アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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天下者と聖人

「こっちの方向に逃げて!」と泉はアーチャーに抱えられながら叫んだ。彼女は彼の指示に従いながら、入り組んだ街の中を全力で走り回っていた。その速度は、自動車よりも早く、まさに俊足と呼ぶにふさわしいものであった。

 

「汝、本当にこれでいいのか?」と彼女は問いかけた。「一度空中庭園の土を踏んだのだ。ならば、そのまま大聖杯を手に入れる方が効率的ではないのか?」

「いいや、それはダメだ」と彼は答えた。「君も感じているだろう? 新たなサーヴァントの気配を。僕の予想が正しければ、その気配の正体はギルガメッシュだ」

「何? あのホムンクルスに憑依させたものと同じ英霊なのか?」

「うん、そうだよ。どうやら彼はあの、ギルガメッシュの宝具を使えるようにしたホムンクルスという釣り絵にまんまと引っかかってくれたみたいだ。傲慢不遜な英雄王が、そんな真似をするヤツを見逃すはずがないからね」

「では、吾々はあのギルガメッシュの怒りを買ったということか?」

「そうなるね。でも、大丈夫だ。アレは確かに傲慢不遜ではあるけれど、愚かじゃない。ここに召喚された瞬間、彼の目はすべてを見通したはずだから」

「どういうことだ?」とアタランテは問いかけた。

「つまり、ギルガメッシュが動くことはないということさ」と泉は答えた。

 

 彼は、犬や猫、それから梟や鼠に蛇といった動物を使い魔とし、この町中のあらゆる場所に潜ませていた。彼らは、泉がペットショップで購入した動物たちであった。そして、彼は動物たちの目を通し、ランサーとライダーの動きを見張っていた。二人のサーヴァントは、泉たちの居場所を気配で感じ取り、正確な方向、正確な道筋で追いかけていた。彼らは、泉たちのすぐそこまで迫っていた。

 

「アーチャー、次の角を曲がる! それから、5番目の角を曲がって、そのまま全力でまっすぐ走って!」

 

 サーヴァントはマスターの命令通りに移動した。

 市街地の住民たちは、聖杯大戦による不穏な気配をそれとなく感じ取り、外を出歩くものたちは全くいなくなっていた。そのため、アーチャーは全速力で、市街地の道路を走ることができるのだった。しかし、彼女のすぐ後ろには、ライダーがほんの300歩ばかりといったところまで迫っていた。そして、その距離は少しずつ縮んでいった。

 

「非常に癪だが」とアーチャーは焦りと、少しばかりの屈辱を隠しきれない様子で言った。「私よりもあのライダーの方が早い。このままでは追いつかれるぞ。交戦するか?」

「いいや、まだ早い……」と泉は周囲を見回しながら言った。「まだ戦うのは待ってほしい。このままライダーとランサーの二体と戦っても、勝率は非常に低い。カルナは鎧を捨て、その防御を捨てた代わりに強力な槍を手にした。アキレウスは胸、つまりは心臓にある霊核を砕かれ、令呪の力とアサシンの魔術とによってある程度動けるに過ぎないという状況だ。でも、生前は心臓を貫かれてもしばらくの間暴れまわったという逸話をもつ。つまり、油断はできない。だから、万全を期して戦いたい……よし、そろそろだ! あともうひと踏ん張り、逃げ切って!」

 

 と泉は叫んだ。アーチャーはそれに答えるように、少しばかり足を速めた。ライダーもそれに合わせて走る速度を速め、あと少し手を伸ばせばアーチャーを捕まえることができるといったところまで、互いの距離は縮まった。

 ライダーが手を伸ばした瞬間、曲がり角の物陰から、セイバーが魔力放出によって素早く飛び出し、ライダーに剣を振り下ろした。その一撃は、まったくの不意打ちであった。ダメージこそあまり無かったものの、彼をひるませるには充分であった。

 泉は、ライダーがひるんだ瞬間を見逃さず、アーチャーの腕から飛び降りた。そして、アーチャーもまた、その隙を見逃さず、弓を手に持ち、矢をライダーに打ち込んだ。しかし、それはライダーの槍によって弾かれた。そうしている間に、ランサーも彼らの元に追いつき、ライダーの横に並んだ。

 

「よし!」とセイバーは剣を構えながら言った。「ライダーとランサーが相手か! アーチャー、ここは共闘といくか。どうやら、オレたちのマスターが念話でこの状況を作り出すことを打ち合わせていたみたいだしな」

「いいだろう」とアーチャーは言った。「汝は好きなように暴れまわれ。私の矢は正確にライダーとランサーのみを射抜こう」

「そのぐらい、弓兵ならできて当然だろう? 薄目野郎とどっちが弓の腕が上か見させてもらうぜ」

「ハ、セイバーとアーチャーの両方が相手か!」とライダーは槍を一回転させながら言った。「いいぜ、俺はこの二人を相手する。ランサー、お前はアーチャーのマスターを殺せ!」

「了解した」とランサーは答えた。

「へ、行かせるかっての!」とセイバーは叫んだ。

 

 セイバーとアーチャーの陣営と、ライダーとランサーの陣営との戦いが始まった。

 セイバーは、ライダーとランサーとの二騎が振るう槍を剣で相手取り、アーチャーはセイバーの後方から矢による狙撃で支援を行った。しかし、彼女たちの攻撃をライダーはその肉体と、研ぎ澄まされた技術によって跳ね返した。ランサーもまた同様に、槍のすさまじい一撃によってセイバーに攻撃を加えたり、矢を叩き落したりとしていた。

 泉は、戦うサーヴァントたちを後方で見ながら、

 

「まずいかな」と言った。「アーチャーとセイバーが圧倒的に不利だ。まあ、相手はアキレウスとカルナなんだから、仕方ないかな。セイバーは確かに強いし、アーチャーも強い。でも、ギリシャとインドのトップに入る英雄が相手じゃあ、こっちが劣るのは当然かな? ま、彼女たちがあの二人を引き留めている間に、話をしよっか、獅子劫さん」

 

 と泉は振り向きながら言った。物陰に隠れていた獅子劫は、

 

「バレていたか……」と頭を搔きながら、泉の隣に移動した。「全く、これでも全力で気配を消していたつもりだったんだがな」

「いや、まったく分からなかったよ」と泉は笑いながら答えた。「確かにどこに隠れているのかは、全く分からなかったけれど、もしもの時、セイバーに確実な指示を送るためにはこの近くにいなくちゃいけないからね。だから、適当に声を出しただけだよ」

「そうか。言いたいことは色々とあるが、今はいいだろう。で、話ってのはなんだ?」

「前に言ったよね。僕は『獅子劫さんの呪いを無かったことにすることができる』って。その準備が8割ほど終了したから、報告しようと思ったんだ」

「ああ、ヒュドラの幼体との交換条件のアレか。本気で呪いを消すことができるのか?」

「言ったでしょう?」と泉は笑いながら言った。「僕は魔術師だ。ヒュドラとの交換条件は、この聖杯大戦が終わった後に呪いを解く。魔術師は契約を守る生き物だ、ちゃんと取引は守るさ。でも、それを守るには僕と獅子劫さんの二人が生き残らなければならない。(それに、先生からの依頼もあるし)だから、僕たちは必然的に共闘せざるを得ない。

 さて、今セイバーとアーチャーは、ランサーとライダーと戦っている。でも、こちらは押され気味だ。相手は強力なトップサーヴァント。このままじゃあ、僕たちは敗北する。どうする?」

「そうだな……」と獅子劫は、これまで戦場で培った様々な経験や直感を頼りにし、この状況において最善ともいえる行動を考えた。「ひとまずは、逃げて確実に殺せる機会をうかがうのが一番だろうな」

「やっぱりそうだよねえ。まあ、もともと獅子劫さんとセイバーと合流するのが目的で、街まで移動したんだから、これ以上ここにいる必要は無いか」

 

 泉はアーチャーに念話で、「今からセイバーと一緒に逃げるから、タイミングをうかがってほしい」というような言葉を送った。彼女はそれに頷いた。獅子劫も同様の指示をセイバーに送り、セイバーもまたそれに同意した。

 セイバーとアーチャーとの二人は、ライダーとランサーと戦いながら、彼らの隙を伺っていた。しかし、洗練された彼らの戦い方、動作に隙と呼ばれるようなものは一切なかった。セイバーは舌打ちをしながらも、ライダーとランサーの攻撃をかわしたり、剣でいなしたりとしていたが、それだけで彼女には精一杯であった。アーチャーも、正確無比な射的でライダーとランサーに攻撃を行っているが、矢のほとんどは武器で弾かれていた。そして、矢が当たっても、ライダーの不死の肉体の前には矢じりが刺さることはなかった。

 セイバーの鎧には、彼らの攻撃による細かい傷が無数に入り、少しでも油断をしたらその鎧の下にある肉まで断ち切られるといった状態であった。その最悪といえる事態は、セイバーの直感と経験、そしてアーチャーの狙撃によって何とか回避されていたが、彼らはセイバーの剣筋やアーチャーの癖といったものに少しずつ慣れていった。

 それを見て取った泉は、

 

「アーチャー、セイバー、目を閉じて!」と言いながら閃光手りゅう弾を放り投げた。手榴弾は破裂し、大きな音と激しい光があたりに放たれた。それらは、ライダーとランサーをほんの一瞬だけ怯ませるには効果抜群のものであった。こうして生まれた隙を、セイバーとアーチャーは見逃さず、素早くそれぞれのマスターを抱えてその場から逃げ出した。

 

 

 

 

「近代の英霊とか、相性的にマジ勘弁なんじゃが!」と織田信長は言った。「だって、わし神秘の濃い英霊とかなら、宝具であっという間にイチコロなのに近代の英霊だとそうはいかないしの! 相性が悪いのじゃ、相性が! FGOでもコイツルーラーじゃし、バサカとアヴェ以外のクラスの攻撃は普通にしか効かないしの! まあ、この時空だと、それは関係ないんじゃが!」

 

 彼女の服は天草四郎時貞の攻撃によって、所々に切れ目が入っており、砂埃によって汚れていた。しかし、彼女の肌に天草四郎時貞の刀が届くことはなく、あくまで服を切断するまでにしか至っていなかった。

 

「全く、ここまでわしの服を切り裂くとか、本当勘弁なんじゃが。せっかくの一張羅が台無しじゃ……」

「何を言うか……」と天草四郎時貞は、刀を杖のように持ち、膝をつきながら言った。彼の体は織田信長の刀や火縄を使った攻撃によってあちこちが激しく傷つき、血が大量に流れ、何度も地面を転がった証として泥にまみれていた。「俺をここまでボロボロにしておきながら、愚痴をこぼすとは。どうやら満足していないようだ」

「当然じゃろ。わしは天下統一直前まで行った武将じゃというのに、後世のしがない一揆の首謀者にここまで刀傷を負わせられたんじゃからな。ま、誇っても良いぞ? わしの服にここまで傷をつけたんじゃからな」

「それは、それは……光栄ですね……」

 

 と天草四郎時貞は立ち上がりながら言った。そして、額から流れる血をぬぐい、刀を構えた。彼の目には、激しい野望の炎が燃え盛っており、織田信長を睨みつけた。

 

「俺はここで死ぬわけにはいかない」と彼は敵の動作一つ一つを見逃さず、全身を強張らせながら言った。「剣技、スキル、宝具、霊基、俺はあらゆる面においてお前に負けている。だが、それでも俺は勝たなくてはいけない」

「何ゆえにじゃ?」と織田信長は問いかけた。「なぜ、きさまはそこまで必死なのじゃ?」

「言うまでもない。俺の願いを叶える為だ。俺は全人類の幸福を願っている。悪という概念を徹底的に振り払い、善の概念のみしかない世界を実現する為だ!」

「なるほどのう。全人類の幸福、確かに聖人らしい願いじゃ!」と彼女は言い、あたりを見回した。

 

 彼らの戦い野中でも、戦は続いており、たくさんの人間があらゆる方法で殺し、あるいは殺されるといった光景が見られた。政府軍は一揆をおこした農民たちをあらゆる方法で殺していった。中には、既に戦う意思を失い降伏した農民もおり、政府の兵に命乞いを行っていたが、政府の兵は笑いながらその農民の首を跳ねた。

 

「フン、この戦がきさまの願いのきっかけか」と彼女は言った。「甘いのう。戦国の世においては、この程度の小さな戦など、地獄と呼ぶには生ぬるい。ただの児戯よ。きさまは知らんのじゃ、戦によって作り出される地獄というものをのう」

 

 織田信長は火縄の引き金を引き、天草四郎時貞の肩を正確に打ち抜いた。彼はうめき声を上げながらよろめいた。

 

「真の地獄というものを見せてやろう」と織田信長は言った。「戦、絶叫、血飛沫、涙、そして───炎による地獄を! あらゆる神仏をわしは否定しよう。あらゆる信仰をわしはねじ伏せよう。ああ、これこそが魔王の炎なり! これよりは、大焦熱が無間地獄! 三界神仏、灰燼と帰せ。我こそは第六点魔王波旬第、織田信長なり! ───六天魔王波旬!」

 

 第六天魔王の固有結界が世界を塗り替え、周囲の光景が切り替わった。

 その光景というのは、炎に包まれた世界であった。寺の一部である瓦礫は炎によって灰となり、仏像は炎によって溶かされ、人間もまた、炎に包まれていた。

 

「敗北者は全て炎に包まれ、なすすべもなく燃え尽きる。総てが炎に包まれ、総てを灰燼と帰す。──これこそが戦じゃ。これこそが地獄じゃ。あのようなちっぽけな一揆など、戦国の世ではよくあることじゃ。世界を救うつもりならば、真の地獄を見、体験し、抗ってみせよ! 天草四郎時貞!」

(これは……)と天草四郎時貞はその地獄を見て、激しい戦慄を覚えた。(これは、戦などでなはい……ただの一方的な蹂躙だ。強者も、弱者も、敵も、味方も、炎に包まれたのならば総てが等しく燃やし尽くされる。そう、その相手が神であろうともだ。まさに神仏すらも恐れない織田信長そのものだ。ここに希望などはありはしない、総てが絶望と炎とに包まれた世界。そう、まさにこれこそが地獄なのだろう。確かに、俺が味わったあの戦と、この炎の世界とを比べたら、あの戦は生ぬるく見えるだろう。だが……)と彼は刀を握る力を強めながら言った。「この世界はまさに地獄だろう。だとしたら、俺は尚更敗北するわけにはいかない。これは、織田信長という人間が作り出した地獄だ。そして、お前という人間が作り出せるというのならば、他の人間でもこの地獄を作ることができるだろう。人間の悪辣さというのはそういうものだ。ならば、その地獄を作り出す人間がなくなるためにも、俺は敗北するわけにはいかない」

「で、あるか」と第六天魔王は頷いた。「それがきさまの答えか。この地獄における回答か。ならば良いじゃろう。わしという人間は、天下布武のために手段を択ばなかった。そうじゃ。まさにわしこそが地獄そのものじゃ、人間という悪そのものじゃ。倒して見せよ。我という悪をのう」

 

 天草四郎時貞は自らの肉体すらも炎に包んだ魔王に、刀による一撃を加えるべく咆哮し、全力で駆け寄った。





ちなみに、織田信長の属性は秩序・中庸だったりします。自分、生前の行いからしてぜってえ悪だわ、とか思っていました。すまない……
ちなみに、宝具使用時は全裸です。全裸の幼女に刀を持って飛び掛かる天草という図になっております。

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