堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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最近青春なラブコメがたりないのでついやっちゃいました。


第1話 彼女は考える

 この世には、人間が知らないだけで様々な世界がある。

その中でも有名なのが天使達が住まう天界、人間達が生きる人間界、そして悪魔や堕天使達が睨み合いながら小競り合いを続けている冥界。

人間を除き三つの種族は争い合っており、過去に大きな戦を起こした。

それは永きに渡り続き、結果として3つの勢力は互いの種の存続が困難になるくらい疲弊していった。

それからは小康状態となり、互いに睨み合いが続いている。

一時的ではあるが、ある意味平和にはなったと言えるだろう。

そんな時間が長く続く中、その者は考える。

 冥界にある施設の一室にて、少女は席に座りながら考え込んでいた。

艶やかな黒髪に豊満な肢体、そしてそれをより際立たせるボンテージという艶姿をしており、その美しい顔は少女というよりも美女と言ったほうが良いのかも知れない。

10人が見れば全員が見入ってしまうほどの美女だが、その表情は晴れ晴れとはしていない。悩んでいることがある故に眉間に少し皺が寄っていた。

彼女の名はレイナーレ。冥界に住んでいる堕天使であり、堕天使による組織『神の子を見張る者』に所属している。

そんな彼女はずっと昔から考えていたことがあった。

それは…………………。

 

至高の堕天使とは何なんだろうか?

 

というものであった。

周りの連中が皆口を揃えて同じように口にする言葉。

堕天使の社会は力社会。より強い者が上に行き、弱き者は疎まれ煙たがられる。

その考え方は下級の方がより強く広まっており、まるで周りの者達を蹴落とすかのように皆上昇志向が高い。

そのやり方と荒んだ精神はどうかと思うが、心意気その物は立派と言えよう。

それは彼女も分かっている。

だが、それでも……そんな者達が目指す『至高の堕天使』というのが彼女には分からなかった。

そもそも考えて見れば、何を持ってして至高というのだろうか。

周りの者達の反応を見ればそれは力、延いては戦闘力と言うことになるのだろう。

確かにこの堕天使の社会において、それは正解なのだろう。

だが、逆に問えばそんなものが役に立つのだろうか? 戦争時ならともかく、今は小康状態でたまに小競り合いが起きる程度。いくら戦闘能力が高かろうが、使い道がなければ役には立たない。

そして言い替えるのなら、そんな力が正義などというのは一種の野蛮ではないだろうか? それが至高だというのなら、寧ろ此方からお断りだと彼女は思う。

至高とはそのような単純なものではない。

彼女は至高という言葉を調べてみると、そこには『この上なく高く、すぐれていること。最高』というように書かれている。

つまりもっとも優れている堕天使と言うことになるのだろう。

だが、その基準が曖昧過ぎだ。

先程言った力が至高というのは単純すぎる。ではそれ以外ではどうなのだろうか。

何が優れていれば良いのか。頭脳? 人徳? それとも……堕天使らしさ?

頭脳と言えば現総督であるアザゼルが上がる。この者は聖書の神が人間に与えた異能、『神器』の研究を進んで行っている。その好奇心と研究心は確かに頭脳が良くなければ持てないだろう。だが、それでも至高とは彼女は思えなかった。

確かに総督は凄い。だが、その性格故か、度々部下に苦労をさせてばかりであり、人格者としてはどうかと思う。

そう思うとトップでも至高とは言いがたい。

次に人徳ではアザゼルの補佐を行っている副総督のシェハムザだ。

真面目な性格で皆を引っ張っていきまとめ上げる。それが出来るのは偏に彼の人徳故だろう。だが、毎回アザゼルに振り回されてノイローゼ気味になっている所を見ると、これも違う気がする。

では最後に堕天使らしさというところだが、そもそも堕天使らしさというのが分からない。

そこに行き着いたレイナーレは当然堕天使そのものについて調べるが、分かりきったことしかでない。

堕天使とは、天使が良からぬ感情を持ったが故に落ちた存在。

そう言われるが、彼女にはそのよからぬ感情と言うのが良く分からない。

それもそのはずだ。彼女は堕天したわけではなく、最初から堕天使なのだから。

両親が堕天使なら産まれてくる子も堕天使。堕天使の両親の間に産まれたレイナーレは当然最初から堕天使だ。そんなことを言われてもわかるわけがない。

よからぬ感情と言えば、主に七つの大罪が上げられる。

だが、逆に言えばそれが無い者など生きてる屍と変わらないだろう。

欲の無い生き方というのは、死んでいるのと変わらないと彼女は思う。行きすぎはよろしくないが、適度には必要だ。そうでなくては生きてはいけない。

欲望と言えば悪魔の特許だが、堕天使だってそれは変わらない。生きている以上、それは誰であっても変わらないだろう。

つまり、彼女が何を言いたいのかというと………。

 

結局何を持って至高というのかまるっきり分からないということだ。

 

周りで張り切っている同僚には悪いが、彼女はやる気が全く起きない。

その答えがはっきりしない限り、ずっとそうなのだろう。

だからこそ、彼女は少しでも気分を変えるべく両手を軽く合わせて一人言のようにこう言った。

 

「そうだ、人間界に行こう」

 

この発言がまさか、この後彼女の一生を決める出来事の切っ掛けになると、この時思わなかった。

 

 




たまには甘い恋物語が書きたくなるときってありますよ……ね?

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