堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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次回で最終回かもしれません。


番外 彼と彼女とお泊まりと 彼の場合

 現在、彼は今まで感じ取ったことのない昂揚感に包まれていた。

それは彼にとって初めてのこと。通常、誰しも一回や二回はやったことがあるかも知れない事なのだが、彼の場合は目の所為もあってそれどころではなかったのでそれを経験するということがなかったのだ。

その彼が経験したことのないイベントの名は…………。

 

『お泊まり』

 

念のために言っておくが、決してイヤらしい意味ではない。女性と一緒にお城の形をした宿泊施設に行くとか、そう言う意味ではない。もし彼が最愛の彼女とそんなことになってみろ。その時は鼻血を出して気絶しているか、もしくは今まで以上に気まずくなっているだろう。

だからまず、そういう性的なことではない。

また、言い方が稚拙な言い方故にアレなわけだが、意味としては間違いでは無い。

つまりどういうことなのかと言えば………。

 

彼は……初めて『友人』の家に泊まるのだ。

 

何故そうなったのかと言えば、事の発端は部活の時にリアスが言ったことが原因であった。

 

 

 

「パジャマパーティーをしましょう!」

 

何故そのような言葉が出たのか、その場に居た面々にはまったく分からなかった。

リアスが張り切ってそう言ったのを見て、きっと何かに影響されたことが窺えるのは直ぐに分かったが、何故そうなったのかは本当に誰にも分からない。何せ脈絡も何もないのだから。それは詰まる所、単なる思い付きなのかもしれない。

そして部長たるリアスが言い始めたのなら、それはもうほぼ決定と変わらない。基本部員がリアスの言葉に反対するということがないのだから。

しかし、そのことに今回ばかりは異を答える者もいる。

 

「パジャマパーティーって女子が集まって泊まり込みで夜通し騒ぐやつよね。私はちょっと……」

 

そう答えたのはレイナーレであり、彼女の目は湊に向けられている。

その目からは、大好きな湊のお世話が出来ないということが嫌だから、という想いが伝わってくる。

その想いを感じ嬉しくなるが気恥ずかしさから顔を赤くする湊。そんな彼の考えているであろうことを断ち斬るかのようにリアスは返答を返す。

まるでそれが当たり前のように、彼女は満面の笑みを浮かべながら。

 

「あなたが蒼崎君と一緒に居たいってことは分かってるわ。だから……彼も一緒に泊まれば良いと思うの」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

リアスのその言葉にそれまで肯定の意を顕わにしていた眷属の皆も、流石にわからないと声を出してしまう。

先程レイナーレも言ったことだが、そのイベントは女子だけでやるのが普通であり、決して男子が混じって良いものではない。年頃の女性の就寝着という少し無防備な恰好は、同じく年頃の男子には刺激が強いのだ。見せて良いものではない。

そして勿論、湊を大好きな彼女が自分以外の女子のそんな恰好を見せるということを許せるわけがなく、その提案を強気で断ろうとした。

誰だって恋仲の相手に自分以外のそういう部分を見て貰いたくはないだろう。

その思いは真っ赤な顔をしたレイナーレから充分に伝わっており、それを見たリアスは母親が子供に言い聞かせるような口調でやんわりと答えた。

 

「そう急がないで。元から彼にも来てもらおうと思っていたから。私が言いたいのは、今私達が住んでいる所にあなた達を招待しようということよ」

 

それを聞いてあぁと納得する眷属達。

その答えを口に出したのは一誠であった。

 

「あぁ、俺の家ってことですか」

 

現在、兵藤家はリアスや他の眷属達がホームステイしているような状態であり、それ故に可笑しなくらい増築が成されている。それもこれもリアスの世間から少しずれた感性のせいだったりする。彼女は悪魔の上級貴族のお姫様であり、金銭感覚が一般人からすればおかしいのだ。

そんな彼女によって一誠の家は巨大なものとなった。周りと比較したら、ちょっとしたお屋敷と言っても差し支えないくらいに。

だからこそのその提案。使っていない部屋もあるのだから、湊が一人泊まるのだって問題は無いのだ。

だからそれで納得してしまう皆。レイナーレも一緒の家なら大丈夫かなと少し安心したりする。いつも一緒にいるくせ、いつも同じ家で暮らしているくせに、少し離れそうになるとコレだ。もうすっかりレイナーレは湊にべったりであった。

とは言えだ。そのことに少しばかり不満と言うほどでは無いにしても気がかりが残る者もいる。

その家の住人である一誠当人である。

別に彼自身湊のことが嫌いなわけでは無い。しかし、あの謂わばハーレムに近い家に自分以外の男が泊まり込むというのは、少ないながらに心配になってしまうわけで……(ヴァーリがしょっちゅう家に上がっているが)。

そんな一誠の心情が丸わかりなのか、リアスはクスクスと笑いながら彼に話しかける。

 

「私達女子は女子で一緒の部屋に集まるから。一誠、あなたは蒼崎君や祐斗と一緒にいなさい。男の子同士、盛り上がることもあるでしょ」

「え~~~~~~~~~~~~~~!」

 

リアスの言葉に実に不満そうな声を上げる一誠。確かに彼の一抹の不安はそれで解消されるだろうが、男と一緒の部屋で騒げというのは少し嫌そうだ。いや、別にこれが彼の友人である元浜や松田なら卑猥な談義に華を咲かせているだろう。しかし、今回は仲間とは言えイケメンの祐斗と彼女持ちの湊、それに一緒の部屋に入れて良いのか困るギャスパーだ。盛り上がるのかイマイチ分からないし、もしかしたらヴァーリも来るかも知れない。そんな面々で一誠のような少年の盛り上がりとやらがあるかどうか……わからない。

だからこそ不満の声を上げるのだが………。

 

「たまにはいいんじゃないかな。男同士、色々と話し合いたいこともあるし」

「先輩と一緒でおしゃべりなんて、青春ですぅ~」

「そんな、迷惑じゃないかな。急に泊まるなんて」

 

祐斗、ギャスパー、湊の三人の楽しみにしてそうな声を聞いてNOとは言えず、彼はそれを聞き入れることにした。それに……たまにはこうしてオカルト研究部の男子達と交友を深めるのも良い事だと。彼は常にハーレムを目指す卑猥な少年だが、同時に仲間思いの少年でもあるのだ。だからこそ、こういうのも良いかと思った。

 

 

 

 と、これが湊が兵藤家に泊まることになった経緯。

彼はその日の放課後、一旦レイナーレと一緒に自分の家であるアパートに戻り泊まるための準備を行って夜になってから兵藤家へと向かうことにした。

兵藤家への道案内に関してはリアスの使い魔が行い、その誘導に従って二人は歩いて行く。

その際、二人はいつもと違う状況に胸をドキドキとさせつつ笑い合っていた。

 

「こういうの、何だか初めてだね、湊君」

「そうですね、レイナーレさん。僕、初めて友達の家に行きますよ」

 

ちょっとばかし寂しいことを言う湊だが、それは致し方ない事。だが、そんな曇りを感じさせず、彼は無邪気に今回の案について楽しみだと笑う。

それがまた可愛らしくて、レイナーレは湊を見ながら顔を赤らめていた。

そんな、実にバカップルな雰囲気を発しつつ二人は歩き、そして兵藤家へと到着した。

そこで初めて驚いたのは、やはりその家の規模。周りと比べれば如何に大きいのかが丸わかりであり、湊はその家のサイズに目を見開いていた。尚、レイナーレは少し驚きこそすれど、実家のサイズに比べればまだ大人しい方なのでそこまで驚いてはいないようだ。流石は堕天使のお姫様、リアスと違い金銭感覚はしっかりとしているが、そういう高級嗜好にも理解があるらしい。

そして一誠とリアスに招かれ、室内へと案内される二人。

そこからは一気に進み、集まった皆で夕飯を一緒に食べ、そして各自で風呂を済ます。その際にリアスの悪ふざけの所為で男子が入っている風呂に女子が突入するという事案が発生し、一誠はその桃源郷に悦び小猫に殴られ祐斗とギャスパーは巻き込まれる前に撤退、そして湊はレイナーレに見ちゃ駄目だと強く言われ後ろから抱きしめられるように目を隠された。それは一生懸命だったからまったく彼女は気付かなかったのだが、湊の背中に密着するような形になった所為でレイナーレの大きな胸が湊の背中に押し潰されることになり、その感触で湊がのぼせ上がってしまったのは言うまでも無い。風呂上がりにレイナーレの膝枕の上で湊は看病されることになり、その光景を一誠は羨ましそうに見て居た。

まぁ、そんなことが在りつつもレイナーレはリアスの部屋へと行き、湊は一誠の部屋へと行った。

そこから始まるのは、レイナーレは女子のみによるパジャマパーティー。そして湊は男だけでのお泊まりである。

 

 

 

 一誠の部屋というのは至って普通の部屋であった。

それは誰が見てもそう思うのが本来の姿。しかし、湊は今のその部屋を見てそうは思わなかった。

 

「凄く大きいですね!」

 

まるでこんな大きな部屋に入ったのは初めてだと言わんばかりに目を輝かせる湊。そんな湊に一誠は苦笑し、それは祐斗達も同じく笑う。

何せ一誠の部屋の家具は部屋のサイズと見合っていない。一誠の家具は元の部屋の規模をそのままにしているので、部屋の一角がそのまま彼の部屋の状態であり後のスペースががらりと開いている。そんな部屋だが、元が庶民な一誠は落ち着かないようだ。

だから部屋の空いているスペースに四人分の布団を敷いても充分広い。

四人分……いつの間にか来ていたヴァーリも今回のお泊まりとやらに参加することになり、一誠は断れずに受け入れることに。

そして夜、布団を広げた室内で男子達は歳相応に話し合うのだが…………。

 

「やっぱりおっぱいは最高だよな!」

 

ほぼ一誠ご自慢の卑猥な話一色になっていた。

何故こんなことになってしまったのかと言えば、この面々で皆に盛り上がりを見せる話題を振れる者がいなかったからだ。祐斗はどちらかと言えば聞く側であり、湊はこのように友人と集まって話し合うことがなかったので話題がない。ギャスパーも引きこもり故に話題はなく、ヴァーリに至っては戦闘狂だ。戦う以外の話題などごく少数しか持ち合わせていない。だから必然的に話題を振るのが一誠になり、そしてこの男なら出て来るのが一に猥談、二に女の子。三に精々悪魔の話である。

だからこれは仕方ない話。この男が主体なら、猥談になるのは致し方ない。

そして今回は少し場合が違い、それを咎める者はいない。ある種の無礼講なのだ。故に一誠は盛り上がる。

 

「女の子と言えばおっぱい! 勿論部長のおっぱいは最高だぜ! だが、大きいだけが良いのではない。アーシアみたいなおっぱいや、小猫ちゃんみたいなロリっぱいだって皆個性的であり良い所は一杯ある。おっぱいは偉大であり、その道は険しいんだ!」

 

おっぱいおっぱい連呼する一誠。彼なりに自信の夢を熱く語っていた。

リアスのおっぱいを揉みしだきたいとか朱乃のおっぱいを吸いまくりたいなど、実に年頃の青少年らしく濁った性欲を吐露していく様は何故か立派だ。

そんな一誠に祐斗は苦笑しギャスパーは尊敬し、ヴァーリは呆れ返る。

 

「何をバカな事を言っているのやら。君には女に現を抜かしている暇など無いというのに」

「うっせー、イケメン! 前から思ってたけど、お前ってもしかしてホモなのか! そんなにイケメンなくせに女の子に興味なさ過ぎだろ! もしそうだとしたら近づくな!」

 

そんなやり取りを見て聞いて湊は楽しみ笑いつつも、一誠の猥談に顔を真っ赤にしていた。彼だって年頃の男であり、そういった性の知識も最近は理解しつつある。それ故に彼女に対してのみだが、色々と意識してしまうのであった。

 

「俺にだって女への興味くらいはあるさ。それにドラゴンは異性を強く惹き付ける。それなりに出会いくらいはあるよ」

 

そうしたり顔で話すヴァーリに一誠は噛み付くが、彼もリアスや朱乃や小猫などと出会ったのだから大概である。

 

「俺としては……そうだな、女性は寧ろ腰から臀部にかけるラインや臀部のふくよかさが魅力的だと思う」

「はぁ? 尻だと!」

 

湊は祐斗と一緒に一誠とヴァーリのやり取りを聞いては何かタメになるのかも知れないと思いつつも顔を赤くしていた。

後にヴァーリが『尻龍皇』と呼ばれる切っ掛けになった出来事であった。

そしてそんな猥談も盛り上がっているのか分からないが進み、一誠はそのターゲットを湊へと定めた。

 

「んじゃ蒼崎、お前はレイナーレさんとどんな感じなんだよ」

「えっと、どんな感じって言われても?」

 

急に名指しされ戸惑う湊に、一誠は妙にイヤらしい笑みを浮かべつつ話しかける。何せ湊はこの中で唯一の『恋人持ち』である。リアスに甘えている一誠ではあるが、恋仲ではない以上『その先』には一切至っていない。つまり至っている可能性がある湊にそのことを吐き出して貰おうと、そういうことであった。

若干変な興奮気味に一誠は湊に近づく。決して変な意味ではない。

 

「どうってお前、そいつはないだろ! あのクラスでも有名で校内美少女ランキングベスト5内にかならずランクインしているあのレイナーレさんだぞ!そんなスタイル抜群な美少女が恋人なんだ……その、色々とやってるだろ。吸うとか揉むとか……」

 

ぐへへと笑う一誠に湊は少し引き気味になり、祐斗は苦笑しヴァーリは呆れる。

湊はそう言われ、レイナーレに押しつけられた胸の感触を思い出してしまい顔を真っ赤にして湯気を出し始めるが、それでも何とか答える。

 

「そ、そういうことはまだ早いと思いますよ、僕は。その、僕達はまだ子供ですし、それにそういうのは、その……結婚してからで……」

 

真っ赤な顔でそう答える湊だが、実は結構やらかしていたりする。決して故意ではないし、稀に堕天使総督のちょっかいなどもあるが、本人としてはそう考えているらしい。その考えを聞いて一誠は何やら奇妙なものを見るような目になり、他は皆納得した様子だ。

 

「お前、本気で言ってるのか!? あの巨乳を揉みたいとは思わないのか! 吸ってみたいと思わないのか!」

「さ、さっきも言ったけど、そういうのはまだ早いですし、それに同意の上で責任をもってじゃないと」

「マジかよ………あんな素敵なおっぱいが手に入る立場だというのに……。俺だったら速攻で揉みまくって吸いまくっているといういうのに……こいつ、男か……」

 

正気を疑うと言わんばかりの一誠に湊は寧ろ一誠はそう言うのが前に出すぎだと少しばかり反論する。別に顔はそこまで悪く無いのだから問題なのは隠そうともしないそのスケベ心だと彼なりに一誠に言うと、何やら一誠は微妙な顔をした。これが祐斗なら、うるせぇイケメンの一言で済むが、恋人が居るという実績を持っている本物のモテる勝ち組たる湊にそう言われては少しばかり納得してしまう。

そんな一誠にヴァーリが湊の援護を出す。

 

「君と違いミナトは『清い』。それ故にレイナーレを大切にするし、大切だからこそ彼女を汚したくないと思うのだろう。まぁ、あの少し耳年増な彼女はそれが少し不満らしいが、それがミナトの魅力だと分かっているからこそ嬉しいらしい」

 

それを聞いて顔を赤らめる湊。一誠はそんな湊の様子を見て自分との違いを実感させられへこむ。やはり甘えさせて貰っているとは言え『情愛』と『愛』は違うものだとはっきりと理解させられる。幸せの度合いがまるで違うのだから。

だからこそ、ちょっとばかし大人しくなる一誠。そんな一誠を慮ってか、祐斗が笑いながら湊に話しかける。

 

「そう言えば、蒼崎君とレイナーレさんはどうやって出会ったのかな? 二人共種族が違うんだし出会うようなことがあるとは思えないのだけど」

 

これは所謂、恋人との出会いはどんな感じですか? という話題だ。

それを聞いた一誠は息を吹き返したかのようにその話を聞くべく湊に迫るかのように近づく。

皆からの注目を受け、湊は気恥ずかしさを感じつつも当時のことを思い出しながら、彼女と出会えた奇跡というのはあまりにも普通過ぎる幸せを噛み締めながら語り始めた。

 

「彼女とは……そうですね。いつも座ってる公園のベンチで出会いました。あの日、僕はいつもの様に過ごしてました。目が見えないから何かすることもなく、ただ時間を過ごす日々……そんな日々の延長でした。そんな日々に彼女はやってきました。あの時、彼女は自販機の下にお金を落としてしまって困っていましたっけ。僕も良く物を落としますから、それで助けてあげたくて。そこからお金を広うのを手伝って、彼女からお礼を言われて……その時初めて彼女と言葉を交わしましたよ。その時の印象は何て言うか……普通の女の子でした。まさか本当に堕天使だったなんて知りませんでしたから、てっきり彼女の冗談だと思いましたよ。でも、そういう存在を見た事が無い僕は、そういうのが居ても良いと思いまして。何より、不思議な感じがする人でしたから、堕天使というのも間違いじゃないかなって。そんな可愛い人だなって思って色々とお話をしたんです。レイナーレさんは、僕の目が見えないことを気付いて申し訳なさそうにしていましたけど、それでもそんな僕を不気味がらずに話しかけてくれて……嬉しかったなぁ。それが出会いでしたね。彼女にとっては何でも無いと思いますけど、僕にとっては……大切な日になりました」

 

懐かしみつつも大切に語る湊の様子はそれはもう楽しそうで、幸せそうで、見て居る側からすれば眩しく見えた。

祐斗はそんな湊を楽しそうに見つめながら更に話すように促す。

 

「それがレイナーレさんとの出会いだったんだね。彼女のような堕天使は人間を見下す傾向が強いのに、良く仲良くなれたね」

「レイナーレさん、そういうのを気にしないそうです。逆にそういうのが嫌いだって言ってましたよ。そういう公平な心もまた、魅力的です」

「あはは、そうなんだ。確かに少し変わってるけど、そっちの方が皆も良いよ思うよ。人を見下して良いことなんて何もないからね」

 

祐斗の言葉に湊もそうですねと頷く。

そのやり取りは青春っぽいが、少しばかり道徳的にも聞こえる。

 

「その後はどうやってレイナーレさんと?」

「はい、あの後もレイナーレとは度々公園で会いまして。彼女はどうも僕の事を気にしてくれていたみたいで……少し申し訳ないですけど、嬉しかったです。それで会って一緒に色々な事を話して……。レイナーレさんは僕の知らないことをたくさん教えてくれました。彼女の知る情報が僕には新鮮で、そんな彼女のことを知っていくことが楽しくて」

 

なんとまぁ惚気るのかと言わんばかりに湊は嬉しそうに語るわけだが、その様子を見ていた面々は何やら温かい眼差しで湊を見始めた。ただし、一誠だけが妙にムズ痒そうな顔をする。

 

「今にして思えば恥ずかしいですけど、レイナーレさんにお願いして顔を触らせて貰ったこともありました。目が見えないとそう言うところが不便で仕方ないですよね」

「どうして顔を触ったんですか?」

 

それまで静観して聞き入っていたギャスパーが不思議そうに問いかけた。

彼にとって触った理由が分からないからだ。その問いに湊は恥ずかしがりながら答えた。

 

「目が見えないと分からないことが多いんですよ。だからその……レイナーレさんがどんな人なのか少しでも知りたくて、それで彼女の顔を触らせて貰ったんです。触れば形とかが分かるから。それでレイナーレさんが綺麗な人だって知りました」

 

勿論形や目などの配置がわかるだけでそれが綺麗なのかどうかなど分からない。だが、湊にはレイナーレの顔が『綺麗』だと感じられたのだ。

 

「それからもレイナーレさんとは会っては楽しい時間を過ごさせて貰いました。新しいことを教えて貰い、レイナーレさんのことをもっと知っていって、それでどんどん彼女の事が気になって、気が付いたら彼女のことばかり考えていて……既に彼女のことが大好きになっていたんです」

 

湊の言葉から伝わってくる想いに皆何やら感心してしまう。

何も恋とは大きな出来事がなければ出来ないものではない。このように徐々に相手を好きになっていくのもまた恋だと、そう感じさせられた。

 

「それから初めて一緒に出掛けて色々なお店を教えて貰って、たこ焼きを食べさせてもらったり、初めて人にプレゼントを贈ったり……僕でも人並みにあんな楽しい思いが出来るんだって知って、レイナーレさんが可愛いなぁって思えて、本当に楽しかったです」

 

そして始まるのは湊の惚気。

レイナーレが学園に勝手に来たときの話やアザゼルの話などが出る。そして……。

 

「彼女に告白されて、それで嬉しくて泣いてしまって……男なのにみっともないですよね。でも、本当に嬉しくて、僕もレイナーレさんのことが好きだって告白して、そして………恋人同士になって……」

 

湊は当時の事を思いだし、顔が熱くなっていくのを感じながらも語る。

この惚気も最後に近い。

 

「レイナーレさんが誕生日のプレゼントだって言って、それで……僕に光をくれたんです。それまで諦めていた、もう絶対に無理だと思っていた光を、世界を、彼女は僕にくれたんです。そして改めて見る彼女は………女神様だと思いました。こんなに綺麗な人を僕は初めて見ました。漆黒に輝く翼と夕陽に彩られた彼女は、本当に綺麗で美しかったです。思わずもう一回告白してしまうくらいに。僕はもう、彼女が大好きで仕方ないんだって。ずっと一緒に居たいって…そう思いました」

 

それで以上ですという湊。確かに顔は赤く恥ずかしがっていたが、それ以上に本心だと胸を張って言えるようだ。

その様子に皆感心する。感動的ですらあった恋物語を聞いて、男であってもそれは感心するものがあった。

そんな話を聞かされて…………。

 

「俺も蒼崎みたいな、そんな恋がしてみたいなぁ」

 

一誠はそう洩らした。彼にしては珍しく、煩悩が一切無い。湊の話を聞いていて、素直に感心し、自分が求めていたハーレムとは全く違うそれに彼は憧れすら感じた。

そんな一誠に、湊は助言するかのように笑顔で答える。

 

「きっと兵藤君も出来ますよ。誰かを好きになって、その人を幸せにしてあげたいって思えるように。でも…………あまりエッチなのは良くないし、好きな人を不安に指せるようなことはよくありませんよ。例えば………グレモリー先輩と姫島先輩の二人にゆれたままとかは。どちらか……ちゃんと決めませんとね」

 

その言葉に、一誠の心は釘撃たれた。

まさにその通りだと、皆は思うが口にしない。当人はハーレムを目指しているが、今の彼はその考えが出来ない。何せ目の前で純粋な愛の話を聞かされたのだ。何やら自分が間違っているような、どんなに頑張っても湊とレイナーレのような関係になれないような、そんな感じがした。

だからこそ、返事を返す。

 

「は、はぃ…………」

 

 

 

 男子だけのお泊まり会だが、思った以上に盛り上がった。

そして湊は、楽しい中で自分の心を見つめ直し、更にレイナーレへの愛を深めるのであった。

 

 


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