アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい 作:天城黒猫
ルーマニアの街の一角にあるアパートの一室。
そこには二人の男女がいた。
「どうした? 汝がマスターであろう?」
「……ハッ! うん! そうそう! ボクがマスターだよ。名前は泉、よろしくね!!」
泉は、召喚した己のサーヴァント、クラスはアーチャー、真名はアタランテ。
彼女の容貌に見とれ、呆然と棒立ちになっていたが、アーチャーの声によって気を取り戻し、握手をしようと手を伸ばす。
アーチャーは、その手を取る前に、泉の姿をまじまじと見る。
「え? 何?」
「……まさか、汝のような子供がマスターだとは思わなかったからな」
「ちょ! ボクは18だよ! 車の運転もできるよ! 免許はないけどね!!」
「そうか、余りにも小さいのでな」
「酷い!! ボクが過去現在からずっと気にしている事を!」
泉とアーチャーが会話をしているとき、窓の淵に白い鳩が飛び降りた。鳩は窓を嘴でコンコンとつついた。その鳩は使い魔だ。
「ん? ああ、今回の監督役さんかな?」
泉は、窓を開いて鳩を中に招き入れた。
『ええ、その通りです。初めまして、私はシロウ・コトミネといいます』
驚いたことに、その鳩はまるで人間のように丁寧に一礼をし、人間の言葉を発した。これは魔術師にとっては別段驚くような事でもない。使い魔を通じて会話するというのは、よくある事なのだから。
「よろしくね、ボクの名前は泉。川雪 泉だよ! で、こっちがアーチャー」
『ええ、よろしくお願いします。早速でなんですが、本当にこの聖杯大戦に参加するつもりですか?』
「勿論! でなきゃあ、ボクはここには居ないし、サーヴァントを召喚していない」
『そうですか』と訝しげな声を出す。『遊びではないのですよ?』そして次は子供に問いかけるように、真剣な様子で、泉に問いかける。
『これは魔術師の模擬戦といったような軽いものではなく──』といったシロウのお説教とも取れる言葉を、泉はそういった説教が嫌いなのか、それを遮るように言う。
「別にいいでしょ? ボクは参加すると言ったら、参加する! 先生に何か言われても無視する所存ですから!!」
『……まあ、ロード・エルメロイ・Ⅱ世から聞いた限りでは、魔術師としての戦力は申し分無いようですが……あの方、電話の向こうで頭痛と胃痛と腹痛が同時にやって来た様な声でしたよ? ──まあ、取り敢えずは私が居る教会まで来ていただけませんか?』
「え、やーだ!」
即答。何故ですか? とシロウは問いかける。
「んー、ボクはボクでやることがあるんだよねー。今はサーヴァントも召喚したばっかだし」
『……判りました、ロードからは貴方の扱い方について話していましたが、本当に問題児の様ですね。まあいいでしょう、教会には用が空いたらでいいので。そのサーヴァントの真名と宝具を教えていただけませんか?』
「別にそのぐらいならいいよ、真名は────」
お互い情報交換を行い、街の向こうへと飛び去っていく白い鳩を、泉は手を振って送る。
「良いのか?」
「ん? 何が?」
シロウとの会話が終わるまで、後ろに控えていたアーチャーは、泉に問いかける。
「これは二つの陣営に分かれて戦うのだろう?」
「ああ」
泉はアーチャーの言わんとしていることを理解した。これは聖杯大戦、黒と赤の陣営に分かれて戦うのだ。通常の聖杯戦争のように、ばとるロワイヤルと言う訳ではなく、チーム戦。つまり、泉は仲間である赤の陣営との交流、顔合わせすらロクに行わなくていいのか。と言っているのである。
「別にいいのさ、赤の陣営は……まあ、取り敢えずはお腹も空いてきたし、何か買って来てからにしようか、林檎もね!」
「……まあ、いいだろう。マスターとしての実力は戦争が始まってから見極めさせて貰うぞ?」
「ふっふっふ! ボクはマスターとしては最高だよ! キミもボクにとっては最高のサーヴァントさ!」
泉は財布をポケットに入れ、アーチャーは霊体化し、街に出かける。
「────さて、川雪 泉ですか……」
どうしたものですかね。とシロウはため息を吐きながら、ロードより頭を下げながら渡された泉のデーターを見る。その書類を読んだシロウの第一印象が「問題児」というものであった。
時計塔の中、外に限らず何かしら騒ぎを起こす。中には、魔術に関係するトラブルもあり、他の魔術師と対峙する様な事もあるが、全てに勝利している様で、実力は問題なし。と判断したシロウだったが、やはり野放しにする訳にも行かず、彼のデーターを隅から隅まで読んでいた。
「まさか、あのようなイレギュラーがあるとは」と、シロウは泉に対する対処を考える。
魔術協会がやとったマスターではなく、自動的に令呪が浮かび上がり、聖杯大戦に参加する事になった──というよりは、ほぼ無断で参加した予期せぬ存在。
まず、赤のマスターのうち、ランサー、ライダー、バーサーカーのマスターは、既に洗脳を施している。泉を誘い出し、これまでと同じように洗脳を施し、サーヴァント共々傀儡と化しようとしたが、一応勧告はかけたものの、教会には来そうにない。
だったら、こちらから出向けばいい。と思うが、わざわざ出向くまでもない。と判断した。
それにあのような存在の扱い方も心得ている。
いざとなったら、最悪殺害すればよい。
「良いのか? 強引にやらなくて」
「ああ、アサシンですか。別に良いでしょう」
シロウの背後より現れた女性。長く、美しい黒髪を伸ばし、黒いドレスを着た女性。彼女の容姿は美しく、男性を魅了するであろう。──最も、彼女に見惚れた男性は破滅を迎えるであろうが。
彼女の
「かのゲーテは言いましたぞ、『活動的な馬鹿ほど恐ろしいものはない』と、彼は一見したところその馬鹿でしょう。まあ。私としてはあのような人物は非常に美味しいのですがね!」
霊体化を解き、現れたのは男性。彼はキャスター。真名をシェイクスピア。世界三大作家と言われる程に、有名な作家である。
「ええ、そうでしょうね。ですが、暫くは静観でいいでしょう。例え独断で黒の陣営と戦ったとしても、良くて1体でも道連れにしてくれれば、こちらとしても助かりますし」
喧しい。とアサシンがキャスターに言うが、キャスターは言葉ばかりの謝罪を述べるだけだ。シロウはその様子を見て、困ったように制す。
「取り敢えず、最後のマスター。セイバーのマスターとなる人物がこちらに向かってくるまで、大人しくしていましょう。アサシンは宝具の製作を進めてください。キャスターは、そうですね……
シロウの言葉に、アサシンとキャスターは了解し、シロウの元から散っていった。ひとり残されたシロウは、天を仰ぎ見る。
──少々のイレギュラーはあれど、あの程度で60年は、願いは、決して────。
「──以上が事の顛末だ。君には、あの馬鹿を軽く半殺し……いや、半殺しとは言わず9.9割殺しにして、面倒を見てもらいたい。聖杯大戦から身を引け、と言っても無駄だろうしな」
時計塔の一室でロードが言う9.9割殺しというのは、殆ど死んでいるのだが、それでいいのか。と言いたくなったが、相手はクライアント。無粋なことは言わずに胸の中に秘めた。
泣く子は更に泣くほど強面な顔をした男、獅子劫はロードⅡ世の個人的な依頼を頼まれているところである。
「判りました。大切な生徒はこちらが保護します」
「ああ、よろしく頼む。──それと、ヤツが聖杯に何を願うかは予期できないので、仮にヤツが勝つような事があったら、後ろから刺せ。「ギャルのパンティおくれ!」とでも願いかねん。最悪、もっと酷いことになるかもしれんからな」
だからそれでいいのか。と言いたくなったが胸の中に秘める。獅子劫は苦笑いをして言う。
「あー……それにしても何だな、ソイツは聞く限り……あー、えー」
言いにくそうに口を募らせる獅子劫に、ロードは容赦なく「馬鹿だろう?」と問い、「ええ、……まあ」と返す。
「──兎に角、申し訳ないがよろしく頼むぞ。何か言ってきたらハッ倒して良い」
ロードの言葉に、獅子劫はうなづく。彼は、泉の保護について依頼を受けているのだ。
「ではこれで」と獅子劫は部屋から出る。
渡された触媒は円卓の破片。それを使えば、円卓の騎士──サーヴァントとしては最高クラスの騎士が召喚されることは間違いないだろう。それと、ヒュドラの幼体の死体をバッグに詰めながら考える。
泉と戦うことになったら、厄介だろうな。と、渡された資料では、彼がいままでに戦ってきた魔術師とは全く別──というか、魔術師としては異端のスタイルなのだから。
だが、肝心なのはそこではない。獅子劫にも叶えたい願いがあるのだ。だから、最悪殺してでも願いを叶える。そう決意し、荷物を持ってルーマニアへと向かう。