アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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魔術戦

 獅子劫、コトミネ・シロウ、“赤”のキャスター、そして泉達は車に揺られながら、“黒”の陣営の本拠地である城へと向かう。車のハンドルを握るのは、泉であり、彼の運転は上手であるとは言えず、車体は激しく揺れていた。

 それでも、彼らは文句を言う事なく、とりわけ獅子劫とシロウ・コトミネは、車に接触する可能性のあるホムンクルスや、ゴーレムを、車の窓から身を乗り出して各々の方法で確実に対処していた。

 

「空中庭園が、城の結界や罠を封じたそうです」

 

 とシロウ・コトミネは言う。車の前方上空に浮遊している、禍々しさと美しさとを両立させた“赤”のアサシンの宝具である空中庭園は、“黒”の城を守護している結界やトラップの類のことごとくを、魔術的に封じ込め、そして城にある聖杯を奪い返そうとしている。

 

「そう。じゃあ、攻めるなら今のうちという事だね! 城の門から堂々と入ろうか」

 

 泉はハンドルを大きく切り、それにつれて車体が大きく振れる。

 城の門は鉄の扉で固く塞がれていた。

 

「獅子劫さん、アレ壊せない?」

「出来るぞ。少し待ってろ」

 

 と獅子劫は、懐をまさぐりながら言う。彼の手に握られたものは、心臓を加工した手榴弾だった。それを車の窓から、鉄の門へと投げつける。鉄の門はいとも容易く、爆ぜた手榴弾によって吹き飛ばされた。

 

「今の音を聞きつけて、ホムンクルス達が寄ってきたみたいだね。ま、ゴーレムは幸いまだ来ていないようだから、このまま車で蹴散らそうか! そして、城内にそのまま突っ込む!」

 

 と泉は言いながら、車のペダルを踏み込む。音を聞きつけて、侵入者を排除する為に集まってきたホムンクルス達を、車の装甲で跳ね飛ばしながら、そのまま城の扉に突っ込む。飾りが施された城の門は、車の勢いによって蝶番ごと城の中へと弾き飛ばされる。

 その衝撃により、運転席のエアバッグが膨らみ、泉の上半身が、エアバッグと座席の背もたれに挟まれる。彼は動じずにエアバッグを破り、ブレーキペダルを踏み、タイヤをスリップさせながらも、停止する。

 

「さて」と泉は車を降り、入口の向こうに立っているダーニックを発見し、言う。「ユグドミレニアのマスター達にお知らせです。ぶち殺しに来ました! 令呪を使ってサーヴァントを呼んでも構わないけれども、その場合は同じく戦っている“赤”のサーヴァントがこの城に直行して、更に酷い事になる事請け合い! 自分だけの力で抵抗するか、それとも、カオスな乱戦になることを承知でサーヴァントを呼ぶかは、お任せします!」

 

 ダーニックは怒りに染まりながらも、いつもと同じ、冷静な態度で言う。

 

「ふん、“赤”のマスター共か。どうやらサーヴァントが戦っている間に、あの浮遊城の主にこの城のありとあらゆる守りを解除させ、その隙にマスター同士で戦おう、という魂胆のようだな。だが、“赤”のマスターよ。その作戦は余りにも愚かというものだ。確かに城の魔術的な守りは全て起動しない。だが、ホムンクルスやゴーレムはしっかりとお前の首筋を狙い、刃を振るう。そして、私達“黒”の魔術師もまた、同じようにお前の命を刈り取る事ができる。はっきり言って、それは愚策だったな!」

 

 ダーニックの合図により、城内で待ち構えていたホムンクルス達やゴーレム達は、泉と車を取り囲むように素早く移動する。円形に並んだ彼らに隙間と呼べるようなものは一切無かった。

 

「おや、これは随分と熱烈な歓迎ですね」

 

 とシロウ・コトミネは車から降りて言う。彼の姿を見たダーニックは目を見開き、身構える。シロウ・コトミネは言う。

 

「お久しぶりです。ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア、こうして姿を合わせるのは実に60年ぶりといった所でしょうか」

「何故、何故、お前がここにいる! 何故生きている?」

「何故? それは簡単な話ですよ。私は受肉したのですから。そのお陰で、こうしてここに存在することができているのです。……さて、御二人方、それにキャスター。このホムンクルスとゴーレム達、そしてダーニックの相手は私にお任せ下さい。皆さんはそれぞれ別のマスターの所に」

「よし、分かったよ! 獅子劫さん、あの扉に向かおう」

 

 と泉は、ホムンクルスやゴーレムで出来上がった壁の向こうに、僅かに見える扉を指差す。獅子劫は懐から心臓を取り出し、それをホムンクルス達めがけて投擲する。床に落ちた瞬間、心臓は爆発し、人間の骨や歯が強烈な勢いで四方に噴出される。それらと、爆発の衝撃により、心臓の近くにいたホムンクルスやゴーレムの身体は粉々になる。

 

「これで道ができた! 今のうちに行くぞ!」

 

 と獅子劫は泉と“赤”のキャスターを手招きする。彼らはホムンクルスの肉片やゴーレムの残骸の上を踏みしめながら、扉に向かって走る。

 

「さて、では彼らもこの場から居なくなった事ですし、私達も始めましょうか。ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア」

「天草四郎時貞、前回のルーラーよ、役目から逸脱したルーラー! 今回も、60年経った今でも尚、私の前に立ち塞がるというのか! なんとも忌々しい! 死人は大人しく座に帰るが良い!」

 

 2人の殺意がぶつかり合う中、指示を与えられたホムンクルスやゴーレムはコトミネ・シロウ改め、天草四郎時貞へと攻撃を仕掛ける。だが、彼は四方八方から迫り来る攻撃を、全て回避したり、時には刀で受け止めたり、逸らしたりし、様々な武器が振るわれる中、ホムンクルスの首を正確無比に切り落としたり、ゴーレムを破壊したりする。

 

「流石はサーヴァント、といった所か。私の魔術も、その対魔力の前には届かまい。故に、質量で、物理で対応させてもらおう」

 

 ダーニックは天井へと向かって魔術を放つ。それにより、鎖で吊るされているシャンデリアや、砕かれた天井の破片が四郎へと向かって降り注ぎ、視界を塞ぐ程の、大量の砂埃と轟音とが発生する。ホムンクルス達はそれらに押しつぶされ、ゴーレムはその硬さによって無事だった。

 煙が薄くなり、その中にひとりの人影が立っていた。それは言わずもがな、四郎の物だった。彼の体には傷一つなく、服が破れている程度だった。四郎は砂埃を払いながら言う。

 

「これで終わりですか? では私のターンといきましょうか」

「初めからこの程度でお前を殺せているとは思っていない。この程度で死んでいるのならば、私が60年前に殺している。とはいえど、突然故に対策もしていない。故に、ここは退くとしよう。殿は、ゴーレムだ」

 

 とダーニックは言いながら、その場から姿を消す。残ったのは、更なるゴーレムの増援と四郎だけだった。

 四郎は刀を握り、迫り来るゴーレム達を睨み付ける。

 

 

 

「そういえば」と獅子劫は、廊下を走りながら言う。「この城の道とか把握しているのか?」

「いや、全く。けれども、そら。“黒”のマスターからやってきたみたいだよ。尤も、彼女のサーヴァントは既にいないから、相手する必要はないけれど」

 

 と泉は、曲がり角の向こうから現れたセレニケを指差す。彼女の、鋭さを思わせるような、美貌はそこにはなく、すっかりやつれており、目の下には隈がでかでかと浮かんでおり、それでいながら、その目にはどす黒い怒りの炎を激しく滾らせていた。

 

「ねえ、“赤”のアーチャーのマスターはどっち? 正直に名乗り出なさい」

 

 とセレニケは小動物や気の弱いものならばたちまち泡を吹いて気絶してしまうほどの鋭い眼光で、獅子劫と泉の二人を睨み付ける。

 泉は獅子劫を指差していう。

 

「この人です! この人がアーチャーのマスターです!」

 

 獅子劫は泉を睨みつけようとしたが、その時には泉は姿を消していた。“赤”のキャスターも同様に、その場から素早く逃走していた。

 獅子劫はセレニケの針のように鋭く、氷のように冷たい殺意を全身に浴びて、冷や汗を流す。セレニケは顔を歪めて、鬼のような形相で獅子劫を睨み付ける。

 

「殺す! 苦しみに悶えながら、ゆっくりと残酷な方法で殺してあげる!」

 

 セレニケは歯を食いしばりながら、ホムンクルスを招き寄せる。武器を持ったホムンクルスが数体現れ、獅子劫は身構える。セレニケはそばにいるホムンクルス達を、黒魔術師ならではの手際のよさで解体、あるいはその肉体にナイフを入れて切り裂く。ホムンクルス達は悲鳴を上げながら、惨たらしく倒れていく。彼女の全身を濡らす、ホムンクルスの血液は、まるで赤いドレスのように思われた。

 セレニケは詠唱を口ずさむ。すると、獅子劫の全身を激しい痛みが蝕む。

 獅子劫はたまらず呻き声をあげながら膝をつく。額や背中には脂汗がにじみ出、苦悶の表情を浮かべていた。セレニケは嘲笑う。

 

「ねえ、どうかしら? 痛いでしょう? でもね、ライダーを失った事による私の心の痛みはそれの比じゃないのよ。もっと! もっと! じわじわと痛みを与えて、病気が体を蝕むのと同じように、私の心の痛みで殺してやる!」

 

 獅子劫は辛うじて動く腕で、腰にかけてあるホルスターから銃を握る。そして引き金に指をかけて、素早くセレニケにその銃口を向けて、引き金を引く。火薬が爆ぜる音と、燃える匂いとともに、銃弾がセレニケの右肩を貫通する。

 セレニケは僅かに顔を歪めるだけであり、ますます怒りを激しくした。

 獅子劫は呻きながら、立ち上がる。

 

「お前が“黒”のライダーのマスターという訳か。どうやら尋常ではない愛、かどうか分からないが、それに似た感情を“黒”のライダーに向けていたと見える」

「ええ、その通りよ。私は彼の歪む顔を見たかった。その美しい肉体をたっぷりと嬲りたかった。だけれど、それはもう叶わない。だから、攻めてそのマスターに鬱憤をぶつける。それで全てが終わりよ」

「ああ、そうかい。だとしたら、俺に鬱憤をぶつけるのはお門違いだな。アーチャーのマスターは俺ではなく、その隣にいた小僧だからな。だが、お前はアイツと戦う事すらできないだろう」

「……そう、私は誑かされていたという訳ね。尤も、それが本当かどうか分からないけれど、取り敢えずは貴方を殺してから、あの少年も殺す事にするわ」

「そうかい」と獅子劫は、口の端を釣り上げて言う。「だとしたら、それは不可能だな。そら、気づかないか? 俺の弾丸は特別製でな。一度喰らったら終わりなんだよ」

 

 セレニケは肩に走る痛みに、僅かに顔を歪ませる。その痛みは肩から首元に、首元から胸元に移動する。

 

「なるほど。これは私の心臓に移動しているのね」

「ああ、その通りだ。人の指を加工した弾丸でな、心臓に食らいつく」

「そう。……ああ、これはさすがに対処法が無いわ」とセレニケは嘆息し、次に笑う。「とでも言うと思ったかしら?」

 

 セレニケは心臓に近い部位に自分の指を突っ込み、体の中を掘り進む弾丸を掴んで、体外に摘出する。

 

「この程度の痛みなら、黒魔術師である私にはどうということはないのよ。さぁ、全身を引き裂いて、腸を引きずり出して、眼球を抉り出して、それらを食べさせてあげるわ。貴方も、アーチャーのマスターも同じようにね」

 

 彼女は舌で指に付着した血を舐め取りながら言う。獅子劫は彼女から発される悍ましい気配に戦慄する。

 

 

 

 道中で“赤”のキャスターと別れた泉は、適当な扉を片っ端から開いて、誰かがいないかを探す。そしてその中でも一際巨大な扉を開くと、その向こうは大広間とでも言ったような場所だった。

 

「お、ビンゴ!」

 

 泉はその広間にカウレスとフィオレが待ち構えているのを認めて、言う。

 兄弟もまた泉の存在を認めて、身構える。

 

「バーサーカーとアーチャーのマスターか。今から素早く、さっさと惨殺させてもらおうか。と言いたいところだけど、僕も鬼ではない。令呪で自分のサーヴァントに自害する様に伝えれば、見逃してあげるよ?」

「いいえ」とフィオレは言う。「それは出来ません。“赤”のマスターよ。寧ろ逆に言わせてもらいましょう。“黒”のバーサーカーを、人間でありながら圧倒する実力者。貴方への対策はしてあります。死にたくなければ、今すぐこの城から立ち去りなさい」

「いや、それこそ出来ないね。でもまぁ、さっさとかかってきたらどう? 二人共。それと、その扉の向こうに隠れているセイバーのマスターもね」

 

 と泉は自分が入ってきたのとは別の扉を見て言う。その扉の向こうに居るゴルドは思わず跳ね上がる。

 

「とんでもない。フィオレは対策をしてある、と言ったが、そんなものはハッタリだろう。サーヴァント相手に勝利できる相手とどう戦えというのだ」

 

 彼はこういった感想から、泉との戦闘を避けようとしていた。

 泉は出てこないゴルドに興味をなくし、カウレスとフィオレを見る。

 

「そうそう。彼女はそう言ったけれども、弟の方はどう?」

「断る!」とカウレスは叫ぶ様に言う。

「そう。それは残念! 話はこの辺にして始めようか」と泉は言う。「──投影開始(trace on)!」

 

 

 


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