まさか此処まで行くとは思わず、感無量です。
これで少し胸を張れて自信が付きます、皆様に感謝です。
そして日間一位に驚愕しました。
皆様、本当にありがとうございます!
それはとある思い付きから始まった。
内容自体は何でも無い普通の事。既に一回行っていることなので、そこまで新鮮味があることでもないと思われる。
しかし、それでも二人にとってはそうではないのだろう。
この二人にとって、それは大切な思い出。それを懐かしむのは当然のことだが、以前と現在では二人の関係も彼の状態も違うのだ。
だからなのか、レイナーレは夕食が終わった後に湊に懐かしむように話しかけた。
「ねぇ、湊君」
「どうしたんですか、レイナーレさん」
洗い物を終えたレイナーレはテーブルの上に置かれたお茶を啜り寛ぐ湊に話しかけ、湊はエプロンを外し邪魔にならないように結った髪を解くレイナーレの姿に見惚れつつも嬉しそうに返す。
名前を呼ばれるだけでも嬉しい。そんな想いが二人を満たし、お互いの顔は幸せそうに微笑んでいた。
そして互いに笑い合うレイナーレと湊。出来ればこのまま見つめ合いたいという気持ちも湧いたが、彼女はその柔らかく甘い誘惑を我慢し、それ以上に彼女の心を満たす提案を湊に話す。
「そう言えば、目が見える様になってから一緒にデッ……お出かけしてないなぁって思って」
もう交際を始めてキスまで済ませているというのに、彼女はそれを言うことが上手く出来ず誤魔化す様にそう言った。
それを聞いた湊はクスッと少し可笑しく笑ってしまう。彼女が何を言いたいのかということが既にはっきりと分かるからだ。そしてそこで踏み切れずにそう言ってしまう彼女を可愛いと思いつつ、少し意地悪をしたくなってしまう。
「お出かけですか? でも、毎日一緒に学校に行ってますし、帰りも一緒に下校してますよね」
「うっ!? そ、それはそうなんだけど……」
ニコニコと笑いそう答える湊に、レイナーレは少し言い淀む。
決して間違いではない。一緒に登下校し夕飯の買い出しも一緒に行っているのだ。確かに一緒に出かけている。
しかし、そうじゃないのだ。
レイナーレが湊に言いたいことは、そういうことじゃない。彼女は湊ともっと『恋人同士』らしくお出かけしたいのだと。
だからこそ、レイナーレはそれを言おうと思うのだが、それを意識するとどうにも顔が真っ赤になって言葉が出なくなる。
何度も言うが、既にキスもして交際している間柄なのだ。なのに今更それはどういうことだろうかと誰もが突っ込みたくなるだろう。
そんなわけで真っ赤な顔で四苦八苦するレイナーレ。そんなレイナーレを湊は見つめる。
「レイナーレさんは困ってる顔も可愛いですね………」
そして考えた事がモロに口にしてしまう。
この少年、考えていることを素直に口にしてしまう癖がある。それ故に、毎回毎回レイナーレをドキドキとさせているのだ。
そして今回も例に漏れず、
「はうッ!? み、湊君、いきなりそんな……」
レイナーレは湊にそう言われ、顔をボンッと真っ赤にして俯いてしまう。
その顔は恥ずかしさで赤く蒸気を噴き出していて、彼女は湊に今の顔を見られたくなくて俯くのだが、その表情は嬉しくてニヤニヤと笑みが浮かんで仕方ないようだ。
そして少しして、レイナーレは少し涙を浮かべた瞳で湊を見つめつつ、少し不満気に言う。
「湊君のイジワル。いつもそうやってドキドキさせるんだから」
「そんなつもりはないんですよ。ただ、僕はレイナーレさんが可愛いなぁって思ってしまうだけですから」
可愛らしいジト目で睨まれ、湊はレイナーレの目を見つつ素直に答える。
それが更に彼女の胸をキュンと締め付けた。
「うぅ~、それがずるいの! 大好きな人にそう言われたら女の子は誰だってドキドキするものなの」
「それは僕も一緒ですよ。レイナーレさんが可愛いから僕もドキドキするんです。恋人の愛しい姿をみたいっていうのは、恋人の特権ですから。正直、今だってドキドキしてるんですよ」
そう言われ、レイナーレは真っ赤になってあうあうと慌て始める。
少し畏まった言い方だが、詰まる所湊の『レイナーレ大好き』という想いが直に伝わり、レイナーレはそれが嬉し恥ずかしくてどうして良いのか困ってしまうのだ。勿論嬉しすぎてという感じだが。
そんな彼女を頬を染めつつ慈しむように見つめる湊。その心は可愛いレイナーレの姿で一杯であった。
そしてレイナーレが落ち着き始めるのを見計らって、改めて湊はレイナーレに問いかける。
「それで……レイナーレさんは、僕とどうしたいんですか?」
「もう分かってるのに言わせようとするなんて……湊君のイジワル」
「そう怒らないで下さい。僕はレイナーレさんの口から聞きたいんですよ、その言葉を。勿論、返事は喜んで一緒させてもらいますよ」
先に答えを言われてしまいレイナーレは嬉しくて笑みを浮かべてしまう。
そして恥ずかしいが、それでも彼女は熱くなる頬を押さえつつ湊を見つめる。その目は潤み、上目使いで見つめられ湊もまた顔が熱くなり胸の高鳴りを感じた。
「わ、私と次のお休みに、その……デートして…下さい!!」
デートと口にしてレイナーレの顔はトマトのように真っ赤になった。
何を今更と思うが、彼女にとって恋人らしい行為は全て恥じらってしまうようだ。
そして湊は彼女からのデートの誘いを受けてはにかんだ。
「はい、喜んで」
改めてデートの約束をした二人だが、そこで何処に出掛けるのかで今度は話題が移る。
今までは湊の目が見えないことから遠出や危険なことがありそうなことは避けてきた。
しかし、今はもう違う。湊の目が治った以上、これまで以上に色々な所に出掛けられる。
だからこそ、レイナーレは真剣に考える。
(何処に行こうかな。遊園地も一緒に行ってみたいし、映画館で一緒に映画も見てみたいし、それにもっと一緒に行ってみたい所も一杯あるし……えへへへへ、どうしよう。一杯あって困っちゃうよ~)
真剣なのだが、その表情はデレデレでまったくそう感じさせない。
だが、それは湊にとってレイナーレが可愛く見える。見ていて何やら心が和むのだ。
同時に胸の高鳴りを感じ、彼も又レイナーレと一緒に出でかけたい場所を考える。
今まで行けなかった所に行けるようになったのだ。そう考えれば行きたい所などごまんとある。
しかし、それを考えた途端、湊の脳裏にあることが過ぎった。
それは一番最初の記憶。彼女と初めて出かけた思い出だ。
それを思い出し、湊は懐かしむように笑う。
(もしかしたら、レイナーレさんもこんな風に考えてくれたのかな)
当時は彼女にエスコートされる側だった。
自分は彼女に色々と教えて貰いながらそのデートを楽しんだものだと思い出す。
しかし、今は考える側になり、それが嬉しく感じた。
「僕もレイナーレさんと一緒に考えられることがここまで嬉しいとは思いませんでした」
そう洩らしてしまい、それを聞いたレイナーレは赤い顔で湊を見つめる。
その瞳には懐かしそうに笑う湊が映り、彼女もまた最初のデートを思い出していた。
そして当時の想いを彼女は湊に言う。
「私もそうだよ。湊君と一緒に出掛けられるのが嬉しくて、喜んで貰いたいって思いながら一生懸命考えてた。だから今、こうして一緒に考えられることが嬉しい。恋人同士で一緒にデートの内容を考えられるのが幸せかな」
えへへっと幸せそうにレイナーレ。
そんな彼女を見て、湊は顔が熱くなるのを感じながら彼女の側に寄った。
「湊君、どうしたの?」
直ぐ近くに来た湊にドキドキしつつ、レイナーレがそう問いかける。
その問いに対し、湊は少し申し訳ないような顔で謝る。
「すみません、レイナーレさん……少し我慢出来ません」
そう言うと、湊はレイナーレの身体を優しくもギュッと抱きしめた。
「きゃっ!? み、湊君、どうしたの!」
急に抱きしめられ驚くレイナーレ。
驚きで身体が強ばったが、湊に抱きしめられていることが嫌な訳が無く、寧ろ心地よさそうに彼に身体を預ける。
そして湊は胸の中に収まるレイナーレに今の心情を答える。
「その……凄くレイナーレさんが可愛くて、愛おしくて……だからこうして抱きしめたくなったんです。一緒に考えられることが幸せだって言ってもらえて、僕も凄く嬉しかったんです。だからその………」
そこから先の言葉はない。
ただ、愛おしい、大好き、愛してる。
そんな感情が彼女に注がれ、彼女もそれを受け入れ幸せそうに身を任せていた。
「湊君……大好き」
「レイナーレさん……大好きです」
そしてその後キスしたのは言うまでも無い。
そんな風にイチャ付いた後、改めて何処に行こうかという話になり話し合う二人。
「湊君、何処か行きたい所はある?」
レイナーレがそう聞くと、湊は問いを問いで返してきた。
「レイナーレさんは行きたい所がありますか?」
そして互いに聞きあったことが可笑しかったのか笑い合う二人。普通なら何も決めてないのにデートしたいなんて言ったのかと突っ込まれるが、この二人に限ってはそんなことはないらしい。
しかし、それでは話は進まない。故に湊は先程から考えていたことを彼女に明かした。
「でしたら、一つだけ行ってみたいところがあるんですよ」
そう言われ、レイナーレは内心ドキドキしつつ目を輝かせる。
湊からそう言い出すことが珍しいだけに、期待が膨らむのだ。そうでなくても、彼の願いは叶えたいと女心に思っている。
そんな視線で見つめられつつ、湊はレイナーレに微笑みながらそれを告げた。
「僕とレイナーレさんが出会って初めてしたデート。そのデートをもう一回してみたいんです。以前と違い目が見える様になったので、あの時の光景をレイナーレさんと一緒に見たい。だから一緒に行って貰えませんか?」
それを聞いたレイナーレは幸せそうな笑みを浮かべながら返事を返した。
「はい、喜んで。一緒に行こう、湊君♪」
こうして二人は過去にしたデートを再びなぞりつつ、新しいデートをすることにした。