アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい 作:天城黒猫
泉が獅子劫から逃げて、森の中で過ごして暫く経った。
泉は使い魔を通じてある光景を見ていた、それは大男が進む様子だ。
「始まったか」
泉は小さく呟いた後、
「さて、それじゃあ、ボクたちも行動するよ。作戦は──────。
泉はアーチャーに自分の作戦を伝え、アーチャーは泉の指示に従って移動していく────。
森の中を笑いながら筋骨隆々の大男が、立ちはだかるホムンクルスやゴーレムをなぎ倒しながら進んでいく。
彼は赤のバーサーカー。
生前はトラキアの奴隷剣闘士であり、ある日仲間を率いて反逆した反逆の英雄。痛めつけられながらも、逆転し圧制者を引きずり下ろす存在。
攻撃を受ければ、その攻撃を己の糧とし己のチカラを増大させる。
狂ったような笑顔。というのは正にこの事なのだろう。
それは自殺行為に近い。彼はサーヴァントである。普通の魔術師では叶わない存在。だが、相手もまた同じくサーヴァント。人知を超えた英雄の群れに、ただ一人突進するというのは愚かな行為だ。
「おい! 止まれ、バーサーカー!!」
だから彼の進撃を止める存在がいる。木々を飛び移ってバーサーカーの後を追いながら
バーサーカーは笑顔のままで振り向きもせずに答える。「はは、それは無理な相談だな、ライダーよ」バーサーカーはその歩みを止めない。只々前に進む。
「私はあの城に、圧制者のもとに赴かなければならないのだから」
「ああ、やっぱりか」ライダーは言葉が通じないと思っていた。それは真実だった。
言葉を話せるのならば、言葉が通じる。と思うかもしれないが、バーサーカーなのだ。いくら言葉を話せようが、バーサーカーは狂っている。故に
バーサーカーは戦うだけだ。
バーサーカーは圧制者を引きずり下ろすだけだ。
バーサーカーはその為に圧制者のもとに進むだけだ。
ライダーはそれを悟り、追いかけるのをやめた。
ライダーは足を止める。「──おっと」己の武器である槍を取り出す。何故ならば、敵。黒のサーヴァントが近づいてくる気配を感じたからだ。
現れたサーヴァントは2体。巨大な
ライダーは2体の様子を見て、セイバーとバーサーカーか、と問いかける。それに2体は無言と唸り声で答える。
「そうかい、俺は赤のライダー。ああ、騎乗していないのは、まさか戦争も序盤で馬を失ったからじゃない。たった2騎を相手使うのが勿体ないからだ。どうせなら、七騎揃ってなければ面白くも何ともならん」
ライダーは言外にお前らでは相手にならない。と言い、槍を構える。
それにバーサーカーの唸り声は荒々しくなり、セイバーも眉を潜める。
3体ともそれぞれの武器を構えた。
「──来い。真の英雄、真の戦士というものをその身に刻んでやろう」
その言葉を合図とし、彼らは矛を交える。
槍と剣と
彼らは人類史に名を遺したモノ達。
それぞれ成り立ちも、人種も、国も、時代も、──すべてが違う。だが、ただ一つ。赤のライダーは実感していたことがある。
彼らと矛を交え、理解した。常人とは違うと。
相対している2体は紛れもない“英雄”だということ──。
「ハ、いいぜ、もっと戦おうや──!!」
「…………」
「ウ、ウ゛ウ゛ウウウゥゥ────!!」
その様子を泉は使い魔を通じてみている。
「さて、ここまでは原作どおり。──でも、原作通りじゃつまらない。オチがわかっているミステリー小説を読んでいるようなもの。それじゃあつまらない。──さあ、スパルタクス。キミの強さを見せてくれ。
城を半壊させる? それだけでも凄いけどさ、それだけじゃあつまらない。
この先はもう何が起こるのかはわからない。──だからこそ面白いんだけどね!」
泉は森の中で無邪気に笑う。そして荷物を背負って走り出す。
「アーチャーも仕事しに行った。ボクも仕事しなくちゃね!」
巨大なゴーレムを、ホムンクルスをなぎ倒しながら赤のバーサーカーは進む。
その様子を
「うひゃあ、凄い凄い。ボクたちも同じように
「ライダー、笑っている場合ではありませんよ。君の役割が一番危険だ。君がここで死ねば彼はたすかりませんよ?」
黒のアーチャーの言葉に黒のライダーは一人のホムンクルスのことを思い、「わかっているさ!」と答える。
ライダーは黄金に輝く
やるしかないか! とライダーは明るい声で言い、気を引き締めて今回の作戦を思い返す。
──バーサーカーを
それが今回立てられた作戦。
まずはライダーの宝具、
そして
まずは、黒のライダーの宝具が発動しないと話にならない。赤のバーサーカーならば、ゴーレムの腕力を遥かに超えている。押さえつけるには足をなくさなければならない。
「──ッ」
ライダーは槍を構える。もはや元の形が判らないほどに粉々になったゴーレムや木々の残骸を吹き飛ばしながら、森の中からバーサーカーが現れた。
「うわぁ……」
バーサーカーは戦場であるというのに、緊張した様子すら見せずにどこまでも嬉しそうに笑っていた。
それを見たライダーは今すぐ回れ右をして帰りたくなった。
だが、そんなわけにはいかない。槍を強く握りしめる。
「遠ざからん者は音にも聞け! 近くば寄って見よ! 我が名はシャルルマーニュが十二勇士アストルフォ! いざ尋常に──勝負!」
ライダーは威風堂々と口上を叫ぶ。それを聞き届けたバーサーカーはより一層笑みを深くして笑う。
「はははは。良い、その傲慢さは素晴らしいな。さあ! 踏みにじってみせろ!!」
“ライダー!!”アーチャーはライダーに念話を送る。
回避しろ。という念話を受け取ったライダーは後方に飛んだ。
「──うわっ!?」
先ほどまでライダーがいた場所には矢が地面を抉って刺さった。それを見ると矢としては途轍もない威力だということを理解できる。
もしもアレがまともにライダーに命中していたら、と思うとライダーに冷や汗がにじみ出る。
こんな事が可能なのは、アーチャーのクラスでしか有り得ない。
「バーサーカーよ、私は赤のアーチャー。ここは私が引き受けよう。汝は圧制者の元へと向かうが良い」
どこからともなく声が聞こえる。それはアーチャーのものだろう。
バーサーカーはアーチャーの声を聞いて笑う。
「おお、我が同朋か。助太刀感謝しよう」
「良い、進め」その言葉にバーサーカーは進む。圧制者がいる元へと。もちろん、ライダーはそんなことはさせまい。とバーサーカーに宝具を使おうとバーサーカーに槍を刺さんとする。
「クッ!」ライダーは何処からともなく飛んでくる矢を避ける。バーサーカーに近づこうとした瞬間に矢が飛んでくる。
これではバーサーカーに宝具を使おうとする前にライダーに矢が刺さって死んでしまう。
また矢がライダーめがけて飛ぶ。だが、その矢は
「ライダー、矢は私が撃ち落とします! バーサーカーの元へと」
「わかった! ありがとう!」
ライダーはバーサーカーの元へと駆ける。
「成程、流石は英雄の師ケイローン。私の矢を撃ち落とすぐらいは容易いか」
「──!?」
だが、恐らく生前に見知っているのだろう。という可能性を考えた。
実際は赤のアーチャーのマスターである泉より真名を教えられ、矢を落とされるということも言われていたのだが。
その姿を見れば、ケンタロスのように半身人馬という訳ではないが、確かにケイローンだと解った。生前にその名を聞いた事も、姿を見たこともあるのだから。
「──だが、これならばどうだ?」
赤のアーチャーは矢を空に放つ。
「え? なんで空に?」
ライダーはそれを横目で見上げ、首をひねった。
アーチャーは「
「って、ええ!?」ライダーは自分の身を森の木々の中に隠した。
──其は女神アルテミスとアポロンへの矢文。返信は雨の如く無数の矢となり降り注ぐ──
無数の矢が黒のライダーと黒のアーチャーへと降り注ぐ。
黒のライダーは木の下に身をひそめ、黒のアーチャーは矢の範囲外へと移動し、回避した。
「
「2発目!?」ライダーは思わず叫んだ。先ほどの攻撃は間違いなく宝具によるもの。少なからずとも、いくらか魔力が必要だ。
それを連続して放つ。恐らく使う魔力は少ないはずだ、と黒のライダーと黒のアーチャーは推察する。
今度はライダーへの集中攻撃だったが、ライダーは素早く移動することで何とか回避した。
「
──3回目の攻撃。
「くっ! しょうがない、
黒のライダーの腰にぶら下げられた笛がたちまちライダーの体を囲むほどに巨大化した。
それは生前ハルピュイアの大軍を追い払うのに使用された笛だ。
「よーし、いっくよー!」
ライダーは息を大きく吸い込んで、笛を吹いた。爆音による衝撃波が降り注ぐ矢を灰塵と化す。
そして黒のアーチャーは、森の中を移動する赤のアーチャーの姿を視界に入れ、矢を撃つ。
「ッ!」赤のアーチャーは飛んできた矢を回避しようとするが、腕に少しばかりかすってしまった。
それを構わずに矢を空に穿つ。
「──
──4回目。一体どのくらい放てるのか。と黒のアーチャーは考える。それを読み取ったように、赤のアーチャーは言う。
「何でも、私のマスター曰く15回ぐらいならば放てるそうだ」
「そうですか、──それを教えてしまって構わないのですか?」
黒のアーチャーの問いに、赤のアーチャーはまたもや宝具の真名を解放して答える。
2発分の矢の雨が降り注ぐ────。
「──安らかに眠りなさい」
しばらく進み、先ほどからあんなにあったゴーレムやホムンクルスの襲撃が無い。だが、それを気にするような頭脳はバーサーカーには無い。
そして足を止めて上を見上げる。
「お……おおおおおおお!!」
バーサーカーは歓喜に包まれた叫び声をあげる。何故ならば、そこにいたのは間違いなく圧制者なのだから。バーサーカーが追い求めてやまない圧制者がそこにいた。
「お前が、お前が……!!」
「ああ、その通りだ。バーサーカーよ、そなたが求めているものが権力者ならば、その頂に立つ者こそが、余だ」
バーサーカーを見下ろすものこそが、黒の陣営──否。この聖杯対戦の地となったルーマニアをかつて治めていた領主。
その名は吸血鬼として、串刺しの
名を──ウラド三世。
「おお……! 圧制者よ……叩き潰す……!!」
それに対し、
──
地面より無数の杭が生え、バーサーカーの体に突き刺さっていく。
それはウラド三世が生前に,二万ものトルコ兵を串刺しにし、
「ははははは! この程度で私は死なない! 力尽きない! さあ、もっと踏みにじって見ろ!!」
バーサーカーは刺さった杭をへし折って強引に引っこ抜いた。そして、杭が刺さっていた傷口はたちまち塞ぎ、バーサーカーの巨体は巨大化していった。
──
それが
ウラド三世の宝具が生前の行いが形になったものならば、スパルタクスの宝具もまた生前の行いが形になったものだ。
嘗てローマの奴隷剣闘士だったが、ある日仲間を連れて反逆した英霊。勝ち目のない人数差であるローマ軍を少人数で撃退し、不利な状況から逆転して勝利した英雄。──其れこそがスパルタクス。
──国を守護したもの。
──国に反逆したもの。
黒のランサーより命を受けた
その最中、湖周辺を警護させていたゴーレムが破壊されたのを感じ取った。
更に、そのゴーレムを破壊させた人物はまっすぐ湖へと向かっている。
湖の内部に隠してある制作中の宝具、
「──ふう、流石はキャスターが作ったゴーレムだね、壊すのに手間取ったよ」
泉は粉々になったゴーレムを見下ろして、額に流れた汗を腕で拭く。
「さて! 進みますか!」
目指す先は湖。魔術によって強化した体で駆ける。
目的は黒のキャスターの宝具、及びゴーレムにホムンクルス。必要なモノを集めるべく泉はホムンクルスとゴーレムを倒し、その遺体から必要な
「うおっと!」
泉は足を止める。数体のゴーレムが彼の前に立ちはだかったからだ。
「こんなにはやく感付かれるとは思わなかったよ……
そういって泉はリュックから、あるモノを取り出す。それは大よそ魔術師らしからぬ代物、化学によって作られた兵器、手榴弾だ。
「そぉれっ!」泉は手榴弾のピンを抜いてゴーレムに投げつける。そして轟音を立てて手榴弾は爆発した。
「──さぁて、頑張るか!!」