年末に投稿したかったのですが、結局年が明けてからの投稿になってしまいました。すみません(土下座)
前回は文化祭でしたね。今回はいよいよ音ノ木坂学院の運命をかけた会議が行われます!ナオキくんが模擬男子生徒だってこと、忘れないであげてくださいね……?いや、きっと読者の方なら覚えてくださっていたでしょう!失礼致しました……
それでは前書きはこのぐらいにしておいて、本編をどうぞ!
───10月末 日曜日。
ナオキの姿は千代田区役所の中にある教育委員会の会議室にあった。
今日は音ノ木坂学院を共学にするか否かの会議が行われる日だ。その部屋には理事長のすずめ、同窓会長の児玉、理事会役員の辻というナオキが知っている人もいたが、その人達以外にも教育委員長、後援会長、そして理事会の他の役員数名もいた。ナオキは会議室に入ってから汗をかきっぱなしのため、喉が渇いてコップに入っているお茶を1杯口に入れた。
───落ち着こう。深呼吸、深呼吸……
ナオキはお茶を喉に通すとゆっくりと深呼吸をして気分を落ち着かせた。
「ではこれから、音ノ木坂学院の共学についての会議を始めます」
そして運命の会議がすずめのひと言をもって始まった。
「まずは模擬男子生徒の香川ナオキくんに報告をしてもらいます。香川くん、よろしくね」
「は、はい!」
ナオキはすずめに名前を呼ばれると緊張した表情のままその場で立ち上がって、軽く自己紹介をしてから紙を持ちあげてそこに書いてあることを読み上げた。会議室にはナオキの声だけが響いた。
「まず生活面ですが、やはりトイレに関しては現状男子専用はひとつしか無く、先生方と鉢合わせになる可能性があり気まずく感じましたので、男子トイレの数を増やすことは必要かと思います。あと、更衣室に関しましても同様です」
───流石に、トイレをしながら成績の話はやめて欲しいからな。
「続いては授業についてです。夏場は体育でプールの授業が始まります。自分の場合はプールには入らず教室内での補習になりましたが、共学になればそうとはいきません。なので主に保健体育の授業を中心に見直しが必要かと思います」
───あの補習時間は辛かったなぁ。先生もこれに関しては共感してくれてたな。
「ここからは生徒達のアンケートからわかったことをお話します。まず、『男子がひとクラスだけにいるのはずるい!』という意見がありました。この意見から、男子生徒が入った場合のクラスの割り振りも人数を設定するなどの対応をした方が良いと思います」
───最初の頃は女子生徒がおれのいる教室を覗きに来てたってけ。
「しかし、生徒の中には男子が苦手で、そのために女子しかいないこの学校を選んだという人も少なからずいました。こういう子達やその親御さんなどへは説明済みですが、やはり生徒の間には少なからず不安は残ると思います。なので、そう思わせないように対策を練るべきだと思います」
───この模擬男子生徒の制度も最初は否定されていて、おれが音ノ木に入ってからもその声はあった。でも理事長達はその声をおれ自身に届かないようにしてくれてた。だからこそ、これは成功させないといけないんだ……!
「自分からの報告は以上です。残りの細かい生徒達の意見などは別紙に記載してあります」
「ナオキくん、ありがとう。座ってもらって結構よ」
ナオキは座って静かにひと息ついてから周りの反応を伺った。大人の人達はナオキの言葉を踏まえて、再びプリントに目を通していた。ナオキはその様子を緊張した面持ちで見つめていた。
「やはり、共学にするのはもう少し先でもいいんじゃないですかね?やはりこの浮き上がってきた問題点を改善してからでも……」
「しかし、そう言って我々は何度も共学を延期してきました。そろそろ共学に踏み切るべきだと思います。そのための模擬男子生徒だったのでは?」
ある役員のひと言でその場の空気は一変し、先程まで口を開かなかった人達が口々に自らの主張を口にした。ナオキはそれをただ聞くことしか出来なかった。
「───今年度の生徒数はスクールアイドルの活躍のおかげで増えましたし、別にこのままでもいいと思いますがね」
そしてしばらく議論が続いた後、後援会長のひと言で全員の発言が止まった。
ナオキはそのひと言に反論しようと声をあげようとした……が、それすらも遮るように沈黙を破ったのは理事会役員の辻だった。
「お言葉ですが、それはあまり良策ではありません」
「……何?」
「音ノ木坂学院の周りの学校はほぼ全てと言っていいほど共学です。その状況で生徒数は激減し、ついには廃校の危機に瀕しました。このままではあと数年後、また逆戻りになってしまいます。そうならない為にも一刻も早く共学にして入学者の範囲を増やす方が良策だと思いますね」
「辻さん……!」
ナオキは文化祭の時にキツイ言葉を浴びせてきた辻が本気で音ノ木坂学院のことを考えてくれているのだとわかって感動を覚えた。
「それに、香川くんは共学のためにスクールアイドルとしても頑張ってくれました。その結果が今の音ノ木坂学院を作り上げている、と私は思います」
辻の言葉を聞いた後援会長はそれに反論出来ずに黙ってしまい、先程まで否定的な発言をしていた人達も口を閉じた。ナオキは、やはり辻はここで影響力のある人物の一人なのだと認めざるを得なかった。
「いくつか上がった問題点も対策さえしっかり考えれば解決するわ」
「確かに、それも一理ありますね」
しばらくして誰も発言しなくなると、すずめは全員の様子を確かめてから会議を次の段階へ進めた。
「もう意見も出ないようなので、そろそろ決めましょうか……共学にするか否かを」
そのひと言により、いよいよ音ノ木坂学院の今後が掛かった会議は終盤に差し掛かった。
音ノ木坂学院の共学に賛成か反対か、過半数以上で数が多い方に決定する。今、この理事会に参加しているのはナオキを外して15名。本来、半々にならない人数で理事会は構成されているため、ナオキがそこに加わると半々に割れてしまう可能性がある。なのでナオキはその結果が良き方になるのを祈るしかなかった。
「それでは、音ノ木坂学院の共学に賛成が反対か、どちらかに手を挙げてください」
そのひと言が放たれた瞬間、ナオキは中で何かが締め付けられて息が詰まるような感覚を感じた。心臓の音すらうるさく感じ、自然と息も飲み込んでしまう。
そして会議の結果は────
会議の翌日である月曜日、あるお知らせの紙が音ノ木坂学院の掲示板に貼られていた。その紙は生徒全員にも配られていて、各自親に見せることになっている。
そしていつもなら殆ど誰も残っていない放課後の3年1組の教室からは生徒達の賑やかな声が漏れていた。
「では、ナオキくんのお役目終了と、
『かんぱ〜い!』
その教室に集まっていた1組、ナオキのクラスのみんなは手に持っている紙コップを掲げて、ナオキの模擬男子生徒としての責務である音ノ木坂学院の共学決定を祝った。
ナオキは「本日の主役」と書かれているタスキを掛けられ、さらにパーティーハットを被らされた状態で椅子に座らされていた。
例の会議の結果、なんと全会一致で共学が決まった。そしてそれはしっかりとひとつひとつの問題と向き合い、改善していくという条件で成り立っている。
ナオキはみんなからお祝いと労いの言葉を掛けられ、用意されたお菓子や飲み物を貰いながら色んなことを思い出していた。
模擬男子生徒としてこの音ノ木坂学院にやって来て、唯一の男子生徒にも関わらず仲良くしてくれたクラスメイト達はじめ沢山の生徒から遠慮なく意見を言ってもらったり、偶には一緒に考えてもらったりしていた。この共学決定は自分だけの力ではないということはナオキ本人が1番わかっていた。
「ナオキくん、お菓子食べないの?」
「穂乃果は食べ過ぎです」
『あはははは!』
「はははっ……いや、ちょっと色んなことがあったなって思っていただけだ」
ナオキは止まっていた手をまたお菓子に伸ばし、偶にみんなと談笑しながらその時間を楽しんだ。
教室の片付けを済ませてクラスメイトは暗くなる前に下校していく中、ナオキ達アイドル研究部の部員は部室に向かっていた。そろそろ練習が終わり、みんな帰ってくる頃合いだ。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ。マシュだけか?」
「はい」
部室に入るとマシュが1人椅子に座っていて、ナオキ達は荷物を机の上に置いて自分達がいつも座っているところに座った。
マシュはShooting Starsを脱退した後、カナダに帰るまで少しの猶予があるためナオキと一緒にみんなのサポートにまわっている。特に最近はナオキが忙しかったため、ナオキの代わりにドリンクを用意したりしていた。
「マシュすまないな、しばらくの間任せっきりにしちゃって」
「いえ、大丈夫です。みんなのサポートは大事な役割ですので!」
「……そうか」
ナオキは微笑みを浮かべはしたが、同時にその表情にはマシュがもう少しでいなくなってしまうという寂しさも薄らではあるがこもっていた。
「あ、ナオキくん達帰ってるにゃ!」
「おかえり。さ、早く着替えてこい。暗くなる前に帰るぞ」
「は〜い」
それから間もなく凛達が部室に帰ってきて、隣の部屋で着替えてからみんな揃って下校するのだった。
───その日の夜。
「はい、お待ちどうさま。今日はご馳走よ」
「やった〜!いただきま〜す!」
ナオキ達は絵里の用意したご馳走を囲み、亜里沙は嬉しそうに我先にと食事を始めた。
「いただきます!………うん、美味しい」
「ありがとう。折角共学が決定したから腕によりをかけたわ」
「絵里の作るものなら全部ご馳走さ」
「ナオキ……!」
絵里は頬を赤く染め、照れ隠しのつもりでナオキから視線を逸らして箸を進めた。そんな絵里を見たナオキからは愛おしい想いを込み上げれ、ナオキはその想いをご飯とともに飲み込んだ。
それから数日後、全校生徒は講堂に集められていた。ナオキは理事長に続き、ステージで言葉を述べていた。その中にはもちろん共学が決定したことと、今までの協力の感謝の言葉も折り込まれていた。そして………
「最後になりましたが、自分の生徒会長の任期は今日この日をもって終わりです。それに伴い、新たな生徒会長を指名します」
ナオキがそう言うと講堂にいる生徒達はざわめきだした。ナオキが生徒会長になったのもこの時期で、それは全生徒会長であった絵里からの指名だった。そして今回も次の生徒会長をナオキが指名する。
「────2年、西木野真姫」
「はい」
指名されたのは現在の生徒会で役員を務めている真姫だった。真姫は名前を呼ばれると落ち着いた姿勢を保ちながら壇上に上がった。
「じゃあ真姫、あとは頼んだぞ」
「えぇ」
ナオキは真姫の肩に手を置いて声をかけるとステージ袖に下がっていった。そこには現生徒会と次期生徒会のメンバーがいて、任期を終えたナオキを出迎えた。
「先程ご紹介に預かりました。私、次期生徒会長の西木野真姫です。よろしくお願いします。それでは他の生徒会役員を紹介します。みんな、こっちへ」
真姫が舞台袖に向かって呼びかけると続々と次役員が真姫の隣に並び、それぞれ簡単な自己紹介をした。
生徒会長、西木野真姫。副会長、
六華と葵は真姫のクラスメイトで、真姫直々の指名で副会長と会計を務めることになった。書記の都呼は亜里沙のクラスメイトだ。生徒会メンバーを選んでいる時に亜里沙が入ると名乗り出て、1年生1人は心細かろうと同じ学年で、さらに書道で硬筆2段の資格を持つ都呼に白羽の矢が立ったのだ。
自らの姉に憧れる亜里沙は、自分達に注目している生徒達を見て溢れる胸の高鳴りを感じていた。それはスクールアイドルとして立つ時とはまた別のもののように思えた。
───これが、お姉ちゃんが見ていた景色……!
亜里沙の目は希望に満ち溢れているようにキラキラと輝いていた。
───次回に続く。
ありがとうございました!
共学決定、良かったですね!ナオキくん、おめでとう!書いていないだけでナオキくんは裏でめっちゃ頑張ってたんですよ!はい!
これで1つの役目を終えたナオキくん。そして新しい生徒会!生徒会長は真姫!そしてメンバー内には亜里沙が!?さてこの後にあるのはもちろん……あれですよね?
さて、お知らせです!実は、この小説の評価が1000を超えました!ありがとうございます!これからも応援、よろしくお願い致します!
ではではこんなところで。また次回も楽しみにしていてください!