アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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魔術師殺しの魔術

 泉は正面にいるゴーレムに拳を叩き込む。だが、岩の表面が少し凹んだだけで、ダメージにはなっていないようだった。

 ──明らかに手応えが違う。

 先ほど壊したゴーレムに比べると、手応えも、動きも違う。

 それもそうだろう。先ほど泉が破壊したゴーレムは、監視用のゴーレムであり、戦闘には特化していない。

 だが、今泉の前に立ち塞がっている合計で5体のゴーレムは、全てが戦闘用の物であり、更に黒のキャスター(アヴィケブロン)が直々に操作しているのだ。それを考えると、強さが違うのは当然の事だろう。

 だが、それでも──

 

 泉は「チェス!」という掛け声とともに、またもやゴーレムに拳を数発叩きつける。

 一発目はゴーレムの表面がさらに凹んだ。

 二発目はゴーレムの凹んだ部分を中心に亀裂が入った。

 三発目は亀裂が更に広がった。

 四発目は身体中に亀裂が走った。

 そして──五発目。ゴーレムの巨体は粉々に砕け散った。

 

「よっし!」

 

 泉はガッツポーズをする。だが、それも束の間だった。

 他のゴーレムが泉に拳を叩き込むが、泉はそれを回避する。──そんなやりとりが、数秒間続いた。

 泉はゴーレムの包囲網を突破したいが、キャスターも巧みにゴーレムを操作し、時折放たれる泉の拳を回避させ、攻撃をさせる。だが、お互いの攻撃は中々当たらない。

 

「ああ、もう!」

 

 そんな状況に泉はイラつき、呟いた。

 

固有時制御四倍速(Time alter─square acce)

 

 その呟きは、魔術の詠唱だった。

 その魔術は、とある正義の味方を目指した男(衛宮切嗣)が使用する魔術──体内の時間を操り、加速させる魔術だ。

 本来ならば、その魔術は時間を操る魔術を引き継ぐ家系のモノであり、他人が使えるようなものではない。

 だが、泉は使えるのだ。それにどんな理由があるのか。と問いかければ、泉は「面白そうだから」と答える。

 

 泉の体内の時間と体外の時間が切り替わる──。

 

 ──黒のキャスターが気がついた時には、5体のゴーレムは全てバラバラに砕け散っていた。

 

 ──何が起こった!?

 

 ゴーレムの視覚を通しているとはいえ、この身はサーヴァント。その身体能力は、通常の人間とは段違いだ。──それこそ、筋力の無いキャスターでも。

 それでも、泉の動きを見ることはできなかった。

 

「さて、アヴィケブロン。キミの最高傑作(アダム)はいただくよ」

 

 と、泉は口から赤い血を垂らしながら言った。その血は、体内の時間を操作したことによる代償(フィードバック)によるものであり、今、泉は内臓が雑巾のように絞られた様な感覚を味わっている。

 そして、泉の言葉を聞いたキャスターは、僅かに動揺した。

 まず、自分の真名()を見破られたこと。──それはまだ良い。戦場に存在する夥しい数のゴーレムを見れば、ゴーレムに関する逸話を持つ人物が、召喚されたと予想できるのだから。

 ──だが、問題はそこではない。今、彼は、泉は何と言った?

 ──『キミの最高傑作(アダム)はいただくよ』。

 最高傑作(アダム)。それは間違いなく、キャスターの、アヴィケブロンの宝具、王冠・叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)の事だろう。

 それは、アヴィケブロンが生前完成させることの叶わなかったゴーレム。故に、宝具として使用するには、一から製作しなければならない。そして、製作途中の宝具は、湖の中に隠してある。

 そして、泉は湖に真っ直ぐ向かっている。

 キャスターが操作するゴーレムをなぎ倒しながら。

 

「──クッ」

 

 黒のキャスターは僅かに、動揺し、焦る。だが、そんな感情を抱けば、自身の視界が、思考が阻まれる事を理解している彼は、一先ず冷静になることにした。

 そして、一つの考えを示そうと、ゴーレムを操作すべく指を振る瞬間────大地が揺れた。

 

 

 

 ──ゴルドは迷っていた。

 

 手の甲にある紋様──令呪を使用すべきかどうか。

 己のサーヴァントは竜殺しの英雄(ジークフリート)。悪しき竜を斃し、その血を浴びて不死身となった英雄。

 その肉体はありとあらゆる攻撃を弾く。

 だというのに、だというのにだ。

 

「────!」

 

 黒のセイバー(ジークフリート)は敵の攻撃を受けて、吹き飛ぶ。

 何故、黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)を加え、2対一だというのに、何故、こちら(黒のサーヴァント)が押されているのだ──!?

 

「この程度か?」

 

 赤のライダーは期待はずれだったと、嘆息する。

 彼の目の前には、赤のライダーの攻撃によって吹き飛んだ黒のセイバー(ジークフリート)と、戦槌(メイス)を持ちながら、赤のライダーを威嚇する黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)がいる。

 黒のサーヴァントである二体は、赤のライダー一体に押されていた。

 竜殺しの英雄(ジークフリート)天才が作った怪物(フランケンシュタインの怪物)

 二体とも、人知を超えたモノ達。とりわけ、ジークフリートは格別の強さだ。だが、それでも、赤のライダーの前では、勝てない。

 

 ──それもそうだろう。赤のライダーの真名は、アキレウス。

 ギリシャにて、ヘラクレスと並ぶ英雄だ。

 竜殺しだろうが、怪物だろうが、──アキレウスにかかれば、敵ではない。

 不死の体を持ち、誰よりも英雄であり、様々な戦場を疾風の如く駆けたアキレウスにとっては、敵ではない。

 

「これで終わりか? 宝具を解放する間も無く──」

 

 ライダーは、話している口を閉じて構えた。黒のセイバーが、掲げた剣に、大量の魔力が収束し始めたからだ。それは、つまり──宝具の解放──!

 

 ”セイバー! 宝具を使用し、あのサーヴァントを殺せえええぇぇッ!!”

 

 ゴルドは、黒のセイバーに令呪をもって命じた。

 このままでは、セイバーがやられてしまう──!と思い、迷いも振り払い、意を決して令呪を使い、命じた。

 

幻想大剣(バル)──」

 

 そして、黒のセイバーは命じられた通りに己の宝具を解放しようとする。ソレに効果はさほど無いと理解しながらも──。

 

天魔(ムン)──」

 

 ゴルドは、我に返り、何をやっているのだ! と先程までの自分を罵倒した。セイバーの宝具を解放するということは、その真名も連動して見破られてしまうということ。

 黒のセイバー(ジークフリート)は不死身の肉体を持つ。だが、その肉体にはたった一つ弱点が存在する。

 背中──。

 竜の血を浴びる時に、背中に菩提樹の葉が張り付いており、その部分だけ血を浴びる事は出来ず、生身のままなのだ。

 つまり、黒のセイバー(ジークフリート)の真名が敵に知られてしまえば、弱点(背中)を集中して狙われてしまい、黒のセイバーの脱落を早めてしまう。──それだけは何としてでも避けなければ。

 ゴルドは再び令呪を使い、黒のセイバーに命じようとした瞬間──大地が揺れた。

 

 

 

「──ふむ」

 

 赤のアーチャー(アタランテ)は呟く。敵は黒のアーチャー(ケイローン)に、黒のライダー(アストルフォ)

 数で見れば、赤のアーチャー(アタランテ)の方が不利だと、馬鹿でも理解できる。

 実際、赤のアーチャーは押されていた。

 宝具(訴状の矢文)を連発するは良いもの、決定打はない。

 ましてや、相手のアーチャーの真名は、ケイローン。

 アキレウス、ヘラクレス、イアソンなどの、ギリシャの英雄たちを育て上げたケンタロウスの賢者。

 その実力は凄まじいものだ。赤のアーチャーの放つ矢を、正確に、矢で撃ち落とすという規格外の行いをするのだから。

 そして、赤のアーチャー(アタランテ)の敵は、黒のアーチャー(ケイローン)だけではない。

 

「くらえ!」

 

 黄金の槍を、赤のアーチャーめがけて振るうが、それはアッサリと回避されて、標的(赤のアーチャー)は森の木々の向こうへと、遠ざかっていく。

 黒のライダー(アストルフォ)。彼の持つ槍は、その刃に触れただけで転倒するという、戦闘中において致命的な事をさせる恐るべき宝具だ。

 ──だが、当たらない。

 赤のアーチャーは、森の木々(障害物)が最初から存在しないかのように、スルリとすり抜けるように間を素早く移動している。

 

「ああ、もう!」

「──ライダー、落ち着いてください」

 

 黒のライダーは、苛立ったように小さく足踏みをする。

 そんなライダーを、黒のアーチャーが諌める。

 

「相手はアタランテ、名高い狩人です。落ち着かなければ、こちらが追い詰められ──……」

「どうしたのさ? アーチャー……」

 

 突如絶句した黒のアーチャーを怪訝に思い、黒のライダーは問いかけるが、ライダーもまた、黒のアーチャーと同じように、絶句するしかなかった。

 目の前にいる()()。それは紛れもなく、巨人の拳そのものだった。森の木々よりも高く、太い拳があった。

 その拳の持ち主は──赤のバーサーカー(スパルタクス)。だが、その肉体は全身に杭が突き刺さっており、最早ヒトの形を留めておらず、子供がこねた粘土作品のように、不定形な物体だった。──そんな中、きちんとヒトとしての原型をとどめているのが、巨大な拳だった。

 そんな物体に、黒のアーチャーもライダーも呆然とするしかなかった。

 

「──よそ見をしている場合か?」

「ガァッ!?」

 

 突如、ライダーの肩に凄まじいスピードで矢が飛んできた。その矢は赤のアーチャーが射ったものだろう。その速度はこれまでに放たれた矢とは、比べ物にならないほどの凄まじい速度だった。

 ライダーは、反射的に体を捻るが、肩に矢が掠り、衝撃によって抉れた。

 

「────く」

 

 黒のアーチャーは弓矢を構えるが、周囲に赤のアーチャーの気配は何処にもなかった。どうやら、この森から立ち去っていったようだ。

 

「ライダー、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ないさ。治癒しているから」

 

 ライダーの言うとおり、肩の傷はみるみると治っていっている。それは魔術による治癒だ。

 そうですか。と黒のアーチャーは頷き、目の前にある物体を見上げる。

 

「ライダー、今すぐ霊体化して逃げますよ」

「賛成」

 

 そして、二人は霊体化してその場を立ち去った。

 何故ならば、その巨大な拳が振り下ろされようとしていたからだ。

 あのような巨大な拳が、バーサーカーの筋力によって振り下ろされれば、周囲のものを吹き飛ばすだろう。

 赤のバーサーカー(スパルタクス)と戦闘している黒のランサー(ヴラド)の心配もあったが、彼は地面の上に堂々と佇んでいたので、問題は無いようだ。と判断し、撤退を決め込んだ。

 

 

 ──そして、巨人の拳が振り下ろされた。

 

 

「──!?」「ぬぅ!?」「わっ!?」「キャ!?」「これは……」「うおっと!」

 

 地面が、大地が揺れた。城の窓ガラスは罅が入り、粉々に砕け散った。本棚が倒れて本が散らばった。机の上の実験器具が床に落ちた。

 

「……これは……」

 

 誰かが呟いた。

 今の地震の原因は──赤のバーサーカー(スパルタクス)

 

 


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