アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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神話戦 序盤

 ライダーとレティシアを乗せた戦車は、凄まじい速度で空を飛び、ほんの僅かな時間、それこそ数秒といった時間で市街地から、その端に広がる平原に落下した空中庭園へとたどり着いた。

 

「そうら、着いたぜ!」とライダーは言った。「さて、取り敢えず戦いの気配がするところにいくとするか!」 

 

 彼の戦車は、庭園の壁とか飾りとか、扉といったものを全て粉砕しながら、まっすぐに進んでいった。

 というのも、彼は、彼自身が持つ戦士特有の直感とでもいうべきもので、これから激しい戦いが起こりそうな気配を感じ取っており、その場所へとまっすぐ向かっていくことにしたのだった。

 

「あの!」とレティシアは叫んだ。

「ライダーさん、右に向かってください! そこにアーチャーがいます」

「ほう」とライダーは言った。「そうか、そういえばあのルーラーのちからを宿しているとか言っていたな、なら英霊の感知能力もあるのか」

「はい」

「そうか、なら一つ聞きたい。俺がこれから向かおうとしているところ、この戦車の直線状にいるサーヴァントは何だ?」

「ええと、セイバーとランサーです。ですがまだ接触はしていませんが、あともう少しで接触するといったところです」

「そうか!」とライダーは笑いながら言った。「そうか! やはり俺の直感は間違っていなかったということだな! あの二騎はかなりの力を持っている。特にランサーの真名を知っている身とすれば、是非とも戦ってみたいところだ」

「ライダーさん!」とレティシアは叫んだ。「お願いします……アーチャーの所に連れて行ってください!」

「俺としては、セイバーとランサー、あるいはそのどちらかと戦いたいんだがな。まあ良いだろう、アーチャーの元へと向かうとしよう。 

 ところでだ、俺は今とても興奮しているぞ! なぜならば、世界を救う! そうした戦いができるのだからな! この行為、この戦いこそ、勇者として相応しいものだ! だが、勇者であるのならば、正確な敵を見定めなければいけないな! 世界をどうにかしようとしているのは二人。シロウ・コトミネか、アーチャーのマスターのどちらか。しかし、その二人を問答無用で殺すというのは、勇者としてふさわしくない行為だ。正確な敵を見定めなければ! さあ、向かうぞ! アーチャーとそのマスターの元へと!」

「ありがとうございます!」

 

 ライダーの操る戦車は、先ほどまでとは違った方向を向き、庭園の壁や飾り物、起動しなくなった罠といった物を全て粉々に砕きながら、床を瓦礫に変えながらまっすぐにその方向へと進み始めた。すなわち、アーチャーの気配を感じ取る事ができる方向へと進んでいった。

 彼がアーチャーの元へとたどり着くのには1、2分ばかりの時間が必要だった。彼の戦車は壁を突き破り、その先にアーチャーの姿を発見すると停止した。

 こうしたライダーの行いを、アーチャーと獅子劫は驚いた様子を見せていた。

 

「何用だ?」とアーチャーは、彼女のすぐ前に止まった戦車を見上げながら訪ねた。「汝が私を目当てにまっすぐ来たということは理解できる。先ほどから壁を壊す音がうるさかったからな。だが、その目的は何だ? ライダー、いいや、アキレウス」

「ああ、俺はただ見極めに来ただけだ」とライダーは言いながら、戦車を霊体化させ、地面に飛び降りると、

 

「アーチャー、アタランテ。その顔はやはり神話の通りに美しいな。まさに麗しという表現がぴったりだ。で、姉さんの横にいる男はセイバーのマスターだろう? なんでアーチャーとセイバーのマスターが一緒にいて、セイバーとアーチャーのマスターが居ねえんだ?」

「ああ、それか」と獅子劫は言った。「分断されちまったんだよ。で、今俺たちは分かれて戦っているって訳だ」

「なんだと!」とライダーは叫んだ。「畜生! やっぱりランサーとセイバーの気配がする方へ行っておいた方が良かったか?」

「なあ、ライダーさんよ。アンタは俺の敵か? それとも味方か?」

「さあてな」と獅子劫の問いかけに、ライダーは両手を広げておどけてみせた。「俺の目的はアーチャーのマスターだったんだ。あいつがどんなやつかひと目見ようと思ってな。お前さんはどうだ? セイバーのマスターよ。俺の敵となるのならば、ここで葬るのもやぶさかではないが?」

「いいや、俺はお前さんとは戦いたくねえな。仮にアーチャーを戦わせたとしても勝てるイメージが沸かん。今回は見逃してくれねえか? 俺の目的はあのアサシンとキャスター、そしてそいつらのマスターだけだ」

「そうかい」とライダーは言った。「まあ良いだろう、だが姉さんよ。アンタに一つ聞きたいことがある」

「何だ?」とアーチャーは言った。

「アンタは自分のマスターの目的を知っているのか? 聖杯に何を願うのか知っているのか?」

「いいや、知らん。だが、そうした事は関係ない。私にも叶えたい願いというのは存在する。そして、私は己の願いを叶えることが出来るのならば、そうした事はどうでも良い」

「マスターの願いが姉さんの願いと相反するものであってもか?」

「もしもそうならば、私はマスターの額を貫くとしよう」

「そうかい。ならいい」とライダーは笑いを浮かべると、振り返った。

「どこへ行くのだ?」とアーチャーは訪ねた。

「もちろん、姐さんのマスターのところさ」

「そうか」

 

 ライダーが戦車を実体化させるほんの僅かな時間の間、アーチャーは素早く弓に矢をつがえて放った。それは吸い込まれるように、正確な狙い、高速でライダーのかかとへと飛んでいった。しかし、ライダーは素早く振り返り、その矢を蹴り飛ばした。

 

「よう、どういうつもりだ?」とライダーは、不敵な笑みを浮かべながら言った。

「何、今なら汝の踵を貫けると思っただけだ」とアーチャーもまた、ライダーと同じような笑みを浮かべながら答えた。

 

 二人はそれぞれ槍と弓を構え、相手の動作の一つ一つに気配を配り合いながら睨み合っていた。この二人の間には激しく、それでいてとても静かな覇気がぶつかり合い、回りの空気を乾燥させ、震わせていた。

 

「止めてください!」とレティシアは震える声で叫んだ。彼女の顔や体には、たくさんの汗が流れていた。「二人共止めてください! あなた達の目的はそれぞれ全く別のものであるはずです。ならば、こうしてわざわざ争う事はないでしょう」

「ああ、俺もそこの嬢ちゃんと同感だな」と獅子劫は言った。「俺たちが今ここで闘っても意味が無いだろう。ここはお互い武器を収めてくれないか?」

「冗談だ」とライダーは槍を霊体化させながら言った。「俺は女に槍を向ける趣味は持ち合わせていねえしな」

「フン」とアーチャーは鼻を鳴らしながら彼と同じように武器を霊体化させた。「まあ良いだろう。先ほどの攻撃も、もしかしたらと思って適当に放っただけだ。ヘラクレスと並ぶと呼称されているギリシャの英雄ならば、あの程度楽々と対処できるであろうよ。お互いただのふざけ合いだ」

「ふざけ合いねえ」と獅子劫は両手を上げながら言った。「そんなふざけ合いは御免こうむるな。ただの魔術師である俺がこんな至近距離で英霊達の戦いに立ち会っていたら、たちまちのうちに巻き込まれて俺の体は粉微塵だ」

「そいつは悪かったな」とライダーは笑いながら言った。ちょうどその時、セイバーとランサーが居る方向から、大きな物音と、衝撃波が広がり、彼らが居る場所まで伝わった。

 

 それを感じ取ったライダーは、

 

「もう始まったか!」と実体化させた戦車に飛び乗ると、レティシアの腕を掴み、戦車の上へと引っ張り上げると、「よし、ここに用はねえ! 行くぞ!」と手綱を操作した。すると、戦車は凄まじい速度で、先ほどの衝撃が発生した方向へと、庭園の壁や床を粉々に砕きながら走っていった。

 そうしたライダーの様子を見届けたアーチャーはため息を吐きながら、

 

「やっと行ったか。全く、何で喧嘩を売るような真似をするんだか」

「何、元より本気でやり合おうとは思ってない」とアーチャーは答え、ため息を吐きながら言った。「全く、殺気や音といったあらゆる気配を潜め、それでいて本気で放った一撃だったというのに、あっさりと弾き返した。ライダーの奴は確かにヘラクレスと並ぶ英雄であろうな。私が奴と戦うというのは、ヘラクレスと戦うのと全く同じような物だ。あのまま闘っていたとしたら、私はおそらく一撃か二撃で敗北するだろうよ」

「だったら、俺はなおさらお前が何であんな事をしたのかがわからないな」

「ライダーも、私も戦うつもりはないということだ。奴の目標は、私ではなく全く別の場所だったようだからな。今のは、お互いにとってじゃれあいのようなものだ」

「そうかよ。全く冗談じゃねえな。冷や汗を掻いたぞ」

 

 アーチャーと獅子劫は、こうした会話を交わしながら一本道を真っ直ぐと進んでいった。その速度はゆっくりとしたものではあったが、彼らは常に、あらゆる方向に対して、最大の警戒を行っていた。

 

 

 

 泉を抱えて移動していたセイバーは、扉に突き当たった。彼女は、泉を抱えていない方の手に剣を握ると、その扉を斜めに叩き切り、蹴飛ばした。真っ二つになった扉のうち一つは、蹴飛ばされた事により、凄まじ速度で部屋の中へと飛び込んでいった。それを、部屋の中で待機していたランサーは、槍を振るって粉々に砕いた。

 セイバーは、そうした僅かな間に、泉を放り投げて部屋の中を観察した。この部屋は4、5メートル四方ほどの大きさであり、部屋の中心には四角形の机が置かれていた。その机を囲んで座っているのは4人の男女であった。

 彼らは虚ろな表情で、何かを呟いたり、身振りをしたり、中身の入っていないカップを口につけたりとしていた。ランサーは、そうした彼らを背後に控え、セイバーの前に立っている。

 

「オイ」とセイバーは言った。「ランサーよ、ソイツらは何だ? 見たところ暗示か何かにかかっているようだが」

「そうだ」とランサーは答えた。「彼らは元”赤”のサーヴァントのマスター達だ」

「なる程な、あのいけ好かないアサシンに操られたか。しかも、手元に令呪の後が残っているということは、令呪まで剥ぎ取られたか」

「そうだ。今はシロウ・コトミネがオレ達のマスターとなっている」

「そうかよ。まあ、そんな事はどうでもいい。オレは操られるような雑魚魔術師には興味ねえからな」

 

 彼女は、こうした言葉を兜の下で、歯茎を見せ、獣のような笑みと目をしながら言った。

 

「良いだろう」とランサーは言った。「オレはお前がオレと戦いたいというのならば応えよう。しかし、彼らは元とはいえどもオレのマスターであった人物だ。オレは彼らを死なせたく無いと思っている。ここで戦えば余波で彼らが死んでしまうことも考えられる。だから、別の場所でやるとしよう」

「良いだろう!」

「じゃあ僕はここで待っているよ」と泉は空いている椅子に座りながら言った。「別にやることもないしね。二人の戦いに巻き込まれても嫌だから、ここに居るよ。どうやら、自分で準備すれば毒入りでないお茶も飲めるようになっているようだし」

「呑気なヤツだ」とセイバーはため息を吐いた。

「ま、さっさと帰ってくれば?」と泉は言った。

「当たり前だ」

「一つ聞きたいことがある」とランサーは泉の方を振り向いて言った。「お前は、聖杯に何を望む?」

「自分の愛するモノを手に入れたい」と泉は答えた。その目には、深い警戒の色が浮かんでいた。

「そうか」とランサーは振り向き、セイバーを案内していった。セイバーはランサーの後へとついていった。

 

 泉はそうした彼らを見送ると、部屋にあった紅茶を用意し、それを飲みながら一息ついた。そうしている内に、しばらくすると、轟音や衝撃がいくつも響いた。彼の居る部屋は振動し、天井の埃が落下したり、机の上に置かれたティーカップが地面に落ちて割れたりとした。

 泉は、元”赤”のマスターたちを見回した。こうした衝撃の中でも、彼らは架空の相手に向かって、それぞれ全く違った事を喋っていた。

 

「まあ、当然だけど」と泉は呟いた。「ロットウェル・ベルジンスキーはいないみたいだ。念のために彼にも仕込みをしていたけれど、全くの無駄足に終わったみたいだね。まあいいさ。

 さて、モードレッド(反逆の騎士)カルナ(不死身の英雄)では、軍配はカルナの方に上がるかな? いや、彼は槍を得た代わりに鎧を喪っているから、攻撃はそのまま通じるから、モードレッドの方が勝つかな? 一体どちらだろうね? 君はどう思う?」

 

 と泉は入り口の方を振り向いて言った。そこには、レティシアが立っていた。

 泉は手で自分の向いにある、空いている椅子に座るように促した。彼女はそれに従って、椅子に座った。

 

「で、どう思う?」と泉は微笑みながら言った。「あ、紅茶はいるかな?」

「いいえ、いりません」とレティシアは言った。「それに、どちらが勝つかは私には予想できません。ついでに言うのならば、先ほどライダーが私を戦車から下ろして、その戦いに乱入しました」

「へえ!」と泉は驚いた表情を浮かべた。「ライダーが? そうなるとわからないな。一つだけ言えるとすれば、ランサーのみがライダーに攻撃を通す事ができるというだけだ。真っ先に誰が死ぬか賭けるつもりは?」

「ありません。それに、私はそうした事を話すためにここに来たのではないのです」

「そうか、じゃあ何を話に来たんだい?」

(レティシア)は、貴方の願いについて聞きたいのです」

 





 次回予告! 
 泉の願望とは──? レティシアは何を思うのか?
 セイバー、ランサー、ライダーの混戦! 反逆の騎士に不死身の英雄に、無敵の英雄! 
 もう一方では、アーチャーVSアサシン&キャスター&天草四郎時貞! 魔術師はサーヴァントの戦いには訳に立たねえよ! すっこんでいやがれ! ギリシャの女狩人にアッシリアの女帝に、名高い劇作家に聖人!
 果たして最後に立っているのは誰だ──!? 
 次回! 【神話戦 英雄共】
 カオス盛りだくさん、ボリューム盛りだくさんでお送りします!

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