堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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この作品は甘いんです! もう、これしか言えそうにないです。


番外 彼と彼女とデートの終わり

 クレープを堪能した後もデートは続くわけだが、二人の顔は今までに無い程に真っ赤になっていた。

それというのも、原因はやはり先程のクレープ。別に普段から良く食事を食べさせ合っているバカップルだ。今更その事で恥じらうくらいならとっとと爆発しろと皆が口を揃えて言うことだろう。しかし、今回二人が真っ赤なのはそのことではないし、強いて挙げるなら双方とも顔は赤くともそこに感じている想いもまた違っていた。

例えばレイナーレ、彼女の顔は真っ赤だが、まるで何かに陶酔するようにうっとりとしていて、それでいて実に幸せそうな笑顔をしていた。

そんな彼女の脳内では、先程あった出来事が『再生』されている。

女子に有名な『幸せのミックスベリー』を最愛の恋人と食べられただけでも幸せなのに、更にその上愛おしい彼が顔を赤くしながら『その上』のミックスベリーまで味わわせてくれたのだ。その時の彼の一生懸命で一途な想いの籠もったそれは、彼女を心底酔わせた。今にしても思い出せる味と感触。それが嬉しくて恥ずかしくて、でもどうしようもなく幸せで、彼女は真っ赤な顔で幸福に浸る。

 

(湊君の一生懸命だけど、凄く可愛かったなぁ………あぁ、もう、どうしよう! 幸せでどうにかなっちゃいそう! キャ~~~~~~~~~~~~!)

 

表情では表さないが、内心はこんな感じで暴走気味。これも恋する乙女の特権と言えるだろう。

対して湊が赤いのは、先程の自分にしては随分と行動的に動いた事への羞恥だった。

彼は普段、どちらかと言えば物静かで穏やかな人間だ。求められればそれに応じる受け身が基本であり、自分から動くことはあまりない。

その割りに天然でよく動き周りを驚かせたりレイナーレを驚喜させるのだが、それはあくまでも本人は無意識で行う。なので今回のような自分の意思で行動を起こしたのは珍しく、それ故にとても恥ずかしがっていた。

 

(あぁ~~~、何で僕、あんなことしちゃったのかなぁ~! いや、でも、その………レイナーレさんが凄く可愛く見えて、そうしたくなったっていうか、その……我慢出来なくなっちゃったっていうか………あ~~~~、もう……恥ずかしい……でも、その………レイナーレさんの唇、柔らかくて気持ち良かった…………)

 

幾ら大人びていて精神的にも周りに比べれば成熟しているとは言え、彼はまだ17歳の少年なのだ。恋愛事に興味がある思春期で、当然異性に興味を持つ。

そして恋人がいるのだから、そういった事にだって当然興味を持つのだ。

まぁ、それでも元が無知だった所為なのか、『キスより先を知らない』し、『その手の知識は皆無』なのだが。そうだからなのか、湊にとってキスは最大の愛情表現である。言葉で気持ちを伝えることも重要だが、キスこそがもっともその想いを伝える方法なのだ。

だからこそ、彼は自分がした行いを恥ずかしがる。レイナーレ風に言うのなら、『はしたない』ことだと思ったから。

でも、それに反し心臓はドキドキと高鳴り、妙な昂揚感に包まれ、何だかんだと言いつつも嬉しく思ってしまう。

そんな真逆の気持ちに板挟みになり、湊は顔を真っ赤にして恥いつつ、内心ではその板挟みに悶えていた。

まぁ、そんなわけで互いに意識してしまい真っ赤になる二人だが、傍から見れば初々しいバカップルにしかみえない。

そんな二人の毒気?に瘴てられたのか、二人の姿を見たとある人達は口から白いナニカを吐き出し、または嫉妬と憎悪に彩られた恋人のいない者達から視線を向けられ、または二人の様子を微笑ましく見る夫婦達に応援される。

普段ならそれだけで顔を真っ赤にして恥じらう二人。しかし、今は周りに意識を向けられる余裕はない。

二人はただ、お互いのことを意識して、組んでいる腕から互いの温もりを感じ手ドキドキしてしまっているだけなのだから。

 

 

 

 そんな感じでデートは続き、二人は最初の待ち合わせにしてあの時と同じ最後の場所である公園へと戻ってきた。

 

「少し早く戻って来ちゃいましたね」

「前と違って湊君の歩く速さが変わったからね」

 

以前から座っているベンチに腰掛けると、二人はそう言い笑い合った。

前のデートの時と比べ、湊は目が見える様になったことで歩みがしっかりした。その御蔭もあって、歩く速度が以前に比べ格段に上がったのである。

だからなのか、以前と比べここに戻るのが早くなったのだ。

少しだけ時間があまり、どうしようかと考える二人。別にこのまま帰ってもいい。

しかし、せっかくのデートなのだ。もっとこの大切な時間を過ごしたい。

そうお互いに思ったのが伝わったのか、二人は笑いながら昔を懐かしむように話し始めた。

 

「ねぇ、今日のデートはどうだった?」

 

レイナーレが湊に楽しそうに問いかけると、湊はそれを嬉しそうに笑いながら答える。

 

「とっても楽しかったです! でも………それ、僕が聞くべき事なのでは?」

 

通常、デートの善し悪しを聞くのは男のはずなのだが、何故か先にレイナーレに聞かれてしまいそう答える湊。そんな湊にレイナーレはクスクスと笑った。

 

「確かにそういうのは男の人が聞くもんだけど、本来はデートプランを考えた人が言うものなの。そう考えれば、このデートのプランを考えたのは私なんだし、間違ってはいないよ」

 

そもそも、最初は目が見えない湊が楽しめるようにとレイナーレが考えたデートプランである。彼女の言い分で考えれば、確かに彼女の言うことが正しいのだろう。

そう答えられ、湊は少し申し訳さいような顔をした。

彼とて男、恋人のエスコートをちゃんとしたいと思うのは当然のことであり、少しでもレイナーレに頼って貰いたいと思うのは当たり前である。それが今日は彼女に頼りっぱなしだったのだから、そのような顔にもなるというものだ。

そんな湊の心情を察してか、レイナーレは彼に温かく微笑むと、湊の手を軽くキュッと握り締めた。

 

「焦らないで、湊君。湊君が考えてることも分かるけど、まだ湊君は目が治ったばかりなんだから無理をすることなんてないわ。ゆっくりでいいから……一緒に頑張って行こう……ね」

「レイナーレさん……………はい、そうですね。こんな僕ですけど、一緒に支えてくれるんなら、頑張れそうです」

 

そう答える湊に、レイナーレは嬉しそうに微笑んだ。

無理しなくても良い。ただ、しっかりと自分の速度でちゃんと進めるようになればいい。

そう言われ、湊の心は晴れ渡る。

そうお香と共に、気が緩んだのか意識がうつらうつらとし始める湊。

 

「あ、あれ?」

 

自分の不調に戸惑うが、それをどう表して良いのか困る彼に、レイナーレはまるで母親のように問いかけた。

 

「湊君、もしかして眠いの?」

「いや、そんなことは………」

 

湊はレイナーレにそう答えるのが失礼だと思いそう言ったが、身体は真逆によりふらつき始める。

彼は最近身体を鍛え始めたが、それでも体力は同年代の男子に比べれば無い。それまで運動をする生活をしていたので、どうしても身体が衰えているのだ。

故に体力不足。それが今回のデートでハシャぎ回ったこともあって表に出ているのだ。

耐えようとする心と眠ろうとする身体。その二つに挟まれ少し苦しくなってきた湊に、レイナーレは彼の身体を軽く抱き留めた。

 

「湊君、少し休んでいきましょう。まだ時間はあるんだし」

 

そうレイナーレは湊に言うと、彼の身体をゆっくりと横に倒し、自分の太股に湊の頭を乗せた。膝枕をされた湊は普段なら驚いただろうが、今は意識が混濁しつつあることもあってそのことに気付かない。

ただ、凄く柔らかくて気持ち良い感触がすることが分かり、気持ち良さそうに目を瞑りながら彼女に答える。

 

「はい、レイナーレさん……少し……休みます……」

 

その言葉を言い終えると共に、彼からすやすやと安らかな寝息が聞こえ始めた。

レイナーレは湊が寝たのを確認して、彼の頭をそっと撫でる。

手から伝わる彼の髪の肌触りを堪能しながら、彼女は赤くなり熱を発する頬を感じつつ湊に顔を近づけていく。

そして無垢な寝顔を晒している湊の唇に、そっと彼女の唇が合わさった。

柔らかく、男の割にはつやつやとしている唇。その感触に胸をときめかせつつ、彼女は唇を離して彼に小さく囁いた。

 

「おやすみなさい、湊君……本当、寝顔が可愛いんだから………だぁいすき♡」

 

 

 それから約30分後、彼は目を覚まし慌てることに。

その後二人で一緒に自宅へと帰ったが、その心はいつも以上に二人共幸せで一杯だった。

当時は当時で幸せを感じた。意識している異性との初めてのデートだったから。

しかし、今は当時以上に幸福で、見る物すべてが輝いていて、そんな世界に祝福されていて、彼と彼女は幸せ一杯で一杯だった。

世界で一番大好きな最愛の人とのデート。それは心が幸せで満ちあふれるものだったから。

 こうして二人の新しいデートは終わった。

 

 


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