堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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とある御人の要望に応えました~!


番外 彼は彼女の仕事着を見る

 まず、彼女が堕天使であるということを思い出して欲しい。

見た目は年頃の娘だが、彼女は実年齢こそ年相応だがそれでも堕天使なのだ。湊と種族が違うし、その身分も違う。

確かに今、彼女は彼と同じ『駒王学園の二年生』だが、それはあくまでも人間界の話。つまり本来彼女が住んでいる冥界では、当然別の肩書きを持っているのだ。

それが堕天使達の組織『神の子を見張る者』に所属する堕天使としての彼女だ。能力的には中級堕天使とされている。

その仕事内容は多岐に渡り、大概の堕天使が上昇志向の高い者達であり皆『至高の堕天使』というものを目指している。その大概が戦闘能力の向上であり、彼等の中では強い者ほど至高に近いとされている。その極端な至高故に上下意識が激しい。

だが、これは実際の所若い者達の中で蔓延している主張であり、他の者達や上級堕天使の者達はそうは思っていない。結局の所組織故に力だけでは回せないのが事実なのだ。

だから彼女の主な仕事は机仕事(デスクワーク)。人間界に親善大使としての任を受ける前はまさに机に囓りついて書類を熟し、時には上の命令で現地に赴き何かをする。

それだけ聞けば、殆ど会社勤めのOLと変わらない。いや、変わらないというよりもそのままだ。堕天使だろうが悪魔だろうが、組織が大きければ大きいほどやるべきことや熟すべきことも多くなる。それを熟すのも立派な仕事と言えよう。

つまり彼女の堕天使での仕事というのは、ほぼ会社員と何ら変わることがないというわけだ。

しかし、そう言われても具体的な内容を知らなければ何をやっているのかも分からないものだ。

だからなのか…………彼がこんなことを言い出したのは………。

 

 

 

 それは唐突な発言だった。

いや、こういった出だしはいつもこんなものであり、それを言ったら切りが無い。しかし、物事の始まりとは得てしてそういうものだ。だからこそ、今回の始まりもそのように始まった。

それはとある日の朝、朝食を食べ終えて食後のお茶を飲んでいる時だった。

彼はふと思い出したかのように彼女に問いかけた。

 

「そういえば、レイナーレさんって普段はどうしてるんですか?」

「え? それってどういうこと?」

 

急にそう聞かれても理解が出来ないレイナーレ。

何せ普段も何も、常に湊と一緒にいるのだから今更そう聞かれてもどういう意味なのか理解出来ない。実際に常に二人でイチャついているのだから、そのことを実感していなくても彼なら分かるはず。

そんなレイナーレの反応に湊は少し違うと申し訳なさそうに聞き直した。

 

「あぁ、すみません、少し違いました。そうじゃなくて、その……僕と一緒にこうしてこの家で過ごす前はどんな風に過ごしていたのかなって思いまして」

 

彼が聞きたいのは、親善大使として湊の家に住む前の彼女の生活についてだ。

それを聞きたいわけなのだが、聞かれたレイナーレは改めて湊から言われたことを実感し、顔を赤らめながらも嬉しそうに笑ってしまう。

 

「た、確かに一緒に住んでるけど、やっぱりこういうのは同棲ってことで、そういうことだから湊君と二人っきりってことで、今はその恥ずかしいから無理だけど、将来的にはその…あんなことやそんなことも…………ぁぅぁぅ」

 

この初心な堕天使は一緒に住んで結構経つのにほじくり返した途端にこのように何かを妄想しては真っ赤になってもじもじとしてしまう。正直ムッツリとしか良いよう無いが、見た目が美少女なのでムッツリでも許されそうだ。

そんな彼女の姿を見て不思議そうに首を傾げる湊。彼女の姿を可愛いと思うが、その彼女が何を考えているのか彼には分からない。

そしてある程度妄想して悶えつつも恥かしがるレイナーレは、湊に見られている事を自覚し、更に己を恥いながらも答えた。

 

「湊君と一緒に過ごす前は、『神の子を見張る者』で毎日書類仕事だったかな。近くで家を借りて、そこから毎朝出勤して書類仕事してたまに上司命令で何かしらの活動をカラワーナやミッテルトやドーナシークと一緒に行ったりしたわ」

「何だか会社で働くOLさんみたいですね。あ、でも……」

「でも?」

 

湊はそこで一旦言葉を止めると、テレビで見たドラマを思い出しながら彼女に笑いかけた。

 

「きっとレイナーレさんのOL姿、綺麗で素敵なんでしょうね」

「はうっ!? そ、そんなことないよ~………えへへへ……(湊君ったら、もう~~! で、でも、そう言われるとやっぱり嬉しいなぁ)」

 

湊にそう言われ顔を真っ赤にしていやんいやんと首を横に振るも満更ではない様子のレイナーレ。そんな彼女がまた可愛くて、湊は温かい眼差しで見つめる。

彼の頭の中では、ドラマで見たOLのスーツ姿がレイナーレに重なる。それは彼から見ても凜々しくて綺麗で素敵な姿だった。本音で言えば、実際に見てみたいくらいに。

そんなことを考えた湊は少しばかり恥ずかしくなり、それを誤魔化すために在ることを彼女に言うことにした。

それは前から思っていた事。気になっていたことであり、少しでも大好きな恋人の事を知りたいという彼の恋心からの質問だ。

 

「あの………レイナーレさんが働いている姿を見せていただけませんか」

「えっ!?」

 

その問いにそれまで幸せに浸っていたレイナーレは現実へと戻される。

それは彼女にとって鬼門であったから。

そうとは知らず、湊は彼女へと言葉を続けた。

 

「その、レイナーレさんってどんな風に仕事をしているのかって思って、それで見てみたいなぁって。その………迷惑でしたか?」

 

そう言われ、彼女は少しばかり言い淀んでしまう。

最愛の彼からのお願いは勿論聞き入れたい。見せて貰いたいと言っていることも別にそこまで難しいことではない。

だが、それでも…………彼女は『それ』を見られたくないのだ。

『アレ』は彼女にとってある意味で重要な物だ。『神の子を見張る者』に正式に入ったと共に、第二の親であるアザゼルが就職祝いに贈ってくれた大切な代物で、彼女にとって思い出深いものである。

だが、それと共に同時にとても恥ずかしいものでもある。『アレ』の所為で、彼女は周りから色々な目で見られるようになった。

女性からは羨望と嫉妬を、男性からは欲情を。『それ』はそれだけの威力があった。

だからこそ、彼女はそれが恥ずかしいのだ。

しかし、それでも…………彼になら寧ろ欲情して貰いたいとさえ思っている。だから彼女は顔が真っ赤になって熱くなっていくのを感じながらも、湊に答えを返した。

 

「う、うん……湊君になら……いいよ」

 

 

 そして彼女は湊に目を瞑って待ってもらい、彼女は堕天使としていつも着ている服装に着替えた。

それはいつも着ているはずの衣装。なのに、今はいつもと違い恥ずかしくて仕方ない。

着替え終わり、改めて姿見の鏡に映る自分の姿を見た彼女はあまりの『破廉恥』な恰好に泣きそうになった。

別に堕天使として考えれば寧ろふさわしい恰好だ。でも、それでも………初心な彼女にはあまりにも派手過ぎる。

それが分かっているからこそ恥ずかしいし、そんな姿を湊に見せようとしているのだから、心臓の鼓動が早まる。

正直直ぐにでも着替え直したいが、それを堪えて彼女は湊の前に出た。

 

「いいよ、湊君………目を開けて」

 

その言葉に湊は目を開ける。

それまで見えなかったことが当たり前だったから、こうして目を開けて良いと言われて開くのは、何やら新鮮な感じでドキドキした。

そして彼は目に映った物を見て、その途端に言葉を失った。

 

「なッ!?」

 

まさかこんなことになるとは思っていなかったのだ。

彼はあくまでも働いているレイナーレの姿がどんなものなのかを見たかっただけなのだから。それがまさかこのようになるなど、誰が思ったことだろうか。

目を見開いている湊を見て、彼女は恥ずかしさのあまり身を小さくしようと縮込ませてしまう。

それが尚更羞恥に加速させるとも知らずに。

湊の目に映ったのは、彼女の艶姿だ。

布地が殆ど無く、肌が顕わに露出しているその衣装は、世間一般において……ボンテージと呼ばれている。

それは黒い皮生地で出来ており、レイナーレの抜群のスタイルをそれは際立たせていた。

レイナーレは言葉を失って驚いている湊に心配そうに声をかける。

 

「み、湊君……大丈夫?」

「は、はい!」

 

声をかけられた湊はそれで気を取り直し、改めて彼女の姿を見た。

真っ白な肌にそこいらの女子では敵わないほどに大きな胸、キュッとくびれたお腹に大きすぎず小さくない丁度良いお尻。そして際どい部分のみ隠したその姿は誰が見ても欲情する絶景であった。

当然彼とて男なのだ。彼女のそんな『派手』な姿に意識が向いてしまい、顔が一気に真っ赤になった。

急に赤くなった湊を見て、レイナーレは恥ずかしがりながらも湊を心配する。

 

「大丈夫なの、湊君! 顔が真っ赤だよ!」

 

本当に心配しているのだろう。湊の顔を覗き込むように少し屈んで彼に近づいた。その結果、大きな胸がゆさりと揺れて大きな谷間を見せつけるようになっていることに気付かず。

それを間近で見てしまった彼は鼻が熱くなるのを感じながら目を離せない自分に嫌悪を感じた。

 

「いや、大丈夫です…………」

 

そう答えるが身体が素直に無理だとレイナーレに伝えてきた。

真っ赤になる顔に定まらない視線、そして鼻から垂れてくる血。

それを見た途端に彼女は湊を優しく抱き留めつつ心配した。

 

「大丈夫じゃないよ! 湊君、どうしたの! 鼻血が出ちゃってるし心臓も凄くドキドキしてるじゃない」

 

結果、迫る大きな胸をその谷間、肌が露出していることで香る彼女の香りに湊の心臓は壊れかけるくらい鼓動を高めた。目の前に移る最愛の彼女の艶姿は、彼が思っていた以上に刺激的であった。その所為か、湊の目は彼女を直視しようとし、心がそれを止めるという矛盾が発生する。

 

「そ、その…………凄いですね。その服…………」

 

真っ赤になりながら湊が何とか言葉を絞り出すと、レイナーレは羞恥のあまり泣きそうになってしまう。彼女だって分かっているのだ。自分が如何に『痴女』のような恰好をしているのかが。

だからこそ、恥ずかしさのあまり消え入りそうな声で返事を返す。

 

「うぅ………そ、そのね……おじ様がくれたの。正式に組織に入ったときの就職祝いだって」

 

そう言われて少しアザゼルの正気を湊は疑った。どこの世界に娘同然な存在にこんな卑わ………破廉恥ま服装を贈る親がいるのかと。

それに対し、レイナーレはそれこそ穴があったら入りたい気持ちで湊に説明する。

 

「堕天使っていうのは、人間を堕落させるのも仕事の一つになってるの。元は天界への力を削るためなんだけど、その名残で……。女性の堕天使はこういった、その……露出が激しい服装を着用するのが好ましいとされているのよ。その方が如何にも男の人を誑かす魔性の女っぽいから」

 

それを聞いた湊は真っ赤なまま考える。

理由は分かったし、理解出来ないこともない。事前に説明を受けていたので少しはわかる。

だが、それでも………恋人がそんな姿を他の人に晒しているというのがどうにも我慢出来ない。激しくは思わないが、納得いかない感じだ。

だから彼はそれを少しでも言葉にしようと彼女に伝えた。

 

「その…………凄く魅力的でドキドキします……レイナーレさんのその姿。でも、その………僕以外にその姿を見せるのは、その………嫌かな。も、勿論、それは仕方ないのは分かってます。でも、やっぱり……エッチな視線をレイナーレさんに向けて欲しくないから………」

「湊君…………」

 

その言葉に感極まるレイナーレ。

彼女はだから、それを言葉と行動で伝える。

そっと湊に寄り添い、彼の頭に手を添えてギュッと抱きしめた。

 

「ありがとう、湊君………私もね……湊君以外にこの姿は見て欲しくない。湊君だから………見て欲しいよ」

 

耳元で囁かれる愛の言葉。そして圧倒的に大きな胸に埋まる湊の顔。

それらの要素により、彼は今度こそ意識が飛んだ。鼻血を出しながら彼は伸びてしまったのだ。

 

「きゅ~~~~~~…………」

「湊君?………湊くぅぅんんんんんんんんんんんんんんんん!!」

 

薄れゆく意識の中、湊はレイナーレの叫びを聞きつつ心に思う。

 

(レイナーレさんのあんな姿を見るなんて……………ドキドキし過ぎて身体が…持たない…………)

 

 

 

 ここでとある変態なおっぱいドラゴンなら、

 

「すげぇおっぱいだッ!」

 

などと喜び歓喜しただろうが、湊はその辺は全然成長していないのだ。

そんな彼にこの光景はあまりにも刺激的で、猛毒だった。

初めて見た愛しい人の艶姿。それはとても派手でイヤらしく、エッチだった。

その所為で今後、彼はしばらくレイナーレのことを直視出来なくなったそうな。

尚、その発端である堕天使総督は後日、娘分の恋人に心の底から恐怖するほどのお説教を受けたんだとか。


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