みなさんどうも!
お待たせ致しました!今回からいよいよ最終章のスタートです!ついに来てしまったかと内心思っております。
さて、本日21時に薮椿さん主催の企画小説にて私のものが投稿されます!投稿される前から少し緊張していますが、みなさん良ければ読んでくださいね!よろしくお願いします!
それでは最終章、スタートです!
第155話「最後の文化祭」
───大阪を離れて再び東京の地へ。
───そこで再会した幼馴染、出会ったことのある少女達。そして、愛する人。
───輝きを仲間と共に目指し、そして手に入れた。そしてその輝きの素晴らしさを日本に、世界に伝えた。
───愛する人、大切な仲間と共に歩んできた男の道は長くも短くもあり、色んなことが起こる道だった。
───その道は永遠に続く。しかし、その道にもあるひとつの区切りが訪れる。
『ラブライブ!〜1人の男の歩む道〜』
【最終章〜みんなで歩いた道、これから歩く道〜】
───時は文化祭。
3年生の教室ではナオキ達が最後の準備に取り掛かっていた。
「材料は全部揃ってるね!」
「ほむまんも沢山あるよー!」
「机も良し、椅子も良し、外装内装良し……はい、完璧ですね!」
「あとは営業開始を待つだけだな」
最終確認が終わると、みんなはワイワイと話し始めた。3年生にとっては高校生活最後の文化祭。楽しみでもあり、悲しくもある。
だが誰も「悲しい」とは言わない。それはみんなで約束したからだ。文化祭が終わるまでは「最後」と考えないでおこう、「悲しい」とかそんなことは言わないでおこう、この文化祭を全力で楽しもう、と。
だから今でもみんなは笑顔を浮かべて会話をしている。
ナオキはワイワイとしているみんなを見ながら去年のことを思い出していた。
ナオキがこの音ノ木坂学院に来たのは去年の文化祭の前日だった。その日、ナオキはみんなになんで来たのか事情を話して気持ちを切り替えて、第2の高校生活を開始した。しかし、次の日の文化祭で穂乃果が倒れてしまってライブは中止、そして第1回ラブライブ!を辞退。さらに追い討ちをかけるようにことりの留学問題。それを乗り越えてμ'sは新たなスタートを切った。
そんな日々も今となっては懐かしい思い出だ。
「でも、今年は講堂使えて良かったね!」
「そうだね」
「去年はにこが外して屋上になったもんな」
昨年度の文化祭ライブは講堂ではできなかった。にこがガラガラ(新井式回転抽選器)で白玉を出して使用許可が得られず、屋上で簡易ステージを作ってライブをすることになったのだ。
しかし今回は違う。今回は見事花陽が講堂の使用許可を引き当てて、Shooting Starsは講堂でのライブができることになった。
「それに、今日はマシュの引退ライブでもあるしな」
「うん……」
「寂しくなるけど仕方ないよね……」
マシュの帰国は11月。その11月からはラブライブ!に向けての練習、ライブが続く。そしてマシュは「ラブライブ!に参加しない私が予選に出る訳にもいかないので10月のライブで最後にします」と自ら志願したため、この文化祭のライブがマシュにとって、Shooting Starsの引退ライブになる。
「でも、マシュのこともあってみんな一致団結しました。大丈夫です」
「そうだな」
ナオキは海未の言葉に笑みを零して頷いた。穂乃果とことりもそれに続くように頷く。
「4人とも〜っ、集まって〜!」
「ん、どうした?」
そんな時、ヒデコが4人を呼んだ。気付くとクラスのみんなが固まってナオキ達を待っているようだった。4人はそれを不思議に思いながらみんなの元に足を進めた。
「うん、これで全員だね!みんな、ここまでお疲れ様。泣いても笑っても今日が
『おー!』
このクラスの文化委員のヒデコの掛け声に合わせてみんなは声を合わせ、拳を突き上げて一致団結した。
Shooting Starsのライブだけではない、このクラスの催しも最高のものにすると4人はさらに気合いを入れた。
『え〜、みなさんおはようございます。今日はいよいよ文化祭です。部活でも、クラスでも、今日という日を思いっきり楽しんでください。では只今より、音ノ木坂学院文化祭を開催します!』
ナオキが校内放送で開催宣言をするとそれを聞いた生徒のみんなは拍手をしたり歓声をあげたりして、それを合図に入り口からお客さんが続々と入ってきた。
「いらっしゃいませ〜!」
「どうぞ寄っていってくださ〜い!」
「来なきゃ損だよ〜!」
みんなお客さんを呼び込もうと元気に声を出したり、手作りの看板を掲げていた。
ナオキは最初の仕事が無事に終わって放送室で息を吐いた。
「お疲れ様です。次は見回りですよ」
「わかってるよ。じゃあ、行くか」
仕事が終わって束の間、ナオキは海未と一緒に見回りを開始した。
その最中にμ'sのファンだったという人に声をかけられ、ナオキ達は予想以上に疲れてしまった。
───生徒会室。
「見回りがこんなに疲れるとは……」
「仕方ないよ。ナオキくん達はμ'sだったんだから」
μ'sは解散してもその人気は健在だ。しかもそのうちの6名、ナオキを含めると7名は今も音ノ木坂学院でスクールアイドルを続けている。Shooting Starsも元μ'sのメンバーがいるから応援しているという人も少なからずいるようだ。
「じゃあ次は私ね」
「あぁ、気を付けろよ」
「わかってるわ」
真姫は何食わぬ顔で見回りに向かった。
文化祭の見回りは生徒会だけではなく、文化祭に向けて動く文化委員も参加している。
「さて、クラスの方に行くか」
「そうですね」
「じゃあ私は鍵を閉めてから行くね」
「あぁ、頼んだ」
ナオキと海未はフミコより先にクラスの出し物に参加すべく生徒会室を出てその教室に向かった。
ナオキ達のクラスの出し物は喫茶店。ウェイトレスの格好をしたいという意見が多かったためこうなった。特にメイド喫茶とか執事喫茶とかそういうのではなく、ごく普通の喫茶店だ。
ナオキは少々それが意外だった。よくある展開ではここでメイド喫茶や執事喫茶に決まって、ナオキが女装させられたり執事長にされて「あの香川ナオキにお世話してもらえる喫茶店」とか変なタイトルになるからだ。ナオキ自身、そうならなくて安心している。
それにナオキの担当は調理が中心だ。これはこれで結構忙しい。
「いらっしゃいませ!2名様ですね。あちらの席をどうぞ」
「いらっしゃいませ。3名様でよろしいでしょうか?どうぞこちらへ」
「いらっしゃいませっ!2名様ですか?こちらの席へどうぞっ!ほむまんがオススメだよっ!」
「あの3人やるね〜」
「流石、メイド喫茶でバイトした事だけはあるな」
「確かに」
「注文入ったよ〜!」
「「は〜い!」」
この喫茶店ではことり、海未、穂乃果が先頭に立って接客を、フミコ、ミカそしてナオキを中心に調理を担当している。そして全体をまとめるのがヒデコだ。
────2年生 教室。
「へいらっしゃいにゃ!」
「す、スーパーボールすくいはどうですか?」
凛達のクラスの出し物は縁日だ。スーパーボールすくい、射的、輪投げなど誰でも楽しめそうな催しを教室という限られた空間の中でしていて、雰囲気も縁日に寄せている。服装もお祭り風のものになっていて、凛はノリノリだ。
────1年1組 教室。
「ほ、本当にやらないといけないんですか……?」
「頑張って!マシュさんなら絶対可愛いから!」
「わ、わかりました……」
マシュのクラスは噂のメイド喫茶だ。しかもメイド服は手作りらしく、マシュはことりに衣装のこと、メイドのことを相談したりしていた。どうやらマシュは恥ずかしがっているようだったが、勇気を振り絞っていざ接客へ!
「お、お帰りなさいませ……ご、ご主人様……!」
────講堂。
「ロミオ……あなたはどうしてロミオなの?」
「ジュリエット……君はどうしてジュリエットなんだ……?!」
真癒美、瑞希のクラスは舞台で演劇を披露していた。演目は『ロミオとジュリエット』。ロミオは真癒美、ジュリエットは瑞希が演じていた。ダンスの練習をしている時、2人とも休憩の合間に演技の練習もしていた。その努力の成果は十分に出ていた。
────体育館。
「犯人はあなたですね」
「くっ……なんで、わかったんですか?」
「それは現場に残された証拠からです」
雪穂、亜里沙も舞台で演劇を披露するみたいだ。演目は探偵もののオリジナル劇だ。雪穂は主人公の探偵役で、亜里沙は犯人役だった。予測できない展開に客は目が釘付けになっていた。
「亜里沙可愛いわよ〜」
「ちょっと、恥ずかしいから辞めなさいよ」
絵里は小声でカメラを構えて盛り上がっていたが、それをにこは後ろを気にしながら絵里を押さえていた。
今年の文化祭は昨年度に比べて遥かに盛り上がっていた。それはやはりμ'sの活動の成果と言えるだろう。
μ'sのおかげで音ノ木坂学院の名は知られるようになり、入学者も前年度より多い。音ノ木坂学院入学希望の高校生や地域の人達、卒業生が来ることは例年通りだが、人数は遥かに多かった。
元μ'sの面々はその事実に嬉しみを覚えつつ笑顔で自らの役目をこなしていた。
「ナオキく〜ん、理事長が呼んでるよ〜」
「えっ!?」
注文が落ち着いてひと息ついているナオキは穂乃果に声をかけられると体を震えさせた。
「ナオキくん、何かしたの?」
「してねーよ!」
ナオキは驚きながらも理事長のすずめがいる席へみんなにからかわれながら向かった。
「あそこだよ」
穂乃果に教えて貰った席にはすずめだけではなく、スーツを着た男の人と女の人が一緒に座っていた。ナオキはその光景を見て頭に被っていた三角巾、手につけていたビニール手袋を外してその席に向かって歩き出した。
「理事長」
「あらナオキくん、お疲れ様」
「おぉ、君がナオキくんだね」
「はい。あの、失礼ですがどちら様で……?」
ナオキは戸惑いを見せながら声をかけてきたスーツ姿の男の人に話しかけた。するとその男の人と女の人は姿勢を正してナオキの方を向いた。
「申し遅れました。私、音ノ木坂学院の同窓会長をしている
「私は音ノ木坂学院理事会役員の
スーツ姿の女、児玉は上半身を45度くらい曲げて頭を下げて自己紹介をした。スーツ姿の男、辻は軽く会釈程度にお辞儀をして顔を上げるとメガネを左手で軽く押しあげてその音を鳴らした。
「し、失礼しました!生徒会長の香川です!よろしくお願い致します!」
「大丈夫ですよ。頭を上げて?」
ナオキはまさか同窓会長と理事会の役員とは思わず驚きながらも深々と頭を下げた。そんなナオキを見て児玉は苦笑いを浮かべながら声をかけた。
「今日はね、是非とも模擬男子生徒が入った学校の様子を見てみたいということで案内をしているのよ」
「そうなんですね」
「でも昨年度と比べれば遥かに盛り上がっているわね」
「あ、ありがとうございます!」
児玉のひと言に話している様子を聞いていたクラスメイト達はホッと胸を撫で下ろした。
「しかし、この結果はμ's"9人"の活動の成果では?やはり模擬男子生徒はいなくても良かったのではないでしょうか?」
しかしそれは辻のひと言によって緊迫の雰囲気に変わった。これにはすずめや児玉も戸惑いを隠せない。ナオキもまさかの言葉に即座に反応出来なかった。
「そ、それは───」
「───それは違います、辻さん」
「君は……」
ナオキが反論しようとするとそれを遮ってある人物がナオキの前に出て辻の言葉を否定した。
「お忘れですか?前生徒会長の絢瀬です」
「覚えているとも、絢瀬くん」
その人物は前生徒会長であり、たまたま恋人の様子を見に来た絵里だった。
絵里は生徒会長時代に辻はもちろん、児玉や他の理事会役員などとも面識があった。
「お言葉ですが、模擬男子生徒をこの学校に、音ノ木坂学院に必要であったと私は思います」
「その理由は……?」
「まず、μ'sは9人ではなく、この模擬男子生徒のナオキを含めた"10人"です。μ'sがここまで来れたのも、音ノ木坂学院の存続が決まったのもナオキがいるμ'sだからこそです」
「しかし、ステージでお客を魅了したのは9人でしょ?裏方にいた香川くんは───」
「───それは違います。裏でナオキがサポートしてくれていたからこそ、私達9人は輝けたんです。そこを勘違いしないで頂けますか?」
「…………」
辻は絵里の言葉に反論出来ずに黙ってしまった。そこへ絵里はさらに追い討ちをかけるように言葉を続けた。
「それに、ここにいるみんなの目を見てナオキが、模擬男子生徒が本当に必要ではなかったと思いますか?」
辻は絵里から視線を外して、こちらを見ている生徒達の目を見回した。
その目は全て、自分の意見に反抗している目だった。それはつまりこの香川ナオキという人物が、模擬男子生徒は必要な存在だったということ。そしてそう思われるほどに信頼されているということ。
「………なるほど」
辻は納得したように息を吐いてナオキの方へ視線を移した。ナオキはその視線に気づいて背筋を伸ばした。
「先程の言葉は訂正させていただくよ。すまないね、香川くん」
「い、いえ!」
「君はここの生徒から、いや、
「いえこちらこそ。またいらしてください」
すずめがそう言うと辻は答えるように微笑んで一礼をした後、立ち上がって教室から去っていった。
その姿を見送ると、教室にいた生徒達は近くにいる人達と微笑みあってまた先程通りに働き始めた。
「流石絵里ちゃん!かっこよかったよっ!」
「ちょっとやめてよ〜」
「いや、本当に助かったよ。ありがとう」
「べ、別にいいわよ。だって本当のことでしょ?」
絵里は穂乃果とナオキの言葉に頬を赤くした。しかし、ナオキのお礼の言葉に1番照れているようだ。
「絢瀬さんは卒業しても変わらないわね。貴女が生徒会長をしていた時の理事会を思い出すわ」
「絢瀬さんはいつも辻さんと言い合っていましたからね」
「その話は辞めてください……!」
児玉とすずめが絵里の生徒会長時代のことを思い出して笑みを浮かべながら話していると、絵里はさらに顔を赤くしてその話を遮った。
「ははは……とりあえずお礼をさせてくれ。どうぞ」
「ありがとう」
ナオキは絵里がすずめ達と同じ机の席に座ると調理スペースにさがって行った。ナオキが去った後、3人は小さな声で会話をした。
「やっぱり、私の目に狂いはなかったようね。それに辻くんもこれで賛成に決めたでしょうね」
「やっぱり辻さんは
「絢瀬さんは気付いてたのね。辻さんは共学にするかしないかずっと迷っていたのよ。それで今回、この学校を見学して決めると言ってくれたのよ」
やはり音ノ木坂学院共学の件は理事会の中でも賛否両論ある。会議までの間、すずめを初めとした賛成派の人達は周りの人達の説得をしていた。辻もその対象の1人であった。
辻は理事会の中でも発言力を持っている役員だ。嫌われるような性格をしているが、この人物を味方にするほど心強いものはない。
「やっと"流れ"がこちらに傾いたってところかしら?」
「でも安心するには早いですよ。結論は当日にならないとわかりませんから」
「……そうね」
話題が会議のことになると空気が少し張りつめる。絵里は少し気まづく感じていて、ナオキが早く来ないかチラチラと調理スペースの方を見ていた。
しかしそんな空気の中、ナオキは平然と絵里達が座っている席まで料理を運んだ。他の席の女子生徒達は少し羨ましそうにその光景を眺めていた。
「お待たせ致しました。いちごのミニパフェとチョコのミニパフェでございます」
ナオキは丁寧にすずめと児玉の前にいちごのものを、絵里の前にチョコのものを置いた。
「ありがとう。とても美味しそうね」
「そりゃあみんなで考えたメニューだからな。理事長も同窓会長もそんな暗い顔しないで、今はこの祭りを楽しんでください。じゃあ、おれは仕事に戻ります」
ナオキはそれだけ言い残すと調理スペースの方に戻っていった。そんなナオキの言葉にすずめと児玉は顔を見合わせてしばらくしてから笑みを零した。
「食べましょうか」
「そうですね」
そう言うと2人はパフェを食べて味の感想を言い合っていた。絵里もその会話に参加していて、先程までの空気の重さは感じられなかった。
それからすずめと児玉は他のクラスの出し物を見に行ったりと祭りを楽しんだ。もちろん、会議に向けて学校の雰囲気を見るために。
───講堂 舞台裏。
「おっまたせ〜」
「おっ、やっと来たか」
Shooting Starsの面々は部室で衣装に着替えて、一足先に講堂に来ていたナオキと合流した。
今回の衣装は前回の文化祭でも着た『No brand girls』のものを使用している。黒と白中心に構成されていて、さらに一部に黄色とメンバーカラーが使われて、ひと言で表すなら"かっこいい"がとても似合う衣装だ。1年生はかつてμ'sが着ていた同じデザインのものに袖を通すことに感動していたが、2.3年生は思い出にふけっていた。
あの時は穂乃果が曲の最後に倒れてしまい、メンバー間でもことりの留学の件もあって穂乃果が抜けてμ'sがバラバラになりかけた。でもまたみんなひとつになった……そんな思い出が蘇って来て少し寂しいような気持ちにはなったが、逆にそれを力に変えて頑張ろうとも思えていた。
「よぉ〜し、盛り上げるぞ〜!」
「穂乃果は盛り上がり過ぎです」
「ははははは……」
「穂乃果ちゃん、凛も負けないからね〜!」
「凛ちゃん、静かにしないと……」
「そうよ。前の人達の出番はまだ終わってないんだから」
2.3年生は出番が近づくこの状況でもいつもと変わらず話せていることに1年生達は若干羨ましくも思っていた。特にマシュはそんな先輩達の様子を気にすることが出来ない程に緊張していた。
「……マシュ」
「は、はいっ……!」
「緊張し過ぎだ。もうちょっと肩の力を抜いて」
「で、でも……」
「でもじゃない。"センターだから"緊張するのはわかるけど、少しは落ち着かないと練習みたいなパフォーマンスは出来ないぞ。ほら、深呼吸深呼吸」
「は、はい……」
マシュはナオキにそう言われると大きく息を吸って深呼吸をした。それに釣られるように他の1年生も深呼吸をしていた。
そう、今回はマシュの最後のライブということもあって披露する新曲のセンターを任されている。そんなマシュを含め、みんな緊張するのは当たり前だ。しかし、だからこそ落ち着かなくてはいけない。
深呼吸し終わるとマシュの顔は先程の余裕のなさそうな表情から笑顔に変わっていた。それは他の1年生も同じだ。
「うん、いつも通りの良い顔になった。これなら大丈夫だ」
「あとは全力を出すだけやで。頑張ってな〜」
『はい!』
1年生の緊張も和らいでみんなが返事をしたところで舞台側から大きな拍手の音が聞こえてきた。それは、前の出番だった教師陣によるエ〇タの神様風のネタ披露が終わったということを意味していた。
「よ〜し、いつものやるにゃ〜!」
『はい!(うん!)』
凛の掛け声と共にみんなはピースの形にした手を合わせて円形に並んだ。
「じゃあみんな、今日も輝いていくにゃ!」
その言葉を合図に2年生、3年生、1年生、ナオキ、童子と1人ひとり順番に番号を言っていき、最後に声を合わせて手を振りあげた。
「Shooting Stars!」
『ミュージック……スタートー!』
そして、Shooting Starsの文化祭ライブが始まった。
この模様はネットでも配信されていて、沢山の人が注目している。そのことを考えるだけでさっき楽になった緊張がさらに膨れ上がってくるが、先程ナオキに言われた通りに深呼吸をして落ち着いたマシュは最後のステージへ向かう。
『続いては、アイドル研究部Shooting Starsによるライブです』
『おお───!!』
本番直前、アナウンスが流れると待ちわびていた人達の歓声があがった。それとほぼ同時に暗転し、ステージではShooting Starsの面々が配置についた。
そしてライトが付いてみんなを照らすと観客はさらに大きな歓声をあげ、曲が始まった。
まず披露したのは『Shooting Stars〜流れ星のように〜』だ。
みんなデビュー曲として初めて披露した時より完成度をあげていた。特に成長を見せたのは1年生達だ。先輩達には負けてられないと練習をして、時には先輩達にアドバイスを貰ってそれを実践したりしてこの日を迎えた。その練習で得た力を十分に発揮できている。
そして曲が終わって観客の拍手を味わう間もなく次の曲のイントロが流れてきた。それはどこか聞き覚えのある曲。体に染み付いている不思議な感覚を感じながらもステージで踊るみんなも、観客も最高の盛り上がりを見せる。その曲は『No brand girls』だ。
2曲目が終わるとみんなは息を整えてすぐ次の曲のフォーメーションに並んだ。真ん中に1年生、その右側に2年生、左側に3年生が並び、そしてセンターにはマシュ。その光景を見た観客は少しざわざわとしだしたが、その声は3曲目のイントロが流れ始めるとそれはおさまった。
それはこの日のために作った新曲、『The Special Day』だ。
『私達で、一緒にまわらない〜?』『きっと、楽しい、祭りに〜なるよ〜!』
長いイントロが終わると歌い始めは2年生、それに続いて3年生が担当した。振り付けはまるで見ている人を誘うようなものだった。
2年生は凛を中心に3人で引っ付きながら、端の真姫と花陽がそれぞれ右腕と左腕を客席に向かって伸ばしてその手を広げ、3年生は穂乃果を挟んでいる海未とことりが右手と左手を繋いで空いている腕の手を広げて客席に向けて伸ばし、真ん中の穂乃果は手を広げた両腕を伸ばした。
「屋台で美味しいもの食べて」「色んな教室を巡ったりして」
1年生5人のうち両端にいるのは真癒美と瑞希だ。真癒美は箸を持って何かを食べるジェスチャーを、瑞希はその場で駆け足で一回転した。
「ねぇ」「どう?」
「行きたくなったでしょ〜?」
続く亜里沙と雪穂は両腕を大きく広げ、亜里沙は右腕、雪穂は左腕を客席の方に向けて、反対側の腕を斜め上に伸ばした。
そしてセンターのマシュは右手を腰にあて、ウィンクしながら左手で拳銃を構えて撃つジェスチャーをした。撃つと同時に右脚を曲げて、その動きに見ていた観客は歓声をあげた。
『祭りだ!』『今日は特別な一日〜』「だからこそ、君と過ごしたいんだ〜」
『祭りだ!』『さぁ、めいいっぱい楽しもうよ〜!』「過ごしたい、君と〜」
サビに入り、全員で元気よく声を出しながら一斉にジャンプしてかはらマシュ以外が合わせて歌い、その後にマシュがソロで歌った。
さらに曲の終わり直前のところでマシュは左手を腰にあてながら体を斜めにし、右脚のかかとを上げた状態で右手の人差し指を伸ばして歌に合わせて客席に向かって突き出した。
『特別な一日に〜』「するため♡」
そしてラスト、10人の合わさった歌声の後に音楽が消え、それと同時にマシュが少し頬を赤らめながら右手をぐっと自分の顔に近づけ、その手をLの形にして構えてニコッと笑顔を浮かべて曲を締めると、観客の大きな歓声と拍手が講堂に響いた。
「今日の文化祭、まだまだ楽しんでくださいにゃ〜!」
凛がそう言うとみんな手を振って、舞台の中心にいたマシュを残して手を振って舞台袖に下がって行った。
残っているマシュを観客は不思議そうに見つめていて、マシュはみんなが下がると前を見つめて深呼吸をした。そしてマシュは言葉を連ねる。
「皆さんご存知の方もいると思いますが……私、マシュ・ライトは11月にカナダへ帰ることになったため、本日をもってShooting Starsを脱退致します。なので今回は最後にみんなのご好意で、私が最後に"1人で"曲を披露させて貰うことになりました。そしてその曲は、アイドル研究部のある先輩のソロ曲です!」
マシュがそう言ってポーズをとると観客は期待の声をあげた。ステージ全体の灯りが消えて、パーライトはマシュのみを照らした。
「それでは聞いてください……『もしもからきっと』」
マシュが曲名を告げるとイントロが流れ出し、それに合わせてゆっくりと踊り始めた。
この曲は希のソロ曲の1つだ。マシュはこの曲に感動、共感を覚えて希に直接「ライブで披露させてください」とお願いして、練習を重ねて今日を迎えている。希に振り付けを教わり、バレエ経験のある絵里にもアドバイスを
曲が終わると観客の暖かい拍手と言葉に包まれながらマシュはポロッと目からひと雫が流れた。マシュは観客に向かって講堂を笑顔で見まわしながら手を振ってその拍手と言葉に答えた。
ナオキはそんなマシュと目が合い、「最高に輝いてるぞ」という言葉を込めて右手の親指を立てた。マシュはそんなナオキの仕草が見えたのか、とても嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「みなさん、ありがとうございました!!」
そうしてShooting Starsの出番が、そしてShooting Starsとしてのマシュの最後のライブが終わった。
マシュが舞台袖に下がる時も観客は暖かい言葉と拍手で見送り、舞台袖ではナオキを含めたみんなで一緒に涙を浮かべながら成功を喜んだ。
文化祭が無事閉幕した日の夜、毎年恒例の後夜祭がグラウンドで行われていた。
教職員の人達から食べ物や飲み物が配られ、みんな食べたり飲んだりしながら友達と話をしたりして盛り上がる。グラウンドの真ん中では定番とも言えるキャンプファイヤーが設置されていて、中にはフォークダンスを踊る人もいる。
ナオキはグラウンドの中心から少し離れた芝生の上に座ってキャンプファイヤーを眺めながら生徒達の賑やかな声を聞いていた。
「はぁ……」
先生から貰った暖かいコーヒーをひと口飲んで息を吐き、片手を地面につけて姿勢を少し後ろにずらした。そして間近に迫った音ノ木坂学院の今後を決める会議のことを考えていた。
───いよいよおれがここに来た役目を果たすときだ。必ず共学にしてみせる。
ナオキの中には確固たる決意があったが、もちろん不安に思うこともある。本当に大丈夫なのだろうか、失敗しないだろうかと考えると足がすくんでしまう。だが、ここまで来たからには必ずやり遂げてみせるという思いがその決意に、やる気に火をつける。
「ナオキく〜ん!」
「どうした〜?」
「ナオキくんもこっちで話そうよ〜!」
「……わかった〜。今から行く〜」
ナオキは中身のなくなった紙コップをひと握りして潰すと、立ち上がってアイドル研究部のみんなの元に向かった。
もうほとんど暗くなった空に一筋の流れ星が目に見えない速さで流れていった。しかしその流れ星には誰も気づくことは無かった。
───次回に続く。
ありがとうございました!
ついにマシュが脱退してしまいました……悲しい。
さて、前書きでもお伝えした通り、本日21時に薮椿さんのアカウントで私が書いた企画小説が投稿されます!みなさんも良ければ是非、企画小説を読んでください!自分のだけではなく他の方のもすごく面白いので、是非!
それではまた次回お会いしましょう!出来れば年内に投稿したいですね!できれば!