アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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”黒”と”赤”との戦い

「──ッ!」

 

 黒のセイバー(ジークフリート)は、森の木々の向こうから射られた矢を、剣で叩き落す。

 赤のアーチャー(アタランテ)からすれば、森の中というのは、絶好の立地だ。何故ならば森というのは、”狩場”なのだから。

 (獲物)に気付かれないように、気配を消して潜み、矢を射る。──狩りとは、簡単に言えばそういうモノだ。

 ”獲物”は黒のセイバーと、黒のバーサーカーの二体。

 彼女(アタランテ)は、既に森の中に潜み、気配を消しながら弓を弾いている。

 ──そこだ。

 赤のアーチャー(アタランテ)は、弦から指を離して矢を射る。そして放たれた矢は、森の木々の隙間を縫いながら、真っ直ぐに黒のセイバー(ジークフリート)へと飛んで行った。

 

「────!」

 

 黒のセイバー(ジークフリート)は、その矢の存在に気付き、漆黒の大剣(バルムンク)で叩き落す。──直後、黒のセイバー(ジークフリート)と、黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)は、真っ直ぐに走る。

 彼らが走る方向は、矢が飛んできたところ。つまり、赤のアーチャー(アタランテ)がいる場所だ。

 赤のアーチャーは、自身の元に接近させまい、と矢を連続して射るが、黒のセイバーと、黒のバーサーカーは、それらを剣で、戦鎚(メイス)で、叩き落しながら走る。

 そして、遂に──

 

「──クッ」

 

 赤のアーチャーは、軽く舌打ちをする。黒のセイバーと、黒のバーサーカーは、あと数歩進めば、彼等の武器が赤のアーチャーに触れる、といった距離まで来ている。

 そんな状況で、赤のアーチャーが撮った選択肢──それは逃亡。

 当然だろう。赤のアーチャー(アタランテ)は、あくまでも射手(アーチャー)、そもそもアーチャーとは、一部の例外を除き、弓矢による遠距離攻撃が専門であり、接近されたら一気に不利となるのである。

 故に、接近される訳にはいかない──!

 赤のアーチャーは、矢を放ちながら、サーヴァントより遠ざかろうとするが、黒のセイバーは、そうはさせまい。と一気に距離を詰めて、大剣を振るう。

 

「ッ……!」

 

 大剣の切っ先に、赤のアーチャーの腕がかすり、赤い血を流す。この程度どうということは無い、(黒のサーヴァント)に背を向け、木々の合間を縫うように走る。

 ──逃がさない。

 黒のサーヴァントは、赤のアーチャーを見失わないように、全力で疾走して追いかける。

 時折、二手に分かれて、追い詰めて攻撃を加える。などをし、赤のアーチャーは少しずつ、少しずつだが、体にかすり傷が増えていった。

 ──仕留める!

 追い詰め、追い詰め、いずれは止めを差す──!!

 黒のサーヴァントは、赤のアーチャーを追い詰める。

 その最中、黒のセイバーは、ある異常に気づく。

 ──バーサーカーがいない!?

 周りを見れば、黒のセイバーの後をついてきていた筈の、バーサーカーの姿がなかった。

 更に、気づけば赤のアーチャーの姿さえも、消えていた。

 

「────!!」

 

 そして、黒のセイバー(ジークフリート)()()めがけて、矢が飛んできた。黒のセイバーは、矢が風をきる音に気付き、咄嗟に剣で矢を叩き落す。

 ──偶然か?

 黒のセイバーの額に、一筋冷や汗が流れる。

 ジークフリートの弱点──背中を狙ってきたのは、偶々か? それとも──。

 

「ッ!!」

 

 またもや、黒のセイバーの背中めがけて、矢が飛んできた。

 そして、確信する。

 ──追い詰められている。と、黒のバーサーカーとは分断され、赤のアーチャーの姿は見えない。

 そして時折、背中めがけて飛んでくる矢。

 この状況を見れば、それが理解(わか)る──。

 黒のセイバー(ジークフリート)は、自身の不甲斐なさを感じながらも、この状況を切り抜けるための最善手を考える────。

 

 

 

「──ゥ?」

 

 黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)は、首をかしげる。

 ふと周りを見てみれば、黒のセイバーは居らず、赤のアーチャーの姿も見えない。迷子になったのだろうか? と考え──

 

「ゥ────ッ!」

 

 森の木の向こうから、黒鍵が黒のバーサーカーめがけて、飛んできた。それを黒のバーサーカーは、自慢の戦鎚(メイス)で叩き落とす。

 

「ウウ゛ゥゥ……!」

 

 そして威嚇の意味を込め、唸り声を上げる。戦鎚(メイス)を構え、いつでも攻撃が来てもいいように備える。果たして、赤のアーチャーか? それとも別のサーヴァントか?

 そんな彼女の予想に反し、出てきたのは──人間だった。

 身長は、150程だろうか。黒い髪の天辺に、見事なアホ毛を生やしている少年──サーヴァントではない。ただの人間。──名を泉──。

 その事に、バーサーカーは少々戸惑ったが、彼の右手に赤い文様──令呪が刻まれている。そして確信する。

 ──コイツは赤のマスター!

 恐らくは、アーチャーのマスターだろう。ピポグリフに乗っている時に、少しだけその姿が見えた。

 好都合だ。マスターを叩けるならば、そのサーヴァントも脱落する。──というよりは、元々は黒のキャスターより、コイツを食い止める様に言われていたのだ。

 ならば、──殺す!

 

「ナァ────オッ!!」

「おおっ!? 怖い怖ぁいっ!」

 

 黒のバーサーカーは咆哮しながら、戦鎚(メイス)を泉に振るう。泉はおちゃらけた様子で、戦鎚(メイス)を回避し、黒のバーサーカーの懐に潜り込んだ。

 そして、バーサーカーの腹に掌を当て、

 

「シッ!!」

「ウ゛ゥ!?」

 

 泉の掛け声と共に、()()()()()()()()()()に衝撃が走った。

 ──何故?

 自分の身はサーヴァントだ、ただの人間に、ダメージを与えられるのか?その疑問に黒のバーサーカーは、頭を振り、思い直す。目の前にいる人間は、魔術師だと。ならば、何かしらの魔術によって、この様なダメージを与えている筈だ。

 幸い、ダメージはそれ程では無い。ならば、──大した事無いだろう。

 黒のバーサーカーは、そう思って、反撃をしようと戦鎚(メイス)を振るう。

 だが、それは回避された。

 一回後退した泉は、

 

「んー、やっぱ何処かの麻婆やツインテ少女みたいにはいかないかぁ。マジカルが付くには程遠いなぁ。

 ──ま、それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()程度、頑張れば行けますかっ!」

 

 泉は何なしに、己の本心を口に出した。──だが、その内容は、黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)の癇に障った。

 ──今、何と言った?

 ──ステータスが低い? それは本当の事だろう。だが、程度? 頑張れば行ける?

 ──巫山戯るな。

 

「ウ゛ウ゛ウ゛ゥゥ────ッ!!」

 

 黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)は、怒りの咆哮をあげる。その迫力に、泉は多少驚いたが、人差し指をちょいちょい、と折り曲げたり伸ばしたりしながら、、黒のバーサーカーに「おいでよ、遊んであげるから」と、言った。

 その言動は、ますます黒のバーサーカーを怒らせ、黒のバーサーカーは、戦鎚(メイス)を、己の全力を以ってして、泉の頭部めがけて振り落とした。

 

 泉は、「うわぉ、怖い怖い」などと、馬鹿にしたように言いながらも、深呼吸をして、気を引き締める。

 そして、魔術の詠唱を短く、静かに口ずさんだ。

 

「──投影開始(trace on)

 

 

 

 赤のライダー(アキレウス)は、呆然としながら、目の前の男を眺めていた。

 その男の真名()は、ケイローン。──生前、赤のライダー(アキレウス)を、英雄へと育て上げた師だ。

 まさか黒の陣営として、召喚されているとは、思いもしなかった。

 どうする?相手は、己の師だ。──だが、今は敵同士、戦うべきか?──迷いが、赤のライダーにあった。

 そんな赤のライダーを見て、黒のアーチャー(ケイローン)は、赤のライダーへと、素手で、己の肉体で攻撃を加えるべく、接近する。

 

「──クッ!?」

 

 赤のライダーは、反射的に槍を振るうが、黒のアーチャーは、その槍を回避して、赤のライダーへと攻撃を加えた。

 そして赤のライダーは、後方へと吹っ飛んで行った。

 立ち上がる赤のライダーに、黒のアーチャーは、微笑みながら言う。

 

「アキレウス。これは聖杯大戦です、故にこの様な事もあり得る。──貴方は甘い。

 余りにも甘い。敵には容赦なく、苛烈に攻撃しますが、一度味方だと認めたものには、甘い。──それが貴方の弱点です」

 

 ──そして。

 黒のアーチャーは、先ほどまでは生徒に指導する様な態度だったが、敵の前に立ちはだかるような態度へと、急変し言い放つ。

 

「────わかりましたか?()()()()()()

 

 そんな己の師に対し、赤のライダーは、言う。

 

「……ああ、わかったぜ。先生──いや、()()()()()()()ッ!!」

 

 黒のアーチャーも、赤のライダーも、嘗ては教師と教え子。だが今、この瞬間──敵同士だと認識した。

 そして、赤のライダーは槍を構え、迎え撃つ黒のアーチャーは、無手。アーチャーたる弓矢は持たない。

 だが、充分だ。何故ならば──。

 

「ラァッ!!」

 

 赤のライダーは、槍を黒のアーチャーに攻撃を加えるべく、振るう。

 だが、黒のアーチャーは、振るわれた槍を、逸らし、拳によって赤のライダーへと攻撃を加える。

 ──何故ならば、黒のアーチャー(ケイローン)は、全ての力の意を持つパンクラチオンがあるのだから──。

 そして攻撃された赤のライダーは、少々よろめくが、その程度では止まらない。

 槍を振るうが、その攻撃は通じない──。

 

「無駄ですよ。その槍を与えたのは、槍の振るいかたを教えたのは、誰でしたか?」

 

 黒のアーチャーは、赤のライダーに言う。

 赤のライダーが持つ槍──空駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)は、ケイローンがアキレウスへと与えたものだ。

 ──故に、黒のアーチャー(ケイローン)は、その槍の長さも、重さも、重心も把握している。更にその槍の扱い方を教えたのも、ケイローンだ。

 だから、その様な攻撃は通じない。

 ──その事実に、赤のライダーは内心舌打ちしながらも、歓喜していた。

 アキレウスという男はつくづく英雄なのだ。

 それを赤のライダー(アキレウス)は自覚し、黒のアーチャー(ケイローン)もまた認める。

 両者は槍を振るい、矢を穿ち、時には拳で相手の体を殴る。それはまさに力と技が入り混じった戦いであり、一瞬のスキが、油断が(敗北)への道となる。そんな中、赤のライダーは思考する。

 

 ──どうすれば目の前にいる男(ケイローン)に勝てる?

 

 戦いながらも、脳内で様々な状況を予想(シュミレーション)する。

 相手(ケイローン)がこう攻めてきたら、こうする。自分がこうしたら相手はああする……そんな無数のパターンを考えながら、己が勝利する映像(イメージ)を思い浮かべる。

 だが、赤のライダーは思う。

 

 ──どうしたら勝利できる? 果たして勝利できるのだろうか。

 

 目の前にいる男は、己の師であり。自身の隙を、癖を知り尽くしている。そんな彼に、どうやったら勝利できるのか……そんな映像(イメージ)が全く思い浮かばない。

 だが、赤のライダーは戦い続ける。逃げようとすることもなく、己が負けるという事もありえるだろうが、それでも戦い続ける。

 それはアキレウスという男が、英雄であるから。そしてもう一つ。──自分の成長を見てもらいたい、そんな子が親に対するような思いに似た感情ゆえに──

 アキレウスがケイローンの元を発ってから、様々な活躍をした。そんな活躍の中で、赤のライダー(アキレウス)は戦車を手に入れた、名誉を手に入れた。

 そして、他にも手に入れたモノ(宝具)がある。それを使うべきか──!? 赤のライダーは激しい戦闘の中で、思考する──。


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