提督が鎮守府にイーグルダイブしたようです。   作:たかすあばた

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またもや提督最強モノ。


鎮守府へのイーグルダイブ

どこまで…どこまで私は無能なのだろうか?

命からがら、仲間を引っ張り帰ってくる仲間たち。その後方では、敵が今にも上陸せんとしていた。

人類の敵。青白い肉体に、不気味な兵装を携えて海を歩く、深海棲艦。

 「司令、早く指示を!!」背後から声をかけてきたのは、現在、秘書を任せている不知火だった。震える手で無線を手に取り、声を出そうとする。が、言葉が出てこない。なにも、思いつかない。頭が真っ白だ。ただ、開いた唇をアワアワと震えさせるだけだった。「司令!!」

次の瞬間は、目の前も真っ白だった。突然目の前を覆った熱が、暴風が、それ以上の思考を奪い去って行った。

 

 

 

 

 なんと言うことだ。テンプル騎士団がまさか俺たちの砦に乗り込んでくるとは。

 「俺のせいだ!!すみません!すびまぜん!!」傍らで泣きじゃくるのは、近々アサシンの承認試験を控えていた訓練中の若者だった。中々センスがよく、半人前ながら度々任務に同行することもあった。今回も他のアサシンの任務に後方支援として参加していたが、仲間たちが任務に失敗、その旨を伝えるべく一人砦に向かう所を、テンプルの兵に尾行されたらしい。

 これで今回のマスター承認は見送りだな…。俺自身も近々、かの伝説のアサシン、アルタイルに次ぐ若さのマスターアサシンとして、昇任試験を控えていた。が、今はそんなことはどうだっていい。アサシンのユニフォーム、ローブを身にまとう。胸当て、肩当て、すね当てにアサシンの象徴である、「必殺の篭手」。それに剣、短剣、クロスボウ、投げナイフ、各種爆弾。それらを装備し、アサシンに代々伝わる、「緊急出動」用の窓に向かう。今日はずいぶん霧が濃いな。

 「やめとけ、フィル。今日はイーグルダイブは危険だ。」止めたのは、長く共に修行を続けている仲間、アドルフだった。このところは私のマスター昇進に対して悪態をついてくることも多いが、影では他の仲間たちに「自慢の友だ」と誇らしげに語っていることを知っている。

 「心配するなアドルフ。見えてなくても俺の体は覚えてるよ」

飛び込み台に立つ。何年も、何回も飛び降りてきた、木の板。霧でよく見えないが、麓にはいつも通り藁が積んである。うまく受け身をとれば、優しく俺の体を包み込んでくれる。そう信じて、俺は前に体を倒した。

 おれは、「マスターアサシン(予定)」、リンヒル・フィリプス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い霧を抜け、見えてきたのは、藁…じゃない、屋根だ!!フィリプス(以下、フィル)は急いで体勢を立て直し、片膝立ちの状態で着地する。じ〜んと足がしびれる。が、平気なようだ。おかしい、あの建物から飛び降りて、藁を外れて骨折した仲間を何人も見たが。そう思いながらフィルは顔を上げて、そして固まった。

あれは、なんだ?海だ。こんなもの砦の前には無かった。それよりも、海からあがってくるあいつらだ。間違いなく、テンプルの連中ではない。いや人間でもないのか?肌が青白い。死人だってああまで青くはならない。それが、腕やら頭やらに括り付けた大砲のようなモノでこちら側を狙っている。それに応戦しているのは…女の子?それも年端も行かないような、小さな子ばかり。彼女らも奴らと同じように大砲やらを抱えているが、火力が違うらしい。押され気味だ。

 「司令、しっかりしてください!意識を失ってはいけません!」足下から悲痛な叫びが聞こえた。よく見ると屋根は足下で崩れ、部屋がむき出しになっていた。そこにいるのは、桃色の髪をした少女と、抱えられ、血にまみれた男性。念のため、フィルは「目を凝らした」。やはり、あの青白い連中を敵と考えて問題ないらしい。フィルは屋根から部屋におりる。「!何者ですか!」少女の質問を無視し、男性に駆け寄る。が、直後に足下に発砲を受けた。目の前の少女が撃ったようだ。「質問に答えてください。でなければ次は当てます。」その目つきは、さながら武人とも呼ぶべき鋭さでこちらをとらえていた。それもそうだ、こんな重装備で身を固めた見知らぬ人間が近づいてきたら、警戒するに決まってる。フィルは、やむを得ずそこで静止した。

 「mゴホッ、味…方か…?」男性が目だけをこちらによこし、訊ねる。

 「…そのつもりだ。」両手を広げ、無抵抗をアピールしてみるが、少女はこちらに大砲を向けたままだった。

 「…たの…む…」

 「司令!?」意識が朦朧として判断力が鈍っているのか、初対面の人間を頼るという「司令」と呼ばれる立場の人間としては信じがたい判断。それに驚いた少女が視線をこちらから切ったのをみて、フィルはおそらく壁があったのだろう方向へ走り、飛び降りた。

広がっているのは、受け入れがたい光景。少女が血を流し、倒れ、仲間に引きずられ、戦う姿。しかもよく見ると数名、全く同じ顔の少女もいる気がする。双子にしても、似すぎている。近くにいた何人かが、驚いた様子でこちらを見る。

 「はわっ誰なのです!?」変わった驚き方をする少女を無視し、フィルは剣を抜き走り出す。

まずは一番近い敵。こちらに気づくより早く、射角の内側に入る。斬りつけるが、堅い。ならば露出している肌はどうだ?剣を逆手に握り突き立てると、足を見事に貫いた。よし、いける。直後に腕をひねり武器を奪おうとしたが、武器に引き金が見当たらない。ならばと、フィルは動きにわざと間を置いた。砲筒がこちらを向く。砲撃の瞬間、腕を捻り他方の敵に向ける。同士討ちの形になった。また、他方の敵がこちらに照準を定める。フィルは傍らの敵を盾にする。味方の攻撃をもろに受け、敵の体から力が抜けたのを感じる。

少し手間取ったが、まず一体。そのまま敵の亡骸を盾にしながら、混乱する敵の中に飛び込んで行く。動きに緩急をつけ、狙いを定められ辛くするのは、長年の癖である。煙玉を一つ。即座に、「目を凝らす」。自分を指導した師達は、この目のことを「鷹の目」と呼び、「伝説のアサシンの片鱗だ」と驚いた。

煙が立ちこめる中でも、敵味方を区別することができる。敵を覆う装甲は恐ろしく堅いが、それならば隙間に剣を突っ込んでやれば良い。少し離れた敵にはボウガン。攻防を続けるうちに、剣が切れなくなってきた。後で研ごうと思って、剣を放す。今が好機とばかりに、敵が雄叫びをあげながら詰め寄ってくる。フィルは両の手をだらりと下げると、篭手につけられているピンを引いた。

 アサシンブレード。「最強のアサシン」と唄われたエツィオ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェが用いたダブルブレードのスタイル。

首に一刺し。亡骸をまた盾にし、篭手に搭載された銃を一発。武器を失ったはずの敵からの反撃に、フィルを取り囲む深海棲艦たちは完全に混乱していた。フィルを取り囲む輪が崩れ、フィルは一体の敵に狙いを定めた。「鷹の目」で、ひときわ目立っていたやつ。指揮官だ。目の前の敵を刺し殺すと、それが崩れ落ちる前に駆け上がった。防御もままならない、信じられない、混乱していると言った顔でこちらを見上げるそいつに、覆い被さり、ブレードを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの人間は何者だ??陽炎は応戦するのも忘れ、自分たちの背後から現れた人間に見とれていた。

 

「陽炎、危ない!」誰かに抱えられ、大きく転ぶと同時に、先ほどまで自分の立っていた場所で爆炎が上がった。見上げた先にいたのは、吹雪だ。吹雪の放った一撃が、先ほど自分を襲ったロ級を倒した。

「吹雪…あれ、何者なの…?」

「わかりません。味方なのでしょうか…」

人間が携えているのは、艦載機に変化したりする訳でもない、ただの剣やボウガンといったアナログなモノばかり。それが、敵の攻撃を防ぎ、躱し、次々となぎ倒して行く。確かに自分たちは肉体こそ人並みであり、包丁で怪我をすることもあれば転んで膝を擦りむくこともある。しかし、戦闘になれば何十kgという主砲を携え、振り回し、強靭な装甲を身にまとうことで身を守る。泣く子も黙る、「艦娘」なのだ。それは敵も同じであり、あんな、あんなふうに接近して戦えれば苦労はしないはずなのだ。

それがどうだ。男は背中に目がついているかのごとく、至近距離の攻撃を見切り、的確に急所をしとめて行く。そして煙から飛び出したかと思うと、敵の旗艦に飛びかかり、とどめを刺してみせた。ゆらりと立ち上がった男の背中に見えたのは、見たことの無いマーク。A…?

「すごいのです…」呟いたのは、電だった。

統制が崩れたためか、それとも異常な敵の出現に恐れをなしたか。深海棲艦が次々に海へと逃げて行く。最後に一矢報いんと襲いかかってくる敵も、次々とあしらう。

「キャアアアアアアア!」

男も、他の仲間達も一斉に叫び声の方を向いた。軽巡ト級が、満潮を人質に取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人質を取る程度の知能があるとは思わなかった。しかし、恐怖のためか、意識は完全にこちらしか向いていないようだった。フィルは、人質を取る敵の後方、茶髪に小さなツインテール、つり目がトレードマークの少女を視界の端に入れていた。目が合う。何かを察したように。そっと動き出す少女。フィルは敵の意識を自分からそらさせないようにつとめた。右の篭手に手をやり、外す。次に左の篭手。胸のナイフ。最後にフードを外し、両手を上げる。どれも、少しオーバーに。その間に、少女が視界から消えている。目を凝らせば、敵の後方から漏れる気配。フィルは、口笛を一つ鳴らした。

気持ち小さめな爆音。狙いを定めやすかったのだろう。捕らえられた少女が巻き込まれないよう、最低限の攻撃で敵の急所を射止めた。敵が崩れ落ちる。

「満潮!」茶髪の少女と、先ほど茶髪の少女と一緒にいたもう一人が「みちしお」と呼ばれた少女に駆け寄る。

「陽炎…」

「怪我は無い?」

「う…うわああああん!!」

「はいはい、恐かったね!よく頑張ったね!もう大丈夫よ」周りを見渡せば、敵は一体も残っていなかった。辺り一面に残骸。少女らは怪我をしているものの、死人は出ていない様子。安心して一つ息をつくと、背後から ガチャリ と物騒な音が聞こえた。

「不知火!」 「かげろう」と呼ばれた少女が叫ぶ。気配には気づいていたが、あえて何もしなかった。先ほどの桃色の髪の少女だ。「しらぬい」というのか。

「あなたを本部に連行します。抵抗はしないでください。」

「不知火、その人は…」

「わかっています。なるべくなら、貴方を撃ちたくはありません。おとなしく従ってください。」フィルは再び両手を上げ、不知火の指示に従って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 一応ドアが閉まって入るが、ひび割れた壁から外気が漏れている。先ほどの男が居た部屋のようだ。「司令」と呼ばれていたな。彼は無事だろうか…無事と言えば、私の居た砦だ。アドルフは、部下達は、砦を守ってくれているはず。突然いなくなった私をどう思っているだろうか…

 

「司令、しっかり!」ドアが開けられ、担架に乗せられた男が飛び出してきた。男は一瞬こちらを見ると、うめくような声を上げた。

「と…止まってくれ不知火…」フィルは両手にかけられた錠をならしながら男に近づいた。「話は…聞いた…怪我は無いか…?」

「アンタの方が重傷だ。喋んない方が良い」

「はは…すまない…」再び担架が走り出す。

「こちらへ」不知火に呼ばれ、フィルは風通しの良くなった部屋に入る。「提督代理、秘書官の不知火と申します。これより貴方には、海軍本部にて取り調べを受けてもらいます。」あくまで、気丈に振る舞っている。が、本心はあの男が心配で仕方が無いのだろう。なぜこんな子供が?彼女だけじゃない、この建物で見る者見る者、みんな子供ばかりだった。「何か?」しばらく彼女のことを見つめてしまっていたらしい。不審な目でこちらを見ていた。

「いや…、フィリプスだ。」キョトンとした。少女らしい表情を見れたとフィルは少し安心する。「俺の名だ。リンヒル・フィリプス。お見知りおきを。」冗談めかした言い方で、笑顔でお辞儀をする。

「ええ…」しかし、すぐにまた先ほどまでの無表情に戻ってしまった。不知火がちらと時計を見る。「間もなく迎えの車が来ます。ついてきてください。」部屋を出て、廊下を歩き、階段を下りて玄関を出て…フィルはたじろいだ。

窓のついた黒い鉄の箱が、唸りをあげている。これは一体なんだ?それは思考と同時に、フィルの口をついていたらしい。「…車ですが。」

「車…?馬はいないのか?」不知火は構っていられないと言った顔を見せる。

「早く乗ってください。」言うと同時に、フィルは箱に押し込まれた。…柔らかいソファだ。すぐ隣に不知火も乗り込んできて、 バタン! とドアを閉めた。「出してください。」前方の椅子に座る男性が軽くうなずくと、フィル達が入っている箱はより大きな唸りとともに少しずつ動き出した。

「うおっ」初めての経験に、思わず声が出る。

「…車に乗ったことが無いのですか?」不知火が不思議そうに問いかけてくる。

「あ、ああ…便利なモノだな。」車(らしい)は、馬よりも速い速度で進んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お入りください。」フィル達が入ったのは、先ほどの司令の部屋を、さらにランクアップさせたような、つまりはもっと位の高い人間の部屋なのだろう。正面の机には、50半ばほどの男性が座っていた。その男は、すっと目を細めてフィルの目を見、そして近くにいた男に錠を外すように命令し、そして不知火には下がっているようにと手を振ってみせた。

「いいのか?」フィルが男に投げかけたのは、当然の疑問。得体の知れ無い男の錠をそんなに簡単に外してよいのだろうか。

「鎮守府を身を挺して守ってくれた男にいつまでも手錠をかけているなど、それこそ失礼に値するというモノだろう。わたしは巌 春樹という者だ。よろしく。」そういうと男は姿勢を正し、打って変わって厳しい瞳でこちらを凝視した。「さて、と。フィリプスくんと言ったかね。君は何者だ?」

「…何者に見える?」両手を広げて、自分の姿をアピールして見せる。

「籠手に隠された出し入れ可能な小剣…さしずめ、暗殺者…と言ったところかな?」

「ご名答」ここからどう話すべきかな。「…道に迷ってたらいつの間にかあそこにいた…なんて言っても信じないだろうな」

「それはそうだろうな」ニッ、と巌は微笑む。けど目が笑ってないぜ?

「俺としてはどこか人が居そうな場所さえ教えてもらえればすぐにでもここから出ていくんだけどな」

「『暗殺者』を名乗る男をそうやすやすと自由にすると思うかね?」

「それこそごもっともだ」

巌は席を立ち、ゆっくりとフィルに近づくように歩き出す。

「君には我々の監視下に入るという名分において、宿毛鎮守府の提督として着任してもらう」

「さっきのあそこの?あの人の良い兄ちゃんはどうした」

スッと、巌の目つきが厳しくなり、全てを物語る。

「彼は君がここに来る1時間ほど前に、死亡が確認されたよ」

扉の向こうで、誰かが膝をつく音がした。

 


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