アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

35 / 49
空中庭園への侵入

 ───とある王は泥の力によって、人類を選別しようとした。

 

 ───とある魔神はあらゆる時代の人理を焼却し、そのエネルギーによって過去へと遡ろうとした。

 

 ───とある巨人はあらゆるものを破壊する力で、大地を抉り、海を蒸発させ、山を砕いた。

 

 ───とある悪役は隕石を地球の中心に穿つことにより、惑星を破壊しようとした。

 

 ───また、とある男は戦争を、とある女は快楽を、とある人物は──

 

「───しかし、それらはすべてが失敗に終わっている」と泉は言った。

「王は正義の味方を目指すものに斃され、魔神は普通の人間に斃され、巨人は聖剣の光に貫かれ、悪役の企みもまた、探偵によって破られてしまった。この世界の正史の英霊は全人類を不老不死にしようとした。しかし、それも叶わなかった。

 なぜか? なぜ、これらの願いは叶わなかった? もちろん、原因はいくつかある。それを邪魔する人物がいるからだ。それと戦う人物がいるからだ。

 でも、最大の存在、世界を脅かすにあたって、最大の敵が存在する。それが抑止力。抑止の力によって願いが叶わなかったものがいくつかある。

 そう、世界を滅ぼすにあたって、最大の敵は人間でも、動物でも、英霊でもない。抑止の力だ。抑止力が存在している限り、世界を滅ぼすなんていうことは出来ない。

 ならば、世界を滅ぼすにはどうすればいいのか? それは簡単だ。世界を味方につければいい。正しい手順を踏み、世界が自ら世界を滅ぼすようにすればいい。───さあ、始めようか。世界を滅ぼすための計画を!」

 

 

「世界を救う、か」とライダーはマスターの念話と、令呪による命令とについて戸惑いを見せながらも、機嫌よく笑いながら言った。

「世界を救う! いいな、それはいい! 世界を救う! まさに英雄としてふさわしい行いだ! だが、敵は二人、もしくはどちらか片方。そのうち一人は俺のマスターだ。なあ、ランサー、お前はどうする? お前はどのように行動する?」

「そうだな」とランサーは答えた。「マスターは嘘を言っていないと感じた。世界がマスター自身、あるいはアーチャーのマスターによって滅ぶということを確信していた。

 それはつまり、このままオレたちが何もしなかったのならば、世界が滅びるというのは本当のことだろう。

 オレは、マスターの命通り、オレ自身が正しいと思える行動をしよう」

「そうかい。俺は……そうだな、とりあえずはアーチャーのマスターを叩くとするか」

 

 とライダーは、彼の前から逃げた泉たちを探すために街中を素早く移動し始めた。

 ランサーは、空中庭園へとまっすぐ向い始めた。

 こうした彼らの行動を、泉は街中に放った使い魔たちの目を通じて観察していた。

 

(世界を滅ぼす、か)と泉は考えた。(彼らがそうしたことを言うということは、僕がこの世界を滅ぼそうとしていることがバレたということだ。だけど、それは想定内、むしろ判明するのが遅かったぐらいだ。これで、全てのピースは完成した)と彼は一緒にいるアーチャー、そして獅子劫とセイバーに見られないように、見られたとしてもわからないような、小さな笑みを浮かべた。

(”黒”の陣営は全滅し、ジャンヌ・ダルクも敗北し、”赤”の陣営でも残るのはセイバーと獅子劫、天草四郎時貞が率いるランサー、ライダー、キャスター、アサシン。そして僕とアーチャー。そして、新たに召喚された英雄王。

 あとは聖杯を獲得さえすればいい。天草四郎時貞、お前のやっていることは全てが無駄だ。たとえ、獅子劫とセイバーとアーチャーが、僕の思惑に気付いたとしても、僕をどうにかすることは不可能だ。だが、最後まで油断してはいけない、Fate/という世界において、油断こそが最大の敵なのだから)

 

「獅子劫さん、それにセイバー」と泉は言った。「ライダーが、僕たちを探して仕留めようとしている。彼の不死の肉体の前に、僕たちの攻撃はことごとくが跳ね返されるだろう。正直言って、ライダーと戦うことは無謀そのものだ。

 そして、僕たちの目的は聖杯だ。空中庭園にある聖杯さえ取れば、残りのサーヴァントはどうにでもなる。これは約束しよう。でも、さっきも言った通り、街にはライダーがうろついている。だから、空中庭園にどちらかがたどり着ければいい。聖杯さえ取れればいい。

 幸い、僕は町のあちこちに使い魔を放っている。だから、彼がどこをどう通っているのかは、手に取るようにはっきりとわかっている。僕の後をついていってほしい。向かう先は空中庭園だ」

 

 その提案に獅子劫は頷き、ほかのサーヴァントたちも頷いた。

 泉は使い魔たちの視覚を自分自身の目と共有させ、高速で移動するライダーがどこにいるのかを把握しつつ、彼がどこにどう向かうのかを予想しつつ、彼と出会わない道筋を慎重に選択した。

 その結果、彼らはライダーと遭遇することはなく、空中庭園の元へとたどり着くことができたのだった。

 平原にその巨体を横たわらせている空中庭園の前で泉は、獅子劫たちにこう言った。

 

「あの空中庭園のトラップだとか、魔術的な防御だとかはほとんどが破壊されている。でも、一歩でも庭園の中に入ると、そこはアサシンの領地だ。彼女は庭園の中のみで、強力な魔術を自在に使うことができる。だから、くれぐれも用心して欲しいんだ」

 

 こうした彼の注意を、獅子劫とそのサーヴァントは胸の中にしまいこみ、空中庭園の下部分の壁が崩れ、穴ができている部分から中に入っていった。

 中に入ると、薄暗かった。

 泉は魔術によって明かりを灯した。壁には何かしらの彫刻が施されており、天井には、等間隔で明かりを照らす為の魔術的な電灯装置が吊り下げられていた。それは、庭園の機能が停止したために、本来の役目を果たすことはなかった。

 

「フン、随分と悪趣味なところだな」とセイバーはそうした景色を見て呟いた。それから、迷いを見せずに左右のうち、左方向へと歩き始めた。

 

「オレの直感が言ってやがる。コッチにあのアサシンがいるとな」

「ああ、その通りだとも。反逆の騎士よ」と暗闇の向こうから姿を現したアサシンは、音を出すこともなく、侵入者達の元へと歩み寄った。

 彼女の表情は怒りに染まっていた。そして、その怒りは泉へと向けられていた。泉は、そうしたアサシンの視線に気付き、おちょくるかのような動作をして見せた。

 

「全くもって不愉快だ。この庭園を見よ! 我が生前に建設することはなく、伝説のみで語り継がれた虚栄の庭園を! いくら虚栄とはいえども、この庭園は我の城であり、どうじに誇りでもあったのだ。それを、このようにして堕とされること、これはつまり、我の顔面を泥のついた靴で踏み敷かれるのと同じことだ。

 だが、良いだろう。落ちてしまったものは仕方があるまい。今の我が出来ることと言えば、この庭園を堕とした罪人を、我直々に裁く事のみなのだからな!」

「どうするよ? 奴さん随分と怒っているぜ」と獅子劫は言った。

「そうだね、アサシンは怖い……魔術は怖い……毒は怖い……まあ、彼女はただの幻影というか、立体映像だし攻撃するだけ無駄でしょう。逃げるが正解だよ」

「させると思うか?」とアサシンは庭園に命令を送った。すると、4人の侵入者を2組に分けるように壁が出現した。

 これによって、泉とセイバー、そして獅子劫とアーチャーとの二組に分かれてしまった。すなわち、この場にいるサーヴァントとそのマスター同士が別々のサーヴァントとマスターとに分かれてしまったのだった。

 

「クソ、念話は妨害されているか……聞こえるか?」と獅子劫は壁の向こうにいるセイバーへと叫んだ。「聞こえるか! セイバー!」

「ああ、聞こえているぜ! かろうじてだがな!」とセイバーは答えた。

「これは、どうするべきかな?」と泉は言った。

「決まってんだろ、この壁をブチ壊す!」とセイバーは、魔力放出を伴った斬撃を壁に叩きつけた。

 凄まじい衝撃と、轟音とが辺りを響かせた。壁は無傷であった。

 

「クソ!壊せないだと?」とセイバーは兜の下で、憎々しげな表情を作り、壁を睨んだ。

「当然だとも、その壁は特別製だ」とアサシンは言った。「貴様らがあの穴からここに侵入する事を予想し、貴様らを分かつ為に、速攻で作り上げた特別な壁だ。たとえ、岩を砕く攻撃であろうとも、破壊することは不可能だ」

「壊せないんじゃあ、しょうがないか」と泉は壁の向こうに聞こえるように叫んだ。「アーチャー! アーチャーはしばらくの間、獅子劫さんのサーヴァントとして動いて欲しい!アーチャーも、サーヴァントとして動いて!」

「正気か?」と獅子劫は言った。「令呪の交換もなしに、サーヴァントの交換だと? と言いたいところだが、この場じゃあ、そうするしかないだろうな……」と獅子劫はアーチャーを一瞥した。

 アーチャーはそうした目線を感じ取り、

 

「私は構わん。この場においては、そうするしかないだろう」

「クソ、仕方がねえか」とセイバーは舌打ちをした。「だが、テメエの命令を全部聞くとは思わねえ事だな。オレの好きにやらせてもらうぞ」

「それでいいさ」と泉は答えた。

「話は終わったか?」とアサシンは言った。「何、これから死ぬ前に、最後の会話をさせるぐらいの寛容さならば持ち合わせている故にな。さあ、我の死の力を見るが良い!」

 

 とアサシンは詠唱を始めた。

 詠唱が終わると、大人2、3人分ほどの大きさをもつ毒蛇が、泉とセイバー、獅子劫とアーチャーとの前に、一匹ずつ召喚された。

 各々の毒蛇は、毒の吐息を漏らしながら、敵へと攻撃を加えるべく大きな口を開き、毒の牙を突き立てる準備をしていた。

 

「セイバー、怪物退治はブリテンで経験しているでしょ?」と泉は言った。「少なくとも、アーサー王は巨人、猪、邪竜、唸るものとか! ピクト人とかを倒しているよ!」

「ハン、当然だ!」とセイバーは答えた。「んでもって、父上は確かにそうしたモノを倒していやがる! ならば、この程度の毒蛇、オレの相手じゃねえ!」

「アーチャー、お前は、その動きから察するに狩人か何かだろう?」と獅子劫は言った。「なら、あの怪物を狩ってくれ!」

「ああ、承知したとも」とアーチャーは答えた。「獣……とりわけカリュドンの猪と比べると……まあ、あっちのほうがまだ可愛げがあるか? 森の生命を殺す毒息を吐かないからな。だが、そんな事は些細なことだ!」

 

 こうして二人の英雄は怪物へと各々の武器を構えた。

 セイバーの直感は、毒蛇のことを危険だと激しく警告しており、彼女は直感と自分の経験と、本能とにすべてを任せ、怪物が攻撃を行うよりも前に、魔力放出によって素早く毒蛇のもとへと移動し、剣による強烈な一撃を浴びせたのだった。この攻撃は効果覿面といったように、毒蛇は唸り声を漏らし、身を悶えさせた。

 セイバーは素早く第二撃を与えた。

 毒蛇の脳天は剣によって切り裂かれ、血液を吹き出しながら地面に倒れた。

 アーチャーは、毒蛇が毒の吐息を吐き出そうとし、口を大きく開いた瞬間を目ざとく狙い、素早く、それでいてなるべく力を込めて弦を引き絞り、矢を射った。放たれた矢は、高速で空気を切断し、蛇の口の中へと突き刺さり、そのまま脳を一瞬で破壊した。

 

「所詮はただ巨大なだけの毒蛇か!」とセイバーは言った。「この程度、このオレの敵じゃねえ! オレの足を止めたければ、トゥルッフ・トゥルウィスでも持って来やがれ!」

「トゥットゥルーが来たらやばいんじゃないのかなあ?」と泉はセイバーに聞こえないように呟いた。それから、セイバーに、

「セイバー、油断しないで欲しいな、さっきの毒蛇は前座のようなものだと思うから。アサシンが本気になれば、バシュムとか、ヒュドラとかの召喚もできるから」

「テメエにンなこと言われる筋合いはねえっつうの」

 

 セイバーは通路を駆け出した。

 泉は肩をすくめ、彼女の後を追いかけた。

 

「アサシンのやつの姿が見えんな……」

 

 と獅子劫は辺りを見回したり、耳を済ませたりする様子を見せた。

 アーチャーは、

 

「奴ならば、私があの毒蛇と戦っているどさくさに姿を消したぞ。まあ、アレはただの幻影だ。いるいないは対した問題ではないだろう。この場に留まっていてはまた何か仕掛けてくる可能性が高い」

「だよな。じゃあ動くぞ、慎重にな。あちこち駆け回っていれば、そのうちあいつらと合流できるだろう」

 

 こうして獅子劫とアーチャーは通路を歩き始めた。

 

 泉はセイバーの後で走りながら、こうした事を、動作や表情に出すことはなく考えていた。

 

(僕の目的は、アーチャーとの合流ではない。むしろ、お礼を言おうか、アサシン。君が僕達をちょうどいい塩梅に分断してくれたおかげで随分とやりやすくなった。僕が目指す先は、ただひとつ。英雄王ギルガメッシュが待ち構えているであろう聖杯の元だ。

 この庭園の構造は前に空から攻めた時に大体把握している。だから、聖杯の元まで移動するのは簡単なことだ。セイバーというサーヴァントは適当な相手、つまりカルナにでもぶつけて足止めさせればいい。カルナがこの庭園にいるとすれば、彼は毒を飲まされた元マスターのところだろう……まずは、そこまで移動するとしよう。

 後もう少し、後もう少しで聖杯を獲得できる。そして、僕の願いを完遂することができる! ああ、あともう少しだ……だけど、焦る必要はない。そう、慎重に、かつ大胆に行動するべきだ。慢心したら死ぬ、それが聖杯戦争なんだから……)

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。