが決めたようなので教えるよ」

「え? アザゼル様が?」

 

サーゼクスの言葉に意識を現実に戻したレイナーレは、不思議そうに首を傾げる。その時に出た声は、完璧に総督へのものではなく親戚のおじさんを言うような声になっていた。

サーゼクスはそんなレイナーレに、優しくアザゼルが決めたらしい名字を教えてあげた。

 

「『ハイブラウ』、それが君の名字だ。レイナーレ・ハイブラウ。ちなみにこのブラウという言葉ははドイツ語で『蒼』を意味しているらしいよ」

 

それを聞いた途端、レイナーレの顔が一気に真っ赤になった。

何故なら、その名字の意味を彼女は即座に理解したからだ。

蒼という字は彼女にとって、一つしか関わりが無い。それは勿論、湊のこと。

湊の名字である『蒼崎』、そこの一字から取ったことは容易に想像出来た。

つまりアザゼルは完璧に湊の事を知っており、当然レイナーレが湊をどう思っているのかもお見通し。その上で思いっきりお節介を焼いているということだ。

親戚のおじさんに全てお見通しにされているといった感覚がレイナーレを襲い、その見透かされている事への恥ずかしさが彼女を追い詰める。

あまりの恥ずかしさに顔が誰が見ても赤くなっている様は、まるで高熱を出しているようにも見えなくもない。事実、きっといつもより熱が高くなっているだろう。

 

(もう、アザゼルおじ様の馬鹿~~~~~~~~~!!)

 

先程自分で似たようなことを妄想し耽っていたくせに、他人に言い当てられた途端に悶絶するくらい恥ずかしいと感じる彼女。だが、それも致し方ない。

自分だけで考えるのと、人に知られてしまっているのではまったく違うのだから。

そんなレイナーレを大丈夫なのかと心配になるリアス。

この如何にも年相応に青春し、まったく堕天使らしからぬ彼女を見ていて堕天使に嫌悪の念があるリアスでも毒気が抜かれてしまう。そのためか、レイナーレのことは年相応の少女として見るようになっていた。

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫なの!? 顔が真っ赤よ!」

「だ、大丈夫…………だと思いたい……」

 

消え入りそうな声でレイナーレはリアスに答えるが、正直恥ずかしすぎて目が合わせられそうにない。

そんなレイナーレを見てサーゼクスは大人らしく微笑むのみ。彼からしてみれば、年相応の少女の反応というのは見ていて面白いらしい。

ここで忘れてはならないのは、この男がアザゼルと既知の間柄であるということ。

そして彼自身、寧ろアザゼルとの仲は良いほうなのだ。特に性格では、あるものが似通っている。

それらが示す答えは、この後レイナーレを更に追い詰めた。

いつまでもこうしては居られないとレイナーレは顔を赤らめたまま書類を書き始める。勿論その名前にはヘルブラウの名字が書かれ、ドイツからの留学生でハーフだという嘘満載な設定を前提に書いていく。

そして留学生としての転入手続きを終えると、今度はホームステイ……つまり下宿先についての話が上がった。

 

「これで君もこの学園の生徒になるというわけだが、次はホームステイ先についてだね」

 

それこそがリアスに一緒に来てもらった理由であり、レイナーレはその話題が上がった途端に緊張し顔が強ばるのを感じた。

 

「あ、あの、それに関しては、希望がごじゃいましゅ…………」

 

何とか頑張って希望を言おうとしたのだが、緊張のあまり思いっきり嚙んでしまうレイナーレ。その途端、部屋の空気は固まってしまった。

明らかにこの場の全員に聞こえてしまったその台詞は、彼女の心を羞恥で染め上げるのには充分過ぎた。

 

「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!?」

 

もう恥ずかしさのあまり目の前が真っ白になり始めるレイナーレ。そのまま消えてしまいたいとすら思った。

リアスも流石にコレは可哀想だと思い、少し慌ててサーゼクスに話しかける。

 

「いや、あのね、お兄様! この子、実はホームステイ先に希望があるらしいのよ。だからそこはどうかって聞きたかっただけで」

 

リアスの言葉にレイナーレは感謝すると共に無言だが一生懸命に首を縦に振る。

その様子は堕天使であるというのに可愛いとリアスは思ってしまった。彼女は恋愛事に憧れを抱き、またお節介を焼きたがる性格だ。そんな彼女に思いっきり青春してるレイナーレはとても羨ましく、それでいて何かと気にかけたくなる存在と言えよう。堕天使だろうと恋愛に貴賤はないらしい。

そんな二人を見て、サーゼクスは面白そうに笑うとまるでイタズラをバラすかのように話し始めた。

 

「いや、すまない。実は既にそれもアザゼルから伝えられている。君は介護に感心がある留学生として、障害者がいる家にホームステイさせた方が良いと言われてね。それで確かウチには一人だけ、目が見えない生徒が居たはずだ。普通よりも断然努力を重ね、常人と同じように暮らす俊才が。確か『蒼崎』君と言ったか。彼の家はどうかとアザゼルが勧めてきたんだよ。私からもそれで良いと思うが……君はどう思う?」

「そ、それは…………良いと思います…………(あぁ、この顔……絶対に知ってる!?)」

 

そう、既にサーゼクスにも『筒抜け』だということをレイナーレは察してしまった。

そんな大層な名目など本当はなく、好いている相手の家に住みたいということがバレてしまっていることに。

そしてその犯人が脳内でニヤニヤと笑っている姿が思い浮かび、レイナーレはもう恥ずかしさのあまり言葉を失ってしまう。

つまりこれは茶番だ。

親善大使というのは確かに本当のことなのだが、実の所は娘同然のレイナーレを面白可笑しく応援したいというアザゼルの思惑だ。

そしてサーゼクスも妹を溺愛している身としては、身内として幸せを願うのは当然のことだと、この茶番の乗ったというわけだ。

つまりアザゼルとサーゼクスの似通った部分は、多少変われど身内に甘いと言うこと。

レイナーレが親善大使に命じられたのは適正もあるが、それ以上に人間界に行きやすいようにし、学園に通わせるのはその任は勿論のこと、その想い人とより親密になれるよう接触する機会を多くし、ホームステイをその想い人の家にすることで距離を詰めさせようと画策する。

これ以上無いお膳立てをされれば、いくら頭が悪い者でも察せられるというもの。

故にレイナーレは顔を真っ赤にしたまま俯いてしまい、内心でアザゼルに怒りの限りを叫ぶ。

 

(もう、アザゼルおじ様の馬鹿! お節介焼き、あんぽんたん~~~~~~! うわぁ~~~~~~~~~ん)

 

これ以降、レイナーレは殆ど言葉を発することはなく、ずっと赤い顔のまま下を向いたままであった。

そんなレイナーレに気まずそうに顔を向けるリアス。

サーゼクスはこれもまた青春だと感心し、

 

「ウチのリーアたんもこんな風になればなぁ」

 

などと洩らす始末。

 理事長室は気まずくも生暖かい雰囲気に包まれ、リアスはレイナーレを連れて理事長しつを後にした。

 

 

 

 




次回はやっと湊が出ます。
そしてホームステイや留学生についての説明をするのは、『あの人』です。

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