アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい 作:天城黒猫
ルーラー、ジャンヌ・ダルクは、空中に浮遊する”赤”のアサシンの宝具を見て、真っ先に神秘の隠匿がしっかりと行われているか、様々な調査をした。
その結果、神秘の隠匿はしっかりと行われている事が判明した。魔術師ではない、一般の人からすると、あの巨大な城は、誰もが月だと認識しており、城自体に認識を阻害する魔術が覆われている事を確認し、ルーラーとしての、第1の活動を終えた。
そして、彼女は第2の活動に移った。
その第2の活動というのは、”黒”のアサシンについて、なんらかの対処、なんらかの処罰を行うということだ。
というのも、此度の聖杯大戦にて召喚された”黒”のアサシンは、魔術師はおろか、一般人すらも、全身を切り裂き、心臓を抉り取るという、猟奇殺人を、神秘の隠匿を行わずに、行っていたからだ。
地元紙では、既に「ジャック・ザ・リッパーの再来か?」というような報道が行われており、ルーマニアの人々は、毎夜震えて過ごしていた。
ルーラーとしての特権である、敏感で、正確な感知能力と、スキルの啓示を最大限に発揮し、ジャンヌ・ダルクは、”黒”のアサシンの居場所を突き止めるべく、市街地を駆け回っていた。
その結果、多少なり時間がかかったものの、”黒”のアサシンの居場所を突き止める事が出来た。いや、その言葉は相応しく無いだろう。正確に言えば、彼女は、”黒”のアサシンに出会った。
というのも、ルーラーは、市街地を移動していると、いつの間にか、毒性のある、紫色だとか灰色とでもいったような色の霧が周囲に立ち込めているのに気が付いたからだ。
その霧は、彼女の対魔力スキルの前には、ただ視界を塞ぐだけであった。
「”黒”のアサシンですか?」とルーラーは霧の中で、あちこちに響き渡る声で叫ぶ。「私は此度の聖杯大戦を管理する為に召喚されたサーヴァント、ルーラー、ジャンヌ・ダルクです!
貴方は、聖杯戦争の最も基本的なルールである、神秘の隠匿、聖杯戦争に関係する事の隠匿を行っておりません!」
「へえ、そんなのもあるんだ」とルーラーの背後に突如現れた、”黒”のアサシンは、あどけない声で言う。「でも、わたしたちがどうしようが、勝手でしょう?」
彼女はナイフを構え、宝具の真名を呟く。
その名は──
その正体は、ロンドンの娼婦たちが堕胎した子供達の、霊の集合体である。そういった子供達は、そういった地獄で生まれ、それに怨みを抱いた。──それらが集まったものが、”黒”のアサシンの宝具である。
「
”黒”のアサシンのナイフが、ルーラーへと向かって振るわれる。
ルーラーは咄嗟に旗を構え、”黒”のアサシンよりも数瞬ばかり遅れて宝具を発動する。
その宝具こそは、彼女の祈りが絶対的な守護へと昇華したものであり、その旗はありとあらゆる呪いを跳ね除ける。
”黒”のアサシンはナイフを振るう。月明かりを反射した時の、一瞬のきらめきに混じって、漆黒の怨念とでもいうべき物体がナイフを纏い、ルーラーへと襲いかかる。
ナイフの切っ先がルーラーへと届く、まさに紙一重の差で彼女の宝具も発動された。その
「何で?」と”黒”のアサシンは首を傾げる。「何で、死なないの? ……そっか。その旗と、確か対魔力だったっけ?それのせいだね」
「ええ」とルーラーは吐き出した血を拭いながら答える。「その通りです」
彼女は言葉を続けようとしたが、それと同時に”黒”のアサシンの呟きを耳にし、咄嗟に旗を”黒”のアサシンへと振るう。
その攻撃は回避され、”黒”のアサシンは霧の中へと消えていった。
「待ちなさい!」とルーラーは叫ぶ。「”黒”のアサシン! その様な事は、私が許しません!」
彼女の焦りの原因というのは、”黒”のアサシンの呟きにあった。その言葉というのは、次のようなものだった。
「そっか、通じないなら仕方がないね。……今日は、魔力を使っちゃったから、もっともっと、一杯、手当たり次第にたべよう」
その無差別殺人の宣言が、ルーラーを慌てさせていた。
しばらくすると、霧の向こうから物音がしたと思ったら、それはすぐに鳴り止んだ。それから暫くして、心臓の無くなった警官の死体が発見された。物音というのは、その警官が倒れた音であった。
ルーラーは”黒”のアサシンの凶行を制止すべく駆け出した。
暫く移動すると、道の端に足の健あたりを切断され、呻き声を上げながら倒れている子供が発見された。ルーラーはその子供へと駆け寄り、その体を抱きかかえて容態を確認する。
「ねえ」とどこからともなく、”黒”のアサシンの声が響き渡る。「その子、どうしよっか?」
「何が目的なのです……?」とルーラーは虚空を睨み付けて言う。
ふと見ると、道端には彼女が抱きかかえている子供だけではなく、老人や青年、婦人といった、様々な年代の、様々な性別の人間が、体のどこかしらを痛めつけられ、呻き声を上げたり、泣き叫んだりしながら倒れていた。
この光景の製作者は、ルーラーへと「わたしたちの要求に従わないと、皆殺しにする」といったようなメッセージを送信していた。
「答えなさい! ”黒”のアサシン!」とルーラーは叫ぶ。
「そうだね」と”黒”のアサシンは言う。「まずは、その旗を地面に置いて」
ルーラーは”黒”のアサシンの言葉に従った。
「それと、ルーラーは、令呪を持っているんだったけ?」
「ええ、私には2回令呪を行使する権限を所持しています」
「そっか。それは危ないね……どうしようかな?」
”黒”のアサシンは一瞬思考する。そのわずかな時間をルーラーは見逃さず、ルーラーとしての権限を素早く発動する。
──スキル、神明裁決。
ルーラーは2角の令呪を用いて、「自決しなさい」といったような事を、”黒”のアサシンへと命じた。
その命令が、ルーラーとして、そしてキリストを信仰するものとして、正しいものであったかどうかを、彼女は考えた。が、彼女は啓示と自分の意思と判断に従うがままに行動した。
「”黒”のアサシン!」と彼女は叫ぶ。「貴女はやり過ぎました! 神秘を、証拠を隠匿するのならばともかく、今までの行動、そしてそれを続けていれば、いずれ聖杯対戦乃至神秘が漏洩すると私は判断しました。
故に、ペナルティを与えます。ルーラーとしては少々行きすぎた、少々出しゃばり過ぎた行ではあるかもしれませんが、私はこのままでは聖杯大戦及び神秘が漏洩すると判断しました」
”黒”のアサシンは、自分の喉にナイフを突き立てようとしたが、それは彼女のマスターである六道玲霞の令呪によって相殺された。
それを見越していたルーラーは、”黒”のアサシンが先ほどの行動をしている間に、素早く旗を拾い、ルーラーとしての鋭利な感覚を存分に発揮し、素早く”黒”のアサシンへと攻撃する。
旗の先端に取り付けられている槍が、”黒”のアサシンの胸へと迫るが、”黒”のアサシンは体を捻り、霊核がある場所には刺さらず、その代わりに肩へとルーラーの攻撃が突き刺さった。
ルーラーはすぐさま2回目の攻撃を加えるべく、旗をふるった。2度目は腹を切り裂いた。
”黒”のアサシンは素早く後退し、ルーラーから逃げ出そうとした。しかし、ルーラーはさせまいと”黒”のアサシンを追い掛ける。
”黒”のアサシンは逃げ出す途中で、ナイフやメスといった武器を、追跡者へと、凄まじい速さと正確さを持って投げつける。それらは、振るわれる旗によって弾き飛ばされる。
そういったことが、曲がりくねった路地裏だとか、大通りだとかの、様々な場所に移動しながら繰り返された。そうしている内に、ルーラーの中に存在する、”黒”のアサシンについての記憶が徐々に朧げなものになっていく。しかし、彼女は経験と勘とを頼りにしながら、”黒”のアサシンを追跡し続けた。
”黒”のアサシンはとうとう観念したのか、立ち止まる。
「”黒”のアサシン」とルーラーは呼び掛ける。
霧は先ほどよりも一層濃くなり、その中に孕んでいる毒性も幾ばかりか強いものになっていた。それでも、ルーラーは対魔力によってそれらを無効化する。
霧の向こうにぼんやりと浮かんでいる人影は、ゆっくりとルーラーへと歩み寄る。
ルーラーは警戒し、身構える。
人影の姿が鮮明に確認できる程の距離になると、彼女は驚きと共に、小さく声を漏らす。というのは、その姿は”黒”のアサシンのものではなく、寝間着を羽織った、まだ10もいかない幼い少女のものだったからだ。しかも、全身を致命傷にならない程度、それこそ自力で歩ける程度に斬り裂かれていた。これこそは、まさに”黒”のアサシンの仕業に違いなかった。
少女は涙を流し、怯えたように小さく震えながら、たどたどしい足運びでルーラーへと近づく。
そういった少女の姿は、ルーラーを刹那よりも多くの間驚かせた。
そういった僅かな時間を狙った”黒”のアサシンは、始めと同じ様に、ルーラーの背後にこっそりと忍び寄る。
「此よりは地獄。わたしたちは炎、雨、力──」
”黒”のアサシンの宝具の発動条件である夜と霧と女の3つは、完璧に揃っており、そのうえ、先ほどとは違い、ルーラーが旗を手に取るよりも、”黒”のアサシンのナイフが届く方が速いと、宝具による攻撃が完全に成立するには余りにも確実な状況となっていた。
斯くして、この夜、サーヴァントに対する、ジャック・ザ・リッパーによる殺人は行われた。
この夜、”黒”のアサシンの霊核は、より強靭な物に、より確実な物となった。
「
死霊魔術師と黒魔術師は、まさに一進一退というべき戦いを行っていた。
獅子劫の肉体は、黒魔術ならではの、その肉体と魂を激痛という呪いで蝕まれており、少し動くだけでも、全身を激しい激痛が襲う。
一方、セレニケもまた、獅子劫の、通常の黒魔術師とは全く違った戦闘スタイルによって、その不慣れな相手によって、少しずつ、全身に傷を負っており、今や、衣服の殆どは敗れ落ちたか、彼女の肉体から滴り落ちる血液に染められたかのどちらかであり、今や服というべきものの原型は保っておられず、強いて言うならば、彼女の血液が赤いドレスとなり、彼女の全身をまとっていた。
「クソ……」と獅子劫は痛みを堪えるかのように歯ぎしりをしながら呟く。「このままだと、千日手或いはどちらかの限界が来て、倒れるかだな。……尤も、その限界というのは、俺の方が先になりそうだが」
怒りという感情というのは、思ったよりも強いものであり、冷静さとか理性を失う代わりに、強烈な力をその身にもたらす感情だ。
つまり、セレニケは”黒”のライダーを失った事により、”赤”に対する強烈な怒りを抱いている。それによって、本来ならばとっくに倒れていてもおかしくない状況になっても、その怒りという、不屈の意志によって立ち続けているのであった。
「ほら、ほら!」とセレニケはもはや獣だとか、一種の狂人に近い、攻撃的な笑顔とでもいうべき絵顏で言った。「さっさと死にさないよ! このクソ野郎!」
「お断りだね。お前さんこそ、さっさと死にやがれ。イカレキチ野郎が!」
と獅子劫は咆哮にも近い叫び声をあげながら、銃の引き金を引く。
轟音と火花が発生したと思ったら、銃弾はセレニケへと着弾した。獅子劫の正確無比な射撃によって発車された弾丸は、セレニケの胸、つまりは心臓がある部分に一寸の狙いもなく命中していた。
しかし、彼女はなんら動揺する様な様子は見せず、それどころか更に興奮や殺意といった感情が高まったようにも見えた。彼女は5寸釘を数本獅子劫へと投げつける。
獅子劫は、とっさにそれらを躱したが、その内の一本は、彼の肩へと突き刺さった。
尋常ではない、神経とか、痛覚とかを直接握り、引きちぎられたかのような痛みが、獅子劫の肩から全身へと襲う。
獅子劫はやはり苦痛にもがききながら、
「畜生が!」と呟く。「サーヴァントを失ったマスターなんざ、相手にする必要な無えが、厄介なことに、こういった手合いは、どこまでもしつこく追いかけてくるから、早めに始末するのが一番だ。
が、思ったよりもしぶとい……判断を誤ったか。今は、アイツの攻撃に含められている、『気絶する事ができない呪い』に感謝するべきか」
獅子劫は全身の力を振り絞り、懐から煙幕を取り出す。
セレニケが獅子劫の姿を、煙によって見失っているうちに、彼は痛覚によってうまく動かない肉体を、一生懸命動かし、その場から素早く逃れる。
彼の今までの経験が、こういった仕業を容易なものとしていた。
煙幕が晴れた。
セレニケは瞬時に状況を理解し、怒りをより一層激しく燃え上がらせ、廊下を移動し、途中にある扉を破壊し、その部屋の中の家具といったものも全て破壊し、獅子劫の姿を捜索する。
途中ですれ違ったホムンクルスの生命も、とてつもない素早さで、ちょうど八つ当たりで、部屋に置いてある物を蹴り飛ばすかのように奪い取っていった。
そういった、彼女の、破壊神シヴァもかくやという暴虐ぶりに、見事に気配と姿を隠していた獅子劫はわずかに身震いした。
セレニケはそういった暴威と、傷付いた体から血液を流しながら、城内を移動していた。その姿は、まさに抗いようのない、理不尽な、竜巻や地震といった災害のようだった。
「おや!」と天草四郎時貞は言う。「これはこれは。どうやらユグドミレニアの魔術師のようですね……そういった傷を見るところ、獅子劫さんの仕業でしょうか?」
彼とセレニケは廊下の曲がり角で、ばったりと出会った。
セレニケは天草四郎時貞の言葉には答えずに、彼に向かって攻撃をする。それは、ガンマンが、ホルダーから銃を抜くかのように、とても素早く、正確だった。
しかし、天草四郎時貞もまた、ビリー・ザ・キッドにも負けず劣らずの素早さで、──それこそセレニケよりも早く──黒鍵を抜き、それを彼女の心臓めがけて突き刺した。
セレニケはまさに悪魔の悲鳴とでもいうべき叫び声を挙げて、地面に倒れ伏した。
「さて」と天草四郎時貞はのんびりとした様子で言う。「ここらにダーニックはいない様ですね……おや?」
”赤”のアサシンより通信を受け取った彼は、小さく、それこそ聖人が浮かべるとは思えない様な、邪悪にも近い微笑みを、一瞬だけ浮かべた。
その理由というのは、今回の聖杯大戦にて召喚されたルーラーが、”黒”のアサシンによって殺害されたからだ。
彼はそういった知らせを受け取って、肩の荷が下りた事に一瞬力を抜く。
「よう」と先ほどまで身を隠し、事のあらましを眺めていた獅子劫は、天草四郎時貞の前に姿を現して、言う。「さっきのは見事な攻撃だったぜ。神父さん。で、ダーニックがどうこうと呟いていたみたいだが、どうしたのか?」
「それはどうも。大したことはありませんよ」と天草四郎時貞は頭を小さく下げて言う。「それで、私は先程までダーニックと戦っていたのですが、彼はどうやら、この城を逃げ回っているようでして……こうして、あちこちを彷徨いて探しているんですよ」
ダーニックの逃走とも取れる戦い方というのは、実に見事なもので、城の中の魔術的なものから、物理的な物の罠という罠を駆使し、ルーラーである彼に目くらましを仕掛けながら、あちこちを移動していた。
そして完全に見逃した彼は、先ほどのような行動を取っていたのだった。
こういった事を聞いた獅子劫に、一つの懸念が浮かび上がる。
「まずい!あいつが危ないかもしれないな……!」
「あいつというのは、アーチャーのマスターの事でしょうか?」
「ああ、その通り。もしも、ダーニックがあいつと出くわしたら、恐らく戦闘になるだろう。俺は、依頼主から、泉の生命を守るように言われているんだが……!」
「なるほど」と神父は頷き、獅子劫の言葉を引き継ぐ。「もしかしたら、殺されるかもしれません。相手は腐ってもロード、つまり、魔術の腕もかなり
両者は自分達が何をすべきなのかを、即座に理解し、泉乃至ダーニックを捜索する。
彼らの懸念は、正解であった。
城内を移動していた泉と、ダーニックは、廊下にて出会った。
「おっと」と泉は言う。「ダーニックか、あの神父さんはどうしたのかな?」
その言葉にダーニックは答えず、魔術師らしい、素早い判断と、冷酷さで泉を攻撃する。
「やれやれ! 無視するの? 質問にはちゃんと答えましょう! そういうわけで、君にはペナルティー!」
泉の命令によって、天井裏や壁に潜んでいた水銀は、凄まじい速さで、ダーニックへと襲いかかった。それだけではなく、フィオレとの戦闘で生き残っていた虫達も、ダーニックへと襲いかかる。
ダーニックは、それらに暫くの間抵抗していたが、やがて水銀による致命的な一撃を受け、倒れた。
「びっくりした!」と泉は呟く。「まさかダーニックと出会うなんてね。ま、それはともかく、これで残りの”黒”はアサシンのみになった訳だ。
さて、ここから先は、ひっそりと姿を潜ませて、こそこそ小細工をさせてもらおうかな。
そして、事が済んだら、”赤”には阿鼻叫喚をプレゼント! 僕とアーチャーは幸せになるっていう寸法さ!」
泉は暫くの間どうするべきか悩み、水銀や虫、その他の魔術を使って、己の肉体を傷つける。
そして、倒れて動かなくなったダーニックの首を切断し、側にいたホムンクルスに、
「ねえ」と言いった。「そこの君。残りのホムンクルスを一箇所に集めてくれないかな? この通り、君たちの主の首は、僕が取った。
だから、君たちの主人は、僕となる。だから、主人のはじめの命令だ。ホムンクルスを一箇所に集めるようにして。あ、場所は……そう。培養室がいいかな」
ホムンクルスはすぐさま、彼の命令を実行に移した。
そうして、10、15分ばかりで、ユグドミレニアが鋳造したホムンクルス達は、自らが産まれた場所へと集まった。
彼らは培養室と同時に、魔力の供給槽も兼ねられている、それなりに広い部屋へと、詰め込まれる様に集まっていた。
泉は、彼らホムンクルス達の中心に立ち、ざわめく彼らを静かにさせ、黄金の、眩い光を放つ杯を取り出す。
「聖杯だと!」と先ほど泉に命令されたホムンクルスが呟く。
「そうさ!」と泉は言う。「これは、亜種聖杯戦争にて、僕が勝ち取り、時計塔の権力とかに屈しないで、ずっと手元に置いておいたのさ! さて」と泉は自慢する様な素振りから、冷酷な表情へと切り替わって続ける。「君達には、この器に捧ぐ魔力になってもらおう! 安心していい。ついさっき、魔力供給の接続先を、この聖杯に繋げた。さあ! 聖杯に召されろ! ホムンクルス共!」
聖杯がより一層強い光を放ったと思ったら、その場にいたホムンクルス達は、抵抗する間も無く次々に倒れていき、魂や魔力といった物質のない、ただの抜け殻となっていった。
残ったのは、魔力の接続先を行っていない、戦闘用のホムンクルスや召使として扱われている者達のみであった。その内の一体が、
「貴様!」と叫ぶ。「何故、こんな事をする?」
「何故? 不思議な事を聞くね。君達は、ただの道具でしょう? だったら、どんな風に扱っても、文句は無いよね?
どうせ、君達はサーヴァントに殺されるか、聖杯の糧になるかのどっちかでしょう?」
そういった泉の言葉に、ホムンクルス達は各々武器を構える。しかし、そういった彼らを制止するホムンクルスがいた。
それは、先ほど泉の命令を実行した、あのホムンクルスだった。
「皆、聞いてくれ!」と彼は、この場にいるホムンクルス達の、心奥まで突き刺さるような、まさに言葉の剣とでもいうような演説を行う。「そいつの、”赤”のアーチャーのマスターの言う通りだ。俺は、実際に、あのダーニックが無残にも、抵抗しようにも、彼に傷一つ負わせる事なく、一方的な攻撃によって殺されたのを確かに見た! その証拠として、彼の手にぶら下がっている、ダーニックの頭を見ろ! それこそが、ダーニックが討ち取られたという、絶対的な証拠だ!
彼の言う通りだ。彼に、抵抗しても我々はあっという間にやられてしまうだろう。よしんば生き延びたとしても、これから先、どうするのだ?
我々を造ったユグドミレニアの魔術師達は、もう居ない。身寄りもない我々は、この先どうすればいいのだ?どの様に生活すればいい? どの様に就職すればいい?
生き延びても、どうせ、我々は時計塔の魔術師達に処分されるだろう。
生き延びても、我々ホムンクルスの寿命は短い。持って1月乃至それよりも短いだろう。我々は、そういう風に造られている。それは何故か? 我々は、人間の命令を聞く、単なる道具だからだ!
そして、道具ならば、道具として生を終えようでは無いか! それが、我々にとっての、道具にとっての誇りだ!」
そういった彼の演説は、確かにホムンクルス達の心を激しく揺さぶり、そして生き延びる方法は無いという、真実を彼らの心奥に深く突き刺した。
そして、彼の言葉に、ホムンクルス達は次々と賛同の言葉をあげ、聖杯へと自らの魔力を次々と繋げる。
「さあ!」と見事な演説をしたホムンクルスは言う。「一思いにやってくれ! ”赤”の魔術師よ!」
「オッケー!」と泉は機嫌よく言う。「見事だったよ! 君は、実に自らの役目というのを、よく理解している!
さあ、聖杯! 吸い取れ! 魔力を一滴も残さずに!」
泉が聖杯を掲げると、ホムンクルス達は次々に倒れていく。そして、この部屋にいる全てのホムンクルス達が倒れると、聖杯の輝きはかなりのものとなっており、その中に膨大な魔力が収まっていることを証明していた。
「ギリギリだったか」と泉は言う。「この聖杯に収まる魔力の、まさにギリギリまで魔力が貯まった。これ以上貯めると、限界になって、爆発するだろうね……そうならないように、注意しないと!
さて、そろそろ皆と合流するかな。これ以上この城にいる理由も無いしね」
泉は踵を返して、ドアのノブに手を掛ける。
そのとき、背後で物音が聞こえ、振り向く。
その物音の正体というのは、倒れ伏したホムンクルス達の肉を、目ざとく、素早く嗅ぎ付けて、漁りに来たネズミや虫のものであった。ネズミが、ホムンクルスの上をウロウロと歩き回っていた。
泉はドアを開け、他の”赤”の魔術師達と合流すべく移動する。
そして、彼は他の魔術師達と合流した。
獅子劫は泉を見つけると、ダーニックについて問いかけてきた。そこで泉は、
「ああ! それなら、間違いなく僕が殺したよ」と自ら傷付けた体を見せつけながら、泉しか知りようのない事実を、虚偽の中に埋め込みながら言った。
彼の実に考えられた、巧妙な話術に獅子劫は、少し眉をひそめながらも、すっかりと騙されてしまった。あの天草四郎時貞も同様に、騙されたふりをしながらも、泉のことを注意深く観察した。
「それよりも」と泉は獅子劫へと言う。「君の方が僕なんかよりも、よっぽど重症なんじゃないの? そんなに血を流して。ホラービデオに出演できそうだね」
「ほっとけ」と獅子劫は言う。「この程度の怪我、まあ痛てえが、慣れてはいるさ。治癒の魔術と薬を使って、少し休めばどうということはない。
それよりも、これで残りの”黒”のサーヴァントは、アサシンのみだろうな。誰かが、こっそりと倒していない限りだが」
「それならば心配いりませんよ」と神父は言う。「つい先ほど、”赤”のアサシンより連絡がありました、霊基盤を確認したところ、サーヴァントが一体、あの戦場とは別の所で消滅したと」
「へえ!」と泉は顔を綻ばせながら言う。「だったら、倒したの? ”黒”のアサシンを。状況的に考えると、倒したのはルーラーかな?」
「いいえ。非常に残念ですが、消滅したのはルーラーの方であり、”黒”のアサシンは生き延びています」
そういった、泉にとっては凶報そのものの言葉を聞き、彼は内心で激しくルーラーを罵倒する。
泉は少しの動揺も表に見せずに、
「で」とマスター達に問いかける。「これで、”黒”はアサシンだけになったんだけれど、誰が倒しに行くの? あ、ちなみに、僕とアーチャーは無理だよ。色々と用事があるからね」
「そうですか」と天草四郎時貞は言う。「では、そちらの”赤”のセイバーが倒しに行くのはどうでしょうか?ああ、ついでにライダーかランサーも一緒に行かせますか。そうすれば、より確実に倒せるでしょうし」
「いいや」と獅子劫は首を振る。「セイバー1人だけでいいだろう。アイツは、前にアサシンと戦っていてな。それで倒しきれなかったのを、しゃくに思っているようだ」
「そうですか。では、そのようにしましょう。サーヴァントの状況を見極めて、そちらのタイミングで、討伐に出てください」
獅子劫は少しの間、”赤”のセイバーと通信をとった。
彼女からは、「今すぐ戦いに行こうぜ! マスター!」といったような回答があり、獅子劫は泉と神父と別れ、セイバーと合流することにした。
その後、神父と泉もまた別れ、神父は”赤”のキャスターと合流し、空中庭園へと戻っていった。そして彼は、
「ランサー」と”赤”のランサーへと言う。「鎧を失ったようですが、まだ戦えますか?」
「当然だ」と”赤”のランサーは答える。「オレは、まだ戦える」
「そうですか。では、”赤”のセイバーが”黒”のアサシンを倒しに行きました。が、
「承知した」と”赤”のランサーは頷き、”赤”のセイバーと獅子劫2人に気づかれないような距離、気づかれないような場所に潜みながら、彼らを追跡した。
「さてさて!」と”赤”のキャスターは言う。「間も無く”黒”のアサシンも倒されるでしょう! つまり、そろそろ始めますかな? マスター! 我輩の方は、いつでも準備万端ですぞ! "黒”のキャスターの工房に乗り込んだ時に、執筆を終わらせましたからな!」
「そうですね」と天草四郎時貞は頷く。「始めましょう。
泉&シロウ「曲がり角でバッタリ出会った貴女を殺しちゃいました✩」
ダーニック&セレニケ「解せぬ」
ちなみに、今回のダーニックVS泉は、あっさりと終わっていますが、本来ならばダーニックが様々な魔術を使って、激しい戦いを繰り広げています。が、描写しようにも、ダーニックさん、原作でどんな魔術を使うかあまり描写されていないのでカットしました。
というか、その場その場で書きたいものを書いているので、時系列が前後