堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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やっと出てきた主人公。
でもまだ名前は明かされないです。


第3話 彼女は彼の事を少し知る

 突如声をかけられたレイナーレは自分がしようとしていた事を見られたのかと思い、慌てて声のした方を向いた。

堕天使の力を人間に見られて良い訳がなく、バレたのなら殺さなくてはならない場合もあるし、何よりも些細な事で癇癪を起こし暴れそうになっていた所を見られたのかと思ったのだ。

そのせいか、レイナーレの顔は羞恥で少し赤くなっている。堕天使だろうが悪魔だろうが恥ずかしい所を見られれば恥ずかしいのは変わらない。

その恥ずかしさを少しでも紛らわせるために彼女は急いで向いた先に居たのは、見た目がレイナーレと同じくらいの年頃の青年であった。

堕天使や悪魔は寿命が人間とは格段に違うので見た目が実年齢と共わないことを予め言っておこう。レイナーレ自身の年齢は人間と今の所変わらないので、決して若作りをしているわけではない。

彼女はいきなり声をかけてきた青年を警戒しつつ見る。

青年の姿はこの町にある学園『駒王学園』の制服を着ていた。きっとそこの学園の生徒なのだろう。持っている杖は白と赤の二色に塗られていて、少し目立っている。レイナーレはその杖を見て、足が悪いのだろうかと疑ったが歩いてくる感じからしてそのような感じはない。

多少遅い足取りではあったが、特に問題無くレイナーレの近くまで歩いて来た。

そして青年は改めてレイナーレに話しかける。

 

「あの……何かあったんですか? 何やら苛立っているようだったので」

 

それは親切心のこもった声であり、その声から如何に自分が騒がしかったのかを思い知らされレイナーレの顔は真っ赤になった。

それは誰の目から見てもわかるぐらい赤く、耳まで真っ赤に染まっている。

レイナーレはその恥ずかしさのあまりに自販機の代わりにその青年に苛立ちをぶつけそうになるが、落ち着けと自身に言い聞かせた。

自分が如何に幼稚な事をしようとしているのかを自覚し戒める。いくら恥ずかしいところを見られたからといって当たるのは筋違いだろう。悪いのは自分であり、彼に非はない。

これが普通の堕天使だったのなら証拠を抹消すべく殺そうとしたが、レイナーレはそんな『恥じ知らず』なことはしない。

だってそうだろう。自分の非を認めずにその非を押しつけて抹消しようなどと、恥じ知らず以外の何物でも無い。

正直な所、レイナーレの思考はすっかり人間基準になっていたりした。

だからこそ、人間らしい考えに基づいて彼女は青年に答えた。

 

「あぁ、実は自販機の下にお金を落としちゃったのよ。それで取ろうと思っても手が入らないし暗すぎて何も見えないから少し苛立ってしまって。悪かったわね、騒がしくしてしまって」

 

反省しつつ青年にそう言うレイナーレ。

それはぱっと見は冷静に聞こえるが、その顔は未だに耳まで真っ赤なままであった。客観視すれば、レイナーレの今の状態は先程までの醜態を隠すように冷静を装っているだけなのだ。そう分かればこれ程情けなくみっともないこともない。

そんなレイナーレの様子を察してなのか、青年はレイナーレの近くまでゆっくりと歩くと自販機に手を触れた。

 

「あぁ、この自販機ですか。少し待っていて下さい」

「え?」

 

青年にそう言われレイナーレは意外そうに声を上げてしまう。

その声は青年には聞こえなかったのか、青年はそのまましゃがみ込み、手に持っていた杖を使って自販機の下をかき漁り始めた。

 

「えぇ~と………こうかな?」

 

そのまま少しがさがさと漁る青年。

その行動からレイナーレは青年が自分の落とした小銭を探そうとしていること察し、少し慌てて声をかけた。

 

「な、何してるの!? 別にいいのよ、私の落としたお金なんて探さなくても。私が落としたのが悪いんだし、それに貴方がそこまでする必要なんて」

 

レイナーレの声を聞いて青年は少しばかり顔を上げる。上から見下ろしているレイナーレにはその表情はわからないが、その声から込められている感情が分かった。

 

「それでも……さっきのあなたの声は本当に困った声をしていましたから。それに必要なんてないんです、僕がしたいからするだけで。何より、お金って大切ですしね。僕も良く物を落とすからその時の悔しい気持ち、分かりますし」

 

青年はそう言いながら尚も自販機の下を漁る。

そしてその行動は少しして報われた。

 

「あっ!?」

 

レイナーレは青年が掻き出した物の中から光り輝く小銭を見つけ声を上げる。

それはまごうこと無く自分が落とした硬貨であった。

その声は青年にも届いたようで、青年は彼女に話しかけた。

 

「お金、ありましたか?」

「えぇ、あったわ! ありがとう!」

 

とても些細な事であったが、レイナーレは小銭が見つかったこと喜んだ。

それは勿論見つかった事もそうだったのだが、青年が頑張って探してくれたことが大きかった。あんなに頑張ってくれたのに見つからなかったのなら、流石に可哀想だったからでもあった。

レイナーレは喜び微笑むと、青年から少しながら奇妙な言葉をかけられた。

 

「すみません。出来ればそのお金を取ってもらいたいんですけど……」

 

その言葉にレイナーレは少し首を傾げた。

確かに探して貰ったのは自分なのだからこれ以上彼にやってもらうわけにはいかない。自分の金なのだから最後は自分で回収するのは当然だろう。

だが、それでも可笑しいと思ったのは、小銭があるのは彼の目の前だ。なのに何故そのような声をかけてきたのだろうか。

だが、これ以上彼にやって貰うわけにはいかないと判断したレイナーレは取りあえずお金を取ることにした。

 

「ごめんなさい。すぐ取るわ」

 

そして彼女は少し急いでしゃがみ、彼の目の前に手を伸ばして小銭を拾う。

その際、青年の目の前には女性らしい白い綺麗な肌の腕が横切った。

そしてレイナーレが起き上がったところで青年もゆっくりと起き上がる。

そこでレイナーレは初めて青年の顔を間近で見て、そして驚いた。

それが明らかに普通と違っていることに彼女はやっと気が付いたのだ。

青年の目は閉じられていた。

それは目を瞑っているということではない。故意に閉じているのではなく、自然体に閉じていたのだ。

そのまま瞑ったまま青年はレイナーレに話しかける。

 

「見つかって良かったですね」

 

心から良かったと言う感情を込めて言う青年にレイナーレは少しだけ気まずそうに問う。

 

「もしかして貴方……その目……」

 

レイナーレの声に含まれる感情。それを青年は感じ取ったようで、申し訳なさそうに苦笑を浮かべた。

 

「え? あぁ、そういうことですか。気分を悪くしてしまって申し訳無いです。察して貰ってる通り、僕は………目が見えないんですよ」

 

 

 

 こうしてレイナーレは彼と出会った。

彼女からすれば、初めて見る『視覚障害者』だった。

 

 


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