堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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まだまだ続く砂糖の嵐、ですね。


番外 彼と彼女のお昼ご飯

 次の目的地と言えば、二人が初めて行った飲食店である。

あの時もそうだったが、今も丁度二人の小腹が空き始めていた。何せここまで結構歩いていたし、人混みに揉まれて体力も消耗していたこともあって身体が栄養を求めているのだ。朝からデートと言うこともあって多少の緊張を感じ、まさに小腹が空いたというのにふさわしい減り具合と言えよう。

そんなわけで、二人は昔を懐かしみつつその扉を開いた。

 

「おや、いらっしゃい!お、お嬢ちゃんやないか! 久しぶりやないか!」

 

二人が店に入ると同時に店主が声をかけ、レイナーレは久しぶりに来たということで笑いかけた。

 

「えぇ、久しぶり。少し立て込んでしまっていて来ることが出来なかったの、ごめんなさいね」

「ええって! お客様は神様やて、こうして久しぶりでも来てくれただけで俺は嬉しい」

 

レイナーレの言葉に店主はかなり喜びながら返す。その様子を見て湊は暖かな人だと感じた。目が見えない時も良い人だとは思ったが、こうして見える様になって改めて感じる人の温かみ。それが嬉しくて彼も自然と笑顔が浮かんでくる。

そんな湊を見て、店主は彼に大仰とすら言えるくらいのテンションの高さで話しかけた。

 

「おぉ、あの時の坊やないか! しかもその目、もしかして」

「はい、治療して治りました」

 

以前は見えなかったから分からなかったが、どうやら湊の目が見えないことを知っているらしい。だからなのか、治ったと聞いた店主はそれはもう凄く、それこそ本人以上に喜びを顕わにする。

 

「そりゃ凄くめでたいやないか! おぉっし、今回は俺の奢りや! 好きなだけ喰っててや!」

「いや、そういうわけには……」

 

若干テンションに追いついていけない湊、そんな湊を見てレイナーレは苦笑しつつも彼の手を軽く引いた。

 

「せっかくのご厚意なんだから甘えてもいいんじゃない」

「れ、レイナーレさんまで……」

 

慣れない状況にどうしたらよいのか困っていた湊にレイナーレが笑いかけ、湊はそんな彼女に少し情けない顔をする。

それは少しばかり仕方ないことかもしれない。何せ今まで、湊は人に頼ったり甘えるということを殆どしてこなかったのだから。

レイナーレと出会い、彼女の心惹かれて、そして恋仲になって、彼女に甘える様になって………最近の彼はやっと甘えることを覚えるようになった。

だから彼女以外の好意に対し、どう対応して良いのか困ってしまうのだ。

そんな湊にレイナーレは優しく微笑みかける。少し戸惑う彼がどうにも可愛く見えるようだ。

そんな二人の様子を見て、店主は更に盛り上がりを見せた。

 

「おぉ、何や何や! お嬢ちゃん、その様子からして坊とちゃんとコレになったんか?」

 

店主はそう言うと左手の小指を突き付けてレイナーレに問うと、レイナーレは顔を赤らめつつもゆっくりと頷いた。

 

「え、えぇ、その…………御陰様というか何というか……はい」

「レイナーレさん……」

 

彼女の恥じらいつつも答える姿に湊は可愛いと思い胸に湧き上がる暖かな気持ちに笑みが溢れる。

そんな彼女の答えを聞いて、店主のはしゃぎようと来たらそれはもう凄い事になった。

 

「滅茶苦茶めでたいたいやないか! こりゃもう命一杯奢るさかい、ちぃと待っとき! 今から滅茶苦茶焼くから」

 

そう言うと店主は厨房に意気揚々に入るなり、テンションMAX状態で大量のたこ焼きを焼き始める。その光景も合わさって、あっという間に店内はたこ焼きの香りで充満し始めた。

その香りが二人の空腹を更に煽り、小腹からあっという間に空きっ腹へと変えていく。

その所為で、二人のお腹から同時に音がなった。

 

キュ~~~~~~~~…………。

クゥ~~~~~~~~…………。

 

その音を聞いた途端、二人の顔は一気に真っ赤になり熱くなる。

そして気恥ずかしさから何処を見て良いのかわからず、二人の視線は店内を駆け巡った。

 

「あ、あははははは…………」

 

気まずさから軽く笑う湊。そんな彼に対し、レイナーレはそれこそ気の毒になるくらい顔を真っ赤にして俯いてしまう。

幾ら大好きな相手でも、こうしてお腹の音を聞かれるのは恥ずかしいというものだ。それが恋する乙女というものであり、その恥ずかしさはそれこそ穴があったら入りたいくらいのものだ。

そんな気まずい空気の中、先に動いたのはレイナーレだった。

 

「は、恥ずかしい………っ~~~~~~~~~~~~~!」

 

この沈黙に羞恥心が更に煽られ耐えきれなかったのか、彼女の頭から蒸気が噴き出す。

そんな彼女を見て、湊はクスクスと軽く笑ってしまう。

それがレイナーレの羞恥心を更に煽り、彼女の瞳から涙が溢れそうになる。

 

(み、湊君に笑われた! は、恥ずかしすぎるわよ~~~~~~~~! うわぁ~~~~~~~~ん~~~~~~~~!)

 

内心で既に大泣き状態のレイナーレ。そんな彼女を感じてか、湊はそうじゃないよと軽く首を横に振る。

 

「いや、そういう意味じゃないですよ。その………可愛いと思ったんです。レイナーレさんのお腹の音」

「ふえ? か、可愛いなんて、そんなの……嘘……」

 

湊に可愛いと言われ羞恥とは別の意味で顔を赤くするが、そんなわけないと考え直し否定するレイナーレ。その顔は湊を直視出来ず真っ赤なままだ。

そんな彼女を見て、湊は愛おしさを感じながら彼女の頭にそっと手を乗せて彼女の頭を撫で始めた。

 

「あ………」

「嘘じゃないですよ。大好きな人のそういう所も又、愛おしいんです。それだけ僕を信頼してくれているんだって思えるから」

 

レイナーレはそう言われ、泣きそうな目で顔を上げた。

そんな彼女の目に映ったのは、慈愛に満ちた笑みを浮かべる湊。湊の微笑みはレイナーレの心に染み渡り、恥ずかしさと共に嬉しさを感じさせた。

 

「湊君がそう言ってくれるなら、恥ずかしいですけど……嬉しいかも……」

「レイナーレさん……」

 

レイナーレは湊にそう言い、彼に笑顔を向けた。

その笑顔はいつもよりも綺麗に見えて、湊は見入ってしまう。

何だかいつも以上に彼女が可憐に見えたのだ。そんな湊にレイナーレはお返しとばかりに言葉をかけた。

 

「湊君のお腹の音も、その………可愛かったわよ。湊君に似て、可愛い感じで」

「そ、そんなことないと思うんだけどなぁ」

 

逆襲に遭い、今度は湊が顔を真っ赤にする。

男としては可愛いと言われるのはどうかと思うのだが、彼女がそう言うのだから認めないわけにもいかない。何より、自分のことを可愛いというレイナーレの可愛い笑顔を見続けたいということもあって仕方ないと受け止めている。

そんなわけで恥じらいつつも笑い合う二人。そんな二人に厨房から出てきた店主が声をかけた。

 

「待たせちまって申し訳無い。その代わり滅茶苦茶サービスしまくったさかい許してちょ!」

「いえ、そんな! 此方こそ申し訳無いですよ」

「おじさんの気持ちだけでも嬉しいから、美味しくいただくわ」

 

店主が手を軽く前に出して謝るが、それを咎める者など誰も居ない。

寧ろ渡された大量のたこ焼きを見れば、此方が申し訳無いと頭を下げたい気分になるくらいだ。

その量を見て湊は驚きつつも、店主に軽く話しかける。

 

「あの、こんなに貰うわけには…」

 

湊の謙虚な態度に店主はがっはっはと笑いながら答えた。

 

「せっかくのカップルの来店や、ここは思いっきり祝ってやるのが人情っちゅうもんやて! ここは受け取っとき!」

 

そして少し強引ながらたこ焼きを受け取らされる湊。そんな彼を見てレイナーレは微笑みながら店主にお礼を言う。

 

「ありがとう、おじさん。また遊びに来るから」

「おう、おおきに! その時もそこの彼氏と一緒に来いや。オマケしたるから」

 

店主からの声援を受けて気恥ずかしいが嬉しいと感じる二人。

その後二人で改めてお礼を言って店を出ると、近くにあったベンチに二人で腰掛ける。

その手には店主によって渡された大量のたこ焼きがあり、実に食欲を駆り立てる香りを発している。

 

「こんなにもらっちゃいましたね」

「えぇ、そうね」

 

そのたこ焼きを見ながら軽く苦笑する湊、そしてレイナーレはそんな彼に笑いかける。

 

「これだけあるとお昼ご飯はいらないわね」

「そうですね。少しばかり予定と変わっちゃいますけど、レイナーレさんと一緒なら何処でも嬉しいですから」

 

さりげない湊の爆弾に彼女の頬はリンゴのように真っ赤になった。

それが恥ずかしいが嬉しくて、レイナーレはその思いを噛み締めつつ湊に話題を振る。

 

「あの時もここで一緒にたこ焼きを食べたわね」

「そうですね。あの時にレイナーレさんに食べさせて貰ったたこ焼きの味、今でも思い出せます。美味しかったですよ」

 

少し昔を懐かしむ二人。

そして彼ろ彼女は互いに見つめ合う。その瞳に映る最愛の人に見入りつつ、二人は笑い合う。

 

「せっかくだから……食べさせてあげるね、湊君」

 

少し恥じらいつつも嬉しそうに笑うレイナーレにそう言われ、湊は素直に頷いた。

そしてレイナーレは昔を思い出しつつ、湊にたこ焼きを一つ楊枝で刺して刺しだした。

 

「湊君、はい、あ~~~~ん♡」

 

外故の開放感と人通りがないこと湊に甘えるレイナーレ。そんな彼女を愛おしく思いながら湊もそれに応じた。

 

「あ~~~~~ん」

 

そして口に入ったたこ焼きを咀嚼し味わう。

 

「どう、湊君?」

 

その感想が聞きたくて、レイナーレは湊にそう問いかけた。自分で作ったものではないが、それでも気になるらしい。

そんな心遣いが嬉しくて、湊は笑顔で答えた。

 

「えぇ、とっても美味しいですよ。あの店主さんの腕も凄いですけど、それ以上にに、その…………レイナーレさんが食べさせてくれるともっと美味しくなって……嬉しいです」

「湊君………」

 

その答えにレイナーレは顔を赤らめつつも幸せそうに笑みを浮かべる。

湊の彼女限定の殺し文句に彼女はもうノックアウト寸前であった。

そして幸せに浸っているレイナーレに、湊は笑いかけながら彼女にさしだした。

 

「レイナーレさん、はい、あ~~~~ん」

 

急に差し出されたたこ焼きに少し驚いたレイナーレだが、湊の甘い声に心を溶かされ、恥じらいつつも幸せそうに口を小さく開けた。

 

「あ。あ~~~~~~ん♡(湊君からのあ~んだなんて………どうしよう、幸せすぎちゃうわよ~~~~~!)」

 

そして彼女の口の中に入るたこ焼き。レイナーレはたこ焼きを咀嚼するが、残念なのか凄いと言うべきか、幸せすぎて全く味が分からなかった。

そんな状態なのに、湊は彼女に感想を聞く。

 

「レイナーレさん、どうですか?」

 

その問いかけにレイナーレはとろけるような笑みで答えた。

 

「凄く美味しくて幸せ。だって……大好きな湊君が食べさせてくれるんだもの。美味しい以上に心が幸せで一杯になっちゃう」

「レイナーレさん………」

 

その答えに今度は湊の心が満たされる。

しかし、満ちたところでまだ足りないと感じるらしく、二人は止まらない。

 

「もっとレイナーレさんの可愛い姿を見せて下さい。はい、あ~~~~ん」

「もっと湊君の無邪気な笑顔を見せて………あ~~~~~~ん♡」

 

そして始まる二人により食べさせ合い。

それは互いの身体も心も温かくする最高の食事だった。

心も体も満たされた二人は再びデートをするべく、ベンチから立ち上がり歩き始めた。

 尚、ここで勘違いを一つだけ訂正しておこう。

ベンチで二人が座っていた際、周りは人が殆ど通らなかったというのは少し間違いがある。正解は、

 

『あまりの二人のバカップルぷりに当てられて出て行き辛かったから』

 

これが周りの正解である。

 


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