そしてもう一つの作品のせいもあってか戦闘ノリが酷くなりそうです。
まさかのチャンスを恥じらいながらもモノにしたレイナーレは流石と言うべきだろうか。普通ならはしたないと言われても仕方ないかもしれない。事実、レイナーレ自身もはしたないと思い恥ずかしい気持ちで一杯であった。
だが、あんなチャンスはこの先二度とあるか分からないのだ。そのチャンスと無邪気に喜ぶ湊の笑顔もあって、純粋な善意を不意にすることなど出来ないと言い訳がましく内心で納得させる。
まぁ、湊には見えないので少しばかり卑怯なような、助かったような、そんな気持ちが残らなくもないが。
もし、湊が目が見えていたらこんなこと、恥ずかしすぎて絶対に出来ないのだから。
そんなレイナーレにとって嬉し恥ずかしいイベントも終わり、湊とレイナーレ、そしてミッテルトの三人によるデートは再び再開された。
この後も色々な所を三人は周り、湊は初めて知ることに少しハシャギながら喜んだ。
そんな湊を見て一緒に喜ぶレイナーレ。その表情は少しばかり湊を見守る母性が見え隠れしていた。
そんな二人を見てミッテルトは青臭い初々しさという猛毒に悶えつつもそれなりに満足そうに笑った。彼女の目的である発破は成功していたことが良く分かったから。まぁ、何故か行く先々で性的ピンチに見舞われるのだけは勘弁して貰いたいミッテルトであったが。
楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去る。
だからか、三人のデートも既に終わりを目前にしていた。
三人が今いる場所は最初に湊とレイナーレが待ち合わせをしていた、いつも二人が一緒にいる公園。辺りは夕闇が広がり始め、後一時間もしない内に夜空へと変わるだろう。
そんな昼とも夜ともつかない間の時間。湊には見えないが、夕陽がとても美しかった。
それは見ようによってはとても幻想的な光景であり、年相応にそういったムードのある雰囲気に憧れを抱くレイナーレにとって満足のいく状態だ。
だからなのか、湊を見つめる瞳に若干ながら熱が籠もるレイナーレ。夕陽のせいだと分かってはいるのだが、顔が真っ赤なのが自覚できた。
そして同時に寂しさを感じてしまう。
いつもとは少しばかり違った散策。だが、湊がいるだけでその楽しさは比べようもないくらい凄かった。
ずっと胸がときめき楽しくて仕方なく、常に笑顔が浮かんでいた。
これ程楽しかったのは今まであっただろうか。そう問われれば彼女は絶対になかったと答えるだろう。それぐらい楽しかったのだ。
そんな楽しい時間ももう終わってしまう。
別にこれで湊と永遠に別れると言うことなど無い。きっと明日も同じように会えるだろう。だが、それでも、今という時間が彼女には愛おしく感じられた。
でも、もうお互いに帰らなくてはならない。
別にレイナーレやミッテルトはまだまだ出歩いた所で問題は無い。あまり夜に出歩くと悪魔達に引っかかるのでよろしくはないが。
そんな堕天使と違い湊は安全な時間の内に自宅に帰らなくては危ない。目が見えないのにさらに危ない時間に歩かせるわけには行かないから。
レイナーレは別れを言う前に少しばかり湊に話しかける。
「ねぇ、蒼崎君。今日はどうだった?」
それは今日のデートの感想を求めた声。
レイナーレが部下に相談して考えた、湊のためのデートコース。それに満足してくれたのか、レイナーレは気になった。
デートだと言われたら、レイナーレは否定するだろう。これはただ、湊に案内しただけだと。だが、一番デートだと意識していたのは間違いなくレイナーレ本人だ。
初めて異性と一緒に出歩いた。それをデートと言わずになんとするか。
それを無意識ながらに感じているからこそ、湊の感想が聞きたかったのだ。
レイナーレにそう聞かれ、湊はそれこそはしゃぐ子供のような屈託ない笑顔で返事を返す。
「えぇ、とっても楽しかったです。知らない場所に行き、知らなかったことを知って感じる。とても有意義で楽しかったです。レイナーレさん、ありがとうございました」
「そう、よかったわ。喜んで貰えて私も嬉しい」
湊の感想を聞いてレイナーレも嬉しそうに笑った。
このデートを楽しんで貰えてよかったと、このデートに満足して貰えて嬉しかった。
その言葉を聞けてレイナーレも満足する。ミッテルトはそんなレイナーレを見て笑みを浮かべた。
それだけ聞ければ後はもういい。名残惜しいが、そろそろ帰らなければとレイナーレは別れを切り出そうとする。
「それじゃぁ、蒼崎君。そろそろ帰らないと……ね」
「そうですね。名残惜しいですけど、時間ですから」
湊はレイナーレの言葉を聞きつつ音声が流れる腕時計を使い時間を調べてそう答えた。彼も又、夜が自分にとって危険な時間帯であることを知っているから。
レイナーレはそれを聞いて手を軽く振る。
見えないだろうが、何となくしていた。
「じゃぁ……バイバイ。明日には会えるだろうけど……今日、一緒に色々な所に行けて……凄く楽しかったわ。きっと……蒼崎君が一緒だったから……」
今日のデートのお礼と共にちょっとした告白をするレイナーレ。それは少しでも湊に女の子として意識して貰いたいという彼女なりのアピール。
湊が自分のことをどう思っているのかはわからない。だが、決して嫌ってはいないだろう。
だからこそ、もっと自分のことを好きになって貰いたいと、そうレイナーレは思う。
そんなレイナーレの言葉に対し、湊は聞いていて夕陽のせいもあって真っ赤になった顔で慌ててレイナーレに声をかけた。
「あの、レイナーレさん、ちょっと待って下さい!」
「え……?」
いきなりの大きな声にレイナーレは少し驚いてしまう。
普段穏やかな性格の湊からは考え付かない程の大きい声だったから。
湊はレイナーレの動きが止まった気配を感じ取ると、それまで隠し持っていた紙袋をレイナーレの前に差し出した。
「レイナーレさん……これを受け取って貰えませんか。今日、色々な所に案内してくれたお礼です」
「そんな、たいしたことじゃにのに」
「お願いします。今日、僕は色々なモノをレイナーレさんにいただきました。それに少しでもお返ししたいんです。だから、どうか……」
一生懸命にお願いする湊にレイナーレは折れ、渡された紙袋を優しく受け取る。
湊から渡されたということもあってドキドキしながら湊に聞いた。
「今、開けてもいいの?」
「えぇ、どうぞ」
湊の許可を得てレイナーレは紙袋の中を開ける。
そして手を入れ取り出したのは、黒い小さな箱。
それを見たレイナーレは最初は何か分からなかったが、箱を開けた瞬間に驚きのあまり息が止まりそうになった。
そして感動のあまり泣きそうになりかけ、それを堪える。
その正体を彼女は湊に聞こえる程度の声で洩らした。
「これ………ペンダント?」
「はい。恥ずかしながら、僕が買って来ました」
箱の中身は純銀色のペンダントだった。
シルバーの細いチェーンに紫色の石がかけられている。その石は何かの鉱石なのだろう。宝石ほど豪華ではない。だが、深く暗い紫色はどこか目を引きつける。レイナーレに凄く似合っている一品だった。
それを湊が買って来たというのだから、レイナーレは勿論ミッテルトも驚きを隠せない。
普通なら驚くようなことじゃないが、目が見えない湊がレイナーレに似合うペンダントを買って来た。それが如何に凄いことなのか、言葉にするのは中々に難しい。
何故そんな事が出来たのかを湊は苦笑しながら答えた。
「普通、こういうのは自分一人で決めるモノらしいですけど……すみません、目が見えないものですから、お店の人と相談して選んで貰ったんです」
そういう湊の言葉だが、それでもレイナーレには嬉しくてたまらなかった。
初めて異性から送られたプレゼント。それも自分のために店の人とかなり相談したであることは安易に予想が出来る。湊のことを知っていればわかるものだ。
だからこそ、レイナーレは涙を抑えることが出来なかった。
嬉しくて嬉しくて、どうしようもないくらい嬉しくて。
泣いてしまったことを湊に見られていないことは唯一の救いだが、それでも気付かれたくなくて、レイナーレはその変わりに湊に返事を返す。
そのプレゼントを早速身に付けながら。
「ありがとう、蒼崎君! 凄く嬉しい……だから、ずっと大切にするね!」
「安物で申し訳無いですけど、喜んで貰えてよかった」
湊の笑顔が夕陽に照らされた美しく感じる中、レイナーレもまた頬を涙で染めつつも幸せそうに笑った。
こうして二人の初めてのデートは終わった。
この後ちゃんと別れを言い、湊とレイナーレ達は帰路に付いた。
っその始終を見ていたカラワーナは感動モノのドラマを見たように感激し、
『レイナーレ様、よかったですね』
と言っては涙をハンカチで拭いていた。
そしてミッテルトも姉同然と上司が幸せそうなので嬉しそうに笑い、
「あ、自分はちょっとでかけてくるっす。二人も初々しさで色々と溜まってるんで、そこらの男引っかけてリフレッシュしてくるっすよ。主に大人の運動で」
と、若干卑猥な事をいいつつもレイナーレから離れようとするが、その肩はレイナーレによって捕まれ止められる。
「ミッテルト、あなたには聞きたい事が山ほどあるから、今はそれは無しよ。さぁ、冥界に戻ったら一杯吐いてもらうわよ」
「ひ、ひぃいいぃい!?」
綺麗に終わるかと思ったが、やはりレイナーレは根に持っていたらしい。
冥界に戻り次第、レイナーレの自室からミッテルトの悲鳴が上がったのは言うまでも無い。