みなさんどうも、お久しぶりです!
まずは投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。最近執筆速度が落ちているような気がしますね……今後も早くて月イチの投稿になるかと思います(できるだけ早く投稿したい)。どうかお付き合いください。
さてさて久しぶりの更新は大阪編の終わり!まぁ、長引かせてもネタがないので……
しかし、この回はタイトルから察せる通りある意味重要な回です!
それでは是非ご堪能ください!
───朝。
「ナオキ、明日で東京に帰るんだろ?」
「ん、まぁ……」
「なら絵里ちゃんと観光でも行ってきたらどうだ?」
「観光か……」
朝ご飯を食べている最中、トウマはナオキと絵里に大阪観光を勧めた。ナオキが考え始めると押し時と考えた樹木は目をキラーンと光らせた。
「例えば道頓堀とか心斎橋とか?」
「通天閣とかも良いかも」
「絵里ちゃんも行きたいわよね!?観光!」
「は、はい……」
「ならこれが交通費ね。楽しんで来なさい」
「は、はぁ……」
樹木からお金が入った封筒を手渡されたナオキはほぼ強制的に絵里と出かけることになった。
───内心とてもはしゃいでいるが。
───新今宮駅。
「着いた〜!」
駅から出たナオキは体を伸ばして大阪の街の空気を吸った。
駅近くには動物園もあり休日には子供連れの人が多い。そこから正面を見ると通天閣を見ることができ、さらに右を向けばあべのハルカスがドンとそびえ立っていて、大阪に来た人は皆「大阪に来たな」と思うことができる。
「あそこまで歩くの?」
「そうだな。絵里には歩きながら大阪の街を堪能して欲しいし」
「ふふっ、ありがとう」
ナオキと絵里は早速大阪の街の景色を眺めながら通天閣に向けて足を進めた。
─────絢瀬絵里は大阪の街を歩きながら"あのとき"のことを思い出していた。修学旅行で大阪の街を希と共に観光していたあのときのことを………
『あのーすみません、落としましたよ?』
『あ、ありがとうございま……す……』
『え、絵里ちゃん?』
『ナ、ナオキくん……なの?』
「やっぱりここは賑わってるわね〜」
「そうだな〜」
ナオキと絵里はいわゆる"新世界"と呼ばれるエリアに足を踏み入れ、相変わらずのその街の賑わいに声を漏らした。
新世界とは、真ん中にそびえ立つ通天閣、通天閣のお膝元で
「折角だし串カツとか食べてみたいわね〜」
「串カツか〜。それなら────」
「────串カツならあのお店がオススメやで!」
ナオキと絵里が大阪名物串カツの話をしていると、2人の前に1人のおっさんがあるお店を指差しながらズザザザザと滑って登場した。
「あ〜、やっぱり『八重勝』ですよね」
「兄ちゃん知ってるんか!?」
「そりゃあ有名ですからね」
「兄ちゃん、やるな〜」
「いえ、1年前まで大阪に住んでましたから」
「なるほど、それで……それより、あの店の串カツ食べていきや!」
そう言い残すとおっさんは最初にいたベンチに戻って腰掛けた。
「入るか?」
「えぇ、折角だしね」
ナオキと絵里は先程のおっさんから教えて貰った串カツ屋、八重勝に足を運んだ。
「いらっしゃいませー!」
『いらっしゃいませーー!!』
店内に入ると元気な店員さんの声が耳に入ってきた。この独特な雰囲気は東京では滅多に体験出来ないことだ。
そのお店は全席がカウンター席で、いつもなら行列ができるほど混んでいるのだが今日は珍しく席が空いていた。2人は運が良かったらしい。それでも席は9割ほど埋まっているが。
ナオキと絵里は空いていた席に座った。カウンターにあるガラスケースの中にも串カツなどが並んでいて、店員さんが今も大量の串カツを揚げている。
「烏龍茶と串カツとどて焼きを2人分、あとじゃがいもとウィンナー、それととり唐揚げを1本ずつ下さい」
「かしこまりましたー!」
ナオキは独断でさっと注文して商品が置かれるのを待った。食べ物が来る前に烏龍茶が置かれ、ナオキと絵里はグラスを合わせてゆっくりと烏龍茶を口に入れた。
「へいお待ち!」
「ありがとうございます」
「わぁ〜美味しそう!」
「じゃあ……」
「「いただきます!」」
2人は置かれた串カツにタレをつけてそれを食べた。無料で置かれているキャベツも串カツと一緒に味わった。
串カツを噛むと油をまとったカツの音、食べている間も聞こえてくる他のお客さんのカツを食べる音、そして今も店員さんがカツを揚げている音が食欲を噴水の水のように湧き出させている。
それからナオキ達は談笑することはなく、ただ無我夢中で串カツを味わった。
その後、通天閣に登って大阪の景色を眺めて(ナオキは相変わらず窓に近づくことはなくずっとビリケンさんと戯れていた)、ビリケンさんの人形焼カステラ、釣鐘まんじゅう、それにアイスクリームをお供に新世界の街を食べ歩きした。
そして歩き疲れた2人は長椅子が置いてあるたこ焼き屋さんを見つけて、そこでたこ焼きを食べながら休憩することにした。
「絵里、熱いから気をつけろよ。はむっ……」
「分かってるわよ。ふー、ふー、はむっ……ん、美味しい!」
「そりゃそうだ。本場のたこ焼きだからな」
「おっ、兄ちゃんわかってるね〜」
「そりゃあ大阪出身ですから」
そのたこ焼き屋の店員とも会話しながらナオキと絵里は美味しそうにたこ焼きを頬張った。たこ焼きももちろんそうだが、大阪の人が持つこのフレンドリーとでも言うべきところも大阪のひとつの名物と言えるだろう。
────そんな雰囲気が時には人を油断させる。荷物を自分の身の近くに置いてあるから大丈夫だと勘違いしてはいけない。危険はいつだってすぐ側にいるのだから。
「っ……兄ちゃん危ない!!」
「えっ……?」
その危険にいち早く気付いたのはたこ焼き屋の店員だった。
だがその忠告は間に合わず、ナオキの鞄は一瞬のうちに盗られてしまった。その犯人はナオキの鞄を抱えて全力で走り去った。
「泥棒やーーー!!!」
新世界の街に店員の叫び声が響き渡り、通行人はざわざわとし出してお店の方に視線を向けた。
絵里はただ一瞬の出来事に言葉を失っていた。そしてふとナオキのいた方に目を向けたがその場にナオキの姿はなかった。
ナオキは自分の鞄が盗られたとわかった瞬間に血相を変えてその犯人が逃げた方に走っていった。
「……へへっ、上手いこといったな」
「てめぇーーー!!待てやオラァァァァーーーー!!!!」
「えっ……!?」
犯人の男は成功したと思っていたが背後から聞こえてきた声に驚いて走りながらその方向に目をやった。すると鞄の持ち主であるナオキが叫びながら向かってきていた。そして犯人は逃げるスピードを上げた。
どんどんナオキと犯人の距離は縮まってはいたが、その手は犯人に一向に届かない。
(あれを奪われるわけにはいかない……あれだけは………!!)
ナオキは内心無理かと思ってしまっていた。でも諦めきれない。そんな思いが伝わったのか、ナオキの目に飛び込んできたのは騒ぎを聞きつけてその光景を珍しそうに見ているグローブを持った男の子だった。そしてその子はグローブをはめている逆の手にゴム製の野球ボールを持っていた。
「あ、ちょっと!ボール貸してもらえるかな?すぐに返すから!」
「う、うん……」
「ありがとう!」
ナオキはその少年からボールを受け取ってキッとまだ逃げ続ける犯人の背中を睨みつけた。
そしてナオキは少し助走をつけてボールを犯人めがけて全力で投げた。
そのボールは迷うことなく少し上下に揺れるぐらい速いスピードで犯人の腰めがけて向かった。
「ぐほっ……!」
そしてそれが犯人の腰に命中すると、犯人はその勢いでバランスを崩してうつ伏せに倒れ込んだ。
「よし……!」
────ピーーーーッ!!
ナオキはそれを確認すると犯人を取り押さえようと走り出そうとすると、商店街に笛の音が鳴り響いた。その音と同時に警察官が怒号と共にその犯人を取り押さえた。
「大人しくしろ!!窃盗の現行犯で逮捕する!」
「じっとしろと言っている!!」
「いや、じっとしてるやんけ……」
「……ナイスツッコミ」
ナオキは警察官の言葉に的確なツッコミを繰り出した大阪の人に感激しながらも鞄の無事を確認するために犯人の方に向かった。
「あの……自分の荷物を確認しても?」
「あ、大丈夫です。ご協力ありがとうございました」
「い、いえ。自分の荷物が盗られて必死だっただけで……」
「それと後であそこの交番で少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ」
「では、また後ほど」
そう言って警察官が犯人を連れてその場から去るとナオキに対して暖かい拍手が周りの人々から送られた。
「あっ、そうだ……!」
ナオキは思い出しかの様に焦りながら鞄の中のあるものを探して取り出した。そしてその中身を見て安心したかのように息を吐いた。
その後に借りたボールを拾って先程の少年のもとに向かい、少年の前でしゃがんでボールを返した。
「ありがとう、君のおかげで大事な荷物を取り返せたよ」
「ううん、大丈夫!それよりお兄ちゃんってミューズの香川ナオキでしょ?」
「え゛っ……!?ま、まぁ……」
「やっぱり〜」
少年は最初からナオキのことを見抜いていたかのような口ぶりを見せるとナオキは今日1番の驚きの声を出した。その周りの人の反応を見る限り、犯人を追いかけていたのはμ‘sのメンバーであるナオキということを分かっていたようだ。ナオキは東京に帰ってからみんなに何か言われることを密かに覚悟した。
そして少年の頭を感謝の気持ちを込めてポンポンと優しく撫でるように叩くとその場から走ってきた方向へ戻ることにした。
────夕方。
すっかり日も落ちかけていて、夕日が昼間の新世界の街とは違う姿を人々に見せていた。
ナオキと絵里はそんな夕日に向かうように歩きながら今日の出来事を振り返っていた。
「みんなへのお土産も買ったし、先生方のとおじさん達のもOK」
「あと亜里沙のもね」
「あぁ。亜里沙にもお好み焼き作ってやらないとな」
「ふふっ、きっと喜ぶわよ」
「喜ぶ顔が目に浮かぶよ」
2人は亜里沙がお好み焼きを食べて「ハラショー!」と笑顔で言う姿を想像して幸せそうな笑顔を浮かべた。
────そんな絵里は1つの疑問を持っていた。
それは犯人を追いかけたナオキを見て思ったことだ。確かに自分の荷物を盗られたら必死に取り返そうとするだろう。だがあれほど必死に、それが無ければこの世の終わりみたいな印象を泥棒を追いかけるナオキの表情から受けた。それは絵里の思い違いなのかもしれないが、ナオキの近くにいたからこそ、彼女だからこそ、婚約者だからこそ直観的に感じたのだ。
「あ、あのね……ひとつ、聞いてもいい?」
「ん?どうした?」
ナオキの実家近く、街まで少し距離があるところに絵里は立ち止まった。ナオキは絵里から少し離れたところに立ち止まる。
そこから2人を挟んだ先にはビルが建ち並んでいて、沈みかけている夕日がビルの隙間から2人の様子をそっと窺うように覗いていた。
「────なんでナオキはあんなにも必死に鞄を取り返そうとしたの?」
絵里は帰り道にずっと迷っていた気持ちを断ち切り、勇気を振り絞って気になっていたことを聞いた。夕日は変わらず2人を照らしていた。
「えっと……に、荷物を盗られたら普通取り返そうとするだろ?」
「それはそうだけど……ナオキは盗られたらあんな
「そ、そんなこと分からないだろ?もしかしたらおれはそういう
「…………………」
「………無言で見るのはやめてくれ」
「じゃあ話して」
「………本当は、もうちょっと後に言うつもりだったんだけどな」
「……?」
絵里が無言でナオキを見つめると、ナオキは絵里からの視線が苦しくなってその理由を話すことにした。ナオキはまだ少し戸惑いながらも鞄から"あるもの"を取り出した。
「……とりあえず、見てくれ」
絵里はナオキから手渡された小さなファイルを受け取ってその中身を確認した。
中に入っていたのは何重にか折りたたんでいた1枚の紙。
その紙を丁寧に丁寧に開いていく。
「えっ……!?」
開き終わり、その意外な正体が顕になってナオキの方に視線を移した。
するとナオキの頬は赤くなっており、夕日がそんなナオキを照らしてさらに赤く見せている。
────熱い。身体が熱い。
これは嬉しいから?夕日の日差しが当たっているから?それとも今が夏だから?
わからない。わからないが、ナオキに見つめられて心臓がドキドキと音を立てている。
────長い沈黙が続いた。
そしてナオキはスーッと息を吸いこんでから力強く、また優しい声で言った。
「絵里、その……まだ書けないところは勿論あるし、まだタイミング的には早いかもしれない。でも、おれはそれぐらい本気だ。だから………そこに名前を書いてくれないか?出すのはもうちょっと後になるかもしれないけど」
ナオキの言葉を聞いて、いま自分が置かれている状況を理解して、頬を赤くして涙を流してもう1度ナオキから渡されたものを見つめた。
何故、自分の両親とナオキの両親の名前が書いてあるのかわからない。いつこれに書いてもらったのだろう。
そしてナオキの名前が書いてある横の欄が空白が目立つように空いていた。
「………書いて、くれるか?」
「っ……!」
「え、絵里……!?」
絵里は目に涙を浮かべながらナオキの胸に飛び込んだ。そして泣き叫びそうな気持ちを堪えて必死にナオキに想いをぶつけた。
「そんなのっ……書くに決まってるじゃない、バカっ……!」
「………ありがとう」
ナオキはそう言った絵里の頭を優しく撫でた。その顔には安堵の表情が浮かんでいた。
それもそのはず、その空欄の少し上に書いていたのは────
『妻になる人』
さらにその上には『婚姻届』と書いてあった。
そう、これは婚姻届。
絵里の両親が帰ってきた時、つまり卒業式の日にナオキが貰ったものだ。それから大切に保管していて、大阪に帰ってきた時に自分の両親からも許可を貰った。未成年が結婚するには同意書でも可能だが、両親に婚姻届のその他の欄に「この婚姻に同意します」と記入してもらった上で署名と押印が必要で、さらに証人の欄には両人の父親の名前が書いてあった。
────2人の愛はこの1枚の紙でさらに深まった。
────翌日 新大阪駅。
「ナオキ、もう行くのか?」
「あぁ、東京でもやることがあるから」
「お世話になりました」
ナオキと絵里はこの日に東京に帰るため、トウマと帰る前最後の会話をしていた。ナオキは少し寂しそうな声で返答して、絵里はしっかりと頭を下げてお礼を言った。
「いいんだよ。またいつでも来るといい。君のもうひとつの家になるんだから」
「えっ、あっ……はい」
絵里はトウマの言葉の意味をすぐにわかり動揺して顔を赤くした。
そして、樹木はと言うと………
「……あの、離してくれない?」
「嫌だ!離さないわ!」
「コラコラ……」
「離して!離してトウマさん!」
樹木はナオキとの別れを惜しんでナオキをガッシリと掴んでいたが、トウマに呆気なく引き剥がされた。絵里はそんな賑やかな3人を見て微笑んだ。
「お母さん落ち着けって…………帰って来れなくても、また時々電話するからさ」
「ナオキ……!待ってるからね〜!」
「だから引っ付くなって!暑い!!恥ずかしい!!!」
樹木にそう言うナオキの頬は暑いからなのか、それとも照れているからなのか赤く染まっていた。
「ナオキ、そろそろ時間じゃないか?」
「もうそんな時間か……じゃあ、そろそろ行くわ」
「あぁ、しっかりやれよ」
「体には気をつけるのよ〜」
「……うん」
「本当にお世話になりました」
ナオキと絵里は樹木とトウマに最後の別れを告げて改札を通っていった。
絵里と話しながら楽しそうに歩くナオキの後ろ姿を見た樹木とトウマは少し寂しそうな微笑みを浮かべていた。
「……また、寂しくなるわね」
「……あぁ、そうだな」
ナオキが単身で東京へ引っ越すことになった時、2人は不安にもなったが悔しくも思った。ナオキは言ってみれば辛い体験をして大阪にいたくなくなって東京に行ったのだ。そんな息子に寄り添ってあげられず、励ましてあげることも出来ず、辛そうな背中を見送ることしか出来なかった。その時の背中と今の背中は全く違うものだった。
あの時のナオキには足りなかったもの……それは仲間、愛する人。今のナオキにはそれがある。その存在があの時のナオキを変えた。
(ナオキ、お前は見つけたんだな。これから共に歩む人を)
トウマはそう悟るとナオキの背中が見えなくなるまで同じ方向を見つめ、見えなくなると樹木の肩をポンポンと叩いて家に帰っていった。
────新幹線内。
ナオキは大阪の思い出に浸りながら窓から景色を眺めていた。新幹線の速さでゆっくりと堪能できないが見ていてどこか安心感に似たものを覚えることが出来る。
しかしふと反対側に目を向けるとスースーと静かに寝息をたてながら自分の肩にもたれて眠っている絵里がいた。その寝顔を見てナオキは微笑みを浮かべた。
(絵里、ありがとう。今のおれがいるのも絵里のおかげだ。これからもよろしくな)
そう心の中で囁いたナオキは鞄の中にある婚姻届が入っているファイルを見て頬を少し赤く染めて嬉しそうに微笑んだ。
────次回に続く
はい、ありがとうございました!いかがだったでしょうか?
皆さんは覚えていましたか?映画編の最初の方に初出しした"紙"のこと!結構存在は強調していたつもりなので察しがいい方は「あーやっぱりか」という感じですかね?
でも調べるとメンタルやられましたよ?だって、これから使う予定があるかどうかわからないし、そういう存在って出来たことありませんから()
そういえば警官が泥棒を捕まえたシーンは吉本新喜劇を参考にしました。
さて、自分へのダメージが広がる前に終わりましょう。あと、とりあえず次回でこの章は章末回にしようかと思っておりますのでお楽しみに!!それではまた次回!