アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい 作:天城黒猫
泉は手に握っている剣を何度も振るい、レティシアへと激しい攻撃を加える。彼女はそうした攻撃を、旗の柄で受け止めたり、逸らしたりとしていたが、その額には一筋の冷や汗が浮かんでいたのだった。なぜならば、彼の剣は、レティシアが持つルーラー、ジャンヌ・ダルクの防御力と対魔力とを軽々と貫通してくるからだ。
(強い!)とレティシアは剣から逃れるべく後方へと飛び退のき、頭の中でこうした感想を浮かべた。(一つ一つの剣の威力が凄まじいのもありますが、それ以上に恐ろしいのは、彼が戦闘慣れしているということでしょう。今の私は、聖女様の力を借りることによって、こうして戦うことが出来ていますが、戦闘の経験も、技術も向こうのほうが上。刹那の判断が、致命傷へと繋がるこの戦い、果たして無事に乗り切ることが出来るのでしょうか……?)
「そら!」と泉はレティシアへと飛びかかりながら言った。「どうした? どうした! 僕を止めるんじゃなかったのか? 救うんじゃなかったのか? ああ、それも不可能だろうね! 実力差が大きすぎるのだから。どうやら、君は聖女の力を秘めてはいるけれども、何ということはない。ただの馬鹿、愚か者、阿呆、間抜けだったみたいだね!」
「何を!」とレティシアは叫んだ。「何を言うのですか!」
「『何を言うのですか!』だって?」と泉は、レティシアと戦っているうちに、彼女と戦う前の、激しい様子は少しずつ消えてゆき、今は笑みを浮かべ、余裕といった様子であった。「救うとか言っていたみたいだけれども、どう救うというんだい? そもそも、僕は君による救いなど求めてはいないしね」
「いいえ、貴方は確かに苦しんでいます。聖女様の啓示と、私の直感がそう言っています」
「苦しんでいるだって! どこをどう苦しんでいるというんだい? そら、教えて貰おうじゃないか!」
泉は、とりわけ強烈な剣の一振りを行った。レティシアはそれを旗で弾き返し、彼は後方へと飛び下がった。
「貴方は」とレティシアは息を整えながら言った。「苦しんでいます。そう、この世界に対して」
そうした彼女の一言は、泉にとっては激しい一撃であった。彼は歯を食いしばり、レティシアを睨み殺すといった勢いで睨んだ。そうした彼の様子に、彼女は少しだけ息を呑んだ。
「そうか」と泉は、全身の力を抜き、天井を見上げた後、レティシアの事を見た。その目には、何の意思や力といったようなものは一切篭っていなかった。こうした、先ほどの様子と、違った様子を見せた彼は、彼女の方へと歩いていった。
あと数歩ばかりで、剣を握った腕を伸ばせば、その刃がレティシアの首元へと届くといったところで、彼女は旗の先端を泉の顔の前へと突き出した。彼は歩みを止めると、剣を床に突き刺して、旗の柄を握った。
「直感か……啓示か。まあ、そんな事はどうでもいい。君は僕の事をどう思っているのか、ここは一つ聞かせて貰おうじゃないか」
「……貴方は世界に対して絶望といってもいい感情を秘めています。貴方の眼差しには、そうした光りが宿っています。そして、世界が破滅の危機に瀕しているという事を考えれば、貴方はこの世界を破壊しようとしているのでしょう」
「へえ! で?」
「私はそのような事をさせる訳にはいけません」
「どうするつもりだい?」
「貴方を止めます。世界の破壊などはさせませんし、貴方にも何か、気に入っている場所、愛すべきモノなどがあるはずです……」
「そうか」と泉は言った。「確かに僕は、世界に絶望している。世界を破壊しようとしている。でも、答えとしては80点といったところだろうか……
気に入っている場所? 愛すべきモノ? そうか、確かにそれは存在する。例えば冬木市……例えば時計塔……ほかにもいっぱいあるなあ」
「では!」とレティシアは微笑みを浮かべた。
「でも、それはこの世界には存在しないんだ」と泉は言った。彼は旗の柄を胸元へと移動させた。
「正義の味方気取りか? 世界を救う、救世主気取りか? そんな事をやろうとするのは、
「ええ、全てを。でなければ、救済とは言えないでしょう」
「そうか」と泉は言った。「ならば、選択肢をあげようか」
彼が魔術の詠唱を唱えると、レティシアの前に映像を映し出すためのスクリーンが出現した。そのスクリーンには、レティシアの故郷であるフランスの田舎が映し出され、その次にはレティシアが通っている学校の宿舎の、同室である友人が映し出された。
「なにを」とレティシアは目を見開きながら言った。「何をするつもりなのですか!」
「簡単なことだよ。君は救いたいんだろう? だけれども、全てを救うなんていうことは出来ないんだ。僕の思いを変える事は決してできない。僕は君の言う通り、この世界を消滅させようとしている。なぜならば、世界の消滅こそが、僕の願いであり、救済なのだから。
さあ、そこで選択だ。君の手で、今僕を殺せば、世界が滅ぶような事はない。けれども、僕を殺さないと、君の友人が死に、世界が滅ぶだろう。さあ、僕を殺し、友人と世界を救うか……僕を救い、友人を殺し、世界を消滅させるか……選びなよ。今、君が手に持っている旗を少しだけ前に突き出せば、僕はあえなく死ぬだろう。1分だけ時間をあげよう。その間に選びなよ。1分が過ぎたら、僕は君を殺し、この世界も消滅させる」
こうした泉の言葉によって、レティシアの感情はひどく揺さぶられた。彼女の目は虚ろなものになり、呼吸は荒くなり、全身から力が抜け、体を震わせ始めた。
「そんなもの」とレティシアは震える声で言った。「そんなもの……」
「『選べるわけがない』かい?」と泉はレティシアの言葉を続けた。「それなら、僕の好きにやらせて貰うけれどね……さあ、あと10秒だ。君はどうするんだい?」
レティシアはスクリーンに映っている友人と、眼の前に居る泉とを交互に見比べた。
「あと5秒」と泉は言った。「4秒……3秒……2秒……1秒……」
「ああ!」泉が数を数え終わる直前になり、レティシアは叫びながら旗を前に突き出した。「ああ……」とレティシアは力なく項垂れたのだった。旗の先端は、泉の胸に触れるかどうかの所で停止しており、彼を貫くような事はなかった。「できません……私には、選択なんてできません……」
「そうか」と泉は言った。「それじゃあ、彼女は殺すとしよう」
「え?」
泉が詠唱を唱えると、スクリーンに映っているレティシアの友人は、大声で叫びながら、首や頭を掻き毟り、地面をのたうち回った。しばらくすると、彼女は完全に動かなくなり、その体からいくつもの虫が皮膚を食い破り、体の外に出てきた。
「時間だけはあったからね」と泉は言った。「もしもの時のために、人質に使えるように仕込んでおいたんだ。ま、結果としては全く別の用途になってしまったけれどもね。”赤”の魔術師達にも、この虫を仕込もうと思ったんだけれども、流石にバレて仕込む事はできなかったんだよね」
「なぜ!」とレティシアは涙を流しながら叫んだ。「なぜ殺したんですか!」
「何でって、どうせこの世界はなくなるんだから、今死んでも同じことでしょう?」
レティシアは涙を流し、大声で叫びながら泉へと飛びかかった。それを泉は、床に刺さった剣を抜いて防御した。そして、彼は剣で攻撃を加えた。その攻撃を受けたレティシアは、弾き飛ばされ、床を転がり、うめき声をあげた。
「憎いのですか?」とレティシアの頭のなかにそうした声が聞こえた。「貴女の中から、激しい憎悪の感情が感じ取れます。彼が憎いのですか?」
「はい……」とレティシアはその声に答えた。「憎いです……私の友を殺した……!」
「貴女は今、何をしたいのですか?」
「それは」とレティシアは泉を睨みつけた。「あの人を殺したい……私の友達の敵を取りたい……!」
「良いでしょう! ええ、ええ、良いでしょう! ならば、思う存分復讐しなさい。復讐のための力を貸してあげましょう!」
とその声が叫ぶと、レティシアの金髪は、くすんだ灰色、あるいは白色の髪へと変わり、肌も青白く変化していった。
「私は」と声は言った。「ジャック・ザ・リッパーの亡霊より生まれ出た、偽りの
レティシアは叫びながら、手に持っている旗を振るった。その旗もまた変化しており、竜を思わせるような、禍々しい文様が描かれた。その旗から、漆黒の炎が放出され、泉へと向かっていた。
「ジャンヌ・ダルクオルタ?」と泉は驚いた様子を見せた。「何でだ? そもそも、彼女は英霊として存在していない、しているとしてもFGOのみだろうに。まあ、細かいことはどうでもいいか」
彼は詠唱を行った。泉へと向かっていた黒い炎は、彼の少し前の所で消え去った。その炎は、レティシアの背後から現れ、レティシアの体を燃やしたのだった。
しかし、彼女は旗を一振りし、炎を蹴散らした。
「まあ」と泉はそうした彼女の様子を見ながら言った。「自分の炎に燃やされるような間抜けは居ないよね」
レティシアは旗を振り、泉へと襲いかかった。しかし、その旗の先端は泉に触れる直前に消え去り、その変わりに別の場所に現れ、レティシアの脇腹を突き刺した。
「置換魔術って、本当にどうにかしているよね」と泉は言った。「まあ、これは本来の置換魔術じゃないんだけれどもね。エインワーズの工房内に居る状態の置換魔術を再現しているに過ぎないし。ま、お喋りはこの辺にしておこうか」
彼はレティシアの手を掴み、それを自分の胸元へと移動させ、魔術の詠唱を行った。それが終わると、
「さあ、殺してみなよ。僕が憎いんでしょう? なら、殺してみなよ。魔術で僕の体程度なら、簡単に抉る事が出来るようにしてあげたから」
「な……」とレティシアは息を飲んだ。
「できないのなら、手伝ってあげようか」
と泉はレティシアの手を動かした。彼女の手は、指先から泉の胸へと埋まっていき、やがては心臓を鷲掴みにし、それを握りつぶしたのだった。
泉は胸の傷口と、口とからたくさんの血液を吹き出しながら倒れ、
「これで……僕は死んだ……おめでとう……復讐、完了だ……」
と言うと目を閉じた。彼は死んだのだった。
「あ……」とレティシアは完全に全身の力が抜け、地面に座り込み、自分の手を見つめた。その手には、泉の血液がついていた。「殺した……? そんな……」
レティシアの髪色、肌の色は元通りに戻り、英霊としての力は全て抜け落ちた様子であった。彼女はどこともつかない場所を見つめながら、何か訳の分からない言葉を繰り返し、何度も呟き始めた。今、彼女の精神は粉々に砕け散り、完全に破壊されてしまっていたのだった。
「条件、完了」と泉の口が動いた。すると、彼の体が光り輝き、光が収まると、彼の傷口は完全に塞がれた。泉は起き上がり、レティシアを見ながら言った。「蘇生のルーンを仕込んであるから、生き返るんだけどね。それにしても、少しだけ遊びすぎたみたいだ。少しだけ急ぐとしようか。僕の魔術師としての調子が絶好調になる時間帯まで、すぐそこなんだから」
と泉は黄金の剣を両手に握り、頭の上に掲げ、叫んだ。
「──
「オラァ!」とセイバーはライダーへと攻撃を加えた。しかし、その攻撃はライダーの肌や鎧を傷つけるような事はなかった。彼女は舌打ちをし、言った。「クソ、全く傷がつかねえか。厄介だな!」
「ハハハ!」とライダーは笑いながら言った。「どうした? セイバー! その狂犬の如き攻撃は中々に心躍るものだ! もう諦めるのか?」
「誰が!」とセイバーは叫んだ。
「それで良い! かかってこい、この俺が貴様の首を獲ってやろう!」
とライダーは、セイバーへと槍による連撃を加えた。そうした攻撃をセイバーは受け流しながらも、ライダーへと攻撃を加えるが、それら全てが彼の肉体に弾かれるのであった。
そうした二人の間に、ランサーが飛びかかり、槍を振り下ろした。
セイバーとライダーはその場から飛び退き、その槍による攻撃を躱した。
「ランサー!」とライダーは叫びながら、ランサーと武器を交えた。
ランサーは、何合か打ち合い、一撃をライダーの横腹に加えた。その一撃は、ライダーの鎧と肉体とを貫き、彼の体に一筋の切り傷ができた。
ライダーは、それを確認すると、笑いながら言った。
「俺の体に傷をつけるとは! やはり見込んだ通りだ、カルナよ!」
「光栄だ」とランサーは言った。「かのギリシャの大英雄にそう言ってもらえるとはな」
「テメエ等!」と赤のセイバーは叫び、二人へと襲いかかった。「オレを無視しているんじゃねえ!」
こうしたセイバー、ランサー、ライダーの三人による戦いは、辺りの床や壁、天井を粉々に砕き、大気を恐れおののかせ、震わせていた。この戦いによって、三騎の肉体には少しずつ傷が出来上がっていた。セイバーの鎧はところどころが砕け散っており、兜となるとその半分がなくなり、顔が露出していた。ランサーもまた、その鎧を喪った肉体に大量の切り傷が出来上がっており、ライダーの肉体にもランサーの攻撃によっていくつもの傷や火傷が出来上がっていた。
「中々やるな」とライダーは槍を回しながら言った。「
「そうだな」とランサーは言った。「オレもまた、
「ああ?」とセイバーは言った。「下らねえ! とにかくテメエ等をぶった斬って、オレが聖杯を取る! それだけだ、おとなしくくたばりやがれ!」
「やれやれ」とライダーはため息を吐きながら言った。「風情ってもんが無えなあ……まあいい、かかってこいよ!」
三騎の英霊は、お互い武器を構え、お互いの様子を注意深く観察しながら、攻撃するべき瞬間を見計らっていた。その最中、黄金の光りが彼らの居る部屋の端を掠め、部屋の壁を貫いた。
「これは……」とアサシンは吐いた血液を、手で拭いながら言った。「もしや、ヒュドラの毒か……?」
「ああ」とアーチャーは答えた。「その通りだ。アッシリアの女帝よ。効くかどうかは賭けではあったが、流石はヘラクレスやケイローンを殺す程の毒だ。さしもの世界最初の毒殺者とはいえどもダメージはあるようだな」
「小癪な真似を!」とアサシンはアーチャーを睨みつけた。
「大丈夫ですか?」とシロウ・コトミネは言った。「アサシン、貴女はヒュドラの毒をある程度和らげる事はできるでしょうが、それでも完全とはいえないでしょう。暫くの間じっとしていてはどうでしょうか?」
「『おまえなど知らぬ。お祈りでもしているがよい』おお、女帝殿よ!」とキャスターは言った。「シロウ・コトミネの言う通りでございますぞ。いくら貴女といえども、それはキツすぎる!」
「……良いだろう」とアサシンは頷いた。
「では」と天草四郎時貞は、鍵剣を手に持ちながら言った。「行くぞ、アタランテよ!」
「良いだろう、かかってこい!」とアーチャーは叫んだ。
彼女は矢を幾つも、素早い速度で発射するが、それらの全てが躱されるか、あるいは鍵剣によって弾かれるかであった。天草四郎時貞は、矢を弾きながら少しずつ、アーチャーへと接近していくが、アーチャーはそのたびに別の場所へと駆け、距離を取る。
二人の戦いはこうした事を何度か繰り返していた。しかし、そうするうちに天草四郎時貞はとうとうアーチャーを追い詰め、完全に近づいたのだった。
彼は鍵剣を、アーチャーの首目掛けて振るうが、アーチャーは弓でそれを受け止め、弾いた。そして、弓で天草四郎時貞へと攻撃を何発か叩き込んだ。
「良い弓ですね」と彼は言った。
「そうだろう」とアーチャーは答えた。「アルテミス様より授かった、自慢の弓だ」
二人は会話を交わしながらも、お互いの隙を見極めながら武器を交えていた。そして、数合ばかり交えると、お互いに息を整えるために、飛び退いて距離をとった。お互い睨み合い、お互いの様子を観察していた。
そうしている間に、轟音と共に、黄金の光が、彼らのいる玉座の間の壁を粉々に砕いた。その場に居る者たちは、その壁が砕けた方向を見た。
そこには、一直線の道ができており、その向こうには剣を持った泉がこちらへと歩いてくるのが見えたのだった。