堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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まさかここまで行くとは……。もう一つの作品も超えて驚きの連続です。


第19話 彼女は彼に食べさせてあげる。

 実に初々しいデートをしていく湊とレイナーレ。

それは傍から見れば微笑ましいものだが、身近な者にとっては実にもどかしい限りであった。

だが、そんな周りのことなど気付く事もなく、二人はデートを続けていく。

 先程のCDショップにて、互いに好きな物のことを少しだが触れた湊とレイナーレだが、まだそれ以外にもレイナーレは湊に楽しんで貰いたいと思っている。

それ故に、今度湊を連れて行こうと思っている所まで歩いていた。

休日ということもあって町は人で溢れており、活気に満ちている。当然人がごった返していることもあって歩くのは少しばかり大変だ。だから………。

 

「蒼崎君、こっち!」

 

人にぶつかりそうになり、湊はレイナーレに引っ張られる。

その際に近づく湊とレイナーレの身体。仕方ないとは言え、互いの肩が触れあった途端、二人は肩が熱をもったかのように感じ顔を赤らめた。

レイナーレは触れた肩の骨の貼った感じから男らしさを感じてしまい、湊を異性としてさらに意識してしまって顔が赤くなってしまう。

 

「ご、ごめんなさい、蒼崎君…痛くなかった?」

 

恥ずかしくなりつつも心配して声をかけたレイナーレに対し、湊も顔が熱をもっち始めていくことを自覚しつつも答える。

 

「は、はい、レイナーレさんの御蔭でぶつからずにすみました。ありがとうございます」

「そ、それなら……よかったわ……」

 

お互いにぎこちなく言葉を掛け合い、気まずくなってしまう。

だが、不快ではない気まずさ。互いに思い合い恥ずかしくなったりと、実に思春期特有な感じに見ている物は胸をドキドキとさせただろう。心が穢れている者には毒物にしかみえないだろうが。

そんな二人だが、道行く人達は目をかけ続けるわけにはいかない。

彼等も又、用事があるのだから。

歩いていると道は人達によって狭くなり、湊達の前ではかなりの人混みが出来上がっていた。

そのまま飲み込まれれば間違いなくはぐれるであろうことは容易に想像出来る。

それに気付き、レイナーレはどうしようかと悩むも直ぐに行動を決め、実行に移した。

 

「っ!? レ、レイナーレさん! か、身体が当たってるのですが……」

「その……人混みが凄くてこのままじゃはぐれちゃうから……だから……」

 

湊の身体に触れるかのように寄り添うレイナーレ。

その顔は凄く真っ赤であり、湊に触れてしまっている部分が脈動しているかのように感じた。

そして湊はレイナーレの柔らかい身体を感じ、更に異性として意識してしまう。初めて知った女性の身体の柔らかさに戸惑うと共にドキドキして落ち着かない。そんな感情に駆られ、どうして良いのか分からず湊はレイナーレに従うことにした。

そして二人で人混みの中に入ると、やはり予想通り押し潰されかける。

二人ははぐれないよう互いの手を力を込めて握るが、それ以上に互いの身体が密着してしてしまい、よりドキドキしてしまう。

そして人混みから脱出した後の二人は、もみくちゃにされたこともあって服装が乱れてしまい慌てて直す。だが、真っ赤な顔は服装のように治せはしなかった。

 

(し、仕方ないとは言え、蒼崎君に胸……触られちゃった……ど、どうしよう……わ、わざとじゃないのは分かってるんだけど、やっぱり意識しちゃうじゃない……)

(さっき、何か凄く柔らかいものに触れた気がするけど、何だったんだろう? レイナーレさんの手に込められていた力が強くなったようだし……もしかして彼女に何か失礼なことをしてしまったのかな……)

 

人混みの中、押されてしまったとは言えレイナーレの胸に触れてしまった湊。その事実にレイナーレは恥ずかしいやら何やらと感情が爆発してしまいどうしてよいのかわからな。湊も何に触ったのかは分からないが、それに触れた事によって繋がれていた手が少し力んだことでレイナーレに失礼を働いてしまったのかと心配になった。

そして少し落ち着き始めた頃合いを見て湊がレイナーレに話しかける。

 

「その……さっき何をしたのかは分からないけど、レイナーレさんに何か失礼なことをしてしまったんじゃないですか? でしたら、ごめんなさい」

 

困ったような苦笑を浮かべつつ素直に謝る湊に、それまで感情を制御し切れずに持て余していたレイナーレは慌ててその謝罪に応じる。

 

「そんな、謝らないで! 蒼崎君は何も悪い事なんてしてないわ。仕方なかったのよ、あの人混みの中じゃ身動きなんて取れなかったんだから。だから蒼崎君は気にしないで」

「で、ですけど……」

 

そうレイナーレに言われるが、レイナーレから感じる微妙な雰囲気にそれで済ませるわけには、と食い下がる湊。

それに対し、レイナーレは先程の胸を触れられてしまったことを掘り返されたくなくて、顔を羞恥で真っ赤にしつつ語気を強めにして湊に言った。

 

「だから、別になんでもないの! それよりも、もうそろそろ目的地に着くから。そんなことは気にせずに楽しもう、ね」

 

強く言われては仕方ないと湊は退く。

せっかく本人が水に流そうとしているのに、それを一々ほじくり返すのはレイナーレに悪いから。

それよりも自分のためにより楽しめる場所へとレイナーレが連れて行ってくれるというのだから楽しまなければそれこそ彼女に失礼だ。

そう思い直し、湊はレイナーレに返事を返す。

 

「そうですね。じゃぁ、次も期待してますね、レイナーレさん」

「任せなさい」

 

ちょっとしたハプニングもあったが、気を取り直して進む湊とレイナーレ。

だが、レイナーレの内心は複雑だった。

 

(う~~~~~ん………仕方ないからああして強く言って誤魔化したけど……やっぱり蒼崎君がわ、私の胸を触ったなんて、言えないわ……で、でも、そう言った方が意識してくれたのかな……どうすれば良かったんだろう……)

 

 恋する乙女の心境は複雑であり、その心境を取りあえず胸の内に秘めつつレイナーレは湊を引いていった。

 

 

 

 少し歩いて行く内に、湊とレイナーレの鼻腔をくすぐる良い香りがしてきた。

それを感じ取ると、湊の腹が少しばかり空腹を訴え始める。

それが分かってなのか、レイナーレは湊に向かって笑顔を向けた。

 

「少しお腹が空いてきた頃合いでしょ。だから今度は……ここよ!」

 

レイナーレが自身満々にそう言うが、湊には分からない。

ただ、美味しそうな香りが漂ってきて自身の食欲を大いに刺激することだけは確かに分かる。

そして何の店なのか聞こうと思ったが、その前に外からその答えが聞こえてきた。

 

「おや、いらっしゃい! お嬢ちゃん、毎度おおきに!」

「えぇ、ここのたこ焼きは美味しいから」

 

どうやらたこ焼き屋らしいと湊は理解した。

そう言われれば、確かにソースの香りなどが良く感じられた。

 

「今日は随分とオシャレしとんなぁ~。それにそこにいる坊はお嬢ちゃんのコレかい?」

 

湊がこの店について理解し始める中、レイナーレは店主と会話をする。

店主は湊の姿とレイナーレの恰好を見て、ニタニタとした笑みを浮かべながら左手の小指を立てる。

それを見たレイナーレは途端に顔を真っ赤にして答えた。

 

「なっ!? そ、そんなんじゃ、まだ………」

 

湊の方を見て気にするレイナーレだが、目が見えない湊には店主がやった意味が分からないので良く分かっていないようだ。

それもあってか完全に否定できないレイナーレ。湊が分からないと言うこともあってか少しはそう言ってもいいんじゃないかと思ったからだ。

その様子を見て店主は豪快に笑うと、

 

「よっしゃ、んじゃおまけしたる! 頑張りや、お嬢ちゃん!」

「もう、おじさんったら!」

 

湊は会話について行けなかったが、取りあえず店主の人が良い人だと言うことだけはわかった。

そしてレイナーレに引かれながら店を出ると、近くにあったベンチに腰掛ける。

そこで一休みというわけだが、レイナーレはこれから自分がしようとしていることに顔を真っ赤にして恥ずかしがる。だが、それでもせっかくの機会だと思って決心し、買ったたこ焼きの蓋を開けた。

その香りから美味しそうだと思う湊。だが、目が見えない彼にたこ焼きは少しばかり食べ辛い。

故に……。

 

「蒼崎君、口を開けて。わ、私が食べさせて上げるから……」

 

恥ずかしさのあまり途中から言葉が小さくなっていくレイナーレ。

香りとレイナーレの言葉から途端に湊は顔を真っ赤にし、慌てて否定しようとする。

だが、ここでもレイナーレによって止められた。

 

「たこ焼きは目が見えないと食べ辛いのよ。でも、とっても美味しいから、食べさせて上げたくて。だから……はい、あ~ん……」

「あ、あ~~~……ん」

 

自分の恥ずかしさとレイナーレの厚意を無下に扱うこと、

どちらが重要かを考え、折れる湊。

凄く恥ずかしいが、それでも食べさせて貰ったたこ焼きは美味しかった。

ちなみにレイナーレがたこ焼きを勧めたのは好きだということは勿論だが、わざとであり、食べさせたかったというのが本音。

クレープも捨てがたかったのだが、たこ焼きなら食べさせなければ湊は食べられそうにないからだ。

 

(あぁ……初めて他の人に食べさせてあげたけど……ドキドキするけど、何かイイなぁ、こういうの……)

 

湊が羞恥に悶えている間、レイナーレは何やら満たされた顔をしていた。

 二人でタコ焼きも食べ終え、再び出歩くわけだが、そんな二人に声がかけられた。

それは湊にとって初めて聞いた声で、レイナーレには良く聞き覚えがある声だった。

 

「もしもし、そこのおにーさん! もしよかったらウチとこれから遊ばない?」

 

湊には見えないが、その声をかけてきたのは綺麗な金髪をして、ゴスロリ服を着た少女であった。

その姿を見た途端、レイナーレが顔を顰めたのは言うまでも無い。

 

 

 

 


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