アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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リメイクしました、
1話の話の流れは前と大凡変わりませんが、ほんの少し変えてあります。
 



プロローグ

 ──ロンドンの時計塔。

 

 ロンドンの街にそびえ立つ巨大な時計塔。それはロンドンで有名な場所は? と言われれば、高確率でその名が出る場所であり、観光名所として有名な場所である。

 そう、()()()は──。

 だが、一般人と大凡かけ離れた位置に存在する魔術師たちにとって時計塔というと、観光名所などではなく、魔術師の協会であり、学校を意味する場所である。

 時計塔の内部にある教室の一角で、

 

「貴様……本気か?」

 

 時計塔に所属する講師の君主(ロード)のひとりであるロード・エルメロイⅡ世は、困惑と戸惑いと怒りによって眉間に浮かび上がった(しわ)を指でグリグリと抑えながら、呟く。

 

「本気も本気です! 今までの人生で最も本気といっても過言ではないほどに本気です!」

 

 アホ毛をブンブンと揺らしながら、ロードの生徒のひとりである川雪 泉(かわそそぎ いずみ)は答える。

 

「そうか、因みに何故そこまで本気か聞いてもいいか?」

「勿論! ボクはアタランテちゃんのケモ耳(ライオン耳)をprprしたい! 腰から揺れている尻尾を掴んでさわさわしたい! ──というか、全身をくまなく味わいたいッ!!」

「死ね」

「グハァッ!?」

 

 ロードは泉の顔面を容赦なく蹴り飛ばし、泉の体は3メートルほど宙を吹っ飛び、地面に落下した。

 

「そもそも、英霊は愛でるようなものではない! というか、仮にアタランテを召喚したところで何故ケモ耳がある事が確定しているッ! 仮にケモ耳があったとしても、それは獅子の姿で召喚されたときのみではないか!? まあ、その時は耳だけではなく体中余すところなく獅子だがな!! というか、貴様は魔術をなんだと思っている! 幻影で人の頭にケモ耳を生やしたり、挙句の果てにアニメキャラを立体化させて歌わせたり!! それだけでならば、個人の趣味ですますが、他の人物、様々な場所でいたずらをして! その後始末をしてやっているのは誰だと思っている!? 下手に優秀だから破門にする事も出来ない! ああ、何たる事だ! 私の失態は貴様を生徒として迎えた事だな!!」

「ちょ!? いたいいたい!! 髪の毛引っ張んないで! 千切れる!!」

 

 ロードは泉のアホ毛を引っ張りながら、一気にまくし立てる。

 後半の破門云々は何時も通りのやり取りとして、何故両者がアタランテの事について会話をしているのか。

 それはアホ毛の引っ張られすぎで、床に「きゅう~」と言いながら伸びている泉──いや、正確に言うと泉の右手にある文様が原因である。

 その文様は、三角の模様からなり、よく観察すると、その紅い文様の一角一角に、途轍もなく膨大な魔力が貯蔵されているのが解る。

 それは、ある日突然。なんの前ぶりもなく、ロードの講習を受けていた時に浮かび上がったものだ。

 ロードは、直ぐにそれの正体を理解した。

 その文様は、令呪と呼ばれるものである。

 令呪とは、聖杯戦争という、己の願いを叶える魔術師の儀式(たたかい)にて──過去、未来、果ては別の世界──にて、生前英雄と呼ばれるに相応しい活躍をしたものが死後にたどり着く場所から──召喚される全てで7つの(クラス)を持つ使い魔(サーヴァント)への絶対命令権である。

 現在世界各地で行われる亜種聖杯戦争に、かつてロードは参加していたため、それが令呪だと理解したのだ。

 何時もならば、何故貴様に令呪が浮かび上がるのだ。などという嫌味を言いながら、聖杯戦争に参加させるだろう。

 ──だが、今回ばかりは事情が違った。

 ロードが参加したのは()()聖杯戦争。

 つまり亜種があるのならば、本家(オリジナル)もある。そのオリジナルの聖杯戦争──正確には、聖杯戦争を行う為の聖杯、通称『冬木の聖杯』によって行われるのだ。

 亜種ならば、召喚されるサーヴァントは多くて4、5体という有様であり、戦いも小規模なものになるが、今回ばかりはそうではなかった。

 オリジナルの聖杯戦争。それはサーヴァントを7対召喚して行われる大規模なものである。それに、ロードの生徒が参加するだけでも、ひと騒ぎするというのに、それだけではなかった。

 今回の聖杯戦争において召喚されるサーヴァントの数。

 

 ────合計14体。

 

 7体でも十分に多い。だというのに、14体。その数は今までにかつてない程に多い。

 ──しかも、それだけではない。

 事情は更に入り組んでいる。

 全ての聖杯のオリジナルである聖杯が、とある一族によって奪われ、冬木からルーマニアへと移動させられ、それを奪還せんと、総勢50人の『狩猟』に特化した魔術師たちが送られた。

 その結果、生きて帰ってきたのは、僅か1名。

 その1名も自力で生還した──という訳ではなく、ただの伝言(メッセンジャー)として、生かされ、洗脳された状態で帰ってきたのだ。

 他の49名は、殺害された。別に敵の魔術師が余りにも強かった訳でもなく、送られた魔術師達が弱かったという訳でもなく、比べようのない、正に次元の違う存在によって殲滅されたのだ。

 ──サーヴァント。

 魔術師たちはサーヴァントによって、返り討ちにされた。

 だが、何の成果も得られなかったという訳ではない。

 聖杯のある装置を起動させる事に成功した。

 その装置は、7つの陣営が全て手を組んだ時に発動される、『戦争』を行わせるための装置。

(ルージュ)』と『(ノワール)』の2組に分かれそれぞれ、

 セイバー

 アーチャー

 ランサー

 ライダー

 キャスター

 アサシン

 バーサーカー

 の英霊を召喚し、戦うという装置だ。

 つまり、召喚される英霊の数は14体となる。それは、亜種、本家の聖杯戦争の規模を軽く超越する聖杯戦争。

 

 ────即ち聖杯大戦。

 

 ──だが、問題はそこではない。

 今回の聖杯戦争に、泉が参加するという事が問題なのだ。

 聖杯を魔術協会は()()奪還しなければならない。

 それには、敵側が召喚するサーヴァントに勝てるサーヴァントを召喚し、更にそのサーヴァントのマスターとなる魔術師も、腕利きのものを集めなければならない。

 故に、泉を参加させる訳にはいかない。

 今回派遣される魔術師と並ぶと、泉の腕はやや互角、もしくは互角以上かもしれない。それでも、まだ卒業すらしていない。──要するに、いくら腕が立とうが見習いぺーぺーという訳だ。

 そんな泉を参加させるわけにはいかない。魔術の腕の問題ではなく、政治的な問題なのだ。

 

「わかったら、その令呪を別の魔術師に渡してだな──」

 

 ロードは、そういった事を泉に説教をかますが、当の泉はロードが少々目を閉じた瞬間に、既に部屋を出て行った。

 

「……って居ないッ!?」

 

 ロードは、ふと目を開けてみれば、泉は忽然と姿を消していた事に衝撃を受ける。

 すぐさま部屋を飛び出し、廊下を駆け、様々な場所を捜索する。

 ──だが、職員に聞いてみれば、泉は既に時計塔を出て、今頃は飛行機に乗っている頃だろう──。と伝えられた。

 

「…………ファック……今頃追いかけていっても、もう間に合わない。か……各方面に頭を下げる準備が必要か? いいや、必要だな、確実に。……帰ったら覚えてろ……」

 

 ロードは、頭を押さえ、体をふらつかせながら時計塔の内部を歩く。

 向かう先は、時計塔の権力者の元────────。

 

 

 

 

 

 ──時と場所は変わり、ルーマニアの街の一角に存在するボロアパートの一室で、泉は床に寝転んで寛いでいた。

 ルーマニア。正確に言うとトランシルヴァニア地方の外れにある都市トゥリファスにある最古の建築物であるミレニア城に、聖杯は設置されており、その聖杯を奪った一族──ユグドミレニア一族──がいる。

 その事は、泉では大凡知ることのできない情報である。

 だというのに、泉は知っている。場所も、ピンポイントで、召喚されるサーヴァントも、──果てはこの先の展開すらも──。

 そう、()()()()()()()()()()から知っている。

 ──それは、泉の特異性と言うべきものであろう。

 泉は、前世の記憶を持っている。魔術によって引き継いだわけでもなく、本人ですら、何故なのか解らないが、唐突に、泉の前世の人物は死亡し、この世界に『川雪 泉』として生をうけたのだ。

 最初は、勿論戸惑ったが、そのうち慣れ、時間が経つと自分が魔術師の家系に生まれた事が分かり、成長すると魔術の修行を必死に行った。

 それは、別に親孝行したいだとか、『  』(根源)にたどり着きたいだとか、そういった立派な動機ではなく、──ただ楽しむためであった。

 彼にとって、魔術というものは、未知の存在であり、憧れであり、玩具であった。

 前世では、魔術などは実在せずに、ただの空想(ファンタジー)であった、だが、この世界には魔術というものが存在する。──彼が、魔術の修行をする動機は。「そこに魔術があるから」というだけのものである。

 ──そして、数年が経過し、彼は時計塔という場所に送られた。

 そこである人物とであった。──その人物こそ、ロード・エルメロイ・Ⅱ世である。

 そして、ロード、時計塔、魔術、他にもチラホラと耳にした単語により、彼は、泉は、理解した。

 

 ────転生した先は型月ワールドだと。

 

 それは、彼が前世で見たアニメ、読んだ小説、ゲームの中と全く同じ世界だった。

 そして、彼はある一つのモノに目をつけた。それこそが聖杯戦争。

 泉は、サーヴァントを召喚する事をいつかやってみたいと思っていた。何故ならば、会ってみたかったからだ。

 前世で、読んだ小説にて、そのキャラクターの内の一人に会ってみたかったのだ。

 そのキャラクターこそがアタランテ。

 泉は、どうしてもマスターとしてアタランテを召喚してみたかったのだ。何故──と問われれば、こう答えるだろう。「好きだから」と。

 つまり、泉は前世でアタランテの事が好きだったのだ。だが、それはあくまでも小説の中の人物であり、実際に話し、触れ合う──。なんていう事はできないのは、承知だった。

 だが、今なら、この世界ならば、実際に召喚する事ができる。話すことができる。そして─────

 

「さて、始めますかっと!」

 

 泉は、体を起こして、床に刻んだ魔法陣の前に立つ。

 魔法陣の中心には、アタランテに所以する物──触媒を設置し、魔法陣にズレが無いか一通り確認する。

 

「すぅ……はぁ……うー、緊張する……よし! 『──セット』」

 

 泉は、深呼吸をし、体内にある魔術回路を起動させる。そして詠唱を紡いでいく。

 

『汝の身は我が元に、我が運命は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』

 

 魔法陣が泉の詠唱に呼応するように、鈍く光輝く。

 

『えー……っと、誓いを此処に。

 我は常世全ての善となる者、 

 我は常世全ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────────』

 

 泉の詠唱が紡がれる度に、光はどんどん強くなっていった。そして、より一層強く輝き、魔法陣を中心に風が吹き荒れ、部屋のカーテンと窓を揺らす。

 

「おお……」

 

 泉は感嘆の声を漏らす。魔法陣の中心には、人影があった。

 頭部には獅子の耳が生えており、髪の両端を結わえ、スカートの下からは獅子の尾を揺らしていた。その顔は麗しの名に相応しいものであった。

 

「汝がマスターか? よろしく頼む」

 

 彼女こそが、泉が召喚したかったサーヴァント。

 名をアタランテ。

 泉が話し、触れ合いたかった人物。

 

 

 

 ──────今ここに、川雪 泉 という1人のイレギュラーが参入した。

     

 最早正史通りにApocrypha(外典)を進めるのは不可能だ。

 彼は、己の欲望のままに、本能のままに、己の信ずる道のみを歩み、暴走してゆく。

 それがどのような結果をもたらすのか────────。


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