ラブライブ!〜1人の男の歩む道〜   作:シベ・リア

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みなさんどうも!およそ1ヶ月ぶりですね!お元気ですか?私はおそらく元気です!
さて、今回のお話は……バトル回ですかね!えぇ、バトル回です!お待ちかねの『日本道場最強決定戦』の回なのです!ある作品を知ってる方なら「あれ?もしかしてあの作品か!」となりますかね?あと、その主題歌でもある『アイデンティティ』を聞きながら戦闘シーンを読んでもらえれば嬉しいです。
それではどうぞ、お楽しみください!



第144話「ぶつかる想いと奥義」

 

 

「ん、なにか入ってる?」

 

ある日の練習から帰るとき、ナオキは自分のロッカーに朝見た時にはなかった何かが入っていることに気付き、それを疑問に思いながらも取り出した。

 

その"何か"とは感触からして便箋に入った手紙で、届け主の名前は書いていなかった。ナオキはさらに疑問の表情を浮かべ、中身に名前が書いてあるか確かめるために封を開けた。

ナオキは中に入っていた折られている手紙を取り出して、その場でひろげて内容を確認した。

 

「これは……!」

 

ナオキはその内容を読んで衝撃を受けて、手紙の最後にあった届け主の名前を見て「やはりか」と呟いて手紙を便箋に戻した。

 

 

その手紙の内容とは…………

 

 

 

『突然こんな手紙を送ってごめんなさい。本当は直接伝えたかったけれど、やっぱり恥ずかしくてみんなみたいに伝えることはできません。

 

私はあなたのことが好きです。

仲間として、友達としてじゃなくて、1人の男の子として好きです。

 

返事はいりません。だって応えは聞かなくてもわかるから。ナオキくんには絵里ちゃんがいるから。

これからも、よろしくお願いします。

 

 

小泉花陽』

 

 

ナオキは返事はいらないと書いてあったが、しっかりと返事を書いて次の日に花陽のロッカーに手紙を入れた。

その手紙には、花陽の気持ちに応えられないということと、これからも今まで通りに仲良くやっていこうということを書いた。

 

 

 

 

 

だが、同じくナオキが花陽からの手紙を受け取った翌日、ナオキと亜里沙が練習で不在中のことであった……

 

 

「ん〜!やっぱり天気がいい日の掃除な気持ちがいいわね〜」

 

絵里は自分とナオキの部屋で掃除機をかけながらそんなことを呟いていた。

それから絵里は鼻歌を歌いながら掃除機をかけたりして部屋を掃除していた。

 

「あら、これは……?」

 

そしてナオキの机の上に積み上げられていた本を片付けていると、本と本の間に挟まっていた何かがヒラリと落ちたのでそれを手に取った。だが絵里はその"何か"には見覚えがあった。

それは昨日、絵里がお風呂からあがり、部屋に入るとナオキが慌てたように本と本の間に挟んだものであった。

 

その"何か"とは、ナオキが花陽から貰った手紙である。

 

絵里はその正体を知らずにすでに開いていた便箋を開いて、中に入っていた手紙を取り出した。

 

そして絵里はその中身を読んで目を大きく見開いた。

 

 

 

「花陽が……ナオキのことを……………好き……!?」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜♡〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「「ただいま〜」」

「おかえりなさい!」

 

ナオキと亜里沙が練習から帰ってきて疲れたような声で言うと、絵里はそんな2人の疲れを癒すような笑顔で出迎えた。

 

「私先にお風呂入る〜」

「はいはい。もう沸いてるから入ってきなさい」

「は〜い」

 

亜里沙は疲れと汗をたくさんかいて気持ち悪かったからか、ふらふらと流れるように部屋に荷物を置いてからお風呂場に向かった。

 

「ははは……今日は暑かったからな」

「今日も真夏日って言ってたものね」

「とりあえず、おれも亜里沙が出たら入るわ」

「わかったわ。ご飯は今からするから待っててね」

「了解」

 

ナオキはそう言うと部屋に向かって歩いていった。

 

「………(ナオキ、話してくれないわね……もしかしたらOKを……?でもNOと応えたならなんで言ってくれないのかしら?)」

 

絵里は何故ナオキが花陽から告白を受けたことを自分に言わないことに不安を覚えていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜♡〜〜〜〜〜

 

 

 

 

ここは都立体育館。今日ここではある催しが行われていた。

『日本道場最強決定戦』と呼ばれるその催しは今回初めて開催され、日本に存在する道場の中の最強を決める大会である。近年では道場の数もそれに入門する人も減少の傾向にあり、その状況を改善しようと日本道場委員会はこの催しを開催することにしたのである。

この催しでは各道場の代表が3つの分野の合計得点を競い、日本道場のNo.1が決められる。男性代表は空手、柔道、剣道、女性代表は日舞、弓道、剣道をすることになっている。と言っても女性代表は数名しかいないため、剣道に関しては男女混合となっている。

 

 

そして海未もこの日のために練習を重ね、本番の日を迎えていた。

海未がこの大会に参加する理由は、園田道場の跡継ぎとしての力量があるかどうかを父親と母親に見極めてもらうためである。この大会の結果次第で海未が園田道場を継げるかどうかがわかるのである。

"絶対に園田道場を継ぐ"と心に決めて、海未はこの大会に挑んだ。

そんな海未を応援するために海未の両親をはじめ、絵里達3人を含めたアイドル研究部のみんなや音ノ木坂学院のクラスメイトや生徒達、さらに地域の人達もその場に駆けつけていた。

 

この都立体育館は全部で3館に分かれていて、女性代表は左側、男性代表は右側で行い、最後の剣道は真ん中の体育館で行われている。つまり海未は左側の体育館からスタートする。

最初の分野の日舞では、小さい頃から母親である撫子に叩き込まれた日舞を披露して審査員と観客を魅了して堂々の1位を獲得した。

続いての弓道では素晴らしい精神力と集中力を見せて、全10本命中と大会の女性代表で唯一の結果を残し、こちらでも堂々の1位を獲得した。

 

 

 

「園田さん!今のお気持ちをお聞かせください!」

「はい。この日に向けて積み重ねてきた練習の成果がいい形で発揮出来ているので嬉しく思います」

 

海未はμ’sのメンバーだったということで大会では注目されている存在で、それに加えて2分野で素晴らしい成績を出しているので取材に来ていた人達からインタビューを受けていた。

 

「次の剣道は男性代表と混合になりますが意気込みの方をお願いします!」

「はい。私は相手が誰であろうと負ける気はありません。必ず勝って、優勝します」

 

海未のその宣言に記者達は歓声をあげ、それと共にシャッター音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

その頃男性代表側の体育館では………

 

 

「1本!」

 

『おおお〜〜!!』

 

「これはビックニュースだ!今すぐサイトに流せ!」

 

「は、はい!」

 

「なんてこった……まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて……なんてやつだ、あいつは」

 

 

観客が驚いた表情で見つめる体育館の真ん中の畳の上では、柔道の高校生全国大会で優勝していて体格もしっかりとしている名の知れた選手、西郷 一鉄(さいごう いってつ)が仰向けで唖然として天井を見上げていた。

 

その選手を見つめて手を差し伸べる選手がいた。その手を一鉄は取って立ち上がり、そのまま握手をした。

 

「まさか俺が負けるなんてな……お前、名前は?」

 

「僕は白鉄 大地(しらがね だいち)だ」

 

「白鉄大地……聞いたことない名前だな?これほどの実力を持ってるお前が、なんで大会に出て来なかったのか不思議なくらいだ。なんで出なかったんだ?」

「出れなかったんだよ。お金がなかってね」

「そうか、それは残念だ。なら次はまたお手合わせ願おうかな」

「こちらこそ」

 

2人が熱い握手を交わすと大きな歓声が湧いた。

 

海未はこの大地という人物を知る由もなく、ゆったりと仲間と一緒に昼ご飯を食べていた。

 

 

 

〜〜〜ラブライブ!〜〜〜〜〜

 

 

 

 

昼過ぎ、都立体育館の中央にある館では男女の代表が混合で剣道の試合を行なっていた。日本道場の一番の者は男女関係なく決めるべきであるという考えから、剣道だけは男女混合の試合になったのである。このことは初めからわかっていたことなので、参加している女性の代表は男性にも劣らない実力を持っている。実際に数名の男性代表がある女性代表に負けていることがそれを物語っている。

 

この剣道の試合では3本先取、または相手の降参したときや戦闘不能になった場合に勝利する。戦闘不能なんてあるのか?ときっと疑問をお持ちであろう。だがしかし、次々と男性代表を倒していっているこの女性代表はそれを実行している。

 

「そこまで!」

 

審判のその一言にその"鬼"は竹刀を納めて礼をしてから後ろにさがった。同時に観客から大きな歓声があがった。

 

「やった〜!海未ちゃ〜ん!」

 

その鬼……海未は面をはずして、恥ずかしさをにじませながら穂乃果に応えるように小さく右手を振った。

 

「園田道場代表、園田海未。決勝進出!」

 

審判が海未の決勝進出決定の声をあげると会場の歓声はさらに大きくなり、海未は頰を少し赤く染めて各方面にお辞儀をした。メディア関係者もそんな海未のことを写真で撮ったり、ネットで知らせたりしていた。

そして海未は一旦選手控え室へと向かったが、その隣を"ある選手"が通過したことは気がつかなかった。その選手は海未の横を通り過ぎてからニタッと頰を上げた。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

海未は控え室のベンチに座って一息ついて、もうすぐ自分の相手が決まる試合が始まる会場と中継で繋がれているTVを見つめた。

 

『準決勝第2試合!無名道場代表白鉄大地、風切道場代表風切 天下(かざきり てんか)!前へ!』

 

審判の言った選手の名前に海未は眉を細めて、アップされた選手の顔を見た。

 

「白鉄大地……無名道場……どちらも聞いたことがないですね」

 

海未は道場とその代表の名前を聞いたことがなく首を傾げた。だがその相手の名は聞いたことがある。

風切道場……日本でも有名な道場の部類に入る道場で数々の名選手を輩出している。そして剣道界で最も注目されている選手がこの風切天下という男なのである。風切道場の跡継ぎで、その風を切るように早く強い剣で剣道の全国大会で優勝した。ちなみに海未はこの大会の予選とラブライブ!の日程が被っていたので参加しなかった。

 

『はじめ!』

 

と、そんなことを考えている間に試合がはじまった。

 

 

 

「1本!」

「風切流奥義、"神速の剣"……」

 

やはり早い……と大地は攻撃を受けながら体でそれを感じた。天下は当たり前のようにニタッと笑みを浮かべた。

風を切るような力強い剣、風切流奥義の神速の剣(しんそくのけん)により大地は胴を取られた。

そして2人は次のラウンドに向けて竹刀を構えた。

 

「はじめ!」

「やぁぁぁあああああああ!」

 

その合図とともに突っ込んだのは大地であった。大きな声とともに勢いよくぶつかった竹刀の音が響いた。

 

「くっ……!」

「いい剣筋だ。けどっ……!」

「なっ……!?」

「ふん!」

 

天下は大地の竹刀を余裕の表情を浮かべて払い、素早くがら空きとなった大地の防具の腹にあたる部分を竹刀で突いた。

 

「かはっ……!」

「これぞ風切流奥義、"神速の剣 突き"」

 

防具越しに少し痛みが来るほどの威力に大地は数歩下がってしまう。

 

「1本!……君、大丈夫かい?」

「え、えぇ……大丈夫です。やれます」

 

審判は膝から崩れて腹を押さえ咳き込んでいた大地に声をかけた。

それから大地は息を整えてから立ち上がり体勢を立て直した。

 

「では、はじめ!」

「お前の快進撃もここまでだ。名もなき英雄さん!」

 

2本を先守した天下はこのまま勝利を掴むべく一気に攻めかかった。

だが大地が目を瞑って竹刀を横に構えていたため、天下は諦めたかと勝利を確信して面を狙った。

 

だがその後に響いたのは竹刀が防具にヒットした音………ではなく、竹刀と竹刀が勢いよく"同じような威力"でぶつかった音で、会場はそんな大きな音に一気に静寂に包まれた。天下は大地が自分の剣を受け止めたことに驚いた。

それから大地は天下の竹刀を払って、息を大きく吸ってから勢いよくがら空きとなった胴を突くと鈍い音がした。その剣を受けた天下は後ろに吹き飛ばされしまい、背中を引きずって倒れてしまった。

 

「1本。そこまで!」

 

審判は倒れ込んだ天下に近づくと天下は気絶しており、戦闘不能と判断してそれを告げた。

観客は何が起こったのか理解が追いつかなかった。なぜなら大地が天下を倒したあの技は、先程のラウンドで天下が放った『神速の剣 突き』そのもの……否、それを超える強さであった。

大地は息を大きく吐いて竹刀を納め、礼をしてから後ろに下がった。

 

「無名道場代表、白鉄大地。決勝進出!」

『お、おおおおおおおおおお!!』

 

まさかの出来事で戸惑っていた観客であったが、審判の一言で大きな歓声をあげた。大地はそんな観客に向けて手を振った。

 

 

控え室でその試合を観ていた海未は中継されたいたTVの電源を消して静かな空間で精神統一をしていた。耳に入ってくるのはほとんどエアコンの音のみであった。大きな息を吐いている様子から、本人が緊張していることが伺えた。

 

そうしている間にも、決勝戦の時間は刻一刻と近づいていた。

 

 

 

〜〜〜〜〜♡〜〜〜〜〜

 

 

 

 

戦うのは何のため……?

 

 

片方は夢であった道場を継ぐため……

 

 

もう片方は、()()()()()を守るため……

 

 

2人は歩き、歓声が響き渡っている会場に向かった。

 

必ず勝つと心に決めて決戦の舞台に足を踏み入れた。

 

 

『さぁ!この日本道場最強決定戦もいよいよ最後の種目の決勝戦となりました!なんと両者ここまで無敗!つまり、ここで勝ったどちらかがこの大会の総合優勝者となり、日本道場最強の名を得ることになります!』

 

実況者も熱く実況する中、観客もそれに負けないぐらい盛り上がっていた。

 

女性でありながらも無敗。さらに数名の男性を一撃で戦闘不能にして、その強さから幼い頃から"鬼園田"の異名を持つ園田海未。

 

そして大会以前は無名であったがその無名とは思えない実力でここまで無敗で勝ち上がり、今までの成績からすれば"最弱"という言葉が相応しいとされてあ無名の剣王(オンリーワン)の白鉄大地。

 

この2人の入場とともに観客の歓声はさらに大きなものとなり、この試合の注目度が感じて取れた。

 

2人は防具をつけて面と竹刀を持った状態で会場の真ん中まで歩いて行き、審判の前で初めて対峙して審判の言葉と同時に礼をした。

 

「あなたが園田さんですね。鬼園田の……」

「そうです。ご存知なんですね」

「そりゃそうですよ。なんたって有名人ですから……僕みたいな"無名"と違って」

「有名も無名も関係ありません。全力でいきます」

 

海未がそう告げて振り返り枠の外に出ていくと大地は驚いた表情を浮かべたが、それから微笑みを浮かべて枠の外へと向かった。

 

 

「ただいまより、日本道場最強決定戦、男女混合剣道の決勝戦を行います!」

 

審判が会場に響き渡るような声でそう言うと、観客は待ってましたと言わんばかりに大歓声をあげた。

海未と大地は面を被って集中力を高めていた。

 

「園田道場代表、園田海未。前へ!」

 

「(私はこの試合に勝って、必ず園田道場を継いでみせます。そして……)……はい!」

 

海未は自らの夢とナオキとした約束のために勝利を誓い、返事をして枠内へと入っていった。

 

「無名道場代表、白鉄大地。前へ!」

 

「(僕はこの試合に勝って、絶対に"みんな"を、大切なものを守ってみせる!)……はい!」

 

大地もこの大会で優勝すると強く心に決めた"あの"瞬間を思い出して、力強く返事をして枠内に入っていった。

両者は対峙して竹刀を構えて試合開始の合図を待った。

 

「はじめ!」

「「やぁぁぁぁぁぁあああ!!」」

 

その声と同時に両者は響き渡らんばかりの声を張り上げて攻撃を仕掛けた。激しくぶつかった竹刀の音が試合の開始を告げるように会場に響き渡った。

2人は竹刀を一度ぶつけたまま睨み合い、お互いに一歩も譲らない状況が続いていた。

 

「女の子なのに、すごい力だ……!流石は鬼園田」

「それほどでも……!」

 

お互いが相手を跳ね返そうと力を入れていたが状況は変わらずにいたが、観客はそれをつまらなく感じることはなく、逆に興奮してその状況を観ていた。

 

「1つ、聞いてもよろしいですか?」

「なにかな?」

「あなたは何故戦うのですか?」

「……大切な存在を守るためだよっ!」

 

そしてキリがないと2人は一旦距離を取って息を整え、また竹刀をぶつけ合った。

 

「それは、どういう……?」

 

海未が言葉の意味を聞くと大地は言いにくそうな表情をしていたが、言うことを決断したからか口を開いた。

 

「道場のみんなのためだよ。無名道場はお金もなくて存続のピンチなんだって師匠が言ってたんだ。でも無料で門下生を引き受けているんだ。だから道場を存続させるためには、師匠を、門下生のみんなを守るためにはこの大会で優勝しなきゃならないんだ!!」

 

そしてついに海未が大地の剣に押し負けてしまい、大地はチャンスと踏んで一気に突進した。

 

「めぇえええん!!」

 

その声と竹刀が面を叩く音が鳴り響くと、会場は先程までの熱気が嘘みたいに静かになった。

 

「1本!」

 

だが、審判の声を合図にするかのように歓声が湧いた。

 

『先制は白鉄選手!ついにここまで1本も取られなかった園田選手に黒星が付いた〜!』

 

実況者もこの状況には興奮が抑えられずに雄叫びをあげるように叫んだ。

だが海未は焦ることなく息を吐いてからまた竹刀を構えると、大地もまだまだ試合を楽しみにしているような表情を浮かべて竹刀を構えた。

 

「はじめ!」

 

海未はラウンド開始の合図を聞くと素早く大地との距離を詰めた。

 

「なっ……!?」

 

大地は一瞬で自分のすぐ前まで来ていた海未に驚いて少し体を引いてしまった。その隙に海未は力が若干抜けていた大地の竹刀を弾いて、素早く面を竹刀で叩いた。

 

「めぇえええええん!」

「い、1本!」

『き、決めた〜!園田選手、素早く1本を取り返しました〜!』

 

観客や実況者が興奮する中、大地はあまりにも一瞬の出来事に理解が追いつかずに唖然としていた。

 

「あなたの勝たなければいけない理由がわかって安心しました。ですが、私にだって勝たなければいけない理由があるのです。だから、全力でいきます!」

「………ふっ、面白い。じゃあ僕も全力でいかせてもらう!」

 

2人は楽しそうな笑顔を浮かべて竹刀を構えて審判の合図を待った。

 

「はじめ!」

 

2人は合図と同時に激しく竹刀をぶつけ合ってから連続で何度も交えた。観客は何度も聞こえる激しい衝突音に息を飲み込んで試合を見守った。それから一度竹刀を思いっきりぶつけ合って大きな音が響き、2人はお互いから距離を取った。

 

「はぁ、はぁ………(これじゃあ(らち)が明きませんね。なら、あの技を……!)」

 

海未は"あの技"なるものを使うと決めると、乱れていた息を整えて大きく深呼吸をしてから目を瞑って竹刀を構えた。

 

「っ……(なにを考えているんだ?でも今がチャンス……!)」

 

大地はこの機会を逃さずに右サイドから海未の後ろに回り込み、がら空きの背後から面を狙った。

 

決まったとほとんどの人が思った。

 

「っ……!(今です!ナオキ、あなたの技お借りします!)」

 

そのとき、海未は左脚を大きく振って地面を引きずりながら体を回転させ、目で捉えられないほど素早く大地に向かい胴を斬りあげるように攻撃した。その衝撃で大地は回転して背中から地面に落ちた。

 

「カハッ……!(なにが起こったんだ……!?)」

「い、1本!園田海未、王手!」

 

審判の判定を聞いても観客は歓声をあげられず、驚いた様子で1本を取った海未を見つめていた。

 

「あの技は……」

「ナオキ何か知ってるの?」

「あぁ、あの技はおれが海未との練習で使った技のアレンジだ」

「ナオキの技のアレンジ……?」

 

ナオキが呟くように言葉を発すると、隣にいた絵里は気になってそのことを聞いた。

 

「あぁ、おれの技……天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)は刀を鞘に収めたみたいな動作をしてから放つ。でもさっきのは普通に構えた状態から放って、しかもあれは相手の動きを"見ていた"……そうじゃなきゃあんな動きはできない」

 

「そ、そうなのね……」

 

ナオキが戦闘ものでよくありそうな解説を披露すると、絵里だけではなく他のみんなも少し戸惑っているような仕草をしていた。

 

そしてしばらく倒れていた大地であったが意識を失うことはなく、苦し混じりにゆっくりと体を起こした。

 

「さ、さっきの技は……!?」

「さっきの技は私の友人の技をアレンジしたものです」

「アレンジ……か」

 

大地はそう呟くと竹刀を構え、追い込まれたことで焦っていた心を落ち着けた。海未も追い込んだことで気を抜くことはなく逆に気を引き締めた。

 

「はじめ!」

 

その合図と共に2人は同時に攻撃を仕掛け、お互いに竹刀を押し合いながら円を描くように動いていた。

 

「じゃあ僕も技を使わせてもらうよ。"コピーカウンター"……!」

「っ……!?(急に力が強くなりましたね。でもこの動きはまさか……!?)」

 

海未は大地の急に上がった力に押されながらもなんとかそれを押し返そうとした。

だがそれをすることはできなかった。

大地は海未の竹刀を払い、大きく息を吸ってからそれによってがら空きとなった胴を勢いよく突いた。それによって海未は後ろに飛ばされてしまい、少し背中を引きずって停止した。

 

「1本!」

「女の子相手に使ってしまうなんて……"神速の剣 突き"……」

 

審判が海未に近づく中、大地は勝利を確信したのか大きく息を吐いた。

それを観ていた一部の観客も「あの技は耐えられない」そう思っていた。

 

「っ……やはり効きますね、その技は」

「なっ……!?」

 

大地は自分の攻撃が当たったところをさすりながら立ち上がる海未を見て衝撃を受けた。先程まで試合が終わったと思っていた観客もざわざわとし始めた。

 

説明しよう!

"コピーカウンター"とは自分がくらった技をコピーし、それを何倍もの威力にして相手にくらわせる技なのである!一度コピーした技は頭と体に記憶されているのでいつでも打つことができるが、自分の目でその技の動作が見えていることが条件だぞ!

 

「私も追い込まれてしまいましたね。でも、負けません」

「なんで君はあれをくらって……」

「なんでと言われましても……日頃の鍛錬の成果と言えば良いのでしょうか?」

「お、おう……(この人はどんな鍛錬をしているんだ!?流石は鬼園田)」

 

大地は"コピーカウンター〜神速の剣 突き〜"を耐えた海未がしている鍛錬の厳しさを想像して唾を飲み込んだ。だが実際はそんな厳しいものではない。ただ耐えたことになんと答えたらわからなかったので海未はそう言ったまでであった。

 

「次が最後の勝負になります!ここで1本取った者を勝利とする!」

 

審判がそう言うと観客は会場が揺れんばかりの歓声をあげ、海未と大地は竹刀を握る力を少しばかり強めた。この試合の勝者はこの大会の優勝者、つまり日本道場最強となるのだからおのずと力は入るだろう。

 

「園田さん……僕は奥義を使います」

「言ってもいいんですか?警戒されて決まりにくくなりますよ?」

「大丈夫です。必ず決めますから」

「ふふっ、そうですか……なら私も奥義を使わせていただきます」

「望むところです。僕の最弱(さいきょう)を以って、君の最強を打ち破る!」

 

2人はお互い奥義を使うと宣言したからか、さらに気を引き締めて試合開始を待っていた。

 

「最終戦。いざ尋常に……」

 

審判が右腕を伸ばし右手の指を全て合わせて伸ばした状態で頭上まで上げると、2人は合図と同時に奥義を仕掛けようと力を溜めた。

 

「………はじめ!!」

 

そして審判がその腕を胸の前まで振り下ろすと、2人は奥義を使うための力を解き放った。

 

それは一瞬の出来事だったが、2人にとっては人生のターニングポイント。明らかに実際の時間よりは長く感じられた。

 

…………2人の運命はこの一瞬で決まる。

 

 

「無名流奥義……!一刀修羅(いっとうしゅら)!!!」

 

下を向き、右脚を後ろにずらして両脚を肩幅より少し広めにひろげて姿勢を低くして、さらに竹刀の先を海未の方に向けた状態で頭より少し上のところで構えた大地は、修羅の様な目で海未を睨んでその奥義の名を叫んだ後に目に捉えられないほどの速さで突撃した。

 

説明しよう!

"一刀修羅"とは無名流の奥義で、極限まで高めた自分の力を全て解放しとてつもない速さと強さで相手に攻撃する。だがこの技はその威力、スピードから1日に一度しか出すことができず、その一刀に全てを賭ける技なんだ!まさに最弱という最強、最弱(さいきょう)の技だ!!

 

「うぉおおおおおおおおおおお!!(これで、終わりだ……!)」

 

大地はこの技を使ったことで勝ちを確信していた。これで道場が救える、またあの楽しい鍛錬の日々が迎えられる、と心の中で安堵していた。

 

 

 

 

だが刹那、大地の竹刀は大きな音をたてて地面に叩きつけられた。

 

「っ……!?」

 

それを叩いたものの正体は海未の竹刀であった。さらに海未はその衝撃を利用して空中へと場所を移動して竹刀を振り上げていた。

大地は衝撃の後に海未が空中にいることに気がついたが反応できなかった。一刀修羅の反動で使った直後は力が完全に入らなくなって動けなくなってしまい、気づくことはできても防ぐことはできない状態なのだ。

 

「これで終わりです……園田流奥義!"園田流星群"!!」

 

海未は空中に移動した直後にその奥義の名を叫んで分身した。その分身は力を使い切った大地の夢か幻か、または現実かわからない。しかし大地にはそんなことを考えている余裕はなかった。

 

「てやぁあああああああ!!」

 

「くっ……!(終わった……か)」

 

海未とその分身はまるで流星群のように大地に降り注ぎ、海未本体の竹刀が大地の面に直撃した。

大地は反動で力が抜けていた上に海未の奥義をくらったのでそのまま横向けに倒れてしまった。

 

そんな一瞬の出来事を近くで見ていた審判、もちろん会場にいた観客も何が起こったのか事細かくわからなかった。

わかるのはただひとつ………勝負が決まったということである。

 

 

「1本!そこまで!よって勝者……園田道場代表、園田海未!」

 

『おおおおおおおおおおおおお!!』

 

審判が勝者の名を告げると観客は今日1番の大きな歓声をあげた。そんな歓声には拍手の音も混じっていた。

それと同時に担架を持ったスタッフが現れて倒れていた大地を乗せた。

 

「っ……園田さん、ありがとう」

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

大地は少し回復した力を使って右腕をあげると海未はその手を取り、2人は感謝の握手を交わした。そんな2人の健闘を讃えるように会場には暖かい拍手が響いていた。

担架で医務室に運ばれる大地はそんな拍手に見送られたが、通路に入ると歯を食いしばり、腕で目を隠して涙を流していた。

 

「(守れなかった……!くそっ……ちっくしょぉ……)」

 

そのことは担架を運んでいたスタッフしか知らない。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜♡〜〜〜〜〜

 

 

 

 

その後大会の表彰式が行われた。

そこで海未は優勝トロフィーと、『日本道場委員会公認 日本道場最強』と書かれている賞状を会長から受け取った。これで正式に園田道場は日本道場最強となった。

 

 

そしてそんな海未の姿は控え室にあった。それからドアが何者かに叩かれると返事をするとナオキが入ってきた。

 

「海未、おめでとう」

「ありがとうございます。ナオキも今まで練習に付き合ってくれてありがとうございました」

「いいよそれぐらい。それで、前に優勝したらおれに言いたいことがあるって言ってたよな?」

「……は、はい」

 

そう、海未はナオキとの練習の時に『優勝したら言いたいことがある。優勝したら聞いてほしい』と伝えていた。そしてその約束の通り優勝したのでナオキはそれを聞きにきたのだ。

 

「おれに言いたいことってなんなんだ?」

 

ナオキがそう聞くと海未は途端に恥ずかしくなり、なんとか誤魔化してその場から逃げたいとまで思っていた。

だがこんなところで逃げたら園田道場の恥、日本道場界の恥とも言える。

そんな心臓が飛び出そうなぐらいの緊張を深呼吸をして落ち着けた。

 

「そ、そのっ……!えっと……です、ね」

 

海未はまだ落ち着けていないのか頬を赤く染め、声を強くしたのかと思えば顔を逸らしてためらっているような仕草を見せた。

ナオキは海未がなにを言いたいのか知らないので眉を細めて頭を傾げた。

 

 

そして海未はやっと決心をしてずっと心の中で眠らせていた感情を吐き出した。

 

 

 

「わ、私……園田海未はっ、あ、あなたのことがっ……!」

 

「っ……!」

 

 

海未は道着の胸元を両手で掴みながらナオキの顔を見上げるような状態で頬を赤く染めて言葉を振り絞った。

 

 

 

「ナオキのことが………好きなんです!」

 

 

 

ナオキはその言葉を聞いて拳を握る力を強くして海未の顔を見つめた。

 

「う、海未……」

 

「わかってます。ナオキには絵里がいる。だから応えられない。ですが、この気持ちは今伝えなければいけないと思ったんです」

 

「……返事は、ごめんとしか言えない。でも海未の気持ちは正直に嬉しいよ。ただ、一言だけ言うとしたら……好きになってくれてありがとう。海未ならきっとおれよりもいい人が見つかるよ」

 

「っ……はい!」

 

海未はナオキの言葉に安心したのか涙を少し浮かべた笑顔で返事をした。

 

「じゃあ海未、これからもよろしくってことで」

 

ナオキはそう言って笑顔を浮かべながら握手をしようと海未に右手を差し伸べた。

 

しかし海未はその右手を取ることはなく、なにを考えたのか思いついたように笑みを零した。

 

「おい海未、なに笑って……」

 

ナオキが言葉を言いかけると、海未は髪を揺らしながら顔を自分の顔の目の前まで近づけていた。

 

そして海未はそのままの勢いでナオキの唇に軽く口付けをした。

ナオキはその直後に目を大きく見開いて、今起こったことをしっかりと理解できずに頭の中を謎が駆け回っていた。だが自分が海未にキスされたとわかった途端に顔を赤く染めた。ちなみにナオキは絵里以外の女の子から()()キスされたのは初めてであったのだ。正確にいうとこれで2回目である。

 

「ふふっ、これっきりです。私の初めてはナオキがよかったので」

 

海未は人差し指を伸ばして自分の唇に当ててウィンクした。その言葉の後に海未は自分にしか聞こえないほど小さな声で呟いた。

 

 

「それに、真姫だけなんてズルいですから……」

 

もちろん、ナオキには聞こえるはずもない。

 

「お、お前なぁ!」

 

ナオキが顔を赤くしたまま声を張り上げてそう言うと海未は口元を軽く握った拳で隠して笑った。ナオキも仕方なさそうな表情を浮かべて笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「じゃあ、おれ達は帰るけど海未はどうする?」

「いえ、私は今日の反省をしたいので先に帰っていてください」

「……海未は真面目だなぁ。じゃあまた練習で」

「はい。また練習で」

 

ナオキが手を振って控え室を去ると、海未は挙げていた手を下ろして天井を見上げた。

 

 

 

 

「………失恋とはこんなにも悲しいんですね……」

 

 

海未の浮かべたその涙は、ナオキと対面しているときに抑えていたものを解放したように流れていくのであった。

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

 

『えりちどうしたん?こんな夜遅くに』

 

「ごめんなさい希。ちょっと聞きたいことがあって……」

 

 

 

次回に続く……

 





〜妄想ラジオ〜

ナ「やぁ久しぶり。O・MA・TA☆」
絵「もうなにやってるのよ。さて、今回もナオキと私で妄想ラジオをやっていきます」
ナ「ていうか今回の話ってさ、戦闘ものの小説みたいだったよな」
絵「それは同感ね。確か、白鉄大地って人のモデルのキャラクターも戦闘ものよね?」
ナ「あぁ、作者はそのアニメが好きみたいだ」
絵「へぇ〜なんてアニメなの?」
ナ「なんだっけな?確か落第の英雄……だっけ?」
絵「落第の英雄ってなによ。浪人生?」
ナ「まぁそれは置いといて。今回はゴリゴリの戦闘回だったし、手に汗握る展開だったな」
絵「そうね。特にナオキが私をナンパから救ってくれるところとか……」
ナ「え、いや、そんなことあったか?」
絵「でもそのナンパ野郎は凄い力の持ち主でナオキは苦戦するけど、私を守るために伝説のスーパー地球人に!!」
ナ「絵里戻ってきて〜!!
え、えっと、新しく評価してくださった白月姫さん、ありがとうございます!新しくお気に入りしてくださったみなさんもありがとうございます!感想などどんどんお待ちしてます!ばいばい!!
絵里、そろそろ落ち着けって!!」

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