提督が鎮守府にイーグルダイブしたようです。   作:たかすあばた

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無理にいい話にするつもりもないんだけど、彼らの決意みたいなものを魅力的にうまく書けないものか…
うまくいかないです


第2話 鎮守府正面海域奪還

前任の金子という男は、心優しいがどうにも提督には向かず、また、運のない男だったらしい。

提督としては、ギリギリ及第点。そして提督として鎮守府を運営する中でも、ことごとくついていなさぶりを発揮していたらしい。

初めに提督に与えられる艦娘は、「駆逐艦娘」と呼ばれるもっとも小型で、見た目も正に少女と言ったところ。その後様々な任務を遂行するにあたって、より大型な軽、重巡洋艦、戦艦と言った艦娘が必要になってくる。艦娘の入手方法は大きく二つ。海上を彷徨う艦娘を勧誘するか、鎮守府内の工蔽ドックと呼ばれる場所で新たに建造するか。いずれも狙った艦娘を仲間にすることができないのだが、金子提督は駆逐艦娘ばかりを引き当て、そのうえ度々同じ艦がいくつも被っていたという。そしてその誰もを無碍にすることができず、いつしか鎮守府内は同じ駆逐艦娘で一杯になってしまった…

 フィルが作戦会議室に入ると、数十名の少女が出迎えた。陽炎が4人、不知火が5人、雷3人、電が2人、大潮が2人、満潮が3人、吹雪が4人、etc…

何とも不思議な光景だが、金子提督が愛情を注いで接していたらしい、同じ艦同士も特に不和があるという訳でもない。しかし一応区別がつくように、同じ艦でも髪を降ろしたり、服を変えたりしている。一通り見渡して、フィルは最初の言葉を上げた。

「初めまして諸君、俺が本日より当鎮守府に提督として着任する、リンヒル・フィリプスだ。気軽に『フィル』と呼んでくれたまえ。よろしく。」 ニコッ と頬を上げ、一礼する。

「よろしくお願いします」「よろしくなのです!」「よろしく…」新任の提督を不安にさせまいと、元気に返事をしてくれている子もいるようだ。満潮の中に昨日助けた者を見つけ、微笑んでみるが、そっぽを向かれてしまった。フィルは苦笑いし、先の言葉を紡ぐことにした。

「前任の金子提督とは、一度すれ違っただけだった。けれども彼は、煤にまみれた俺の姿を見て、第一に心配してくれた。自分は腹におーきな穴をあけてだ」少女たちの視線が少しうつむく。こんなに愛されていたのに、罪な男だ。「一応俺は皆の上に立って指揮を執る立場だが、正直海の戦いについては全くのシロウトだ。だから、命令だとか不躾なことは言わない。皆の持ってるその力、頭、そして勇気!俺にほんの少しずつでいいから、貸してくれ」その言葉に、数名の視線が揺らいだ。「俺からは以上!」

 

 

 

 

 

 

 

 

情報では、奴らは完全に撤退したわけではなく、鎮守府近くの海上に居座っているという。通常であれば錬度の低い艦隊などの訓練に用いられる鎮守府正面海域は、現在完全に深海棲艦の勢力下にあり、駆逐艦娘しかいない今の我々では、攻められれば奴らの再上陸は免れない。艦娘の装備は砲撃などの遠距離攻撃が主で、白兵戦は想定されていないしその心得もない。「つまり…」淡々と説明を続けていた秘書艦の不知火も、流石に言葉が詰まった。

「上陸してきた敵を俺が倒すって話か」まさに、無茶苦茶。しかし、今できる最善の策かもしれない。フィルは思わず苦笑いした。

「それも、あなたがここの提督として指名された理由の一つです。戦闘となった場合は、我々が海上を進んでくる敵を迎撃しますので、提督には上陸してくる敵の排除をお願いします。」今は、納得する以外にない。彼女たちは今、信頼する司令官を失い、しかし落ち込んでばかりいることもできない現実と向き合い、心に鞭を売って私に付いてきてくれようとしているのだ。フィルは一つ息を漏らし、そして吸った。

「よし、提督の仕事をしよう。まず工蔽に向かう。」

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

鏡を見ると、そこには一人の少女が立っていた。腕を動かし、足を動かすと、その少女はしたがって動いて見せた。これが…新しい…艦娘として生まれ変わった「俺」の姿か。

 

「フッ…」眼帯に、腰に携えた…彼女は刀を抜いて見せた。丹念に研がれた刃が、目元で眩しいくらいにきらめいて見せる。「中々イカすじゃねぇか…」これでまた戦うことができる…荒々しいときめきを胸に、扉をけ破った。「待たせたなぁ!俺の名は、天龍!!フフッ、恐い…か?」工蔽には、忙しなく走り回る妖精以外、誰もいなかった。「んだよ…せっかく仲間のお出ましだってのに歓迎の一つも」 ドオン! 突然どこかから激しい爆発音が聞こえた。いや…これ、さっきからずっと鳴ってねえか?ふと気づいて足元を見ると、妖精がどこかを指さして天龍の足を引っ張っていた。「な、なんだよ。わかった、行くから落ち着けって。」妖精についていく道すがら、天龍は違和感を感じていた。

この鎮守府、ずいぶんボロッチくねえか…?ヒビだらけじゃんか。何やってんだここの提督はよ…そんな天龍の悠長な思考は、建物から出た瞬間に一変した。

次々と押し寄せる深海棲艦たち。必死に迎撃するのは駆逐艦娘ばかり。火力が足りないんじゃないのか?そう思い浜に目を移すと、チラホラと浜をあがって来る敵の姿があった。

「おいおい…上陸されてんじゃねえかよ…!」しかし、それと同時に天龍は信じがたい光景を目にする。提督の帽子をかぶる男。デザインにどこか、古めかしさを感じるマントを羽織ったその男は、その身なりにはおよそ不釣合いと思える無線を腰につけ、時々そこに何かを叫びながら深海棲艦の群れに突っ込んでいく。敵は砲撃するが、男はすでに転がっている敵の亡骸に隠れやり過ごす。そこからさらに急接近、急所に一刺し。崩れ落ちる亡骸の背中を転がると、次の敵が向けようとしてきた主砲を腕ごと切り落とす。すぐさま男が「手の平を敵の胸に押し当てる」と、敵の体が力なく崩れ落ちる。なんだあいつ…新種の艦娘か?しばらくその男に見とれていると、足元の妖精が男を指さしながら何かを訴える。

てーとく!てーとくにはやくつーしん!

「てーとく」…?提督…あれ、やっぱ提督!?提督つよっ!!

てんりゅうはやく!つーしん!

「わ、わかったよ!ちょっと待て!」艦娘には標準装備の無線機能で、提督の無線に周波数を合わせる。その間に、足元の妖精も専用の小さな無線機で提督に通信を入れていた。

てーとく!てんりゅうできた!ふたりめのけいじゅんようかんむすだよ!てーとく!

天龍の無線にノイズが入る。

『君が天龍か!』

「お、おう!俺の名は天龍!フフッ、恐いk…」

『天龍、スマンが挨拶は後回しだ!今すぐ駆逐艦数名を引き連れて、先に海に出た那珂の艦隊を援護しに向かってくれ!血路は俺が開く!』やる気があるのかないのか、その姿とは少しギャップのある緩い口調で話す男は一瞬天龍の方を見ると、天龍の正面の浜に向かって走り出した。

「…フ…」口から洩れた小さな笑い。それは、考えに考え抜いた決め台詞を2度にわたって無視された己への嘲笑などでは、決してない。断じてない。男の見せる、無双のごとき強さ。その背に纏ったローブに刻まれた、謎のマーク。男が両手から飛び出させた、隠し剣。そのすべての所作が、彼女の魂の奥底を震わせた。その震えは先刻、生まれ変わった自らの身を包む眼帯や刀を見た時と同系統の、しかしその何倍も大きいものだった。「フ…フフハハハハ!!!いいだろう、俺の華麗なる初陣、しかとその目ん玉に焼き付けな!天龍、水雷戦隊…出るぜ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛いって言ってるじゃん!」那珂が声を上げるとともに、レ級を撃沈する。「プロデューサーが営業頑張ってくれてるんだもん!那珂ちゃんもイイトコ一杯、いーっぱい見せないと!」

 

「その例え、合ってんの!?」応戦しながら、陽炎が突っ込む。

「こ、細かいこと気にしない!そういうモチベーションでって話!」

「くっちゃべってないで戦闘に集中してよ! キャア!」

「霞!」「霞ちゃん!」

「クッ…油断したわ…でも、まだ戦える!」そういうが、霞は装備がいくつか動作不良になっていた。

「無理しないで、中破してるじゃない!」大潮が霞に急いで近づき、庇うような体制をとる。

「悪いわね…」いつもは強がった態度を見せる霞だが、姉妹艦の前では素直なことが多い。

「気にしないで!」

「でも、状況は変わって来るわね…」この中で最も経験値がある陽炎が呟く。そう、一人でも動きが鈍い者がいれば、そこに攻撃を集中するのは当たり前のこと。これから彼女らは、霞をかばいながら戦うことを余儀なくされるのだ。那珂すらも、常に絶やさぬ笑顔を忘れ、固唾をのむ。少しの間重い緊張が各員にのしかかるが、その空気もまたすぐに一変する。

深海棲艦への、別方向からの砲撃。その直後、上がる雄叫び。

「オラオラオラオラァ!天龍様のお出ましだ!泣き叫べ、深海棲艦ども!!」

「はわわわ、雷もま、負けないのです!」天龍を旗艦とし、雷、吹雪、深雪、荒潮、もう一人の霞(便宜的に、霞B)。

「うるっさいわね!もう少し静かにできないの、あんたら!」呆れた顔で声を上げる霞B。

「天龍…!」声を漏らした陽炎を筆頭に、束の間安堵の表情を見せる。

「おいおいお前ら、俺の戦いぶりに見とれてテメェの仕事忘れんじゃねえぞ!」すかさず天龍が檄を飛ばし、陽炎たちも再び表情を引き締める。

「言われなくたって!(元)第4水雷戦隊センターの力、見せてあげる!どっかーーーーん!!」

「攻撃よ!攻撃!」

「連装砲、てぇー!」

「あんたの戦いに見とれなんかしないわよ!今更!」最後の霞の発言に、その場の誰もが賛同した。

今ここにいる誰よりも、まさに命がけで戦っている「人間」の姿を思い浮かべる。

「提督ががんばってくれてるんだから、私たちもここで倒れるわけにはいかないのよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室には、非番の艦娘たちが集まっていた。見つめる先には、無線に耳を傾けるフィルの姿。

 

「うん、うん…よーぅし。よくやってくれた。」その一言で、数名の少女が何かを察したように目を見開く。それを見たフィルも、口角をニッと上げる。「皆聴いてくれ!たった今、天龍達が敵の艦隊を撃沈した!たった今を以て、鎮守府正面海域は完全に俺たちの勢力下に入った!!」執務室のそこここから歓声が上がる。それを聞きつけた他の少女たちも駆けつけ、ともに喜びを分かち合う。それを眺めていると、また数名の少女がこちらを嬉しそうに、しかしもの悲しげに見つめていた。ああ、そうだな…。フィルは机に立てられた写真に目を落とした。金子提督、安心してくれ、彼女たちは立派に戦っている。しかしフィルは、いつの間にか自分を見つめるまなざしが、増えていることに気が付く。視線を上げると、執務室にいる少女たちが、皆決意めいた眼差しでこちらを見ていた。

「フィル司令。この度は、金子前司令の遺志を引き継ぎ、我らを指揮し、また、司令自らも命を賭して鎮守府正面海域奪還にご尽力いただいたこと、心より感謝を申し上げます。」言葉を並べるのは、秘書艦を務める不知火。

「ああ、君たちもよく戦ってくれた。こちらこそありがとう。」なおも、少女たちはフィルを見つめ続ける。今受け取りたいのは、感謝の気持ちなどではないといったふうに。なんだ、何を言いたい?

「司令。これからの戦いは、敵もより強力な戦力を揃えてくるでしょう。それに伴い、我々もより高い航行能力、耐久力、火力を伴った仲間が必要となります。しかし、今この鎮守府の宿舎は、大半が『同じ』駆逐艦が埋めてしまい、これでは今後新たな仲間が増えてもすぐに鎮守府内に収まり切らなくなってしまいます。」話の途中から、フィルは彼女たちが何を言おうとしているのかわかってしまった。「司令…我々を『近代化改修』してください。これは、ここにいる皆の総意です。」決意めいた瞳。もう、皆で話し合い、納得したことなのだろう。ここに私が口をはさむのも、無粋だ。

「OK。…天龍達が入渠を終え次第、工蔽に集まってくれ。」

「はい。」「はい!」「はいなのです!」

 

 

 

 

 

 

 

ドックの中には、隠し扉があるわけではない。ドックに次々と入っていく、不知火「達」。

「お願いします。」不知火がそういうと、ドックの扉が閉まった。妖精の合図とともにしまった扉から光が漏れる。光が収まって再び扉が開いたとき、そこに不知火は一人だけになっていた。トリックや、イリュージョンなどではない。完全に一人の不知火となったのだ。

「不知火…」フィルが語り掛ける。

「はい…」一言応じると、不知火は何かを包むように両の手を胸の前で握りしめた。「皆…ここにいます…」寂しくありません。そんな顔で微笑んで見せた。

「司令官さん…!電たちのこと、忘れないであげてくださいね!」堪え切れず、泣きじゃくりながらドックに入る電。

「ここまでしてやるんだから、皆のこと沈めたら承知しないんだからね!わかってるの!」寂しさを、悪態で誤魔化す満潮。

 

「司令。14名、全ての近代化改修が完了しました。現在当鎮守府に在籍する艦娘は軽巡洋艦2名、駆逐艦24名の計26名です。」

吹雪、深雪、綾波、敷波、睦月、皐月、望月、曙、潮、雷、電、時雨、村雨、夕立、五月雨、涼風、大潮、満潮、荒潮、霞、陽炎、不知火、黒潮、天龍に那珂。改修前が50数名。ずいぶん少なくなったものだ…しかし、感傷に浸ってばかりもいられない。フィルは咳払いを一つ。

「君たちの活躍により、俺たちは鎮守府正面海域の奪還に成功した!」

「何言ってやがんだよ!撃破数トップの人間がよ!」すかさず茶々を入れる、天龍。調子に乗りやすいのが玉に瑕だが、自然と空気を和ませてくれる才能がある。周りの皆も、少し表情がほぐれたようだ。

「けれどもこの先の戦い、俺は手を出すことができない。戦いの場は完全に海上に移り、これからは君たちに体を張って戦ってもらわなければならない。」

「もともとそういうもんだっつーの。提督が自分で深海棲艦と戦うことがそもそもおかしいのよ。まあ、色々と助けられたのは事実だけど。」呆れた風を装う曙。

「これからは僕たちに任せてよ、提督。必ず期待に応えて見せるからさ。」力強く言い切る時雨。

「これからの戦いを前に、俺から一つ命令を…いや、皆約束してくれ。必ず、生きて帰ってきてくれ。皆必ず毎日、笑い、怒り、泣いて、語り合い、元気な声を聞かせてくれ」

「電はいつでも元気なのです!」最初に声を上げたのは、電。それに続いて、ぽつぽつと声が上がる。

「了解しました、フィル司令官。」「何かと思ったら、アホらしい…」「当たり前だぜ!」「アイドルはいつでも笑顔なんだよ!」

ふと、フィルは気配を感じたような気がして、少女たちの後方に鷹の目を向ける。成人男性と思しき気配が佇んでいる。気配は一回だけ頷き、姿を消していった。フィルは、何かを託されたような気がして、少し複雑な思いを抱いた。

金子…俺は、この世界の人間ではないのだ…。いつか、忽然と姿を消してしまうかもしれない。そのときこの少女らは、一体どんな顔をするのだろうか…不安を抱きながら、フィルは目の前の少女たちに取り繕った笑顔で応じていた。


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