堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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今回も湊が出ない! でも、あと少ししたら出るので、しばらくはレイナーレにお付き合いして下さい。


第32話 彼女は恥じらいながらお願いする。

 暗い室内に蝋燭の明かりが妖しく辺りを照らす。

その独特な雰囲気の中、彼女は目の前に居る人物に向かって頭を思いっきり下げた。

 

「お願いします!!」

 

とても必死な様子の彼女。

そんな彼女に頭を下げられお願いされているのは、紅髪をした美少女。

彼女の名はリアス・グレモリー。元72柱の大貴族、グレモリー家の次期党首である『悪魔』だ。

そして彼女の周りに控えるのは、彼女の眷属達である悪魔。

そんな悪魔だらけの中、彼女……堕天使であるレイナーレは顔を蝋燭の明かりで照らされても分かるくらい真っ赤にしながら頭を下げていた。

通常では有り得ない状態にリアス達は戸惑っていた。

そしてこうも思う。

 

((((どうしてこうなってしまったんだろう………))))

 

 

 

 

 

 着々と進む堕天使と悪魔の休戦協定。

そしてレイナーレも命じられた通り、駒王学園の前に来ていた。

今回彼女がするのは、ここを支配している悪魔達への挨拶と転入の手続きである。

湊と通えると言うことに顔がにやけそうになる彼女だが、仕事ということもあって表に出さないようにしながら事に望む。

 

(ここでしっかりしないと、せっかくアザゼルおじ様が任せてくれたんだもの。頑張らないと! そ、それに……蒼崎君と一緒の…………)

 

割り切れないのは未熟故か。

イマイチ隠しきれないレイナーレは頬を赤く染めつつ妄想に浸りかけてしまう。

そのせいか、少しばかり反応が遅れてしまった。

 

「すみません、お待たせしてしまって………あの、何かありましたか?」

 

妙に幸せそうにニヤけるレイナーレを見て、この学園の生徒会長であるソーナ・シトリーが不思議そうな顔で話しかける。後に控えている副会長である真羅 椿姫も何やら警戒しているようで顔を顰めていた。

 

「はっ!? な、なんでもないわ! ごめんなさい……(み、見られてた……恥ずかしいぃ~~~!)」

 

レイナーレは慌てた様子でソーナに謝ると、ソーナは特に追求すること無く流し、改めてそこでレイナーレに挨拶をした。

 

「まず自己紹介を。私はこの駒王学園で生徒会長をしています、ソーナ・シトリーと申します。この学園では支取 蒼那と名乗っていますので、通常はそのように呼んで下さい」

「会長の『女王』にして生徒会副会長の真羅 椿姫です」

 

二人の自己紹介を受けてレイナーレも相手の誠意に応える様に自己紹介を行う。

 

「『神の子を見張る者』所属、下級堕天使のレイナーレです。この度、親善大使の任を受け挨拶に窺わせていただきました」

 

姿勢を正して綺麗にお辞儀をするレイナーレ。

そんな彼女を見て、ソーナと椿姫はポカンとしてしまう。その反応に今度はレイナーレから彼女達に話しかけた。

 

「あの、何か?」

「い、いえ、すみません。こう言っては何ですけど、まさか堕天使の方からこんな丁寧な挨拶をされるとは思わなかったので」

「基本、我々は貴方達とは敵対関係にあったものですから、もっときつく当たられるものだと思っていました」

 

まさかそれまで敵対関係にあった堕天使が、そんな丁寧な挨拶をしてくるとは思わなかったらしい。

それに対し、レイナーレはニッコリと笑いながら答えた。

 

「他の人ならそんな反応になりそうだけど、私はそんなこと思ってないし。別に何かされたわけでもないのに毛嫌うとか、相手に失礼以外の何者でもないわ。そういうのは、自分達こそが最高だとか言ってる人達だけよ。同じ堕天使として恥ずかしいとすら思うわ、ああいう連中は」

 

その言葉に彼女達は更に驚いてしまう。

悪魔から見た堕天使というのは、憎き光の力を使う怨敵。決して相容れない互いに憎み合う存在。

だというのに、レイナーレはそれを真っ向から否定したのだから無理も無い。

 

「貴方、本当に堕天使なんですか? とてもそうは思えないのですが?」

「あ、少し酷い! 堕天使だってそれぞれなの。私は人間を下に見ることなんて絶対にしないし、差別もしないわ。悪魔だからって嫌うなんて理由もないし、相手が手をさしのべてくれているんだから取るのは当たり前のことよ」

 

実に堕天使らしからぬ物言いをするレイナーレ。

そんな彼女に驚きつつもソーナは好感を持ったようで、笑顔を彼女に向けた。

 

「うふふふふ、まさかそんな堕天使がいるとは思いませんでした。貴方となら、仲良くやっていけそうです」

「そう言ってもらえて嬉しいわ。こちらこそ、親善大使としてよろしくお願いするわね」

 

 と、こんな感じで取りあえずレイナーレは生徒会長との挨拶は無事に終えた。

そしてソーナの案内の元、今度は旧校舎にあるオカルト研究部に向かうことに。

旧校舎は文字通り木造建ての古い校舎であり、人気の少ない所に聳え立っている。

辺りが賑やかだというのに、旧校舎付近はひっそりとしていてその雰囲気に少しばかり怖じ気付くレイナーレ。

だが、この中にいる人物に挨拶に来たのだから怖がっていてもいられないと心を震い立たせる。

ここで問題無く挨拶を済ませ、そしてアザゼル曰く『大物』に挨拶を終えれば、待ちに待った湊との学園生活が待っているのだ。

そう考えて己を奮い立たせると、レイナーレはソーナの後をついて行く。

そして旧校舎の一室の扉の前で3人は止まった。

その扉にかけられているのは、『オカルト研究部』と銘打ってある札。

此処こそが彼女が次に挨拶をする相手である本拠地。

 

「此処がリアスのいるオカルト研究部です。既に話は通してありますから、中には問題無く入れますよ」

 

ソーナはそうレイナーレに説明すると、自分達の案内は此処までなのでと言って旧校舎から去って行った。

別れ際に言われた『では、楽しい学園生活を』という言葉に、歓迎されている気がして嬉しくなるレイナーレ。

その御蔭か、多少は緊張が解けてきた。

思い返せば、既にリアスとは会ったことがあるのだから今更緊張する必要は無い。

故に胸を張ってレイナーレはその扉をノックした。ある『お願い』をするためにも、ここで怯んではいけないと。

 

「どうぞ」

 

扉の奥から返事が返ってきた。その声は女性の声だがレイナーレが聞いたリアスの声と違うことから彼女の眷属なのだろうと判断する。

 

「失礼します」

 

レイナーレは静かにそう言うと、ゆっくりと扉を開けて部屋の中に入った。

室内は薄暗く独特の雰囲気に包まれており、中央に置いてある大きなソファに美男美女が座っていた。

皆レイナーレの方に顔を向けて笑うが、その目からは警戒していることが窺える。

悪魔と堕天使はそれ程相容れないことが嫌と言うほど伝わって来た。

レイナーレはそんな視線に晒されつつも、怯むことなく一番目が着くソファに座り込んでいる紅髪の女性の前に立った。

 

「堕天使レイナーレ、親善大使として挨拶に来たわ。久しぶりね、リアス・グレモリー」

「えぇ、まさか貴方が来るなんて思ってもみなかったわ。その様子だと相変わらずのようね」

 

互いに知り合いだと言わんばかりに軽く挨拶をする二人。

リアスの眷属は堕天使の知り合いがいることに多少驚きを見せる。だが、リアスはレイナーレとどのようにして出会ったのかをいうことは出来なかった。

まさか意中の相手が気になって学園に侵入した所を捕まえた挙げ句、その意中の相手に説教を喰らったなどと、口が裂けても言えない。

自分の恥は勿論のこと、同じ女として彼女を辱めるようなことは出来ない。

だからこそ、眷属達の視線をやんわりと受け止めつつリアスはレイナーレと話を続ける。

主に学園での生活の仕方は勿論、人間を襲ってはならないなど。

当然湊を好いているレイナーレがそんなことをするはずないことは分かりきっているので、念の為である。それはレイナーレも分かっているので、特に問題は無い。

 

「後は理事長室に行ってこの学園の理事長……つまり私のお兄様に会って貰うわ。そこで貴方の入学手続きとホームステイ先について話し合うの。あ、言い忘れたけど貴方は留学生って扱いになってるから」

 

その事を聞いてレイナーレは多少なりとも驚いてしまう。

まさかこの学園の理事長が冥界でも有名な四大魔王の一人、サーゼクス・ルシファーだとは思わなかったのだ。

アザゼルが大物だと言っていた理由を理解すると共に、内心で恨めしい気持ちで一杯となったレイナーレ。後でたっぷりと文句を言ってやると決め、取りあえず動揺しないよう心がけた。

そして同時に、ずっと考えていたことがやっと来た。

留学生であることは既にアザゼルから聞いていた。レイナーレの見た目は日本人に近いが、ハーフだと言っても充分通用する。それに留学生と言う方が何かと都合が良いのである。そして留学生には、ホームステイをするというのがあったりするわけで…………。

 

正直、レイナーレは湊の家にホームステイしたかったのだ。

 

だが、それを面と向かって言えるほど、彼女の肝は太くない。

それは彼女からしてみれば、途轍もなくはしたないことだから。

だってそうだろう。自分から一人暮らしをしている男の部屋に泊まりたいなどと、年頃の女が言って良いことではないのだから。

だからこそ、レイナーレはリアスに向かって真剣な顔で話しかけた。

 

「その件で実はお願いがあるのよ」

「お願い?」

 

リアスはレイナーレの真剣な眼差しを見て何事かと思い話を聞く体勢を取る。

周りにいる眷属達もレイナーレの事を注意深く見ていた。

堕天使がするお願いというのがどのようなものなのか? 親善大使という名目を使ってどんな無理難題を言ってくるのか? 皆気になる様子だ。

そんな警戒の籠もった視線の中、レイナーレは目を見開いて一気に吐き出すようにリアスにそのお願い事を言った。

 

「お願い! 私のホームステイ先を蒼崎君の家にして貰えるよう、貴方からも理事長に言ってもらいたいの!!」

 

それまで張り詰めた緊張感が一気に崩れ去る音をリアスとその眷属達は聞こえた気がした。

 

「え、な、何で? 別に普通に言えばいいじゃない。親善大使としてある程度の優遇は約束されているんだし、希望の一つや二つ、問題無いと思うんだけど?」

 

まさかそんなことをお願いされると思わなかったリアスは不思議そうにレイナーレに聞く。

するとレイナーレは途端に顔を真っ赤に染めてもじもじとしながらリアスに答えた。

 

「いや、そんな……恥ずかしいじゃない。蒼崎君って一人暮らしなのよ。そこにホームステイしたいだなんて、はしたないと思われちゃうじゃない。だから貴方から口添えしてもらえれば、多少はその……ね。そ、それに蒼崎君、多分凄く苦労してると思うの! だから、助けてあげられれば喜ぶかなって……」

 

見るからに恋する乙女の顔でいやんいやんと言った感じに身体を揺さぶりつつもリアスにお願い事をするレイナーレ。

そんな彼女にリアスと眷属達は毒気を抜かれたかのようになってしまう。

そしてレイナーレはリアスに向かって頭を下げ一生懸命に口添えしてもらえるように頼みこんだ。

そして冒頭に戻るというわけである。

まさか堕天使のお願いが意中の相手の家にホームステイさせて欲しいだなんて誰もが思わなかっただろう。

周りは呆気にとられ、リアスは一生懸命頭を下げながらお願いするレイナーレをどうして良いのか分からず、その根気に免じて応えることにした。

 

「わ、わかったからそれ以上頭を下げないで。堕天使にこんな風にお願いされると調子が狂っちゃうじゃない。それに貴方、堕天使のくせに随分と初心なのね」

「なっ!? それは差別よ! 私は蒼崎君以外にそんな感情を持った事なんてないもの! は、初恋なのよ……だ、だから、彼に恥ずかしいところを見られたくないの。はしたないところもね」

 

もう誰が見てもわかるレイナーレの表情にリアスは内心羨ましいと思いつつもげっそりとしてしまう。もうお腹いっぱいと言わんばかりにごちそうさまといった感じだ。

っそして眷属達もレイナーレを見て心底思った。

 

(((本当に堕天使なのか、この人?)))

 

そう思えるくらい、彼女は純情であった。

 こうしてリアス達への挨拶も終わり、後は理事長にして魔王であるサーゼクスに挨拶と手続きを行うだけとなったレイナーレ。

その際にリアスに口添えして貰うことを約束してもらえた彼女の心は、少しばかり楽になった。

 


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