病みつきフェイト   作:勠b

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病みつきフェイト~出会談2~

俺と彼女、フェイトの出会いを話してから数日後。

エリオとキャロは休憩室で俺に声をかけてきた。

 

「続きを教えてください」

 

我慢できないのかキャロは目を輝かして俺に言う。

 

「いいよ」

 

別に出会いを語ったんだ、もぅいいだろう。

諦め半分だが、俺はその後の話をしようとする。

隣に、彼女はいない。

今日はお互いに別の仕事だから離れている。

もちろん、手錠もしていない。

ちょうどいい。

都合がいい。

さぁ、話そうか。

 

俺は顔を一瞬伏せる。

あの時の思い出を

歪んでいく物語を

忘れてないか、確認しつつ

俺と彼女の話を

 

 

 

フェイト・T・ハラオウン執務官の元を去ってから早数ヶ月。

俺は、今仕えている執務官に言われる。

 

「もういいよ、あなた私の補佐から降りて」

 

……まぁ、仕方がないか。

今回のこの人の、いや、俺のミスは簡単だ。

書類のミス

少し見直せばわかるようなことを間違えたのだ。

……始めから俺に任せればよかったのに。

そう思いつつ俺は荷物を片づける。

執務官になってまだ日が浅い。

だから、ミスをしたって仕方がない。

でも、許されないのだろう。

簡単なミスだ、尚更。

これだからエリートは……。

荷物を片づけ終え部屋を出る。

 

……あの時の、彼女の事を思い出す。

  だから、守る

……彼女はそう言ってくれた。

なぜ?

なぜ彼女は?

 

簡単だ、強いから

力があるから

魔力も、地位も

彼女は何でも持っている

だから、強い。

だから、守るだなんていえる。

 

……羨ましく話だ。

 

息苦しいのは嫌いだ。

俺は、そう考え外にでる。

俺と同じ制服を着た人達が建物を出入りする。

仲よさげに話ながら

1人で黙々と静かにしながら

のんびりと歩きながら

急ぎ足で走りながら

多種多様だ。

……俺は、周りから見たらどう思われてるんだろ。

ため息をついてしまう。

……管理局は好きじゃない。

いや、好きじゃなくなった。

初めは好きだった。

人のために自分の得意な事務仕事をやれた。

でも、今はどうた?

できない現場仕事をやらされてる。

「辛い……か」

寂しく笑う。

それしか、できない。

誰かに話すこともできない。

俺は、管理局に友人はいない。

いたけど、執務官補佐になってから連絡をとれなくなって自然消滅。

家族は━━━

 

考えに老けているとデバイスから連絡が入る。

「はい」

「話は聞いたよ。不運だったな」

 

……今一番聞きたくない声だ。

 

「このたびは自分のミスで迷惑をかけ、申し訳ございません」

「いや、いいさ。……此方こそすまない」

 

電話ごしでも伝わる。

本当に、そう思ってるんだろう。

 

「それでは、ハラオウン提督。本題の方をお願いします」

 

別に謝罪を受けたいわけじゃない。

だからこんな話は切り上げて本題へと移る。

……まぁ、わかりきってるけど。

 

「早速で申し訳ないが、君の次の部署が決まった」

 

早いな。

普段なら数日はかかるのに。

今回は休みはなしか。

自虐的な笑みを浮かべて話を聞く。

 

「明後日からその部署に配属してもらう。場所、補佐する執務官等は此方から追って通達する。以上だ」

「わかりました」

 

話を終わったと言わんばかりに電話が切れる。

エリート様は人使いが荒いな。

ため息をつくとさっそくメールが来る。

メールを確認すると━━━

 

「……本当に、なんでこうあんた達は」

 

今度の仕えるべき相手は俺の知ってる人物。

余り知らないが、それでもいえる。

嫌いな、奴だ。

 

 

 

 

「本日からお世話になります」

「またよろしくね」

 

俺に対して敵意がない笑顔を見せてくれる上官、フェイト・T・ハラオウン執務官。

そう、またもやこの人の補佐だ。

はっきり言って、異常だ。

こんな短期間で出戻りなんてありえない。

普通なら。

普通じゃない。

それができる力を持ってるとでも言いたいんだろうか。

 

「それじゃ、お仕事しようか」

「……はい」

 

拒否権なんてない。

与えられた仕事をこなす。

それが、俺のできることだ。

 

仕事量は俺がでていった時よりも遙かに多くなっていた。

さすがは期待の新人執務官。

すぐに実績でもあげたんだろう。

エリートは羨ましい。

そんな事を思いつつ俺は角にある自分の席に着く。

得意な事務仕事をやるために。

 

 

 

 

 

フェイト・T・ハラオウンは変わっている。

それが、俺が彼女たちと過ごした数日間で出した評価だ。

彼女は事あることに俺に構う。

「今日熱いね、飲み物でも買ってこようか?」

「沢山書類があるね、幾つか私がやる

よ」

「顔色悪いよ?大丈夫?」

「もうすぐ定時だよ。頑張ろう」

 

……事あることに俺に話しかけてくる。

正直、わからない。

始めてたから、わからない。

どうやって接するべきか。

考えていると、また声がかかる。

今回は、真面目な顔で。

 

「現場の仕事が入ったから行ってくるね」

 

この日はその一声で始まった。

始まってしまった。

 

「えっ?俺は……」

「君はここにいていいよ。大丈夫すぐに戻るから」

 

彼女はそう言うと1人この部屋を出る。

……お荷物はいらない。

そう言いたいんだろうか。

俺はこのまま事務仕事を続ける。

変わらない、変わってほしくない仕事。

このまま、現場仕事がないところにいたい。

そう願いながら。

 

あれから数時間がすぎた。

外は暗くなりはじめている。

おかしい。

俺は、自分のデバイスを持つ。

すぐ戻るとかいいながら、いつまでたっても連絡がない。

俺は……

彼女に電話をしようとし、止める。

心配してるのか?

俺は……

違う、これはあくまでも業務の連絡だ。

ただの、業務連絡。

それに彼女は自分の上官。

心配しなくてどうする。

 

俺は自分自身に言い聞かせ連絡を入れる。

……繋がらない。

何かあったのか?

それとも、まだ現場にいるのか?

……どこで何をするかぐらい聞いておけばよかった。

自分自身の行いに後悔する。

 

……くそっ、どうすれば。

考える

……心配?なんで俺はしてるんだ?

考える

……上官を心配するのも部下の仕事だ

考える

……でも、あいつはクロノの身内だ。今更あんな奴のこと

考える

……俺は

考える

……俺は

考える

…………

思考が止まる

 

   だから、守る

 

そう、彼女は言った。

その言葉を思い出した。

言われたことなんて、なかった。

家族にも

友人にも

 

俺は立ち上がり、彼女のパソコンを触る。

……あった、これだ。

支度をすませ、俺は現場へと向かった。

苦手な現場の仕事だ。

ため息をついて深呼吸をする。

嫌だなんて言えない。

守ってくれる人を、無碍にはできないから。

そう、思うから。

 

 

 

俺が現場によってついた頃には既に部隊の人たちばっかり撤退をしていた。

残っている人達に話を聞く。

彼女、ハラオウン執務官の事を。

彼女のお陰で作戦は無事成功したらしい。

まぁ、流石はエリートだ。

でも

話を利いて俺はすぐに駆け出した。

彼女の元へ。

 

真っ白な部屋。

ベッドやテレビ等の日常生活に困らない程度の物しか置いていない殺風景な部屋に彼女はいた。

 

「あはははは、怪我しちゃった」

俺を見て力なく彼女は笑う。

話を聞くと、彼女は部隊の人を庇い怪我をしたらしい。

「……戻れないなら、連絡してください」

彼女の近くにった椅子に腰掛ける。

「ごめんね、心配かけると思って」

「連絡がないほうが心配です」

 

会話が止まる。

重い沈黙が流れる。

だからこそ、俺は口を開く。

 

「なんで、庇ったんですか?あなたが怪我をせず戦っていたほうが被害は抑えれたと思いますが」

辛辣だ。

自分でも、思う。

もう少しオブラートに包もうと思っていたが、口からでたのはストレートな言葉だった。

 

「そうだね、私もそう思う」

彼女は俯く。

「でもね、私が庇ったからさっきの人は助かったの」

俺を見る

まっすぐな瞳で

俺を━━━

「後悔なんてしてないよ、だって人を守れたんだもん」

素敵な笑顔で

彼女は話す。

 

……わからない。

わからない。

なんで、そこまで他人を、他人を守りたがるんだ。

 

「私はね、守りたい人がたくさんいる。友達や家族。それに、君」

俺は……

「皆のためなら、私は幾らでも傷つくよ」

守りたい

それたけのために。

「たがら、後悔なんてしてない」

たったそれたけのために。

 

「それじゃ」

俺は口を開く。

「俺があなたを守ります」

自分でも驚いた。

「あなたが皆を守るなら」

なんで、こんな事を言うんだろうか。

「俺が、ハラオウン執務官を守ります」

でも、悪くない。

きっと、俺なんかがいなくても、彼女は平気だ。

それでも

俺は、この危なっかしい人を守りたい

誰かを守るために傷つくことを躊躇わない彼女を

守りたい。

 

俺の言葉に驚いたのだろう。

ハラオウン執務官は目を大きくあける。

少しして笑顔になって━━━

 

「お願いします」

 

彼女はそう応えた。

 

 

 

 

 

「この時に2人は仲良くなったんですね」

キャロは嬉しそうに言う。

反面、エリオは難しい顔をする。

「……守る」

 

そういえば、なのはさんにそう言われたんだった。

「俺は力がないから変わりに指揮をとったりしてたんだよ。といっても、正規の指揮官じゃないからそんな大それた事はしてないけどね」

 

苦笑いしながら話す。

ちゃんとした指揮官になるにもやっぱりそれ相応の魔力が必要になる。

そんがない俺としては、心苦しいが最低限の部隊で最高の戦績をあげる必要があった。

 

「そうやってフェイトさんを守ってきたんですね」

キャロはニコニコとしながら、エリオはさらに難しい顔をしている。

この2人、仲がいいくせに今日はえらく対照的だ。

 

「……でも」

キャロは笑顔を止めると考える素振りを見せる。

「今のフェイトさんは皆をって言うよりも補佐さんを守るって感じですよね?」

 

そう。

その時はまだ、綺麗な関係だったんだ。

……でも、それは彼女だけ。

きっと、きっと俺はこの時から少しずつ歪んでいたんだ。

……だから、あぁなったんだ。

 

「あの後にね、俺は1人の女の子を保護したんだ」

「私のことですか?」

 

キャロは嬉しそうに自分を指さす。

俺はそれを見て首を縦に振る。 

 

「まぁ、キャロは保護されてからすぐに会えなくなったから知らないだろうけど……」

 

俺は話す。

歪な歪みを

歪みの原因を

始まりを

 

 

 

 

 

 

 

「引き取り手を探してるんだ、心当たりはないか?」

かつて仕えていた上官からの唐突なメッセージを受け取る。

心当たり?

俺に引き取れって言ってるんだろ?

そう思いつつ、俺は指定された場所へと向かっていた。

彼女、ハラオウン執務官の元で再び働き初めてから早くも1ヶ月が過ぎた頃の出来事だ。

彼女、キャロ・ル・ルシエと出会ったのは。

 

俺とは対照的だ。

話を聞いてすぐに思った一言。

魔力がなく、使えないと評価された俺と魔力が強く持て余し使えないと評価されたこの子。

すぐにわかった、だからこその俺なのだと。

持たざる者と持て余す者

この関係を築かせたいのだ。

 

ルシエは俺と会うもずっと俯き何も話さない。

重い沈黙だ。

だからこそ、俺は彼女に聞く。

 

「力があるっていいね」

 

この言葉に彼女の肩は大きく震える。

 

「俺は、力がないから」

 

彼女は呟く。

 

「私は力なんていりません。あったから、私は……」

「じゃ、俺のことが羨ましい?」

「……はい」

 

彼女は恐る恐るといった感じで応える。

不思議と、彼女からは嫌な感じがしない。

子供だからじゃない。

本心で、そう言ってるだろうから。

守りたいから、守る。

ハラオウン執務官のそんな姿を近くで見ていたせいか、俺はすぐに言えた。

 

「それじゃ、俺と一緒にいる?」

「……えっ?」

「俺が、君を引き取る」

 

俺は彼女を引き取ることになった。

 

 

 

 

彼女、キャロとの生活は問題も多々あったけど、お互い打ち解けるのにそこまで時間はかかはなかった。

管理局で働くもの同士、お互いに仕事の話をしたり雑談したりと楽しい日々だった。

そう、楽しかった。

そんな俺を見てハラオウン執務官も嬉しそうな顔をしてくれた。

……始めだけは。

 

キャロとの生活から数ヶ月がたつ頃にはその変化は目に見えてわかった。

 

 

 

休憩中、俺は休憩室にいるとキャロから突然の電話が来た。

「今、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ、どうかしたの?」

「いえ、そろそろお兄ちゃんも休憩かなって思って」

 

キャロは俺のことをお兄ちゃんと呼ぶようになっていた。

最も、仕事の時は止めるように言ってるけど。

 

「よくわかってるね」

「私は、お兄ちゃんの事ならなんでもわかるから」

 

電話越しでも伝わる愛情。

こういうのを、家族の絆っていうのだろうか。

心なしか嬉しく感じる。

 

「私はお兄ちゃんの事が大好きです

 本当ならお兄ちゃんの傍でオシゴトしたいけど……

 でも、お兄ちゃんは私に向いてる所がいいって、慣れているところに長くいた方がいいって言ってくれたもんね。

 お兄ちゃんが私のことを真剣に考えて言ってくれたもんね

 それたけお兄ちゃんに愛されてるってことだもんね

 だからね、私我慢してここにいるね

 お兄ちゃんが私のために考えてくれたことだもん

 私、お兄ちゃんのために頑張るね

 お兄ちゃんの為に……ね」

 

キャロも俺のことを好きでいてくれる。

守る人から愛される。

これがこんなにもいいことだなんて初めて知った。

ハラオウン執務官も、きっとこの気持ちをバネに頑張ってるんだろうな。

 

「そっか、頑張ろうねお互いに」

「うん、でもお兄ちゃんが今の所が嫌になったら言ってね。

 私、お兄ちゃんのためにいっぱい働いてお兄ちゃんと2人で仲良くずっと過ごせるようになれるように頑張るからね

 たから、お兄ちゃんは無理しないで

 私のお兄ちゃんは私が守るから

 私だけのお兄ちゃんだから

 たから、私にはいつも通り何も気にせずに話してね

 仕事のことも

 気持ちのことも

 考えてることも

 私が全部聞きますからね」

 

キャロはそう言うと休憩が終わるからと言って電話を切る。

本当に、心の優しい子だ。

そんな子と一緒に居られるのが本当に嬉しい。

 

俺はデバイスを仕舞い、コーヒーをゆっくりと飲む。

今日のご飯はどうしようか、キャロが喜んで貰えるものを作らないと。

そんな事を考えていると、声をかけられる。

 

「嬉しそうだね」

 

ハラオウン執務官。

彼女はどことなく不機嫌そうにそう言った。

最近の彼女は何時もこうだ。

仕事中では嬉しそうな顔をするのに休憩になると不機嫌になる。

 

「またキャロと電話?」

「はい」

「……私とは電話なんてしてくれないのに」

「ハラオウン執務官とはこうやって何時でも話せますから」

「キャロとでも家に帰れば話せるでしょ?」

「まぁ、そうですけど……」

「私とは、職場でしか話してくれないんだね」

「家に帰ったらキャロと話してすぐに寝て、また仕事ですから話せれる時間も余りとれなくて」

「……まぁ、いいけど」

 

口を尖らせてふてくされた態度をとられる。

正直、最近のこの人がわからない。

……違う、わかろうとしてないのか。

キャロと出会ってから俺はキャロの事をずっと気にかけてる。

キャロを守るため。

もちろん、ハラオウン執務官の事も守る気だ。

でも

キャロはまだ子供だ。

ハラオウン執務官とは、違う。

わからないことや1人で出来ないことだって沢山あるだろう。

俺は、たからこそキャロを守らないとと強く感じる。

使命感のような、なにかに刈られて。

 

「……こんど、2人でどこかにいかない?」

「2人で、ですか?」

「うん、2人っきりで」

 

2人

なぜかこの部分を強調してくる彼女。

 

「でも、キャロが」

「キャロが帰ってこれない日もあるでしょ?そういう日でいいよ」

 

確かにキャロはたまにだが遠征として遠くに行き帰ってこない日がある。

……まぁ、キャロがいない日ならば。

 

「いいですよ、行きましょう」

「うん、約束ね」

 

約束

余り、したことがないな。

俺はそう思いつつ、ハラオウン執務官と話す。

━━━もしもこのとき

━━━違う、キャロが来てからも

━━━フェイトにも意識してたら

━━━きっと、歪みは少なかったんだろう

━━━この時にはもう始まっていた

━━━歪んだ

━━━歪んだ歪な物語

━━━俺と彼女の物語

 

 

 

 

 

ハラオウン執務官との約束が叶ったのはあれからそう遠くなかった。

キャロが遠征に行き数日間帰ってこないから、その内の1日を使って彼女と過ごすことになった。

キャロにそのことを話したら

 

「お兄ちゃんは優しいから誰にでも優しくしちゃうけど、優しくする人は決めなきゃだめだよ

 お兄ちゃんみたいながら優しい人はすぐに色んな人が来るんだもん

 お兄ちゃん、お兄ちゃんノミについて何かあったら私は……

 何かあったらすぐに連絡してね

 私がお兄ちゃんを守るから」

 

キャロは心配性だ。

ハラオウン執務官がいるんだ、危険な事になるはずがない。

なったとしても、ハラオウン執務官が守ってくれる。

そして、俺もハラオウン執務官を守る。

なにがあっても。

 

「それじゃ、買い物にでも行こうか」

 

彼女のそんな思いつきのような発言で俺たちは少し遠出をして大型のデパートに行った。

平日の昼間というにも関わらず中には沢山の人がいる。

 

「こんなに多いとはぐれちゃいそうですね」

「それじゃ」

 

彼女は俺の手を握る。

「これなら、はぐれないよ」

 

ハラオウン執務官の行動に慌ててしまう。

 

「い、いやいや、こんな所管理局の人に見つかったら怒られますよ」

「……その時は私を守ってね」

 

そう言うとハラオウン執務官は俺を引っ張り歩き出す。

守る。

守るけども、自ら災いを起こす気はないんだけど。

そう考えると、不思議と口元に笑みがこぼれる。

彼女と会ってたったの数ヶ月。

変わったな。

 

初めは、エリートと言うだけで嫌った。

クロノハラオウンの身内と言うだけで嫌った。

でも、今はこうして2人で過ごす。

……変わったな。

 

 

 

ハラオウン執務官の買い物に付き合ってから数時間。

初めの時とは違い俺の口元に笑みはない。

おかしいのだ。

 

彼女が商品を手にとり俺に見せ、感想を言わせる。

否定をすれば悲しそうな

肯定すれば嬉しそうな

悩むと困ったような

俺に合わせて彼女も表情を変える。

 

……どうして、俺に合わせる?

最後の方に至っては俺が好みそうな物ばかりを選んで買っていた。

まるで、俺のご機嫌とりのように。

わからない。

 

「あの」

 

俺が声をかけると彼女は歩みを止める。

「どうかしたの?」

「……楽しんでますか?」

 

思わず聞いてしまった。

率直な疑問を。

でも、彼女は首を傾げると当たり前のように言う。

 

「君と2人で買い物だよ?楽しいに決まってるよ」

 

……たしかに、楽しそうだ。

だからこそ、わからない。

 

「私はね、強くないよ」

 

唐突な言葉に息をのむ。

強くない

それは、驚きの言葉だ。

魔力を持ち、立場を持つ彼女が強くないなら誰が強いんだ。

 

「ねぇ、場所変えよ」

 

その言葉に従い俺達は近くの公園に足を運んだ。

その時の、彼女の顔は忘れない。

淀んだ瞳をした、悲しい顔の彼女の顔は━━━

 

 

 

 

公園のベンチに座る俺達を照らすように街灯が輝く。

俺達を置いていくように皆がこの場所から離れていく。

少しすると、誰もいない静かな場面ができあがった。

重い沈黙だ。

それも、少しは慣れていた。

でも、今回は俺からは話さない、話せない。

掴まれている手に力が入る。離さない、離せない手に掴まれた。

怖い。

ただただ、そう感じる。

沈黙が

彼女が

空気が

恐い。

 

公園に来てどれだけの時間がたったのか、彼女の重い口が開く。

 

「私はね、弱いよ」

 

弱い

それは、俺に相応しい言葉

 

「君みたいに強くない」

 

強い

それは、彼女に相応しい言葉

 

「守って」

 

その言葉が、重く感じる。

 

「お願い」

 

その願いが、重く感じる。

 

「私を置いてかないで」

 

その願望が、重く感じる

 

「私を……私を1人にしないで」

 

彼女の涙混じりの声。

聞くに耐えない、悲痛の声。

 

「君に助けてほしい」

 

静かな声

静かな叫び

 

「私は……私は……」 

 

俺は、言う。

 

「お前の傍にはちゃんといるし、それにお前には友達だって仲間だっている」

「……そうだけど」

「……キャロのこと?」

 

その名前を出すと、彼女は肩を大きくふるわせる。

 

「……キャロにばっかりかまってる。私のことはどうでもいいの?」

「違う、キャロは俺と同じだ。家族がいない。1人なんだ。だから、俺が傍にいないと」

「私を守ってくれないの?」

「それは……」

「守ってくれるって言ったよね?」

 

言った。

あの日の事を思い出す。

病室に1人でいた、彼女との思い出を。

 

「私は、君を守るよ」

 

彼女の中で、何かが壊れだのかもしれない。

彼女は崩壊しダムのように、言葉を紡ぐ。

 

「私は、君を守る

 誰よりも、君を守る

 だから、私を守って

 誰よりも、私のことを

 私だけを

 そしたら、私が守るから

 君の次に、君の守りたいものを

 私が守るから

 だから、傍にいて離れないで

 私のことを見て

 私だけを、見て

 私しか見ないで

 私の事だけ考えて

 私の事を受け止めて

 私の事を知って

 私の弱さを知って

 私の全てを知って

 私の全部を、君にあげるから

 たから……」

 

彼女は、言葉を止める。

彼女は、言う。

今にも泣き出しそうな顔で

今までで一番、力強く

 

「私の傍にいて」

 

その一言が、わからない。

その一言が人事のように聞こえる。

……嗚呼そうか。

少し遅れて、理解する。

彼女は、弱い。

きっと、誰よりも愛情に飢えていたんだ。

だから、他人を身を張って守れるんた。

愛されたいから。

守れるんだ。

 

……そっか。

━━━傍にいた

━━━短い間でも

━━━なのに

━━━気づいてあげられなかった

……そっか。

 

「傍にいるよ」

 

俺は、彼女の手を取る。

 

「あなたの傍に俺はいる

 今だけでも、あなたの補佐でいる限り

 俺は、あなたの傍にいる」

 

俺の応えに彼女は黙る。

聞こえないかすかな声で何かを言うが、わからない。

 

「今は、それでいいよ」

 

彼女は手を離すと立ち上がる。

 

「━━━今は、ね」

 

両目に涙を貯めて

今まで見た中で一番綺麗な笑顔をして

彼女はそう言った。

 

俺は、彼女を守る。

パートナーとして

補佐として

彼女を支える。

 

……それ以上の事は、何も言えないから。

 

 

━━━これは、物語

「それと」

━━━彼女と俺の好き合う前の

「今日から私のことはフェイトって呼んでね」

━━━プロローグにすら満たない、前夜祭のような

「ねぇ、━━君」

━━━そんな、始まりの話。

 

 

 

 

 

「それからまぁ、色々とあってフェイトさんの引っ越しを手伝って……って話は知ってるよね」

「……なんっていうか、最後はこうなるんですね」

エリオは苦笑する。

それに対してキャロは笑顔だ。

「私もあの頃の補佐さんを思い出しちゃいます」

 

キャロには六課にいる間はお兄ちゃんと呼ばないように言ってる。

……まぁ、たまに呼ばれるときもあるけど。

公私混同は避けるべきだしね。

 

「でも、なんでフェイトさんは急に補佐さんの事を好きになったんたろ?」

 

……急なんだよな、たしかに。

そう、自分でもわからない。

キャロにかまってるからってあんな事になるなんて……

それに、あれ以来キャロを構っても怒るどころか笑顔になる。

 

「私は、お兄ちゃんが幸せならそれでいいよ。お兄ちゃんの傍にいれればそれでいいの」

「キャロ?」

「それに、私はフェイトさんもお兄ちゃんも好きだから何も言わないからね」

 

嬉しそうな笑顔でキャロは言う。

……フェイトと何かあったのかな?今度、聴いてみよう。

 

「さてと、話は終わったし戻ろうか」

 

俺が立ち上がると2人も一緒に立ち上がる。

過去は過去

今は今

 

……理由はどうあれ、あの一件があったからこそ、俺とフェイトはこうしていられるんだ。

 

それでいい。

それだけで、いい。

お互いにが支え合い守り合う人がいる。それだけで十分だ。

 

 

 

 

 

 

後日談というか、この日の終わり

 

俺はフェイトにキャロと何かあったのか聞くも、無事にかわされた。

まぁ、今は2人とも仲がいいし何も言えないだろう

でももしも、もしもこの2人の間に何かあったら━━━

それは、それを知るのはまだ先の話だし、そもそもそれは知れない話なのかもしれない

 

……大切なのは今

守りたい人達がいて

支え合う人がいて

愛し合う人がいる

 

今が幸せなんだ、それでしいいし、それがいい。

それが、今ある全てだから。

それが、俺の日常で

守るべきモノなのだから




次回はキャロ編を予定しています。

PS 新連載始めました。連載といっても、病みつきフェイトのように短編の纏めです。フェイトと違うのは、作品やキャラがバラバラなのと、基本的に作品毎に繋がりがないことです。もし機会があれば見ていただけると幸いです

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