病みつきフェイト   作:勠b

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前後編で分かれています。
今回はヤンデレ成分全くなしです。


病みつきフェイト~出会談~

「僕と勝負してください!!」

 

休憩室でコーヒーを飲んでいると、目の前の彼、エリオが唐突な要求をしてきた。

 

「急にどうしたのエリオ?」

 

隣の席に座る恋人、フェイトは首を傾げる。

仕方がない話だ、余りにも唐突な突然な要求なのだから。

正直、俺も話に全くついていけてない。

 

「なのはさんに言われたんですよ。男として女の子を守れるように強くならないとって」

 

確かに、女を守るのが男の仕事だとはよく言われる。

……最も俺達カップルは女が男を守る側だけどね。

 

「エリオ、俺がフェイトを守れるぐらい強いと思う?」

「それは……」

 

エリオは俺とフェイトの顔を交互に見ると顔を伏せ「ごめんなさい」と反省する。

それはそれで傷つく反応だ。

 

「でも、それでなんで彼と勝負することになるの?」

「六課って恋人がいる人が少ないんで、どうやってら誰かを守れるようになれるぐらい強くなれるのかわからなくて……」

 

確かに六課は恋人同士の関係の人達って余りいないな。

もしもいたら、俺達もそれを参考にして……

そう思い、ふと隣の彼女を見る。

視線に気づいたのか、フェイトは左手で俺の右手に触れる。

それに合わせで金属が擦れる音がする。

手錠

先日のクリスマスの時に彼女が俺につけたもの。

あれから少しの日が経つが、日中はこうやって手錠をしている。

フェイト曰わく繋がれると安心するんだとか。

……まぁ、部署の皆も何時もの事で流して深くつっこんでこないぶんありがたいと思う。

好きだからこその束縛

愛してるからこその恐怖

明日、隣にいる人が消えるかもしれない恐ろしさ

目を離した一瞬で、離れ離れになるかもしれない怖さ

そんな考えがあるから、彼女はこうやって俺を束縛する。

守るため

誰からか

誰からもか

目に見えない恐怖から

目に見える恐怖から

俺のことを護るため

過保護で優しい、フェイトだから。

きっと、俺を束縛するのだろう。

……まぁ、愛されてる証拠かな。

 

「エリオくん、ここにいたんだ。探したよ」

 

入り口から声がすると、彼女はゆっくりとテーブルへとくる。

 

「お疲れさまです」

「お疲れさま、キャロ」

 

彼女、キャロは俺達に挨拶をするとエリオの隣に座る。

 

「何の話をしてたんですか?」

「えっ!? いや、なんでもないよ」

 

キャロの疑問に対してエリオは誤魔化そうと我先にと口を開き話題を変えようとする。

 

「2人の馴れ初めを聞きたくって、話を聞いていたんだ」

 

エリオの突然の振りに俺とフェイトは固まる。

 

「あっ、それ私も気になります」

「えーっと」

 

キャロも子供とはいえ女の子。

恋愛話には興味津々なのか、目を輝かしてこちらを見てくる。

そんな視線に耐えきれず、俺は目をそらす。

フェイトとの出会いは━━━

余り、綺麗なものじゃないから

馴れ初めは、綺麗なものじゃないのだから。

 

「私と彼はね━━━」

「ふ、フェイトちょっと待って」

 

話そうとし始めた彼女の言葉を遮り、顔を近づける。

すると、フェイトの顔をゆっくりとあかくなり。

 

「だ、だめだよ。エリオとキャロがいる前でキスなんて」

「違うよ、その」

 

一瞬顔をを伏せて小声で話す。

 

「話すの?馴れ初め」

「2人も気になってるみたいだし、だめ?」

 

可愛らしく顔を傾けるフェイト。

そんな、彼女を見て、悩む。

俺とフェイトの出会いを知ってる人は、少ない。

ほとんどの人が付き合う前後ぐらいのことしか知らないのだろう。

別に隠すようなことでもない。

ただ、余り知られたくないだけ。

でも

 

「私は、どんな君でも好き

 強くても弱くても

 情けなくてもも格好良くても

 私は、どんな君でも愛してる」 

 

……俺の彼女は卑怯だ。

こんなことを言われたら、嫌でも話さなくちゃいけない気になる。

本当に、すごい人を彼女にしてしまった。

 

「馴れ初めを話すなら、出会いからかな?」

 

フェイトが俺に横目で視線を送る。

 

「……じゃ、話そうか」

 

俺は視線を彼女に向ける。

大好きな彼女に

愛していてくれる彼女に

嫌いだった彼女に

嫌だった彼女に

 

そんな俺達を見て静かになるエリオとキャロ。

きっと、驚くのだろう。

俺達の関係は歪だから

初めから今まで

そして、最後まで

歪な愛情の始まりの話に

歪む前の話に。

 

 

 

 

 

「本日からお世話になります」

 

俺は、目の前の彼女に頭を下げる。

 

「私の方こそ、お世話になります」

 

彼女、 フェイト・T・ハラオウン 執務官は俺に対して頭を下げる。

若いな、本当に俺と同じぐらいなんだ。

改めて彼女を見て、そう評価する。

執務官。

ここ、管理局でもかなり上の地位に存在する役職。

こんな若さで執務官なんだ、流石はエリートだ。

……俺みたいな凡人とは、やっぱり違うな。

本当に、あの人みたいだ。

下唇を軽く噛みしめる。

落ち着け、嫌な顔なんてしたらすぐに嫌な思いをすることになる。

……エリートなんて、みんな性格悪い奴らばかりなんだ。

俺は執務官補佐として管理局に勤めている。

今まで、色んな執務官の補佐をしてきた。

それ相応の年の人は、よかった。

若くなるにつれ、性格は最悪だ。

だから、今の俺は……

 

「それじゃ、早速お仕事しましょうか」

「わかりました。ハラオウン執務官」

 

彼女の言葉に合わせて、俺は仕事を始めた。

彼女の仕事部屋は整っていた。

法等の執務官に関する書物が幾つかあり、真ん中には大きめのテーブル部屋の隅には狭めのテーブル。

……どこの執務官も部屋なんてかわらない。

執務官補佐は隅にいて、ただ仕事をこなせばいいだけだ。

まぁ、ふてくされてないでやるとするか。

俺は、狭いテーブルへと着きゆっくりと仕事を始めた。

 

 

 

「仕事、余りこないね」

「ですね」

彼女の言葉を適当に返す。

ここにきて早数日。

今までお世話になった執務官達と比べて明らかに仕事量が少ない。

まぁ、仕方がないだろう。

彼女は執務官になってまだ日が浅いのだから。

パソコンを触り、仕事をしていると一連絡が来る。

 

「ハラオウン執務官、上層部より通信です。回します。」

 

仕事のお誘いか?

電話で来るなんて、珍しい。

横目で連絡を受けているハラオウン執務官を見ていると、変化に気づく。

彼女の顔色が、焦りを見せているからだ。

 

「わかりました。至急向かいます」

 

そう連絡を切ると彼女は立ち上がる。

 

「仕事がきたよ。現場仕事」

「えっ…‥?」

 

現場仕事?

この言葉に俺は、度肝を抜かれる。

 

「行くよ」

 

手短に言うと、彼女は俺の腕をとり強引に現場へと向かおうとする。

 

「あっ、あの」

「内容は向かいながら説明します」

 

ちっ、違う。

そうじゃ

 

俺は何も聞かない彼女に対して呆れながら強引に事を運ばれた。

 

 

 

執務官のメインは事務仕事だ。

現場に行って直接の指揮をとったりなんてこと、滅多にない。

だこらこそ、驚いた。

そして、彼女が俺を現場に向かわせたことがよけいに驚いた。

俺は、魔力が殆どない。

実戦経験とかも、ほとんどだ。

……だから、本来なら執務官補佐も出来ない。

補佐とはいえ執務官。ある程度戦える力がいる。

俺が執務官補佐なんてことをやってるのも、エリート達の仕業だ。

……最悪だ。

悪態をつきつつ、俺は現場の状況を見る。

ロストロギアの確保。

それが、今回の仕事だ。

本来はほかの部署が動いていたらしいのだが……

邪魔しにきた機械……ガジェットドローンという物のせいで難航する。 

そこでハラオウン執務官と俺が出撃となったのだが……

 

結果は惨敗。

ロストロギアは取られ、部隊の何人かは怪我を負うことになる。

そして、その中の1人が残念ながら俺だった。

 

「ごめんなさい、魔力が殆どないなんて私知らなくて……」

「大丈夫ですよ」

 

仕事部屋で俺と彼女は話し合う。

俺の魔力の事なんて知らなくて当然だろう。

……前お世話になった人がどうせ、隠したなり伝えなかったりしただけだろうに。

 

「……怪我はどうなったの?」

「撃たれた所がよかったみたいで、数週間もすれば完治するらしいですよ」

 

俺はそう言うと右腕を見る。

今は包帯で保護されており固定されているため全く動かない。

……大変な目にあった。

魔力が殆どないといのもあり、俺は現場指揮という形で出撃。

だけど、ガジェットドローンが現場周辺にも仕込まれていたらしく少し離れていた俺を含めた非戦闘組も被害を受けた。

その結果の惨敗。

 

「……ごめんなさい、本当に」

「大丈夫ですよ」

 

俺はそう言いながら荷物を片づける。

……と言っても、少しの間しかいなかったからそんなにはないんだけど。

今回の事件、ロストロギアを相手にとられた上部隊を敗北に導いてしまったのは現場指揮をしていた俺のせい。

それが上の、エリート達の判断だ。

……ぐうの音もでない。

ハラオウン執務官は近い将来必ず管理局の力になる存在で俺はいなくても変わりが幾らでもいる人間。

だからこその判断。

変わりがきく、いらない人間に全ての罪を押しつけて、将来有望な人達を残す。

ぐうの音もでない、判断だ。

 

「やっぱりおかしいよ、私しっかりと今回の話をしてくる」

 

そう言い部屋を出ようとするフェイトさんの手を取り止める。

 

「いいんです」

「よくない」

「大丈夫です」

「そんなことない」

 

お互いに一歩も引かない話し合い。

なんで、この人は俺のせいにしないのか?

そっちの方が、楽なのに。

簡単なのに。

自分の被害が少ないのに。

 

「あなたはなんで、そこまで俺のことを守ろうとするんですか?」

「……あなたが、悲しい眼をしてるから」

 

ハラオウン執務官は言う。

「守ってほしいって眼で訴えるから」

俺の目を見て、真っ直ぐに

「だから、私が守る」

正しい判断だと信じて疑わない

「私は少しでも多くの人達を守るために管理局に入って執務官になった」

綺麗な眼で

「たがら、守る」

力強く、彼女は言う

 

……凄いな。

俺は、素直に感心する。

今まであった人達よりも遙かに凄い人だ。

 

「……魔力がない俺がなんで執務官補佐になれたか知ってます?」

 

唐突な質問を投げかける。

彼女は黙って俺を見る。

 

「初めはね、違ったんですよ。俺はただの事務仕事しかこなさなかった。でも、急にあの人が俺に声をかけてきた」

 

あの人が、変えた。

俺の全てを。

 

「クロノハラオウン」

 

彼女の肩が震える。

それもそうだ、この人の知ってる親しい人の名前なんだから。

 

「あの人のお陰で俺は執務官補佐になれた。感謝してます」

「その機会を全て棒に振った俺のせいなんです」

そうだ

「だから、これでいいんです」

そうだ

これでいい。

これでいいんだ。

俺は、こうやって仕える執務官達を変えてきた。

いや、変えられてきた。

 

……力がないから。

だから、俺は色んな人達の、エリート達の下にたらい回しにされる。

そして、口々に言われる

力ながないのになんで執務官補佐になれてるんだ

……重い、思い思いな言葉

皆の、エリート達の思いの言葉だ。

それもそうだ、魔力を高める努力なんてしてない俺をエリート達が認めるはずがない。

俺は、事務員だ。

現場仕事なんてできない。

だから、現場でも役に立てるよう指揮をとれるように学んだ。

その成果にケチをつけられ、今の環境から離れさせられる。

……俺が補佐をする執務官達は新人か、問題児だけだ。

そして、そういう奴らの問題を全て俺が受ける。

矢面に立たされるのだ。

 

「それで、いいの?」

「いいんです」

 

彼女は、悲しそうな顔をする。

 

「辛くないの?」

「……大丈夫です」

 

今にも泣きそうな

 

「なんで?……なんで?」

「もぅ、なれました」

 

彼女の頭に手を乗せる。

 

「俺が見てきた新人の執務官の中で、あなたが一番優しくていい人でした。これからも頑張ってください」

 

俺はそういっては彼女の頭を軽くなでる。

上司にこんな事したら怒られるけど、まぁ、今回だけはね。

 

俺は部屋を出る。

彼女を置いて独りで。

 

「また」

 

後ろからか声が聞こえる。

 

「また、次あったらよろしくね」

 

そんな声に答えずに俺は、ゆっくりと去る。

惜しくなんて無い。

俺は、慣れたから。

 

 

 

これが、彼女はとの最初の出会いと別れだった。

簡単な話、凡人がエリートのミスをかぶり去っただけの話だ。

 

 

 

 

 

「これが、フェイトとの出会いの話だよ」

「補佐さんって、だいぶ前から補佐だったんてすね」

 

エリオの開口一番の辛辣なコメントに少し心が傷つく。

 

「でも、私があった頃はフェイトさんの執務官補佐でしたよね?」

 

キャロは可愛らしく首を傾げるとフェイトは嬉しそうに笑う。

 

「あれからすぐに私の補佐として戻ってきたんだよ」

「へぇー、それからずっとフェイトさんの執務官補佐だったんですか?」

「そうだよ、戻ってきてからずーっと一緒だったの」

 

エリオは納得した顔をすると、キャロはフェイトに聞いた。

 

「フェイトさんはこの時もう補佐さんの事好きだたっんですか?」

「その時はまだ好きじゃなかったかな」

「フェイトさんは補佐さんのこといつ好きになったんですか?」

 

キャロは嬉々として問いただそうとするが、残念なお知らせだ。

 

「ほら、もう休憩終わりだろ?戻ろう」

「えーっ、じゃぁ、次会ったら教えてくださいね」

「私にも教えてください」

「またね」

 

エリオとキャロは名残惜しそうに休憩室から出て行く。

俺とフェイトもそれを見送って、立ち上がる。

 

「……あれから、今まであっという間だったね」

「ですね」

「今も、エリートは嫌い?」

「……まぁ、嫌いですかね」

「そっか」

 

フェイトは何も言わずに俺の手を強く握る。

「君は、私が守る」

あの時のような綺麗な瞳で

「私だけがあなたの味方」

あの時とは違う、歪な関係でも

「私は、何があっても君の傍にいるから」

フェイトは

フェイトは優しい。

俺は、そんな彼女が好きだ

だから

 

「俺も、フェイトの傍から離れないよ。もう、何があっても」

 

だから、傍にいるんだ。

歪でも

間違っていても

俺達は

傍にいる。

 

それが、今の俺と彼女の関係。

守り物と守られる物。

お互いに互いを守り

互いに互いを守る

あの時から、変わらない。

形は変わっても

中身は変わらない

それが、俺達の歪で綺麗な関係だ。

 

 

 

 

後日談……まぁ、回想の話のだけど。

俺はハラオウン執務官の元を去ってから、また執務官達の下をたらい回しにされていた。

こんな日常を恨みながら、無力な自分をねたみながら。

たがらだろうか

彼女から差し出された手を

俺は━━━

俺は、妬んだ

 

 

誰にでも優しく振る舞う

それは、無知な暴力

それは、自覚無き暴力

それは、人を卑下させる

それは、力の会る奴だから行う行為

 

フェイト・T・ハラオウン

クロノハラオウン

 

こいつらは

こいつらは

こいつらは

 

 

こいつらは、どうしてそこまでして

俺を

俺に

俺如きに

 

構うんだよ

 

 

 

やっぱり、嫌いだ

力のあるエリートは

 

 

全部嫌いだ




こんにちはー勠bでーす
次回は回想2です
早めに投稿できたらと思います。

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