アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

19 / 49

今回、やはり自分で書いていてツッコミどころが多いです。もうしょうもねえなぁ。


吸血鬼

「“赤”のキャスター、耳をこっちに貸して。ほかの人に聞かれたら困るからね。あ、勿論念話とかも禁止だよ?」

「おや、内緒話ですかな? よろしいでしょう。では」

 

 と“赤”のキャスターは、興味深そうに顎鬚を撫でながら、屈んで耳を泉の元へと寄せる。そして、泉は口を、シロウ・コトミネに見えないように両手で覆い隠し、“赤”のキャスターの耳元でひそひそと呟く様な、ほぼ吐息に近い、限りなく小さな声で囁く。

 そして、それを全て聞いた“赤”のキャスターは、困ったような顔で、何かを考えながらシロウ・コトミネと泉を交互に見やる。

 

「おお! いやはや、これはこれは。どうにも困りました。『この世界という広大な劇場は、我々が演じている場面よりももっと悲惨な見世物を見せてくれる 』……いやぁ、全く。泉殿、本当に反則ですぞ。その様な話をなさるなど! ですが、良いでしょう。とは言えど、最早『時の関節が外れている』のですな。よし! 良し! 決めましたぞ! とは言えど、返答は暫しお待ちくさだれ。この場にはシロウ・コトミネ殿もおりますし、何より、あの女帝殿を本当に怒らせたくない。期が来てから決めさせて頂きましょうぞ」

「うん。それでいいよ。じっくりと考えてもらいたい。さて、次にシロウ・コトミネさん」

 

 今まで興味深そうに彼らの様子を眺めていたシロウ・コトミネは言う。

 

「はい、何でしょうか? キャスターとどのような会話を交わしたのかとても気になりますが、どうやらこの場でそれを追求するのは、間違っているようですね。で、何でしょうか?」

「うん。話の内容は教えないけれども、君にも話があるんだ。これは別に“赤”のキャスターにも聞かれても困らないし、別に耳を貸して貰うような必要もないよ。けれども、話を始めるのは、少し待って欲しいんだ。あともう少しで彼が来るはずだから……おっと、ちょうど来たようだね!」

 

 と泉は言った。ちょうど、けたたましいほどのエンジンの駆動音が森の中に響き渡る。そして、地面に落ちている木の枝をへし折り、小石を弾き飛ばしながら、現れたアメリカ車のヘッドライトが彼らの姿を白く照らす。

 そして、獅子劫はエンジンを止めて、アメリカ車特有の、分厚くて重い扉を開いて降りる。

 

「戦場に出るなら、何かしらのメッセージを送れ。死なれたら困ると言っただろうが」

「ああ。忘れていたよ。ごめんね。次からはまぁ、なるべく気をつけるよ!」

「どうだかな……まぁいい。で、これからどうするつもりなんだ?」

「うん。それをこれから話すところなんだ。皆揃ったし、話を始めようか。ま、とは言っても、内容は至ってシンプルなものさ。端的に、ぶっちゃけて言うと、“黒”の本拠地に僕達だけで攻めて、“黒”のマスター達をぶち殺そう、というだけさ」

 

 泉の提案に、シロウ・コトミネも、獅子劫も呆然とする。そして、獅子劫は怒鳴るように言う。

 

「馬鹿か? あのな、城に攻めようと言っても、魔術によるトラップはふんだんにあるだろうし、その間にホムンクルスやゴーレムもいる。例え無事城の中に侵入したとしてもだ、最悪“黒”のマスター達が令呪でサーヴァントを転移させたら、俺達は塵同然に殺されるだろう。それどころか、ユグドミレニアのマスター達の戦闘能力だって計り知れない。俺はさっきまで“黒”のアーチャーのマスターと殺りあっていたが、アレは中々にできる相手だったぞ? 逆にこっちが返り討ちに遭う可能性だってあるんだ」

「ま、それもそうだけど。大丈夫でしょう。あの浮遊城が大聖杯を奪い取る瞬間に、結界とかその他諸々をスルーして、トラップもことごとくを発動させて、防御しながら城に入るから。で、その隙に“黒”のマスター達と戦う。要は、わずかな時間で、速攻でカタをつけるという事さ。

 それに、“黒”のサーヴァントだって、“赤”のサーヴァントと戦闘しているんだ。それは“赤”のサーヴァントが城の中に入らないようにガードする為だ。仮に呼ばれても、すぐに“赤”のサーヴァントは城を目指すでしょ。僕達は、それまでに逃げ切れば良いだけなんだから。杭を所構わず生やす“黒”のランサーが呼ばれるのだけを警戒していればいい。マスターについては、獅子劫に、シロウ・コトミネ、そしてこの僕。誰もがかなりの実力者だ。とりわけ、そこのシロウ・コトミネがこの中ではトップだと思うけど?」

 

 指さされたシロウ・コトミネは、微笑しながら首をかしげる。

 

「おや? 私ですか? 果たしてどうでしょうかね。確かに代行者としての修行は積んであるので、戦闘にはそれなりの自身がありますが」

 

 彼の言葉が終るや否や、泉は右手に鍵剣を持ち、その刃を凄まじい速度と、正確さでシロウ・コトミネへと振るう。だが、それは素早く抜刀した刀によって、火花を散らして弾き返される。

 

「ホラ、こうやって咄嗟の攻撃にも対応できる。少なくとも、武闘とかだと一番でしょう? そして、実戦経験が豊富な、そこらの死霊魔術師(ネクロマンサー)とは少しスタイルの違う死霊魔術師(ネクロマンサー)そして、自慢じゃないけれども、僕は、時計塔の見習い魔術師の中ではずば抜けて強いと自覚している。さ、戦力は問題ないと思うよ? 相性によっては、一体一でも余裕で勝利できるだろうし。どう?」

「そうですね。それは面白そうです」

 

 とシロウ・コトミネは言う。

 

「浮遊城が大聖杯を奪うという事は、城の魔術や龍脈にも干渉するでしょうし、その瞬間ならば城の結界やトラップが緩む可能性も十分に考えられます。その瞬間ならば、侵入は十分に可能でしょう。あの車を使えば、ホムンクルスやゴーレムを振り払う事もできるでしょうし」

「そうですな。『生きるか死ぬか、それが難題だ』! さて、この私も同行させて貰いましょうか!」

 

 獅子劫は唸る。そのサングラスの下にある目を閉じて考える。

 

「そうだな……確かに可能かもしれないが……それでもリスクがあるだろう。最悪死ぬぞ?」

「リスクだって? そもそも、この聖杯大戦に参加している時点で、リスクなんて四六時中背負っているようなものでしょ。いつ相手が襲いかかってくるか判らないんだから。どっちから仕掛けようが同じ事でしょう? 大丈夫さ、危なくなったら逃げるか、令呪を使ってサーヴァントを転移させれば大丈夫!

 それに、獅子劫さんが行かなくても、僕はもう行くつもりだよ? 死なれちゃ困るんでしょう? 仮にここで僕を止めようとしても、君には不可能さ。だったら、僕と一緒に行動するほうが、僕を守れるんじゃないのかな?」

 

 と泉は言う。そして、さっと素早く手を伸ばして、獅子劫から車の鍵を奪い取り、車に乗り込む。シロウ・コトミネと“赤”のキャスターも同じように、車に乗り込む。それを見た獅子劫は慌てて、

 

「分かった分かった! 畜生が!」

 

 と言いながら車に乗り込む。泉は笑いながら、鍵を鍵穴に差して捻る。そして、エンジンを起動させ、ペダルを踏む。車は激しく吠えたてる。それはさながら突撃する兵士が発する叫び声のようなものだった。

 

 

 

 “赤”のアーチャーによる矢の雨を受けながら、“赤”のランサーによる猛追を捌きながら、なおも“黒”のセイバーは生きていた。だが、自慢の鎧は彼方此方が無残にもひび割れたり、砕かれ、至るところから流血している。更に言うと、彼の背には一本の矢が突き刺さっていた。その矢が与えた傷は深く、“黒”のセイバーの顔色は真っ青になっていた。

 

「最早立てないのではないか? “黒”のセイバーよ」

「何を言うか、“赤”のランサーよ。俺はまだまだ戦えるぞ! 例え菩提樹の葉が張り付いた所に矢が刺さろうとも、問答無用で消滅するわけではない。我が真名の通りに、勝利してみせよう!」

「良いだろう。まだ戦えるというのならば、オレも相手をしようではないか」

 

 “黒”のセイバーと“赤”のランサーはお互いの武器を振るう。その傍らで、“黒”のランサーは全身を矢に貫かれ、最早消滅寸前となっていた。最早彼の意識は途切れ、魔術による治療を施してもすっかり手遅れの状態だった。

 それを察知したダーニックは、手元にある3角の令呪を見る。

 

「さらばだ。ロードよ。その様な状態では、最早戦えまい。ならば、私が手助けをしてやろう。元より発動させるつもりだった。意識が無いと言うならば、私に襲いかからないように令呪を使う手間も省けたというものだ。──令呪を持って命じる。“黒”のランサーよ。鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)を発動させ、“赤”の陣営を徹底的に殲滅せよ!」

 

 “黒”のランサーの目が開く。ただし、そこに正気の光は無く、その代わりに怪物を思わせるような、狂気に染まった闇の様な光があった。そして、体を起き上がらせる。顔はまるで死人のように青白く、口の端からは鋭い牙の先端が、鈍い光を放っていた。

 “赤”のランサーも、“黒”のセイバーも、彼の様子を見て、正気ではないことを悟った。

 

「不味い!」と“赤”のアーチャーは言う。「アレは恐らく“黒”のランサー、ヴラドⅢ世ではない! それをモデルに描かれた小説の怪物、即ち『吸血鬼ドラキュラ』と化している!」

 

 “赤”のアーチャーは“黒”のランサーへと矢を放つ。だが、その矢は霧となった彼の体を貫通して、彼方へと飛び去っていった。“赤”のランサーも攻撃を加えるが、それらも同様に、霧を叩いているような感触だった。

 

「なるほどな、確かに吸血鬼へと変質しているようだ」

 

 “黒”のランサーは“赤”のランサーを見定める。そして、雄叫びながら、凄まじい速度で“赤”のランサーへと襲いかかる。“赤”のランサーは槍を持って迎えうつが、その尋常ならざる腕力によって押し返される。そして、霧となり、“赤”のランサーの首筋に噛み付こうとする。

 

「噛み付かれるな! 血を吸われたら、操られるぞ!」

 

 “赤”のアーチャーは叫ぶ。“赤”のランサーは、咄嗟に素早く移動して、首へと迫り来る牙を躱す。

 

「攻撃は通じない。噛み付かれたならば終わりか。なるほど、難敵のようだ」

 

「何をボヤっとしている! セイバーよ、真名など最早どうでも良いのだ! 宝具を使用し、“赤”のサーヴァントを仕留めろ! ランサーについては問題ない! ただ宝具を発動して、吸血鬼へと変質しただけだ!」

 

 ゴルドの念話によって、これまでその様を眺めていた“黒”のセイバーははっとする。そして、“赤”のランサーへと向けて宝具を開放しようとする。

 

「オイオイ! どうなっているんだ? こりゃあ」

 

 と、その場に新たなるサーヴァントが姿を現す。獅子劫と別れ、道中ホムンクルスやゴーレムを粉砕しながらやってきた、全身を白銀の甲冑に包んだ“赤”のセイバーは、変質した“黒”のランサーを見て驚く。

 

「“赤”のセイバーか。“黒”のランサーが吸血鬼へと変じ、少々面倒な敵となっているだけだ。恐らく、“赤”のランサーでも手に余るだろう」

 

 と“赤”のアーチャーは言う。

 

「なるほどな。良くわからねぇが、分かった。要は敵をぶっ飛ばしゃあ良いだけだろう? それには、コイツが一番だ。マスターからは、自由に、考えて使えと言われているし、許可をもらう必要もないしな!」

 

 と“赤”のセイバーは剣を構える。そして、兜が変形し、彼女の顔が顕になる。彼女の手に持っている剣の刀身には、赤黒い稲妻が纏う。そして、彼女はその武器の真名を発動する。

 

「さぁ、怪物は大人しくくたばってろ! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!」

 

 全てを滅ぼさんとする、赤く、禍々しい光があたりを照らす。そして、その光は“黒”のランサーを包み込む。だが、“黒”のランサーが消滅した気配は感じられなかった。だが、彼の姿はどこにも見られず、あたりには“赤”のセイバーが宝具を発動した事によって、舞上げられた砂埃が満ちていた。

 

「いや、違う!」と“赤”のセイバーは言う。「コイツは砂埃じゃねえ! 霧だ!」

 

 “黒”のランサーは霧となり、あたりに満ちていた。その濃霧の中で、“黒”のセイバーは宝具を開放させる。それは霧によって目隠しされ、気づいたものはいなかった。

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!」

 

 そして剣より放たれた黄昏の閃光は、“赤”のランサーの体を包んだ。

 “黒”のランサーは、霧の中から、己の肉体を実体化させながら、“赤”のセイバー、“赤”のアーチャーへと襲いかかっていた。“赤”のセイバーは、強力な“黒”のランサーの攻撃を捌きながら言う。

 

「クソ! 確かに厄介だな! 霧になってこっちの攻撃は当たらない。かと思えば、相手は問答無用で、とんでもない怪力で攻撃してくる。どうしろってんだ!」

「確かに、この場合は銀の武器や杭、流水などドラキュラの弱点で攻めた方が良いのだろう。が、そういったものが果たして用意出来るかどうか。ともかく、このままでは吾々は圧倒的に不利だ」

 

 

 

 






次回!
『時計塔連合魔術師VSユグドミレニア一族』


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。