病みつきフェイト   作:勠b

1 / 6
病みつきフェイト

彼女、フェイト・T・ハラオウンは管理局のエースだ。

 

今日、俺はその彼女に呼ばれたため彼女の家を目指して いる。

 

引っ越しの手伝い それが、呼ばれた理由だ。

 

あまり彼女の事が好きでは無い俺だが、流石に自分の職 場の先輩、さらにはエースに頼まれては断れない。 二つ返事で承知したため、俺は彼女の新しい家へと向か う。

 

向かうといっても、俺のアパートからそんなに距離は無 い。 目と鼻の先、そうたとえてもいいぐらいの距離だ。

 

俺のアパートから歩いて2分もしない。

 

だからこそ、俺が引っ越しの手伝いに選ばれたのだ。 家から近いからというだけでだ……不幸だ。

 

家に着き、チャイムを鳴らすと直ぐに扉が開く。

 

「おはよう、今日は手伝ってもらってごめんね」

 

「いえ、大丈夫です」

 

フェイトさんは1人暮らしだ だから一軒家とはいえ、小さめだろと思っていたが違っ た。

 

広いうえに3階建てという無駄に豪華な家だ。

 

それを見るとますます承知するんじゃなかったという後 悔が強くなる。

 

「どうかした?」

 

「いえ……広い家ですね」 「えへへ、住むなら広い所が良いなーって思って」

 

自分の家を誉められて嬉しそうに笑うフェイトさん ……この人のこういう所は好きなんだけどな。

 

「君に気に入ってもらえて嬉しいよ。気に入って貰えなかったら、どうしようと思ってたの 」

 

……まただ

 

彼女は俺のことを考えてくれている。

それも、恐くなるぐらいにだ。 さっきの発言にしてもそう 俺が気に入ってくれってよかった

 

勿論、俺はこの家にすむ予定は無い。

 

なのに、彼女は俺の事を考えるのだ。

 

初めてこれを思った時は自惚れだと考えた。 当たり前だ。 彼女はエースで俺は凡人気にしてもらえる事なんて無いし、あったとしてもそれは上から目線の同情か何かだ。

 

何も知らない他人に言えば、それは考え過ぎと言われる かも知れないが、管理局のエースは大抵こういう性格が 多い。

 

だからこそ、彼女が俺の事を考えてくれているなんて自 惚れ そう判断した。

 

だが、それは一度ではない。

 

何度も何度も、事あるごとに、彼女は俺の事を考える。 そして、俺に確認をとり、合ってたら喜び、違ったら落ち込む。

 

それが何度も続いてるのだ。

 

それが嫌いだ。 フェイトさんと俺の関係は只の先輩後輩なんだ。 それだけなんだ。

 

「どうかした?」

 

いつのまにか、俺の目の前にいたフェイトさんは心配そ うに俺の顔を覗き込む。

「もしかして、何処か気に入らないところがあった?」

 

「ありませんよ。素敵な家だと思います」

グラナガンで見れば何処にでもありそうな家だ。

 

……一人暮らしには大きすぎると思うけど。

 

「そっか、じゃあ、早くいこ」

フェイトさんは俺の手を取ると、家の中へと向かう。 ……大変な日になりそうだ。

 

そんな悪い予感を胸に、俺も彼女に歩幅を合わせ、家へと向かった。

 

ーーーーー 見た目も立派だったが、中も立派だ。

 

同じ管理局で働いていても、違いがすごい。

 

フェイトさんは、3階建ての一軒家 俺は少しボロいアパート

 

……エースと凡人の差はこんなに酷いのか 考えただけで泣けてくる。 「どうしたの?上むいて」

 

「……いえ、天井を見たくて」

 

フェイトさんは首を傾けると俺と同じように天井をみる 。

 

「天井に何かあるの?」

 

……あるとすれば実力の差かな……

 

「いえ、何でも無いです。行きましょう」

 

涙目の顔を見られないようにしながら、俺はフェイトさ んの後ろに着いていく。 未だに手は離して貰ってない。

 

涙目の人が管理局員に手をつなぎながら道案内されてい る。

 

文字で説明すると、迷子の子供の道案内だ。 ……悲しくなってきた。

 

「ここだよ」

 

フェイトさんに案内された場所はリビングであろう場所 だった。

 

広い、俺の部屋が入るかもしれない位だ。

 

だが、その広い部屋には山のように詰まれている段ボー ルがあった。

 

「これを運んで欲しいんだけど……」

 

多すぎないか? いや、生活器具とかも含めればこれぐらいか?

 

試しに1つ持ってみる かなり軽い。

 

「軽いですね、これ」

 

「うん、君が苦労しないように、1つの段ボールには余り入れないようにしたの」

 

逆に言えば、それだけ歩かされるという意味だ。

 

つうか、こんなに軽いならフェイトさん1人で充分だろ 。

 

フェイトさんは誉めて誉めてと目で訴えてくるが、それ をスルーして話を進める。

 

「それで、この荷物は何処に?」

 

俺がスルーしたためか、見て分かるほどテンションを下げるフェイトさん。

 

荷物を軽くした分歩くんだから本末転倒じゃないか。 誉める気なんて無い。

 

「先ずは、部屋の間取りを説明するね」

 

そう言うや否や、また俺の手を取り歩き出すフェイトさ ん。

 

そのまま落ち込んだフェイトさんは廊下に出ると、部屋の説明をする。

 

「先ず、さっきの部屋がリビングでしょ、そして、突き当たりが浴室で、ここが和室でしょ」

 

テンションが下がってるせいか、説明が少し雑だ。 まぁ、部屋さえわかればそれでいいけど。

 

少し歩くと、階段があり、それを上る。

 

二階には扉が3つあり、ちょうど左、中央、右というふ うに分けられている。

 

「こっちが、私の部屋で、こっちが寝室」

 

初めに右、次に中央を差すフェイトさん。 この階は終わりなのか、そのまま進む。

 

「待ってくれませんか」

 

「どうかした?」

 

「あの部屋は何なんですか?」

 

俺が差したのは左の扉 フェイトさんがスルーした扉だ。

 

「あの部屋は今は秘密」

 

秘密? 秘密ってなんだ?

 

「兎に角、あの部屋には置いておく物は無いから、覚えとかなくても大丈夫だよ」 フェイトさんはそのまま進む。

 

……まぁ、ならいいか

 

秘密と言うのが気になるがまぁ、説明したくないなら別 にいいや。

 

俺はフェイトさんに引っ張られるように進んでいく。 三階では扉は1つしかない。「この部屋は書斎兼仕事部屋だよ。ここが一番荷物多いけど、私も協力するから頑張ろうね」

 

「はい、頑張りましょう」

 

承知するんじゃなかったという後悔をしながら、俺は応 える。

 

すると、フェイトさんは笑顔になる。

 

……速く終わればいいんだが。

 

ーーーーー リビングに戻ると、先ず俺とフェイトさんは三階の荷物を片付けることにした。 段ボールには何処に持っていくか書いてあるため、俺が書斎と書かれた段ボールを三階まで持っていき、フェイ トさんが荷物を置いていくという役割分担だ。今は三階の荷物を全て持っていったため、フェイトさんと共に荷物を置いている。

 

書斎には既に本棚が置いてあり、俺が持ってきた段ボールの中身はほぼ全て本であるため、それを名前順に置いていくという作業だ。 「ごめんね。荷物の整理までさせて」

 

「大丈夫ですよ」

 

申し訳なさそうに言うフェイトさんに対し、なるべく笑 顔で応える。

 

「ありがとう」

 

笑みを浮かべながらフェイトさんは応える。

 

それから、少しだけお互いに黙ると、フェイトさんに話し掛けられる。

 

「本当に来ないの?」

 

「何処にですか?」

 

「機動六課」

 

俺の質問に短く応えるフェイトさん。

 

「行く気はありません」

 

「何で?私もいるんだよ?」

 

その言葉に俺の手がとまる。

 

「関係ないですよ」

 

「私が入るから?」

 

フェイトさんは泣きだしそうな声で俺に質問する。その表情は俯いているせいでよく見えない。

 

「私が入るから来ないの?」

「いや、だから関係ないですよ」

「誰がいようと、俺は機動六課には入らない」

 

「……嫌だよ」

フェイトさんがこっちを向く その目は光がなく、濁ったような瞳でーーー 俺を見るーーー

 

「何で一緒に居てくれないの?そんなに今の部隊がいいの?部隊に好きな人でもいるの?」

 

フェイトさんはこちらをみたまま質問してくる。

 

「別にそういうわけじゃ……」

 

「わかった。今の部隊の人に脅されてるんだ。そうならそうと言ってくれればいいのに。君を脅すなんて、酷い人達だね。でも、大丈夫だよ。六課にはそんな酷い人なんていないから」

 

「だから、違いますよ、俺は……」

 

「俺は、何?」

 

俺は目線をそらす。 でも、そらした目線は直ぐにフェイトさんへと戻る。 フェイトさんは俺に近づいて、両手で俺の頬を包むよう に持ち、顔をこちらに向けさせたのだ。

 

「ねぇ、応えてよ。ねぇ、早く応えてよ。脅されたの?部隊に好きな人でもいるの?それとも、私と居たくないの?」

 

「嫌なんです、六課に入るメンバーは皆エースかエース候補の人達ばかりじゃないですか。そんな凄い部隊に俺みたいな凡人なんか……」

 

「それってつまり、私と居たくないってこと?」

 

フェイトさんは無表情なまま俺に聞く。

 

「嫌だよ。お願い、1人にしないで、何でもするからお願いだから……私を捨てないで」

 

涙目になりながらフェイトさんは俺に言うと、そのまま顔を近付ける。

 

俺は未だに顔を固定されているため、動くことはできな い。

 

そのまま俺は彼女ーーーフェイト・T・ハラオウンとキスをする。

 

いや、するではなくされたが正解だろう。

 

っ……!!何で!? 何で俺はフェイトさんとキスを!?

 

現状が理解出来ない俺からフェイトさんは顔を離す。

「しちゃったね、キス」

 

フェイトさんは頬を紅く染めながら俺に言う。

 

「これで、私は貴方のものだよ。何をしてもいいよ。私を捨てさえしなければ、あなたになら何をされてもいい。どんな事でも私はやるよ、それが、あなたのためなら」

 

言ってる意味がわからない 。

「でもね、私はあなたのものだけど、あなたも私のものだよ。だから、ずっと一緒にいて。朝目覚めてから、よる寝るまでずっと私の傍にいて。あ、ずっとって言っても四六時中じゃないよ。少なくとも、12時間以上は一緒にいて欲しいな」

 

何もわからない俺を置いてきぼりにするようにフェイト さんは会話を進める。

 

「あっ、あのフェイトさん」

「フェイトでいいよ。あなたにずっとそう呼ばれたかったそれに敬語じゃなくてもいいよ」

 

「あの、フェイト」

 

俺が名前を呼ぶと、凄い嬉しそうに返事をする。

 

「どうしたの?」

 

「……意味がわからない。どうしてフェイトは俺にキスしたんだ?」

 

「そんなの決まってるよ」 当たり前のようにフェイトは言う。

 

「あなたが好きだから」

 

そらは単純で、最もわかりやすい答えだ。

 

「あなたのことがずっと好きだった初めて会ったときから少し気になってた。あなたに優しくされて直ぐに好きになった。あなたの事を見てて更に好きになった。あなたと話して更に好きになった。あなたと一緒にいてあなたのことを愛した。あなたと一緒にいても好きになる気持ちが強くなるだ けで、行動には移せなかった。でもね、私が何もしなくてあなたが私を嫌いになるな んて嫌だ。だから、キスしたの。私の思いを知ってほしいから。これで駄目なら諦めが尽くし、私も悔いは無いから」

悔い?その言い方じゃまるで……

 

「もし、俺がフェイトを捨てたらどうするんですか?」

「あなたに愛されない世界でなんて生きたくない。今の私にはあなたが全てなの。そんなあなたに捨てられたら、私には……」

 

フェイトは黙って俺を見る。 その瞳は変わらない。 冗談なんかじゃない 本気だ

 

「俺は……どうすればいいんですか?」

 

「キスしてあなたから、私に」

 

フェイトは両手を俺の頬から離す 俺はフェイトに顔を近付けそのままキスをする。

 

俺は彼女が嫌いだ。 何の関係もない俺の事を恐くなるぐらい考えてくれる彼女が嫌いだ。 彼女の笑顔が好きだ。 俺の一言で笑ってくれる彼女が好きだ。 もし、俺が彼女と付き合えば、それは何も関係がないと は言えなくなる。 俺は彼女が好きだーーーーー 彼氏である俺の事を考えてくれる彼女の事がーーー俺は 、好きになるだろう。

 

ーーーーー

 

三階での騒ぎも終わり、俺とフェイトはリビングで昼食を取った。

 

俺の前には落ち込んでいるフェイトがいる。

 

「ごめんね。手料理食べさせてあげれなくて」

 

そう、彼女は俺の為に手料理を振る舞うと宣言したのだが、料理に必要な道具を探したり、材料を買ってきたりなど、大変なため今回は出前を取ったのだ。

 

俺に手料理を食べさせたかったのか、フェイトはかなり落ち込んでいる。

 

「別に今日じゃなくてもいいだろ。時間ならまだあるんだから」

 

「うん、そうだね」

 

「ほら、昼飯も食べたし、引っ越しの続きをしよう」

 

「でも、また荷物が増えるね」

 

「荷物が増える?何で?」

 

「だって、君は今日から私とここに住むんだもん」

 

当たり前のようにフェイトはいう。 はぁ?

 

「いや、意味が……」

 

「だって、一緒にすまないと1日12時間以上一緒に入られないよ」

 

本気だったのか!?

 

「いや、12時間は流石に……」

 

「毎日じゃなくていいよ、休日の時だけ。平日は6時間以上にしよ」

 

それなら、まぁ……

 

「じゃ、早くフェイトの荷物を片付けて、俺の部屋の荷物を纏めるか。俺の部屋は二階の秘密って言ってた部屋?」

 

「そうだよ、初めからその予定だったんだ」

 

初めからその予定だった 俺がもし、彼女との告白に断っていればどうなっていたのだろうか……

 

いや、考えるのは止めよう。

 

俺は断らずに、彼女と一緒に居ることにしたんだから。

 

だから、もしもの話なんて必要ないんだ。

 

「あっ、そうだ」

 

フェイトは俺に近づいてくる。

 

「六課に来る?来ない?」

 

心配そうに俺を伺うように見てくるフェイト。

 

……1年かーーーー

 

「入るよ」 「機動六課に」

 

俺が言うと彼女は嬉しそうな笑顔を浮かべると早速はや てさんに連絡を入れる。

 

ーーーまぁ、彼女の為に頑張ろうかな。

 

嬉しそうに親友と連絡している彼女を微笑みながらそん な決意を固める。

 

ーーーーー

 

さて、これから先は、少しだけ先の事を話そう。

 

俺とフェイトは機動六課に入隊した。

 

管理局のエースやエース候補は性格が悪い奴らばかりだ がここの人達は皆優しい人達ばかりだ。

 

俺はフェイトのサポート役として入隊している。

だが、最近になってフェイトが慌てだしている。

 

どうやら、俺が他の女性と話しているのが問題らしい。

 

目の前にいるフェイトが俺に対して言う。

 

今週は私以外の女性と喋らずに私の傍にずっと居ること!!!

 

……どうやら、俺の苦労は終わらないらしい。

 

楽しいから構わないけど。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。