二人のバカップルっぷりを楽しんでいただけると嬉しいです。
ペットショップで子犬や子猫達と戯れた二人は満足して二人で店を出た。
その顔は二人とも笑顔であり、実に和んだことが窺える。
「前もそうだったけど、やっぱり可愛かったね」
「そうですね。皆良い子ばかりで可愛かったです」
当然その話題は先程まで戯れていた動物達であり、二人は若干興奮気味に会話に華を咲かせていた。それだけ楽しかったし、それ以上に思い出深い事になった。
子猫を境に二人で身を寄せ合い囁き合うのは少しこそばゆくて、それでいて何処かドキドキとした。それが心地良くて二人は嬉しかった。
そんな訳もあってか、二人は頬を赤くしながらこの後もデートを続けていく。
あの時行った店を改めて回る度に湊は感動し、レイナーレはそんな彼を見ては一緒に喜んだ。
新しいことを知る度に無邪気に喜ぶ湊はレイナーレから見て子供の様に幼く、それが普段の大人な彼とは真逆でギャップを感じさせ、それ故にレイナーレはそんな湊の笑顔を見る度に胸がキュンとした。
そのまましばらく何件か店を回った後、二人は身を寄せ合いながら歩いていると、レイナーレは何やら懐かしみ、実に嬉しそうな含みを持った笑みを浮かべた。
その笑みを見て、湊は少しドキッとしつつ彼女に問いかける。
「どうしたんですか、レイナーレさん?」
「うん、あのね………前の事を思い出してたの。あの時湊君、トイレに行くって言って少し離れたけど、本当は私の為にペンダントを買いに行ってくれたんだよね」
あの時、二人の初めてのデートの時、湊はレイナーレとミッテルトに軽く断りを入れて離れると彼女のために頑張って少し前に寄ったアクセサリーショップへと向かった。そこで目が見えない彼なりに頑張って店員と話し合い、レイナーレに似合うペンダントを買ったのだ。
このペンダントはデートの最後辺りにレイナーレにプレゼントしたわけだが、当初は知らなかったレイナーレも今ではそのこともちゃんと知っている。だからこそ、もっと嬉しくなる。
レイナーレはそう言いながら軽く首元を探ると、湊に見えるようにそれを引っ張り出した。
「貰った時からずっと付けてるの。このペンダント、ちゃんと大切にしてるよ」
そう言うレイナーレはとても幸せそうに微笑む。その微笑みは湊の心をときめかせるほどに魅力的で、彼の心を温かくした。
だからこそ、湊も彼女に微笑んだ。
「ありがとうございます、レイナーレさん。こんなものしかプレゼント出来なくて申し訳無いです」
「いいの、寧ろ嬉しかったわ。だって私の為に湊君が頑張ってくれたから」
その想いを感じてレイナーレはペンダントを愛おしく見つめる。そんな彼女も又可愛らしくて、湊はレイナーレの幸せそうな姿に見入る。
「ちゃんと見ましたけど………凄く似合ってますよ、レイナーレさん」
「ありがとう、湊君。そう言ってもらえて……ちゃんと見てもらえて……嬉しい」
傍から見たらバカップルでどうしようもないが、当人達にはまるで熟年夫婦のような感慨深い気持ちが流れていた。
そんな懐かしくも嬉しい思い出を思い出しつつ二人は進む。
その組まれた腕から伝わるお互いの温もりを感じ、胸をドキドキと高鳴らせながら二人は歩く。その姿はどう見ても恋人同士であり、道行く人々の注目を集めていた。
そしてしばらく歩いていると、二人はあの時と同じように公園へと寄った。少し歩きづめだったので、こうして休むには丁度良い場所である。
そこでの思い出を懐かしみ、レイナーレは湊にある提案をした。
「湊君、一緒にクレープを買いにいかない?」
そう、この公園と言えば湊にとって初めてクレープを食べた場所である。
それまで湊はクレープは女子しか食べられないと思っていたので、それを聞いた当初、レイナーレはそんな湊が可愛く見えた。そして今でもそれは変わらない。
湊はそう誘われ、少し気恥ずかしさを感じつつも嬉しそうに笑った。
「いいんですか!」
「えぇ、勿論。私、湊君と一緒に買いに行きたかったの」
恋人と一緒にそういった屋台で買い物をするというのは、それはそれで憧れるものがある。だからなのか、レイナーレはより湊に密着して嬉しそうに笑った。
そして二人で公園内にあるその屋台へと向かう。
到着するまでの間、レイナーレは湊にとある話題を振ることにした。それは女子の間では有名な話題であった。
「ねぇ、湊君………幸せのミックスベリー味って知ってる?」
それは女子の中でも結構騒がれているジンクスである。
この先にある屋台で一緒にミックスベリー味のクレープを買って食べると幸せになるというものだ。その宣伝もあってか、この先の屋台は未だに客足が良いらしい。
それを聞いて湊は不思議そうに首を傾げた。
「幸せのミックスベリー味?……すみません、知らないです」
その返事を聞いてレイナーレは内心でかなり喜んだ。
湊は聡いので、もし知られてしまっていたら、その喜びが減りかねないから。
そう思えば思う程、この後自分がやるであろう行為を思い浮かべ、顔が真っ赤になっていくのを感じた。
「そ、そう……なら、楽しみにしていて」
「はい」
そして二人で屋台に着くと、レイナーレは店主に向かって恥じらいつつも注文を行った。
「すみません、ブルーベリー味一つとストロベリー味一つを下さい」
それを聞いた店主の女性は少し含みを持った笑みを浮かべると軽く復唱し、注文の品を作り始めた。
湊はそのやり取りを聞いて少し不思議そうに戸惑う。
「あの、レイナーレさん。ミックスベリー味じゃないんですか?」
「これでいいの、湊君。もう少し待っていて」
戸惑う湊にレイナーレは少し微笑み、そして出来上がったクレープを店主が渡してきた。
「どうぞ。また御贔屓にお願いしますね。後……お楽しみに」
「っ!?」
分かりきっていたとは言え、それでも指摘されると恥ずかしくなってしまうもの。だからレイナーレの顔は見る見る内に真っ赤になっていく。
そんなレイナーレを少し心配になりつつも、湊はレイナーレに渡されたブルーベリー味を手に持ちながら一緒にベンチに腰掛けた。
湊はそのクレープを見ながら思い出す。初めて食べたクレープのあの味を。そしてこのクレープもきっと美味しいのだろうと思い、レイナーレに笑いかける。
「レイナーレさん」
「えぇ、湊君」
そして二人で軽く頷くと、ほぼ同時に声を出した。
「「いただきます」」
最初の一口。そこから口に広がったのは甘酸っぱいブルーベリーとそれを柔らかく受け止める生クリームの優しさ。
そのコントラストに彼は感動を覚え目を輝かす。
その感動を彼はレイナーレに意気揚々と伝えた。
「凄く美味しいです、レイナーレさん」
それは彼女も同じだったらしく、此方も嬉しそうに返事を返した。
だが、ここで少し疑問点が残る。何故なら、最初に言っていた『ミックスベリー味』とはまったく関係が出てこないからだ。
そのことが頭に過ぎった湊は、何故違う注文をしたのかをレイナーレに問おうとする。
しかし、その答えは湊が問いかける前に出た。
レイナーレは湊が答える前に、顔から火が出るんじゃないかというほど真っ赤に顔をしながらも、瞳を潤ませながら湊に自分の持っていたクレープを差しだした。
「湊君………はい、あ~~~~ん」
急にそう言われても戸惑ってしまう湊だが、彼女の一生懸命で可愛らしい姿に胸を打たれ、素直に応じた。
「あ~~~~ん」
そしてレイナーレのクレープから広がったストロベリーの味を感じ、口の中に残っているブルーベリーの残滓を感じでやっと理解した。
それらをちゃんと味わい、湊は彼女に感想を返す前に自分が持っていたクレープを差し出す。
「レイナーレさん、はい、あ~~~~ん」
それに今度は彼女が戸惑ったが、自分の思惑通りに進んだことを喜びながら湊のクレープに小さく囓りついた。
そして口の中に広がる味、または湊との『間接キス』に胸をキュンキュンとさせながらじっくりと味わい飲み込んだ。
はしたないことをしている自覚はある。恥ずかしいと思う。でも、それ以上に嬉しくて幸せで、頬が緩んでしまう。
それを湊に見られるのが少し恥ずかしくて、彼女は湊を見つめながら答えた。
「どう、湊君……『ミックスベリー味』は?」
その言葉に湊は顔を赤くしながら答えた。
「はい、その……………凄く幸せになっちゃう味でした」
そう、これがミックスベリー味の謎の答え。
ストロベリーとブルーベリーを恋人同士で食べさせ合えば、それは確かに両者の口の中でミックスベリーになる。間接キスが成立し、カップルなら誰もが幸せになれるというものだ。だからこその『幸せのミックスベリー味』なのだ。
お互いに顔を真っ赤にして恥じらう二人、でも、その心は幸せで一杯になる。
決してキスしまくってるんだから今更間接キスで恥じらうってどうなの? とは聞いてはいけない。分かった上での間接キスというのは、それはそれで恥ずかしいものなのだ。
そのまま少し固まる二人。少し気まずく感じつつも、互いにクレープをちびちびと囓っていた。
そして今度は湊が行動に移した。
さっきまでのは彼女が彼にしてくれたこと。だから今度は自分が彼女にしてあげたいのだと。
「レイナーレさん」
愛おしい恋人の名前を呼びかけると、彼女は赤く染めた頬と潤みつつある瞳を湊に向ける。
「どうしたの、湊君?」
可愛らしく小首を傾げるレイナーレ。
そんなレイナーレに湊は軽く微笑むと、素早く彼女の後頭部に手を回し、その唇に自分の唇を合わせた。
「っ!?」
急にキスをされて驚くレイナーレ。
そんなレイナーレの唇に優しく舌を沿わせると、湊はゆっくりと唇を離した。
互いの顔が真っ赤になる中、湊はレイナーレに少しイタズラ心の籠もった言葉をかけた。
「その………こういうミックスベリー味もどうでしょうか?…………」
その言葉にレイナーレの顔から湯気が立ち上がる。
こんな恥ずかしい真似を湊がするとは思え………いや、彼は天然ですることが多いので今更なような気がするが、それでも乙女な彼女には刺激が強いらしい。
その愛おしさと幸福が溢れだし、どうしようもない状態な湊とレイナーレ。
レイナーレはそんな湊にはしたないと思いつつも上目使いで見つめながら言った。
「その………おかわりは………いいの?」
その言葉に今度は湊の顔から湯気が湧き上がった。
そして再び二人の唇は近づき交わる。
口に広がるのは確かにミックスベリーの味。甘くて酸っぱくて、そして愛おしい味。
その味を味わいながら、二人は確かに感じていた。
((確かに…………これは幸せの味だなぁ………))
二人はしばらくの間、その味を味わっていた。