ラブライブ!〜1人の男の歩む道〜   作:シベ・リア

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どうもみなさんお待たせ致しました。深夜の投稿すみません。
作品には関係しませんが、ラブライブ!フェスの開催決定!燃えましたね!!μ'sの復帰!是非現地にておかえりなさいと言いたいですね!あと後書きに今後のことを書いているので読んでください。
さて、今回はいよいよ……卒業式です。他になにも語ることはありません。



第162話「旅立ちの日に」

 

 

───春。それは出会いの季節でもあり別れの季節である。気温も段々暖かくなり、桜もどんどん咲いて春が来たことを人々に知らせる。

そしてこの音ノ木坂学院にも()()()がやってきた。登校する時の風景、時間そのものでさえいつもとは違うものに感じた。

 

 

「ナオキ、忘れ物はない?」

「あぁ、大丈夫だ。持って行くものも少ないし」

「それもそうね。お義母さま達と一緒に見に行くからね」

「わかった、気を付けてな」

「ナオキもね」

 

玄関ではこれが最後の登校になるナオキが絵里に見送られていた。亜里沙は準備などがあるためひと足早く家を出ている。

 

「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

2人は挨拶と共に唇も交わし、そして制服の胸のところに薔薇のコサージュを付けたナオキはいつも通りに学校へと向かった。

 

「───さて!私も準備してお迎えに行きましょ!」

 

絵里はそれからスーツに身を包んで、この日の為に上京して来ているナオキの両親を迎えに行った。絵里もどこか気合いが入っているようだった。

 

 

ナオキにとっていつも通っている通学路はどこか特別なものに感じていた。それにこの通学路、秋葉原の街には数々の思い出が詰まっている。交差点に差し掛かった時、ふと足を止めてその大通りを眺めてしまった。ナオキにとってはとても印象的な思い出の場所だからである。

スクールアイドルフェスティバル……全国のスクールアイドルがこの秋葉に集まってライブをしたイベントだ。その最終日にここで沢山のスクールアイドルと『SUNNY DAY SONG』を歌い、踊り、その輝きを日本全国、そして世界に伝えた。その時のことは今でも鮮明に思い出せる程、とても印象に残っている。

そしてナオキは再び音ノ木坂学院に向かって足を進めた。その道中には桜並木があり、風に煽られた数枚の花びらがヒラヒラと地面に向かって舞い落ちていた。そんな桜を眺めながら進む足は、自然といつもよりゆっくりなものになっていた。

 

「あ、もう着いたのか……」

 

そして知らぬ間に音ノ木坂学院の校門前に着いていたナオキはボソッと呟いて来た道を振り返った。そこには先程歩いた桜並木の道が続いていた。

少し感慨深そうに視線を校門に戻すと、昨日はなかった『音ノ木坂学院 卒業証書授与式』と書いてある看板がそこに立て掛けてあった。さらに日本国旗と音ノ木坂の校旗も掲げられていて、今日は特別な日なのだと感じさせられる。

 

「……行くか」

 

ナオキはそうして校門を通って、式の準備をしている学生達の声が響く校舎に入っていった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「おはよ〜う」

「あ、ナオキくんおはよう!」

「あれ、あの3人はどこ行った?」

 

ナオキが教室に入って荷物を置くと近くの席に座っているはずの穂乃果・海未・ことりがいないことに気付いた。しかしもう20分程で集合時間になる為、若干心配でもあった。

 

「それじゃあ探しに行ってきてよ。そろそろ集合時間だし」

「おれが!?……わかった、行ってくる」

「はーい、お願いね〜」

 

そうフミコ達に見送られるとナオキは何も持たないまま教室を出て行き、3人がいそうなところを目指して校内をぶらつきはじめた。

 

 

 

 

まずナオキが来たのは屋上。ここでμ'sの時もShooting Starsの時も時間いっぱい練習をした思い出の場所だ。

───3人はいなかった。

 

次に来たのは講堂。μ'sのファーストライブなど、アイドル研究部が校内でライブをする時はほとんどここを使っていた。卒業式は体育館で行われる為ここには誰もいない。入口の鍵も閉められていて人の気配はなかった。

───つまり3人はいなかった。

 

続いて来たのはアルパカ小屋。この学校のマスコット的存在のアルパカにも子供が産まれ、3匹仲良く過ごしている。それに人懐っこくナオキにも警戒することなく近付いた。

───もちろん3人はいなかった。

 

外をある程度巡って次に来たのは生徒会室。もちろん式の準備中のため誰もいない。ナオキと海未にとって1年間様々なことを経験した、このアイドル研究部と同じ青春の1ページを過ごした場所だ。そして、ちょうど去年絵里にプロポーズした所でもある。

───3人はここにもいなかった。

 

(ありがとうございました)

 

ナオキは『生徒会室』とドアに付けられていた札に触れて感謝の気持ちを伝え、3人を探すべく歩き出した。

 

 

 

そして次に来たのはアイドル研究部の部室。ナオキ達にとってこの学校生活の殆どがここでのものだったと言ってもいい。思い出を挙げるとキリがなくポンポンと出て来そうだ。

そんな部室前に3人は───いた。

 

「やっぱりここだったか。どこ行ってたんだよ」

「ナオキくんおはよー!」

「ちょっと、色々……ね?」

「あっ!もうすぐ集合時間じゃないですか!?」

「「えぇ〜!?」」

「だから迎えに来たんだよ。ほら行くぞ」

 

3人を連れて教室に帰る途中、3人がナオキが巡った場所と同じ所を同じ順番で巡っていたのを知った。結局、みんなが考えることは一緒だったみたいだ。

 

 

 

───教室。

 

 

「みんな、おはようさん」

『おぉー!』

「先生!すっごく綺麗!」

「ふふっ、ありがとうな」

 

全員が揃った教室に綺麗な着物に身を包んだ童子が入ってくると、みんなは童子に釘付けになった。口々にその容姿を褒めている間も式の開始時間は刻一刻と近づいている。

 

「さっ、みんな積もる話もあるやろうけど、そろそろ式始まるさかい準備してや〜」

『はーい!』

 

みんなは事前に配られた卒業式のプログラムや歌う曲の歌詞が書いてある小冊子を持ち、廊下に出席番号順で並んだ。隣のクラスもぞろぞろと教室から出てきて同じように並んでいた。

 

「穂乃果、答辞は持ってますか?」

「うん、ちゃんとポケットに閉まってるよ。ほら!」

「穂乃果ちゃん、頑張ってね!」

「ことりちゃん、ありがとう!」

「3年生、出発するぞー」

 

みんなそれぞれ様々な思いを胸に在校生や教師、それに父兄(ふけい)が待つ式場である体育館に向かった。

 

 

 

 

────体育館。

 

 

『卒業生が入場致します。皆様、拍手でお迎えください』

 

司会である生徒会会計、葵の声と共に吹奏楽部の演奏が始まり体育館のドアが同じく書記の都呼と亜里沙によって開けられた。そして拍手が鳴り響く中、本日の主役の3年生が入場してレッドカーペットの上を歩く。

 

「あっ、ナオキよ!撮って撮って!」

「任せろ!」

「あはははは……」

 

(あのバカ親……)

 

「穂乃果、立派になったわね……」

「……………」

 

(お父さん、もう泣いてる……)

 

(海未さん、綺麗ですよ)

(流石は私達の娘だ)

 

(お母様、お父様……)

 

(私も保護者席から見たかったわ)

(あいつの分まで写真を撮らねば)

 

(お父さん、張り切ってる……)

 

生徒は入場しながら自然とそれぞれの両親を探していて、その反応に呆れたり安心したり、中にはもう既に泣きそうになっている人もいた。

 

卒業生が着席し、それから式は何の問題もなく進んでいった。

全員での国歌・校歌の斉唱。理事長・教育委員長・PTA会長の挨拶。来賓と各祝電の紹介。そして卒業生の名前が順番にクラスの担任から呼ばれる。みんな元気よく返事をしてその場で立つ。父兄は自分の子が呼ばれるとその姿をおさめようと写真を撮り、中には成長した姿に感動して涙を流しそうな人もいた。しかし、感動しているのは全員共通のようだ。

 

式はメインの卒業証書授与へと移る。ナオキは代表として教師と来賓、そして在校生と舞台に向かって一礼してから舞台に登り、卒業証書を持つ理事長であるすずめの前に立った。そしてすずめにより読み上げられた証書を受け取り、また一礼をして席に戻った。

 

次にフミコが卒業生の代表として学校への寄贈品の目録を読み上げてすずめに渡した。それから海未が代表として在校生の代表の生徒会副会長である六華から記念品を受け取った。

 

そしていよいよ式も終盤に差し掛かった。

名前を呼ばれた生徒会長の真姫が舞台に立ち、在校生代表として送辞を読み上げた。

 

『送辞。在校生代表、西木野 真姫。

冬の寒さも和らぎ、春の訪れが感じられるこの日にこの音ノ木坂学院を旅立たれる卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。在校生一同、心よりお祝い申し上げます。

今、皆様はどんな事を思い出しているのでしょうか。十人十色という言葉があるように、1人ひとりにそれぞれの思い出があると思います。先輩方は私達後輩に沢山の事を教えてくださいました。

行事や部活動の際、先輩方は先頭に立って私達を引っ張り、時には背中を押してくださいました。そんな先輩方の姿に私達は憧れ、まさに理想の先輩でした。

いつも明るく元気な先輩方がこの音ノ木坂学院から旅立つことを考えると、胸が苦しくなります。ですが安心してください。今度は私達が先輩方の気持ちを受け継ぎ、元気な魅力ある学校にしていきます。

最後になりますが、これから先、先輩方は幾多の困難に立ち向かわなければなりません。ですが、先輩方ならきっとどんな困難も乗り越える事ができます。先輩方のより一層のご活躍をお祈りすると共に、感謝の気持ちを込めてこの歌を贈ります。

 

───在校生、起立!』

 

そして真姫の合図と共に在校生は立ち上がり、六華はピアノの椅子に座って楽譜を拡げた。

在校生が贈る歌として選んだのは『さよなら大好きな人』だった。その歌の歌詞だけではなく、伴奏からも別れを惜しむ気持ちが伝わって来ていた。六華は弾きながら、真姫に教わって正解だったと心から安心してた。その安心が素晴らしい伴奏に繋がっていた。在校生の中には声を震わせる人もいたが、そのソプラノとアルトに分かれた綺麗な歌声は卒業生だけではなく、会場全体に感動を与えた。

曲が終わると同時に大きな拍手が響き渡り、真姫は送辞を舞台上の机に置いてから一礼をして席に戻っていった。六華も真姫に合わせて席に戻った。

 

その後、名前を呼ばれた穂乃果は元気よく返事をして舞台に向かう。そして真姫が置いていった送辞に微笑みながら答辞をポケットから取り出した。

 

 

『答辞!卒業生代表、高坂 穂乃果!

満開の桜が春の訪れを知らせてくれるこの良き日に、私達61名はこの音ノ木坂学院を卒業します!まずは素晴らしい送辞と歌を贈ってくれた在校生、私達の旅立ちを見守って下さっている教職員、来賓の方々、そして保護者の皆様にお礼を申し上げます。

ついにこの日がやって来てしまいました。今日という日を迎えて、出来ることならまだこの学校に居たいという思いが込み上げて来ます。それがとても悲しい気もしますが、この音ノ木坂学院での生活が大切なものだったんだとも感じることができます。

初めて先生方やクラスのみんなと顔を合わせ、これからの生活に胸躍らせた入学式。クラスのみんなと絆を深めた校外学習や修学旅行。地域の方や中学生の子達を楽しませようと努力した学校説明会や文化祭。懸命に取り組んだ部活動など、数え切れないほど沢山の思い出があります。そのどれもが私達にとってはかけがえのないものです。

いつも私達を見守ってくれた音ノ木坂学院。勉強や大切なことを教えてくださった先生方。時には励まし、支えてくれて、時には喧嘩もしたけれど、とても長い時間を一緒に過ごしてくれた在校生のみんなと共に卒業するみんな。本当にありがとうございました。私達が卒業して、これからの音ノ木坂学院を作っていくのは在校生のみんなです。みんなそれぞれの輝きをもって、この限られた時間の中で精一杯頑張ってください。

私達がこうして元気にこの学校を卒業できるのも、お父さん、お母さんのおかげです。ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願い致します。

最後になりましたが、これからの音ノ木坂学院のますますのご活躍とご発展を心からお祈りすると共に、感謝しても仕切れない気持ちを込めてこの歌を贈ります。

 

───卒業生、起立!』

 

送辞の時と同じように、卒業生は穂乃果の掛け声と共に立ち上がり、ピアノ経験のあるフミコがピアノ椅子に座った。そして、卒業生は在校生や父兄がいる後ろを振り返って歌を披露した。

卒業生が贈る歌に選んだのは『Best Friend』だ。自分達を今日送り出してくれる人達にはもちろん、共に卒業するみんなに向けた歌。その心がひとつになったような歌声は素敵で、素晴らしく、心地よいもので、泣きそうになりながらも堪えている人もいれば、我慢し切れずに声を抑えて泣き出す人もいた。それだけこの歌の歌詞が卒業生自身にも心に響くものだったのだろう。会場全ての人がその歌声に感動させられた。

 

伴奏が終わると盛大な拍手が卒業生に贈られた。そんな大喝采の中、穂乃果は答辞を机に置いてから一礼して席に戻った。フミコはこの後も伴奏を担当しているのでその場で待機していた。

 

『最後に、卒業生と在校生で「YELL」を斉唱します。卒業生、在校生、起立!

保護者の皆様もお手元のプログラムに歌詞が載っていますので、よければご斉唱ください』

 

そして舞台下には、答辞を読まない代わりにこの斉唱の指揮者に任されたナオキが待機をして、全員の視線がそのナオキに集まる。

これが卒業式最後の見せ場となる。父兄の人達もそれがわかっていて、中にはカメラを構える人もいた。

ナオキの指揮とフミコの伴奏で曲が始まった。卒業生と在校生、それぞれソプラノとアルトに分かれて歌っていて、その歌声には自然と感情が乗っていた。見事な歌声、見事な伴奏、見事なハモリ……その非の打ち所がない素晴らしい1曲で誰もが感動していた。

 

最後の伴奏が終わって拍手が鳴り響き、ナオキとフミコの一礼と共にその音はさらに大きくなった。

全員着席し、2人が席に戻ると涙をすする音、声をあげて泣きそうな気持ちを抑え切れずに漏れる声の音が目立つ中、式の閉幕が告げられた。そしていよいよ卒業生が退場する時がやってきた。

担任先導の元、吹奏楽部の演奏と共にレッドカーペットを歩き出口へ向かう。途中で生徒から一輪の赤い薔薇を受け取り、色んな気持ちを噛み締めながら体育館から出て行く。そこには入場してきた時とは違う雰囲気があり、父兄の表情もまた違うものであった。

 

 

「「ありがとうございました!」」

 

 

最後に退場する2人が代表して出口でそう言うと、会場から惜しみない拍手が送られた。

体育館のドアがゆっくりと閉まり、卒業式もその音と共に終わりを告げた。しかし、その音は悲しいものだけではなく、卒業生達の新たな門出を告げる音でもあった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「あ〜疲れた……」

 

全米が泣いた感動のラストホームルームが終わり、父兄や生徒達が集まるグラウンドをやっとの思いで抜けたナオキは、校舎から離れたところにある桜の木の下のベンチに座ってひと息ついた。

グラウンドで繰り広げられたのは同級生や後輩達、教職員との撮影や思い出話だけではなく、音ノ木坂学院の伝説のひとつの"第2ボタン戦争"であった。ナオキの第2ボタンもその標的であったが、穂乃果・海未・ことりなど色んな人が狙われていた。

第2ボタンは心臓に1番近い位置にあることから「ハートを掴む」という意味で、主に意中の人の物を狙う。しかしこの学校はもうすぐ共学になるものの、女子校であるこの学校でもその習慣は存在する。それが伝説の"第2ボタン戦争"だ。

ぶっちゃけ他のボタンでも良いのだが、1番良いとされるのは心臓に近い第2ボタン。主に狙われるのは人気だった生徒、学業成績が優秀だった生徒、そして部活動などで活躍した生徒だ。つまりそんな人のボタンを手に入れた者はその恩恵にあやかることができるという伝説から生まれたのが"第2ボタン戦争"なのだ。中には学年1位の成績を持つ卒業生の第2ボタンを手にした生徒が、翌年には学年1位になったというエピソードも存在する。

しかしそんな伝説、ナオキは知る由もなかった。何故なら昨年はその騒ぎになる前に絵里・希・にこを連れ出して部室に篭っていたからだ。

 

「あいつら大丈夫かな……?」

 

ナオキは戦争のことを思い返して穂乃果達を心配しながらも、部室に行けばいるだろうと思いそこへ向かうために立ち上がった。

 

「あ、でも部室に行こうとしたらまた捕まりそうだな……」

 

最悪の事態を考えたナオキはアイドル研究部のチャットグループに『騒ぎが収まるまで暫く避難してる。収まったら部室に行く』と発信して、大人しくその場で待機することにした。

綺麗な桜を見ながら物思いにふけり、()()()()()()()()()()()()()2()()()()を取り出して、右手の人差し指と親指で挟んで目線の斜め上に掲げた。

 

「……そういうことか」

 

ナオキは昨晩と今朝に絵里から何度も言われた「絶対第2ボタンは誰にも渡しちゃダメよ」という言葉の意味をやっと理解して、なんだか照れ臭くなり頰を赤く染めた。

 

 

───数十分後……

 

 

通知音が鳴ってナオキは第2ボタンをポケットにしまい、スマホを取り出してその画面を見た。

 

『私達講堂に避難してるんだ!安全だからナオキくんも来てよ!』

 

「あいつら講堂に避難してたのか。暇だし行くか」

 

ナオキは立ち上がり唸り声をあげて背伸びをすると、騒ぎが収まっているのを祈りながら講堂の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

───講堂。

 

 

ナオキは無事着くことができたが、そこは朝来た時と同じように人気はなく静かであった。穂乃果達が本当に講堂にいるのかさえも疑いつつあった。しかし、講堂のメインホールに入ったナオキはその光景に驚きを露わにした。

 

そこは明かりも付いていて、幕が下がっていたのだ。暗いので電気を付けたとも考えられるが、基本幕は下がっている状態が正しい。よく考えればメインホールが開いていることもおかしいのだ。セキュリティ上、開校時間は講堂に入れたとしてもメインホールには鍵がないと入れない。ましてや電気を付けようとすれば放送室の鍵も必要だ。

ナオキがおかしな点に気付き頭を悩ませていると、唐突に鳴ったブザーに驚いて体をビクッと震わせた。これは明らかに誰かが操作している証拠だ。

 

「えっ、ブザーが……!?」

 

そしてその驚きはまだ止まらなかった。ブザーが鳴り終えた後、幕が開いたのだ。

 

 

そこには────

 

 

 

 

────それぞれピンク・青・緑のシンプルな衣装に身を包み、手を繋いで目を瞑る穂乃果・海未・ことりの姿があった。

 

 

「えっ、お前ら、どうして……!?」

 

 

そしてそっと目を開けた3人はナオキの方をジッと見つめた。ナオキは未だに驚きが治らず困惑した表情で3人を見ていた。

 

「ほらなにつったんてんの!」

 

「早く1番前に座って!」

 

「ヒデコ!?ミカ!?ってことは……」

 

急に現れた2人に驚いたナオキは視線を放送席に移した。するとガラスの向こうにはフミコがいて、こちらを見て頷いた。

 

「ほら早く!座らないと()()()が始められないんだってば!」

 

「は……?ライブ……?って押すな押すな!危ないから!」

 

ヒデコとミカに()かされたナオキは状況を整理しながら、指定された最前列の真ん中の席に向かった。

 

「なぁ、これは一体───」

 

ナオキが席に座るとその言葉を遮るようにドアの開く音が鳴り響いた。この講堂に来てからナオキの心臓に悪いことばかり起こっている。これは寿命が少し縮んだかもしれない。

それはさて置き、その音にびっくりして入り口の方を見ると、そこにはドヤ顔でこちらを見つめる花陽がいた。

 

「は、花陽……!?」

 

「ライブが始まるよ!ステージにご注目っ!」

 

「ライブ……?ってまさかこれって……!?」

 

ナオキは()()()に気が付いてバッとステージに視線を戻した。すると明かりが消え、その瞬間ステージの穂乃果達は一定間隔を空けて後ろを向いた。

 

そして少し懐かしいようなイントロが流れ、くるりと回ってこちらに向き直す3人を順番に照明が照らした。ナオキはパフォーマンスをする3人を目をうるうるとさせて見つめていた。

するとすぐ後ろに人気を感じて振り返ると、花陽・凛・にこ・絵里・希・真姫が席についた。さらに後ろの方にはヒデコとミカ、放送室にはフミコがいる。そして穂乃果達が疲労している曲は『START:DASH !!』だ。

ナオキはこの状況で確信した。これはあの講堂ライブ……穂乃果・海未・ことりの3人で始まったμ'sファーストライブの再演。それはナオキがまだ大阪にいた時に中継映像で見ただけで、実際には見ることができなかったライブだ。μ'sの始まりに間接的にしか立ち会えず、実際にその場にいたかったと後悔していた。その思いは共に暮らす絵里にはもちろん、誰にも打ち明けずに心の奥底にしまっていた。それがわかった瞬間、感動のあまりすぐに泣きそうになった。しかし、この夢にまで見た光景を目にしっかりと焼き付けたいという気持ちが涙を引っ込ませたが、姿勢は自然と前のめりになっていた。

このライブを夢中になって見るナオキはどこか子供のようで、目を輝かせながらジッとステージを見つめている姿は誰が見ても感動しているとわかるものだった。

 

 

曲が終わり3人が決めポーズを取ると、ナオキは無意識に立ち上がって拍手をしていた。他のみんなも同じく穂乃果達に拍手を贈った。

これこそが元μ'sである3年生のラストライブ。そのライブを客席から見れただけでなく、自分が夢にまで見たμ'sファーストライブの再演。まさに感無量。今死んでも悔いなく死ねるというものだ。

 

「ねぇ、どうだった?」

 

穂乃果は拍手を中々辞めないナオキにそう声を掛けると、ナオキは徐々に拍手を辞めて腕をぶら下げた。そしてそんなナオキの目からはひと雫の涙がこぼれ落ちた。

 

「………最高だったよ。やっぱりお前らのパフォーマンスは世界一……いや、宇宙一だよ」

 

ナオキの涙を流しながら浮かべる笑顔に、パフォーマンスを終えた3人は嬉しそうに笑顔で涙を流した。そしてナオキは気分を落ち着かせて、さらに言葉を続けた。

 

「おれはあの時心が参っていた。絶望しきっていた。でもそんな時にお前達のライブを中継映像で見た。その時おれは心を救われたんだ。3人の踊る姿、歌う姿を見て元気をもらった。直接この気持ちを拍手として送ってやりたかったって後悔してたよ。でもそれを今日、叶えてくれた……本当にありがとう。お前達は、μ'sは、最高のスクールアイドルだっ!」

 

「ナオキ、私達だけじゃなくて後ろのみんなにもお礼を言ってください」

 

「うん。みんなナオキくんのために協力してくれたんだよ」

 

「そうか。花陽、凛、にこ、絵里、希、真姫、ヒデコ、フミコ、ミカ……ありがとう」

 

「4人の高校生活を占ってる時に出てたんよ。ナオキくんは何か後悔してることがあるって」

 

「それでなんだろうって話してる時にこのことじゃないかって、絵里が」

 

「ま、まぁ、後悔してることってこれぐらいかな〜って思っただけよ」

 

「それを聞いた私達も協力しようって思ったの」

 

「それで折角ならファーストライブ丸々再現しちゃおうって!それでヒフミ先輩達にもお願いしたんだー!」

 

「「「略すな!」」」

 

「だってナオキくんは……私達を輝かせてくれたから!」

 

「みんな……!」

 

「「「スルーされた……」」」

 

「ナオキくん、だから私達からもお礼を言わせて」

 

『私達を輝かせてくれて、ありがとう(ございます)!』

 

「っ……!」

 

「あ〜!またナオキくん泣いてる〜!」

 

「う、うるせぇ!」

 

みんな、9人で過ごした日々のように笑い合っていたが、その目からは少量の涙が溢れていた。

そしてそんな空気の中、入り口のドアが開いてアイドル研究部の1年生達、そして現生徒会メンバーと童子が入ってきて、みんなの視線はそっちに向いた。しかし、その中で驚いているのは3年生だけだった。

 

「お楽しみのとこ悪いな〜。3年生のみんなにウチらから贈り物や」

 

童子のその言葉を合図に雪穂と亜里沙、生徒会の六華と葵が花束を持ってステージの方に向かって来た。こちらに来るのに驚いている3年生を、真姫と花陽はステージ下で横一列に並べた。

 

「香川先輩、ご卒業おめでとうございます!」

「七海さん、ありがとう。生徒会は大変だと思うけど、この学校のことよろしくね」

「は、はい!任せてください!」

「……六華、ナオキは彼女持ちだからね」

「わ、わかってるよ……!」

「ん?何話してんだ?」

「な、なんでもないです!」

 

 

 

「ことりちゃん!卒業おめでとう!」

「亜里沙ちゃん、ありがとう。スクールアイドル、頑張ってね!」

「Конечно(カニェーシナ)!」

「か、金……?」

「もちろんって意味よ」

「絵里ちゃん、そうなんだね。亜里沙ちゃん、Спасибо(スパスィーバ)!」

「っ……はい!」

 

 

 

「園田先輩、ご卒業おめでとうございます」

「静さん、ありがとうございます。くれぐれも皆さんに迷惑をかけないように」

「わ、わかってますから睨まないでください!先輩も道場のこと、頑張ってくださいね」

「ふふっ、ありがとうございます。生徒会と弓道部の両立は大変だと思いますが、どちらもしっかり頑張ってください。応援してます」

「そ、園田先輩……!」

 

 

 

「お、お姉ちゃん……卒業おめでとう」

「雪穂、ありがとう!」

「私もスクールアイドル頑張るから、その……お姉ちゃんみたいなスクールアイドルになるために」

「ゆ、雪穂ぉ〜!」

「わわっ!抱きつかないでって!みんな見てるから〜!」

「雪穂ぉ〜!お姉ちゃんも頑張るからねぇ〜!」

「離してぇ〜!恥ずかしい〜!」

「……ありがとう」

「お姉ちゃん……」

 

 

「ヒデコ先輩!」

「ミカ先輩!」

「……フミコ先輩」

「「「ご卒業おめでとうございます」」」

「えっ、私達にも!?」

「当たり前じゃないですか!」

「私達知ってます。先輩達はずっとアイドル研究部を支えてくれてたこと。だから……」

「「ありがとうございます!」」

「ううっ、ありがとう……!」

「ちょっとヒデコ〜!えへへ……」

「フミコ先輩は生徒会も頑張ってて、他の人達がスクールアイドルしてたから頑張ったんだろうなって……その、お疲れ様です」

「京極さん……ありがとう!」

 

 

六華は尊敬する生徒会の先輩ナオキに、亜里沙は大好きなスクールアイドルの先輩ことりに、葵は生徒会と弓道部の憧れの先輩海未に、雪穂は姉であり先輩でもある穂乃果に、真癒美と瑞希はアイドル研究部を裏から支えてくれた先輩ヒデコとミカに、都呼は自分の前任である生徒会の先輩フミコにひと言を添えて、色とりどりの花で構成された花束を渡した。笑顔を浮かべる者、涙を流す者……3年生はそれぞれの喜び方で渡してくれた後輩に感謝の気持ちを伝えた。そんな光景を見ていた童子も思わず涙をこぼした。

 

「ほなみんな、最後に写真撮るで〜」

 

童子が涙を横に指で飛ばして声をかけると、生徒であるみんなはざわざわとステージに登っていった。そして童子がステージ下でカメラを構えようとした時、その手を絵里が止めた。

 

「先生はあっちですよ。写真は私が撮りますから」

「絢瀬はん……ありがとうな」

 

童子はかつての教え子、絵里に礼を言うと生徒の待つステージに登った。

希とにこが全員を指示して、絵里は受け取ったカメラを構えてシャッターチャンスを伺った。

 

「うん、ええんやない!」

「そうね。じゃあ撮るわよ〜」

『は〜い!』

「じゃあいくわよ〜?」

 

3年生と担任の童子が最前列で他の生徒が後ろ2列に並んでみんなが笑顔でピースしたりしている写真は、この場にいる誰の胸にも残る思い出の1枚となった。

その後もそれぞれで色んな写真を撮り、この永遠に続いて欲しいとも思える時間は終わりを告げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達、本当にいいのか?」

「うん、今日はアイドル研究部のみんなで楽しんできてよ」

「折角招待されたんだから!」

「そうそう、ノープログレム」

 

穂乃果達も着替え、生徒会メンバーは先に帰宅した後、校門前でナオキ達は別れを惜しむように会話をしていた。

実はナオキ達アイドル研究部の3年生は、ナオキのおじでラブライブ!運営委員会の会長の晋三に、その自宅で開かれる卒業パーティーに招待されている。そこには3年生だけでなく、その家族、元μ'sのメンバー、そしてアイドル研究部の部員も招待されている。

ナオキは折角ならヒフミも一緒にと考えたが、3人はそれを断って自らの自宅の方に帰っていった。そんなクラスメイトであり、共にアイドル研究部を支えてくれた3人が去る姿を3年生達は名残惜しそうに見つめていた。

 

「……さ、行くか。みんな待ってくれてると思うし」

 

そして軽く深呼吸をしたナオキのひと言を合図に、みんなは振り返ることなくナオキを先頭に晋三の家に向かった。その途中でたわいもない会話をして、笑って、今まで通りの時間を過ごした。今日だけで沢山泣いた3年生の涙はすでに枯れていたが、なんとも言えない気持ちが心の中に残っていた。しかし、誰もその正体に気付くことなくその道を歩いていた。

 

 

 

晋三の家での卒業記念パーティーでは豪華な食事が出され、みんなが思い出話に花を咲かせた。そして卒業する4人には晋三からそれぞれ卒業祝いが用意されていた。穂乃果には高級いちごの詰め合わせ、ことりには最新機能の備わったミシン、海未には有名な弓師が作った弓、そしてナオキには晋三と行く北海道への卒業旅行が贈られた。それぞれが現在貰って嬉しいものを晋三が家族への調査の元用意したこともあってか、4人は大いに喜んだ。

 

そんなパーティーもあっという間に終わりを告げて、みんなそれぞれの家に帰宅していった。ナオキ・絵里・亜里沙とナオキの両親は晋三の家に泊まることになっている。

 

「ごめん、おれちょっと出掛けてくる」

「えっ、今から?どこに行くの?」

「ん〜……ちょっと御礼を言いに」

 

卒業生組とその家族も帰ろうとした時、ナオキは唐突にコートを着て出かける準備をした。絵里に理由を聞かれたナオキはしばらく頭を悩ませた末にひと言だけ言い残して、穂乃果達と共にどこかへ走っていった。

両親などはどこに行くのか見当もつかずに首を傾げたが、絵里は答えがわかったように微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

───ナオキ・穂乃果・海未・ことりが来たのは、自分達がスクールアイドルをしている間に練習をしたり、ラブライブ!優勝を祈願したりと、様々な場面でお世話になった神田明神だった。

いつも通りに男坂の方から入り、手と口を手水舎で清め、二拝二拍手一拝。こうする機会も今までよりは減るだろう。そしてもちろんそこでしたのは神様への御礼。そのためにここまで来たのだ。

 

 

───私達を見守ってくださってありがとうございます。これからのスクールアイドルを、アイドル研究部のみんなを、よろしくお願いします。

 

 

そんな思いが神様に届いていることを信じて、ナオキ達はなにも語らず静かに神田明神を離れていった。

 

 

穂乃果の無謀な夢から始まり、その夢にみんなが賛同して、共にラブライブ!優勝、そしてスクールアイドルフェスティバル・μ'sの最後のライブまで駆け抜けた。さらに新たな仲間と新たなスクールアイドルとしてラブライブ!優勝を目指したみんなと歩んだ道はこの日から分かれ道となって、それぞれの道を歩いていく。

それぞれの夢と未来へ向かって───

 

 

 

 

 

───次回へ続く。

 

 

 





ありがとうございました!
まずは曲の説明を。今回名前を使わせて頂いた曲は自分が卒業式にぴったりだなと思った曲です。みなさんもお時間があれば一度聞いてみてください。もっとこの回が感動的になるかもしれません。少なくとも私は泣きました。
さて、いよいよ卒業式も終えて物語も終わりが近付いて来ました。これからのお話を少しさせていただきます。
予定としては、この後本編は最終回、そして終章(エピローグ)へと繋がるのですが、最終回はひとまず置いておいて、最終回やその後に繋がるお話を数話投稿しようと思っています。仮名を『After way』としていますが変更するかもしれないです。投稿日時は未定なのでそこらへんはご了承ください。
ではみなさん、次回をお楽しみに!感想などどんどんお待ちしております!!

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