堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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とりあえず修正してみました。
これで和らいでくればうれしいのですが。そして申し訳無いことに修正中にトラブルがあって29話が消えてしまったので再投稿します。自動保存機能って偉大ですよね。
尚、このもどかしいまでの二人の初々しさが作者は大好きです。


第29話 彼女は彼の部屋から帰り、冥界ではとある人が笑う

「…………………………………………」

「…………………………………………」

 

 雨音が収まりつつある音が室内で聞こえる中、湊とレイナーレは互いに顔を合わせることが出来ないでいた。

湊は見えないこともあって俯いているのだが、その顔は赤くなっている。

レイナーレは湊の顔が正面から見れないと顔を湊から逸らしているが、その顔は湊以上に真っ赤になっていて、まるでトマトのようだ。

互いにそれまでしていたことを思い出しては、恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にするという実に気まずい空間が出来上がっていた。気まずいと言うには妙に甘酸っぱい雰囲気を感じさせるが、それは致し方ないだろう。何せこの二人だからとしか言いようが無い。

何故こんな状態になっているのかと言えば、それというのも少し前まで二人が身を寄せ合っていたからだ。

別にそういう関係というわけではない。だが、彼女は湊の優しさに触れ、もっと彼と距離を縮めたかった。だからこそ、少しばかりはしたないと恥じらいつつも決死の思いで湊の身体に寄りかかったのだ。

その時の彼女の心臓はかなりドキドキと高鳴っており、内心では湊にその心音が伝わらないか心配になっていた。だが、彼の温かみと身体の感触はレイナーレにとって、とても甘美であり彼女の心を酔わせ恋心を満たす。恋の炎が彼女の身を焦がすかの如く、レイナーレはほんの少し勇気を出して湊に甘えることにした。

彼女のアプローチに驚く湊であったが、こちらもレイナーレの一生懸命な雰囲気と自身の彼女に甘えられることへの喜びから彼女に身を寄せる。

その光景はさながら互いに甘えるカップルのようであった。

それからの二人と言えば、互いの体温と感触を感じ合い恥ずかしいながらも何処か満たされて幸せそうだった。

それが少し前のこと。

今では雰囲気に流されて身を寄せ合った二人は冷静に立ち返り、こうして恥ずかしさのあまり気まずくなっているというわけである。

 

「「あ、あの!?」」

 

二人とも同時に声をかけては互いの声に驚き、言葉が消える。

 

「その、先、どうぞ……」

「いえ、蒼崎君から……」

 

互いに勧め合い、それが更に二人の気まずさに拍車をかける。

このある種特有な雰囲気に、きっとミッテルトが居たのなら悶え苦しんでいたところだろう。

 

「そ、それでは僕から。もう洗濯機の乾燥も終わったようなので、服を回収してもらいたいのですが………」

 

湊はこのもどかしい感じを振り払おうと少し強めの口調でそう言うと、レイナーレもまた少し慌てた様子で答えた。

 

「わ、私もそう思ってたのよ! うん、それじゃあ直ぐに取ってくるから」

 

言おうとしていたことが被り、それが嬉しい様な恥ずかしいような、そんな気持ちになりレイナーレは笑みを浮かべつつ慌てて風呂場の近くにある洗濯機へと向かった。

そして洗濯機を前にして、自分がそれまで着ていた湊のTシャツに手をかける。

これでこのTシャツともお別れだとい意識すると、妙に勿体ないような気がしてくる。そう感じた自分が恥ずかしくて、レイナーレは頬を赤く染めた。

 

(うぅ~~~~~、流石にそれはちょっと……はしたないにも程があるわ! ミッテルトがこういうときに羨ましい。あの子、こういうの良く持ってくるから……)

 

部下のちょっとした秘密を思い返しながら自らの感情に恥じらい、レイナーレは未練を断ち切るべく勢いよくTシャツを脱いだ。

その途端に胸がぷるんと揺れ、その感触が余計にレイナーレを羞恥に染め上げる。

異性の部屋で自分は何をやっているのだと、恥いながら丁寧に湊のTシャツを横に除けると洗濯機の中の衣服を取り出した。

その中にある自分のワンピースを回収すると、レイナーレはそれを着込む。

乾燥しているので特に湿り気はないのだが、自分で洗った時より少しばかり違う感触に少しドキっとしてしまう。

そして湊の服を胸に抱き、湊が待っている部屋へと向かって早足で戻った。

 

「ごめんなさい、遅れてしまって」

「そんな待ってませんよ。すみません、お客さんにこんなことをやらせてしまって」

 

湊に服を渡すと共に遅れたことを謝るレイナーレ。

そんなレイナーレに湊は改めてお礼を言うと共に、客人に失礼なことをしてしまったことを謝った。

コレに関しては仕方ないと二人とも分かってはいるが、それでも言わずにはいられなかった。何せ女の子の服を湊が触るわけにはいかないのだから。

 ともあれ、こうして雨もすっかり止んだところでレイナーレは帰り支度を始める。

思い返せば実に恥ずかしいことをしたものだが、その分得た物は充分に素晴らしい。

湊の家を知り、彼の生活の一端を知り、彼の身体に寄り添った。

これだけでもレイナーレは幸せで一杯になるくらい満たされたのだから。

だが、同時にあれ以上は無理だとも思った。恋人ならもっとくっついて大胆に甘えることが出来たのかも知れない。それこそ、彼女が憧れる少女漫画の恋愛のように。

しかし、まだ二人は恋人ではない……レイナーレからすれば片思いなのだから。

そんな状態であれ以上のアプローチというのは、あまりにも敷居が高すぎる。あれ以上したとしたら、きっと彼女はオーバーヒートを起こして気絶していただろう。

だからこれが精一杯。だが、彼女にとってこれ以上無い成果とも言えた。

そんな実感を恥じらいながらも嬉しく感じながら、レイナーレは湊と共に玄関へと向かった。

 

「それじゃぁ……」

「えぇ……」

 

名残惜しさを感じつつ、湊とレイナーレは別れの言葉を口にしようとする。

だが、二人とももっと一緒にいたいという気持ちが合わさってか、少しばかり歯切れが悪い。

そのまま互いに沈黙してしまう二人。

その沈黙の中、レイナーレは気を取り直してこれから言うことに恥じらいつつも、湊に話しかけた。

 

「その……また今度、ここに来ても……いい?」

 

瞳を潤ませ、頬を赤く染めながら上目使いに湊を見つめながらそう聞くレイナーレ。

別にわざとではなく、これは素でなっている。世の男ならコロッと堕とされているだろうと言う程に、彼女は可愛らしかった。

湊はレイナーレの言葉に対し、純粋に喜びを感じ笑みを浮かべる。だが、見られるのは恥ずかしいと思い顔に出さないように注意して答えた。

 

「えぇ、いつでも好きなときにどうぞ。待ってます」

 

喜びを隠そうと多少歪んだ笑顔でそう答えた湊に、レイナーレは嬉しくて笑いながら湊に礼を言った。

そして今度こそ、二人は別れの挨拶をする。

 

「それじゃぁ蒼崎君………お邪魔しました」

「えぇ、では……また明日」

 

その言葉に明日も会えることを喜びながら、レイナーレは湊の部屋から出て、冥界へと帰って行った。

 

 

 

 そんな、如何にもなラブコメを二人がしていることなどいざ知らず、部下三人組であるカワラーナ、ミッテルト、ドーナシークの3人は話し込んでいた。勿論話題は自分達の上司であるレイナーレとその相手である湊のこと。

 

「しっかし、いい加減見ててはっきりとしてもらいたいっすよ、あの二人には。どっから見たって思いっきりバカップルにしか見えないじゃないっすか。見てるこっちはあまりの歯がゆさに身悶えしそうっすよ」

 

その光景を思い出し身体をわなわなと振るわせるミッテルト。彼女にとって、純愛というのは猛毒のようなものなのかもしれない。特に湊とレイナーレが時折醸し出す初々しい雰囲気はまさにミッテルトを苦しめていた。

 

「そう言うな、ミッテルト。寧ろ微笑ましいではないか、レイナーレ様のあの少年の様子は。あの少年の様子を見る限り、レイナーレ様に気があるのは確かなことなのだから、後は時間が解決してくれるだろう」

 

カワラーナは寧ろ見ていて微笑ましいと笑う。

この3人の中で一番の常識派、恋愛に夢を抱いている彼女にとって、レイナーレと湊の様子は実に微笑ましく参考になる。まぁ、本音で言えば幼い無垢な少年とそういった仲になりたいところだが、それは夢に留めておく。彼女はこの中で唯一の現実的な堕天使であった。

 

「レイナーレ様は経験が無い故に致し方あるまい。ある意味箱入り娘のようなものだしな。それよりもあの小僧の方が問題だ。女を待たせるというのは感心出来ん。しかし、こちらからレイナーレ様のお気持ちを言っても意味が無いのでな。こればかりはどうしようもあるまいに」

 

ドーナシークは普通にそう言う。

二人の様子を見る限り、双方とも恋愛経験ゼロなのは直ぐに分かる。

だからこそ、四苦八苦している様子は微笑ましくも見えるが、見ている側からすればこれ以上無いくらいもどかしく見えるのだ。傍からみればレイナーレの気持ちなど誰が見てもわかるが、目が見えない湊にそれを気付かせるのは難しい。

直接本人が告白しない限りはまずわからないだろう。

と、そのように上司の恋愛が上手く行くにはどうすれば良いのか話し合う3人。

 

「いっそのことレイナーレ様がおにいさんを押し倒しちゃえばいいんすよ。それで一発決めれば大抵の男は落ちるっす。これ、体験談っすからね」

「な、なんてことを言ってるんだ、お前は! そんなムードもへったくれもない真似など出来るはずないだろう!」

「いや、寧ろミッテルトの案はいいかもしれんぞ。目が見えない以上、あの小僧には直接的なアプローチは必要なのだからな」

「ドーナシーク、貴様まで……」

 

真面目なのか不真面目なのか分からない3人の話し合い。

その当人であるレイナーレが勇気を出してその『直接的なアプローチ』をして成功したことも知らずに。

 

「へぇ~、そうなのか……アイツがねぇ~」

 

「「「!?」」」

 

いきなり聞こえてきた声に驚き慌てて声の方を振り向く3人。

そしてその視線の先にいた人物を見て、3人は凍り付いた。

何故なら、本来このような所にはまず来ないはずの人物だったからだ。

 

「なっ、なっ、なっ……」

「何で……貴方様のような御方が……」

「一体どうして……」

 

「その話、詳しく聞かせてもらおうか」

 

その人物は面白そうなことを聞いたと言わんとばかりにニヤリと笑いながら、黄色と黒の二色に別れた髪を軽く弄った。

 

 


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