アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい 作:天城黒猫
今回は適当に読み流して大丈夫です。特に前半。作者が「あ、アイツのこと忘れていた」となり、適当に書いただけですので。
ジャンヌ・ダルクは、空腹により、締め付けられるような感覚を覚える腹を押さえながら、不確かな足取りでどことも知れない場所を歩く。
ルーラーによる感知能力によって、”赤”と”黒”のそれぞれ1騎ずつのサーヴァントが脱落した事は捉えた。神秘の漏洩といった場面も無かったので、両陣営の2回目の戦闘は何の問題も無かったと判断した。
「そこまでは良かったんですが……」
と、ルーラーは自分の不甲斐なさに、ため息をつきながら呟く。
「ルーラーとしての燃費を考えていませんでした……ですが、まさかここまで消費が激しいとは」
聖水による探索を筆頭に、”赤”のバーサーカーが人目をはばからずに、街中を進撃した時や、その後の、両陣営の戦闘の時に、あちこち休む間も無く移動した。サーヴァントの肉体ならば、そういった行動はなんら問題なかったのだろう。だが、今、ルーラー、ジャンヌ・ダルクの肉体は、サーヴァントのそれでなく、レティシアという人間に憑依しているだけに過ぎない。
それ故に、一般人であるレティシアの肉体は、大量のカロリーを消費した。
その事について、ルーラーの精神内にいるレティシアは謝罪する。
「いいえ。貴女が謝るような事ではありません。これは私の落ち度です。魔力の使用は、カロリーの消費に繋がるというのに、それを考えずに、私が大量に魔力を消費してしまったのですから」
とはいえど、どれだけ反省をしようが、空腹を解決できる訳でもない。ルーラーは、今にも霞みそうになる意識の中、行くあてもなく一歩一歩足を進める。
気がついたら、市街地は遠くにあった。周りを見回すと、木や草ばかりが生えており、人の気配は一切しなかった。そうした場所で、ルーラーは、いよいよ限界になり、倒れ込むように、地面に寝転ぶ。
そうしてしばらく、夜の帳が降りかけた頃、空腹が絶頂に達したルーラーは、傍に生えている木を見て呟く。
「もう、いっそ木の根で腹を満たしますか。ええ、大丈夫です。ゴボウだって、ニンジンだって、ダイコンだって、お芋さんだって、みんな根っこじゃないですか。ですから、木の根もまた、食べられるはずです。ええ」
と、ルーラーは這いずりながら、木の根に手を伸ばす。目には、正気の光が消え失せ、その代わりに、錯乱したような目が浮かんでいた。
ヨダレを垂らしながら、ルーラーはいよいよ、地面から僅かに露出している木の根に手を掛ける。レティシアは、説得するが、その言葉は聞き入れられなかった。今のルーラーには神の啓示をもってしても、木の根を食しようとするのを、やめさせることは不可能だろう。
もはや、そう思われるほどに、ルーラーの空腹は限界だった。
だが、神が流石に呆れたのか、それとも、聖人に無償の救いの手を差し伸べたのか、そういった事をしているルーラーの手を、通りかかりの老人が掴んで、制止させた。そして、ルーラーの意識は、空腹と疲労により、闇の中にゆっくりと沈んでいった。
そして、その老人は、道端に倒れている女性を見て、ただ事ではない、と思い、ルーラーを背負って我が家へと運んだ。
そして、朝の陽光が降り注ぐ頃になると、ルーラーの意識は覚醒した。
ルーラーは、自分が空腹である事を忘れて、ベッドからその身を起こす。そして、周りを見回す。
整然と並べられた小物や家具類。それらには、埃一つ載っておらず、こまめにこの部屋が清掃されていることが伺えた。
ルーラーは、気絶する前にはこういった場所で気絶した訳ではない事を思い出す。
「ならば、誰かが気絶した私を、ここに運んでくれたのでしょうか?」
その推理は当たっており、扉を開けて、階下に降りると、セルジュという名の老人が、料理を作っていた。鍋から漂う、香ばしい、香りにより、ルーラーの腹が、空腹を訴え、大きな音を鳴らす。
その音を捉えたセルジュは、振り向く。ルーラーは、赤面する。
「おお、起きたか」
と、セルジュは鍋をかき回すその手を動かしながらいう。
「なに、そう警戒せずともいい。ワシの名はセルジュという。お前さんが道で倒れていたのを、見つけてな、担いでここに運んだんだがね。調子はどうじゃ? 取り敢えず、腹が空いていることは確定のようだ。
今、見ての通り朝食を作っているから、ホレ、そこの椅子に座って待つといい」
「ありがとうございます。あの、本当に、ご馳走になってよろしいのでしょうか?」
「なに、遠慮するこたぁない。若いモンは、沢山寝て、しっかり食う。それが基本さ。ささ、あともう少しでできるから、待ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
そして、しばらく時間が経つと、セルジュは、なんの変哲も無い、白い皿に、蕎麦の実の粥を盛り付けてルーラーに差し出す。
ルーラーは、手に持ったスプーンで、皿の上にある物を、一気に頬張る。そして、皿の中身が空になると、ルーラーは、目に涙を溜めながら、二杯目を要求した。
「そうがっつかんでも、幾らでもあるさ。ささ、ゆっくりでいい。しっかりと、味わってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
そして、しばらくの間、ルーラーは無我夢中で、無くなっては次々と皿の上に盛られる粥を頬張る。そして、満腹になった頃には、鍋の中の粥はすっかり無くなっていた。
一息ついて、その事に気がついたルーラーは、顔を赤らめる。
「も、申し訳ありません……つい」
「いやいや、大丈夫さ。どうやら、腹は一杯になった様だな」
と、セルジュはルーラーを優しい目つきで見つめる。
「しかし、どうしてあんな所で倒れていたんだ?迷子だと言うのなら、街まで送っていくが。それとも、家出かい?」
「いえ、大丈夫です。家出でも、迷子という訳ではありません。……その、少しばかり空腹になって、倒れてしまっただけで」
「それは大変だったなぁ。お前さんは、これからどうするんだね?」
「私は」
と、ルーラーは姿勢を正して、曇りのない瞳でセルジュに言う。
「やらなければいけない事があります。行かなければいけない場所があります。ですので、失礼ながら、今すぐにでも出かけなければなりません。
せっかく受けたご恩は、今は返す事が出来ませんが、事が済んだら、真っ先に貴方の元に向かいます」
「いや、いいさ。恩など返さずに。
……しかし、お前さんの目を見る限り、そのやらなければいけない事というのは、よっぽどの事のようだ。ワシは、お前さんの様な目つき、覚悟を決めたような目つきをした者を、これまでに見たことが無い。よほどの事があるようだな?」
「ええ。場合によっては」
「そうかい」
と、セルジュは頷く。
「よし !だったら、ワシから言うことは無い。
お前さんのような少女が、何故道端で倒れていたのか、お前さんがこれから、どこでどうするのか、とても気になるし、心配だ。
だが、それでもこう、長く生きていると、そういった事もあるだろう、と納得してしまう。どうやら、悪い事をしている訳ではないだろう。それは、直感でわかる。ここで、例えワシが引き止めても、お前さんはテコでも動かないのだろう?」
「そうですね。私には、使命があるのです。それがどういったものかは話す事ができませんが」
「いいや、充分だ。さて、そうなるとワシも放っておく訳にもいかんなぁ。よしよし。さぁ、これを受け取るがいい」
と、セルジュはルーラーに、余っていた保存食や水を入れ物に詰め込んで渡す。それを受け取ったルーラーは戸惑う。
「また腹を空かして倒れてはいかんからな。遠慮せずに持っていくがいい」
「その、こんなに悪いですよ!」
「何を言うか。さぁ、遠慮するな」
断りを入れるルーラーに構わずに、セルジュは食料を押し付けるように差し渡す。それを受け取ったルーラーは、申し訳なさそうな表情をする
「あの」
と、ルーラーは戸惑いながら言う。
「何故こんなにも親切にしてくれるのでしょうか? 貴方からすれば、私は道端で倒れていて、素性すら判らない怪しい人物だと思うのですが」
セルジュは顎鬚を撫でながら答える。
「何を言うか。確かにお前さんの正体は、ワシには解らん。だがなぁ、さっきも言ったとおり、年を取ると細かいことを気にしなくなるのだよ。それに、何かを成そうとしている若者が居る。ならば、それを応援するのが、年寄りの役目だと、ワシは思っとる」
「そうですか。それでは、この食料はありがたくいただきます。そして、同時に貴方からの親切は、私の魂に深く刻まれるでしょう。事が終わったら、真っ先にあなたの元に駆けつけようと思います」
「なぁに。そこまでしなくてもいいさ! さぁ、さぁ。何があるのかはわからんが、それでも言わせてもらおう。余り肩に力をいれる必要はない。時には気楽に行くことも大切だ」
と、セルジュは言いながら扉を開ける。ルーラーはその扉を潜って、家から出る。
「はい! ありがとうございます! では!」
そして、ルーラーは手を振りながらセルジュの元を後にする。
しばらく歩き、ルーラーは振り向く。セルジュの家は完全に見えなくなっていた。ルーラーは、ひとまず啓示が示す通りに行動すべく、歩き始める。親切な老人に、幸福が訪れるように、と祈りながら。
「さぁて、いよいよかな?」
と、泉は出来上がった2本の矢を観察する。先端には、異常な気配を放っている矢尻がついており、それ以外の部分は、通常の木材と、羽が使われている。もっとも、その矢にはサーヴァントにも通じるように、神秘が念入りに施されている。それこそが、ヒュドラを加工して製作された毒矢だった。
ヒュドラの加工を終えた泉は、額に流れる汗を拭い、立ち上がる。そして、やおら部屋の中心に鎮座しているベッドを見やる。その、手術代にも似たベッドの上には、四肢を拘束されたホムンクルスが、胸を上下させて眠っていた。
「どうしようかな? 彼の加工は、うん。今から始めても、時間は対してないだろうし、念のための保険なんだから、また今度でいいか」
泉は、ホムンクルスが目覚めないように、暗示魔術を更に重ねがけして、ホムンクルスの眠りをより確実なものにする。そして、ヒュドラの幼体を加工して出来上がった2本の矢を手に持つ。その矢の先端、つまり矢尻から、紫色の、毒々しい色をした水滴が、一粒滴り落ちる。その水滴が床に触れた瞬間、石でできた床がたちまち融解する。
「おっと! 危ない、危ない。ちゃんと封印しておこう」
と、泉は2本の矢を、念入りに封印する。これにより、ヒュドラの毒が何かに触れる事はなくなった。そして、泉は、扉を開けて部屋を出る。
部屋を出てすぐのところに、“赤”のアーチャーが立っていた。彼女の姿を認めた泉は、彼女に声をかける。
「やぁ。ずっとそこに居たの? ま、そんな事はどうでもいいさ。それよりも、やっと! やっと完成したよ! さあ、受け取って。長さや重さに違和感はないかな?」
と、泉はアーチャーに、完成した2本の矢を差し渡す。受け取ったアーチャーは、その2本の矢を検分する。
「長さも、重さも、特には問題ないだろう。それどころか、私が普段使っている矢と、なんら遜色ない。これならば、狙った相手に必ず命中させる事が出来るだろう」
「そうかい! それなら良かった。ああ、そうそう。撃つときは、封印を解いてから撃ってね。流石にヒュドラの毒は危ないから、普段は事故が起こらないように封印してあるから」
「ああ。判った。この矢ならば、一度命中させれば、どんな敵だろうが悶え死ぬだろう。……この2本は、必ず命中させよう」
「いいや。そんなに気張らなくていいさ。念のために作ったものだからね。ま、ソレを誰に、どんな状況で使うかは、アーチャーに一任するよ。……ん? 誰か来たようだね。チャイムの音が鳴った」
と、泉は家の扉に付けられている鐘の音が鳴るのを聞きつける。玄関に駆けつけようとするが、アーチャーが泉の肩に手を置いて、静止する。アーチャーは、剣呑な雰囲気を醸し出し、扉の向こうに居る人物を警戒している。
「待て。サーヴァントの気配がする。つまり、あの扉の向こうにいるのは、恐らくサーヴァントだ。……それが、“赤”か“黒”のどっちかは分からないが、もしも“黒”の場合を考慮し、警戒する必要があるだろう」
「なんだって? サーヴァント? それは本当? うん。分かったよ。覗き穴から……いや、扉の横にある窓から、外を覗いてみるよ。……どれどれ」
と、泉は足音を立てないように、慎重に移動し、格子がはめられている窓から外を覗く。そこには、泉が良く知っている人物が立っていた。敵意はない、と泉は判断し、アーチャーに扉を開けるよう指示する。
そして、アーチャーは扉を開ける。扉の向こうに立っていたのは、ルーラーその人だった。
「あの」
と、ルーラーは部屋の中を見回し、泉を見つける。
「初めまして。私はルーラー、ジャンヌ・ダルクと申します。“赤”のアーチャー、それにそのマスターですね?」
泉は突然の訪問者に戸惑いながらも、それを表に出さないようにする。そして、彼はルーラーに、ひとまず家の中に入るように促す。
「それで」
と、泉は椅子に座りながら言う。
「何でここに来たのかな? ルーラーというのは、僕の知識が正しければ、聖杯戦争により、世界が滅びる危機ぐらいにしか召喚されない、と記憶しているけれども」
「ええ、その通りです。ですが、何故私が召喚されたかは、私にも解りません。今はそれを調べるために、啓示に従って行動している状況です。それで、啓示……つまり、主が貴方のもとへ向かえ、と仰られていたので、こうして訪ねた次第です」
「へぇ」
と、泉は白々しく頷く。
「それで、僕の所に来たというには、何か聞きたいことがあるんでしょう? ま、内容によっては答えられないけれどね」
「ええ。その通りです。私が質問したいのは、貴方は聖杯に何を願うか、という事です」
と、ルーラーは目を細めながら言う。その言葉に、泉の背後に控えていたアーチャーもまた、同じように、僅かに目を細め、耳を動かす。
泉は僅かな間沈黙し、瞬きをする。そして、ため息を吐く。
「まぁ、いいか。そういえば、アーチャーにも言っていなかったし、そういう意味では、いい機会なのかもね。うん、話そう。僕がこの聖杯大戦に参加した理由、そして、何を願うかを」
次回予告詐欺すぎて、中々進まない……
次回!
『聖杯問答』
『開幕の時』