アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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第六天魔王・織田信長

 天草四郎時貞とキャスターは庭園のおおよそ中心部にある、大聖杯を収納多している部屋に移動した。その部屋というのは、地面と天井とが逆しまになっており、彼らは天井の上を歩き、水が張られている床を見上げるといった形だった。

 

「では、そろそろ始めますか」とキャスターのマスターは言った。「ですが、その前に令呪にて命じさせてもらいす。『キャスター、バッドエンドを書くな』」

「なんと!」とキャスターは首を振りながら言った。「ひどい、これはあまりにもひどいですぞ。マスター。作家である私に物語の内容を制限するなど」

「申し訳ありません。ですが、貴方はそうでもしないとバッドエンドを書いてしまう。そうでしょう?」

「ええ、ええ!」とキャスターは微笑みながら言った。「まさにその通りですとも! よく私の事を理解しておられる!」

「キャスターの作品はすべて読ませていただきましたからね。とりわけ4大悲劇は入念に読みました。だからこそ、こうしようと決心したわけなのですが。では、そろそろ始めましょう」

「そうですな、おお! マスターよ。貴方がやろうとしていることは、まさに英雄どころか神の所業そのものです。であれば、このシェイクスピアめはその奇跡の瞬間に立ち会わせていただきましょう」

「奇跡など大げさですよ」と神父は首を振りながら言った。「私はただ自分の願いを叶えようとしているだけですからね。では、そろそろ宝具を起動させましょう」

「そうですな」とキャスターは頷いた。「もちろん、準備はバッチリでございますとも。ああ、ですがその前に質問したいことがございます。少々よろしいですかな? マスター」

「……構いませんよ」とキャスターのマスターは答えた。「ですが、なるべく手短にお願いします」

「ええ、ええ、わかっておりますとも! さて、では問いかけていただきます。マスター、極東の聖人天草四郎時貞。貴方は世界の平和を願っている。しかし、その平和が叶わないとなると、貴方はどうしますか?」

「どうもしません」と彼は答えた。「願いが叶わないのならば、ああ、無理だったかで済まします。少しは残念がるでしょうが、無理だったと受け入れましょう」

 

 シェイクスピアは驚きと納得とが混ざり合った表情を浮かべた。それから、身をひるがえし、

 

「そうですか」と頷いた。「では、もう私から聞くことはございません。ところでマスター。貴方は私の物語を読んだとおっしゃった。では、私の生前の経歴については知っていますかな?」

「もちろんですよ。シェイクスピア。私は今までに行われた亜種聖杯戦争にて召喚されたサーヴァントを調べつくし、私の願望を叶えることができる力、すなわち宝具を持っているサーヴァントを選んだ。それが、貴方とアサシンなのです。亜種聖杯戦争での記録を見て、どんな身恰好なのか、どんな性格なのか、どんな嗜好なのか、そういった細かいことも調べました。

 ……ああ、どうやら貴方の問いかけていることは、そういう事ではないようですね。生前の貴方、つまり歴史上において認識されているシェイクスピアの経歴も調べさせて頂きましたよ」

「では、この私は現在作家として召喚されているものの、かつては舞台に立って演技を行う俳優であったこともご存じでしょうな! さて、マスター、私は貴方に謝らなければいけないことがあります」

 

 とシェイクスピアは微笑みながら言った。

 

「一つ貴方は先ほど私に令呪によって、『バッドエンドを書くな』と命令しましたな? まあ、それは当然のおこないでしょう。私の事を知っているのならば、尚更。ですが申し訳ありません。ぶっちゃけ申しますと、私、既に書いちゃっているんですよ。バッドエンド」

「は?」と天草四郎時貞は困惑しながら言った。

「ええ、ええ、本当に申し訳ありません。天草四郎時貞、貴方の願いは叶いません。では、そろそろ始めるとしましょうか! では、とくとご覧あれ! この私、ウィリアム・シェイクスピアがたった一人の男の為に書き上げた、最高で最低の物語を! 観客は御座いません! ですが、ご清聴願います! タバコはお断り! 桟敷から立つな! 開幕から終幕までしっかりと御覧じろ! 開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)!」

 

 キャスターは宝具を発動させた。

 天草四郎時貞はなすすべもなく、キャスターが書いた宝具によって作り出された世界に閉じ込められた。彼はあたりを見回した。

 簡単な鎧を身に着け、簡単な槍を手にもった足軽や、ただの着物しか身に着けていないが、手には火縄を持った農夫たちが騒ぎながら城の石垣を登ってくる敵たちを叩き落していた。そして、彼自身も神父服ではなく、鎧を身にまとって、刀を手に握っていた。そして、彼の周りには、彼に跪いて祈りをささげる農民たちがいた。

 

「なるほど」と彼は頷いた。「これは、私が籠城した原城の時の様子ですね」

「ええ、そうでございますとも!」とキャスターは答えた。「今のご気分などはいかがですか?」

「そうですね……まあ、貴方の事ですから仮に私に宝具を仕掛けてくるならば、この状況を生み出すと予測していたので、対してどうという事はありませんね」

「なんと。それは驚きですね。ですが、今は開幕にすぎません。ここから先は、貴方も驚きの状況となっていくでしょう」

「それは楽しみですね」

 

 当時の島原の乱そっくりの光景を、天草四郎時貞は眺めた。その戦場は、他の戦場にもよく見られるように、地獄の一部が現世に舞い降りてきたかのようであった。たくさんの人々は、叫びながら人々を殺し、命を奪われた人々は断末魔の叫びと血しぶきとをあげながら倒れる。女性は他の男たちによって代わる代わる犯された。

 そういった光景こそは、まさに阿鼻叫喚であった。

 武器をぶつけ合う男たちの間から一人の女性が天草四郎時貞へと向かってゆっくりと歩いてきた。彼女の身なりは、黒い軍服といったようなものにマントを羽織り、豊臣秀吉がかぶっていた馬藺の兜と同じ飾りを帽子にあつらえていた。彼女は、サーヴァントの気配を放っていた。

 ルーラーは彼女の真名を見破り、体を震わせた。

 

「織田、信長ですか」と彼は言った。「彼……いえ、彼女はこの時代ではとっくに死んでいますよ?」

「ええ、そのぐらいご存じですとも」とキャスターは言った。「ですが、まあ。これは物語ゆえに。私の物語にも、魔法とか魔物とかバンバン現実にはあり得ない……いえ、魔術を知らない人々にとってはあり得ないものがたくさん出てくるので、このぐらいは許容範囲ですとも。ああ、それとも宮本武蔵の方が良かったですかな? まあ、それはともかくして、私はやることがございますので、ここらで失礼させていただきます。『生きるか死ぬか、それが問題だ』マスター、どうかご無事を祈っております!」

 

 キャスターとの通信は完全に途切れた。

 天草四郎時貞は織田信長に対して、神経質なまでの警戒を向けた。それは、彼女の一つ一つの小さな動作すらも見逃さないというものであった。彼女は、あたりを見回し、

 

「ここは戦場である」と言った。「兵どもが兵どもを殺し、戦意を失った兵は背後から串刺しにされ、火縄の雷鳴は人の魂を刈り取る。血しぶきは大地を彩り、死体を彩る。ああ、これぞまさに戦場、これぞ地獄である! 天草四郎時貞、これがお主の見てきた地獄か?」

「ええ、その通りです」と天草四郎時貞は答えた。「信長公、これは私が生前に見た光景そっくりそのままです」

「で、あるか。戦国の世が終わった時代の人間からすれば、さぞ惨いじゃろうな。天草四郎時貞よ。一度の戦に勝利してしまい、そこから少しずつ深い沼にはまっていった結果がこの戦じゃ。戦というのは、一度始め、そして勝利してしまうとそのあとは次々と敵が立ちはだかってくる。それこそ、天下を統一せん限りな」

「そうですね。まさにその通りです。この戦いもそうでした。私達はキリシタンの弾圧に抗おうとして戦った。私達キリシタンは農民たちの集まりでしたが、相手は政府でした。もちろん、烏合の衆である農民が政府軍に勝てるわけがない、と私は思っていましたが、私たちは勝利した。勝ってしまった。その結果、総大将を任されていた私は、『奇跡の子』ともてはやされ、他のキリシタンたちはますます勢いづいて政府と戦いました。彼らは、敗北することはないと信じて……」

「惨いのう」と織田信長はため息をつきながら言った。「全く、ほんの偶然、ほんのまぐれで勝利したというのに、皆はそれを奇跡とした。全く、これだから宗教とか神とかいうのは嫌なんじゃ。ちょっとした、どうでもいいことを奇跡とかでっち上げて調子づくんじゃからな」

「返す言葉もありませんね」と彼は苦笑しながら言った。「それで、そろそろ本題に移りましょう。織田信長公、貴女はキャスターの宝具の登場人物だ。そして、()()の役割は()と戦う事だろう?」

「カカカ!」と彼女は笑いながら言った。「ああ、全く持ってその通りじゃ。作家ごときにワシが動かされるなぞ、業腹ではあるが是非もなし。ワシはサーヴァントではなく、キャスターの宝具によって作り出された舞台装置の一種じゃからの、ならばキャスターの思い通りに動くとしようではないか!」

 

 天草四郎時貞は腰にぶら下げている刀を、鞘から抜いて構えた。それと同時に、織田信長もまた刀を手に持ち、もう片方の手には火縄を持ち、お互いの距離や隙を伺い始めた。

 キャスターは彼らの様子を眺め、

 

「ここまでは予定通り」と言いながら原稿を懐に仕舞った。「さて、『無からは何も生まれぬ』と言いますが、貴方様はその法則には当てはまらないようですな」と彼は言いながらその場に跪いた。「全く、聖杯の力を借りずにこうして現界するなど、まさに規格外ですな! 『ああ、私の勘が当たってしまった!』」

 

 ギルガメッシュは大聖杯を背に立ち、その赤い目で辺りを見回し、キャスターの存在を初めて認めると、

 

「ほう」と言った。「では、貴様はこうして(オレ)が現れるという事を予測していたということか?」

「ええ、その通りでございます」と俳優は一つ一つの動作、一つ一つの言葉に細心の注意を払いながら言った。「人類最古の英雄王殿。とある魔術師は貴方の財宝を盗み出しました、ならば、貴方はその愚か者に対して怒りを抱き、何かしらの制裁を必ず加えるだろうという予測はできておりましたので」

「フン」とギルガメッシュは鼻を鳴らしながら言った。「雑種ごときが生意気な事を言う。この(オレ)の動きを予測するだと? だが、今回は赦そう。そして一つ、貴様は間違った事を言っている。確かに(オレ)は我が宝物を盗み出した者に対して制裁を与えるべく、自力で英霊の座から現世まで現れた。しかし、今回(オレ)は動かぬ」

「と申しますと?」

(オレ)に問いを投げかけるか?」

「いえいえ、そんなつもりは御座いませんとも」

「まあ良い」とギルガメッシュは言い、それから怒りの表情を浮かべた。「フン、(オレ)がこうして現界した時点で、(オレ)は罠にかかったも同然よ。この聖杯大戦とやらの児戯は当事者である雑種共で解決せよ」

「ええ、承知致しましたとも。『不幸な時代の重荷は我々が背負わねばいけぬ』と申しますので。私どもで何とかいたしましょう」

 

 とキャスターは言うと、部屋から出て行った。残ったギルガメッシュは蔵から玉座を取り出し、それに座った。そして、膝をついて笑いながら言った。

 

「そら、急げよ。全力で抗えよ。雑種共」

 

 

「キャスター!」とアサシンは怒りを隠そうともせず、念話でキャスターの脳内に話しかけた。「貴様、一体どういうつもりだ? シロウを宝具の中に閉じ込め、さらに……アレは英雄王であろう? なぜあやつが召喚されておるのだ? 答えよ、お前が知っている事すべてを口に出せ。でなければ、我の毒で永遠に続く地獄を味わせるぞ」

「おやおや、これは怖いですな!」とキャスターは言った。「では、すべてを正直に答えるとしましょう。女帝殿よ、これはすべて必要な行為、起こって当たり前の現象なのですとも」

 

 キャスターの説明をすべて聞いたアサシンは、初めにキャスターの気が狂ったと思い、その次にこの事実を現実のものであると受け止めた。そして、目の前を眺めた。ついさきほどまでライダーとランサーが挟み撃ちにしていた、アーチャーとそのマスターはギルガメッシュが現れた瞬間に、気を取られた三人の隙を正確に突いて、その場から逃走していた。

 

「ライダー、そしてランサーよ」と女帝は言った。「あのアーチャーのマスターを殺せ」

「応よ、しかし良いのか?」とライダーは言った。「なんだか、随分とすさまじい気配がするサーヴァントが召喚されたみたいだが、そっちは無害と考えていいのか?」

「分からん。だが、今は何かの行動をとるつもりはないようだ。言っておくが、あのサーヴァントは下手をすれば、貴様らよりも強いであろう。下手な行動を取ってくれるなよ?」

「応、承知した。女帝さんがそこまで言うのならば、そうしよう」

 

 ライダーとランサーの二人は、泉を抱え、凄まじい速度で逃げ去ったアーチャーの後を追いかけた。とりわけ、アキレウスはその俊足ですぐさまに追いつくといった勢いであった。

 そして、空中庭園の端まで移動すると、庭園はすでに地上すれすれと言ったところまで高度を落としているのを観察することができた。アーチャーたちはここから飛び降りたに違いなかった。

 

「ここまで庭園が落ちているとはな」とライダーは言った。「あともう少しで、完全に地面に接触するぞ? 女帝さんよ」

「分かっておるわ」と女帝は言った。「あえてそうしているに過ぎぬ。この庭園の攻撃および守備の機能はあらかた破壊され、何の役にも立たぬ。この城は、すでに浮かぶだけの機能しか持たぬといっても良いだろう。それでも、我自身の強化は続いておる。よって、着地させ、セイバーをおびき寄せて、ケリをつけるつもりであったが、その作戦は完全に裏目にでたようだ。なぜならば、アーチャーのマスターに逃げられたのだからな……

 ともあれ、貴様らはアーチャーのマスターを始末せよ。セイバー陣営と出会った場合は交戦しても構わぬが、なるべくアーチャー陣営を優先せよ」

「あいよ」とライダーは答えた。ランサーもそれに続いて頷いた。

 

 しばらくすると、庭園は土煙と轟音とを立てて草原の上に降り立った。大地が揺れたことにより、周囲の動物たちはいっせいに起き上がり、森の中や木の上を駆け回った。

 彼ら二人は庭園から降り、アーチャーが逃亡した先として最も有力な候補である市街地へと移動した。





 でえじょうぶだ! ノッブが出てくるのはプロット通りですから! 決して本能寺のせいで、武蔵から変更してやろう! とかは思っていませんので! ……残念ではないノッブのキャラは書いていて違和感がムンムンと漏れ出ているのは気にしない方面で。

 次回予告!
 【セイバー陣営&アーチャー陣営VSライダー&ランサー】
 【天草四郎時貞VS織田信長】

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