仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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オリエピは予定では、今回から4話あるかないかくらいです。


#058 作笑/派遣/微壁

 

 

 

 

 

 喫茶店「あんていく」の、窓際に設置された小型テレビ。映るニュースは、1区にあるCCG本部を指し示している。

 CCG本部の入り口は厳戒態勢が敷かれていて、マスコミがたむろしながら取材している様子が映っていた。

 

『――えー、ただいま入りました情報によりますと、CCGの周辺で、事件直前に外国人グループが多数確認されたとの――』

 

 ニュースは続く。海外の喰種勢力が、CCGに特攻を仕掛けたのだと。

 小倉とかいう変なオッサンが「まるで暴力団抗争だね」と状況を例える。なんとなく、微妙に外れてる気がした。

 

 お兄ちゃん(カネキケン)は、そのニュースを見ている。じっと、真剣な顔で。

 

「海外の組織……? いや、東京に限ったって話ではないのか」

 

 でも一体何が目的で、と。思案しながら、お兄ちゃんは

 そんなお兄ちゃんの呟きは周囲には聞こえる大きさじゃない。そして、人間の客達が口々に話し出す。最近物騒になったとか。

 ……なんで喰種なんてバケモノが、生きてるんだとか。

 

 その言葉を聞いて、不意に私の脳裏に過ぎったのは。いつだったろうか。父がバラバラに引き裂かれる幼い日の記憶で。その光景に、私もシロもそろってしばらく言葉を失い、心をさ迷わせた。

 そして不意に、玲の顔が――。

 

『喰種になったら、殺さなきゃいけないじゃないですか――!』

 

 身体がぶった切られたナシロ。リジェクションを起こした彼女。

 

 引きずりながら、亜門捜査官と再会して――名前を呼ばれ。私の、私達の、喰種としての姿を見られ――。

 

 

 ぐらり、と傾いた私を、後ろの女の子が支えた。

 

「な、何、大丈夫?」

「……」

 

 正直に言って微妙。微妙だった。良いとは決して言えない。悪いと言う感じでもない。体調が崩れているということでもなく。きっとぐらぐらしてるのは、心の方なんだろうけど。

 

 シロナは昔、言っていた。笑顔を絶やしちゃ駄目だと。キープスマイリングだと。

 姉である私より先に自分を取り戻して、そう私に言い聞かせて、私を引き戻したシロ。「うぇひ」とか「えひ」とか、そんな変な笑いでも一緒に笑って、そして泣いたシロ。

 

 でも、そのシロはもう――。

 

『お姉ちゃん。私を――』

 

「……とりあえず、二階戻る?」

 

 私が一方的に宣戦布告したっていうのに、女の子は……トーカちゃんだっけ? 彼女はむしろ、こちらの身を案じるようにそう言う。大丈夫だと言いたかったけど、でも、私はそういう返すことも、とてもじゃないけど適わなくて。

 彼女の肩を借りて上の階に上がる途中、少しだけお兄ちゃんの横顔が見えた。

 

「……」

 

 お兄ちゃんは、笑っていた。……ただただ、笑っていた。

 

 まるで「感情もなく笑っている」かのように、その笑顔は無防備で、でもだからこそ純粋なものだと私は思った。

 

 

 

 

  

   ※

 

 

 

 

 

『あー、亜門サン。なんだかマジで警察と捜査官とで協力って話になっちまったな』

「守峰さん」

 

 携帯電話越し肩をすくめる守峰さん。俺は、以前彼から聞いていた話を思い出しつつ、先を促した。

 

『元々臨海沿いで妙な動きがあるって話はあったんだよ。てっきり暴力団関係かと思って俺らの出番がないかと思ったら、周辺の喰種関係の事件の発生率が上がってるって情報が回ってきたンだ。流石に無関係じゃないだろってことで少し探りを入れたら、案の定って感じだ。

 CCGの襲撃、どうなったんだ?』

「特等捜査官たちの手で、鎮圧はされました」

『なら良かった。けど、現状が一筋縄じゃいかないっていうのは間違いねぇな』

 

 喰種組織「アオギリの樹」の対応だけでも、CCGはかなりの人数を割いている。そこに加え海外の喰種組織など、タイミングが悪い。

 連携でもされたら、明らかにこちらの方が後手に回ってしまうかもしれない。

 

 先日の事件、1区にあるCCGの本局が、海外の喰種組織に襲撃されるという事態により、CCGの対応は大きく後手に回っていた。それでもその場に居た過半数は特等捜査官たちが倒したと伝え聞く(やはりというべきか、撃破数は有馬さんが群を抜いているらしい)。

 

 ともかく既にこの関係で、追加の捜査官が各地区に一人派遣されることが確定している。20区にも今日から一人来る予定だ。

 

『本来なら警察と強力って話でもないみたいだが、生憎と進入経路に近いってことで、協力要請来ててよ。何か、大坪って言う秘書っぽいっていうか、眼鏡かけてる捜査官っぽくねーのが来てるな。ちゃんとアタッシュ持ってるけど……』

「大坪……。以前、女性誌で取り上げられたことのある捜査官が居ると、アキラが言っていたか。確かそんな名前だったと思います」

『アキラって誰だ?』

「今の、自分のパートナーです」

『ほぉん。女か?」

「女性です」

『なるほどね。

 亜門サンのことだから、あんまり上手くやれてねーんじゃねーのか?』

「……な、何故?」

 

 だろうな、と言わんばかりの守峰さんのため息に、俺は反応に困った。

 

『おせっかいかもしれねーけど、たまにゃ肩の力を抜いても良いんじゃねぇかな?』

「肩の力?」

『余裕を持って一歩下がってみれば、また違ったモンも見えてくるんじゃねぇかと。まそんな話だ』

 

 守峰さんとの通話を終え、俺は一度深呼吸をした。彼はかつて俺が8区の応援に行った時に知り合った刑事だ。斜に構えているようで、根に熱いものを持っている。それ事件以来縁あって、連絡を取り合ったり、時たま飲みに行く関係となっていた。

 ただ、ここ数ヶ月はお互い忙しく、顔を合わせる事もなかった。

 

 ……俺達も俺達で忙しかったが、相手も相手で中々大変なようだ。

 

 それだけ、今回の事件の与えた衝撃が大きいとも言える。

 例えばアオギリによるコクリア襲撃。あれも確かに大問題と言えば大問題だが、あちらは戦力の陽動あってこそだ。だが今回は違う。ある程度戦力が万全の状態で、それでも鎮圧に時間がかかり、一定数の死傷者が出たと言う事実だ。

 

 什造が「東京の喰種と協力して戦った方が早いんじゃないですかねー」と目をキラキラさせて言っていたのを、篠原さんが「無理だろ」と押さえていたのが記憶に新しい。

 

 喰種と共闘、か……。

 

「どうした? 亜門上等」

「……なんでもない」

 

 室内に入った俺に、怪訝な表情を向けるアキラ。彼女の言葉に答えてから、俺は「遅れました」と頭を下げた。

 部屋には、もう本日から配属される「彼女」が来ていた。

 

「いや、まぁいつもじゃないから少しくらいなら大丈夫だ。

 じゃ、自己紹介どうぞ」

「本日付で20区配属となりました、雨止夕(あまや ゆう)です。

 海外の喰種組織、本部での戦闘の際に目撃された喰種がこちらでも発見されたとの情報が入ったため、その調査を中心に当たります」

 

 淡々としたその様子は、言葉少なに周囲を威圧しているようにも感じられる。

 自己紹介を終えた彼女は、アキラの隣、俺と反対側に座った。「よろしくです、ゆうゆう」という什造の言葉に、目礼のみを返す彼女。やはり口数は少ない。

 

「さて、皆も知っての通りだが、先日1区が襲撃された事件を受けて、各支部の捜査官増員の案が承諾された。また加えて、アオギリの樹の捜索と共に海外の喰種”時の尾(クロノテイル)”の確保も仕事に加わった」

「では、ここからは私が引き継いで」

 

 政道の隣で立ち上がる法寺さん。政道がやや不機嫌そうに見えるのは、気のせいだろうか。

 

「以前、篠原特等たちが安久邸を調査した際に目撃された美食家ですが、アキラさんの言った通りその後、複数個所で目撃情報がありました。おそらく、読みはそう大きく外れて居ないでしょう」

「只でさえアオギリっていう目の上のたんこぶがある状態だ。これから更に激化しかねない。皆、気を引き締めていこう」

 

 その後に各チーム、今後の捜査方針について話し合う。

 俺達のチームは、ラビットとハイセについて。……黒ラビットとラビットが同一の存在か、ということはさておき、アオギリに居た黒ラビットとハイセに何らかの関わりがあることも事実。その調査もかね、今一度アオギリの情報を一度整理しようと考えていたが。

 

「上等、こちらの資料を」

 

 雨止が提示したそれは、アオギリの構成員と思われる仮面を付けた喰種たちと、複数のスーツ姿の喰種たちとが話し合っているような写真だった。

 

「8区の監視カメラに映された映像です」

「アオギリと、クロノテイルに何らかの関わりがあると?」

「上等、飛躍しすぎだ。……名がある喰種同士が相対している訳ではない。おそらく、接触を計っている途中といったところだろう」

 

 アキラの推測に、「おそらくその通りです」と雨止。

 

「以前から奴らの状況の捜査に当たっていた仲間が、この間の戦いで何人も逝きました。何人かは、この顔に見覚えもあります。……せめて、足がかりだけでも掴まなければ、顔向けできません」

 

 20区に彼女が希望したのは、以前戦った喰種がこちらで目撃されたという情報が入ったからだそうだ。

 ぴりぴりと気が立っているその様子に、俺はどこか懐かしいものを覚える。そう、どう言えば良いか。なんとなく以前の自分自身を見ているような、そういう感覚があった。

 

 だが、アキラはそんな俺とはまた別な感想を持ったようだ。

 

「……たまには休んだらどうだ? 気が立ってるのは、決して憤りだけのせいではないと思う」

「……ッ、一考します」

 

 アキラの指摘に、彼女は一瞬肩を振るわせ、拳を握った。

 振るえる拳には、表面上の冷静さに隠れた怒りが見える。

 

 草場さん……。喰種によって運命をゆがめられた人間は、決して少なくない。俺達捜査官自身、過去に歪められ、退治する事で現在、未来と歪み続けているのだ。いつどこで、誰が命を落とすとも知れない。

 そういった悲劇の連鎖を断ち切るために、俺達捜査官が居るのだ。

 

「必ず、見つけよう」

「そうだな」

「……感謝します」

 

 頭を下げる彼女に、俺とアキラは頷き合った。今この時ばかりは眼帯のことも忘れ、俺は彼女に力を貸そうと、心から思った。

 

 

 

 

 

   ※

  

 

 

 

 

「何やってるの? お兄ちゃん」

「あー、うん。店長のバイクの手入れ。ほらここ、シルエットで書かれてるフクロウのペイントが消えちゃってるから、その補修をと」

 

 つい先日、店長がバイクの手入れをしているのをちらりと見かけて、何か手伝える事はないかと聞いた。すると店長は少しだけ困ったように笑った。

 

『四方くんが以前、作ってくれたシルエットのペイントなのだがね……。赫子と合体を繰り返していたせいか、剥げてしまったらしい。出来るならば、補修を頼めないかな?』

 

「それで、本を片手に?」

「うん、そう。生憎まだ覚えてないからね」

「覚えられるの? そういうの」

「教育基本法を暗記で覚えるよりは楽だよ」

「きょ、きょうい……?」

 

 さ、と首を傾げながら自分の身体を抱くクロナちゃん。何だろう、その仕草は。

 

「で、クロナちゃんは?」

「あ、うん。表の箒が終わったのと、はい」

 

 そう言って差し出したそれは、珈琲の果実がいくつか。以前、無理やりあーんされた記憶がある。

 それを一つ手に取って口の中に入れる。……相変わらず甘い。ただ香りがあるかというとそうでもなく、砂糖とかを放り込んだような感じがする。

 

「うん、甘い甘い。

 クロナちゃん、これ誰から教わったの? そういえば」

「シロが色々試して、それで……」

「なるほどねぇ。あ、トーカちゃんとかにも、あげて良いかな」

 

 トーカ、という呼び名を聞いた瞬間、表情が固まるクロナちゃん。どうしたんだろうか。……って、嗚呼そういえば。

 

「こっちのペイントが終わったら入るから、先に行っててくれる?」

「うっ」

 

 僕の言葉に、クロナちゃんは微妙な声を上げた。

 なお、彼女の服装は既に「あんていく」の制服姿だ。

 

 表の掃除を終えたと言ってる彼女は、しかしどうしてか店内に入るのを躊躇している。概ね予想は出来たけど、もう一度整理しよう。

 

「どうしたの?」

「そ、の……、トーカちゃんしか、居ない」

「だね」

「怖い」

「いやいや、そこまでかな?」

 

 慣れないとトーカちゃんの態度は怖いものがあるかもしれない、とは僕も思うけど、流石にそこまで怯えるほどではないように思うのだけれど……。リオくんは怖がってなかったっけ、そういえば。

 でもよくよく考えると僕の場合、あんていくで働いてる時は基本的に店長がバックに居たようなものだ。店長の指示で、という前提で動いていたから、トーカちゃんのちょっと剣呑だった視線を受けても、自分なりに自己防衛のいい訳が成り立った。対してクロナちゃんは、そういう壁はあんまりない。僕本人はあんまり発言力もないし、強いて言えば盾代わりくらいだろうか。

 

 そんなことを考えていると、ひょこり、と視界の端に女の子の姿が映った。……黒いカツラにサングラスをかけた女の子が。

 

「……えっと、ヒナミちゃん?」

「あ! お兄ちゃん教えちゃ駄目だよ!」

「!?」

 

 びっくりしたように背後を振り返るクロナちゃん。ヒナミちゃんはカツラを外して、サングラスの位置を頭のてっぺんにずらした。

 そしてクロナちゃんに向かって、満面の笑みを浮かべた。

 

「おはよ、クロナ『お姉ちゃん』」

「う、お、はよ、ヒナミちゃん」

 

 詳しくは聞いてなかったけど、どうやら彼女たちの仲はさほど悪くはないらしい。

 

 少なくともやりとりの上で、クロナちゃんはヒナミちゃんには普通に接してるように見えた。

 

「クロナお姉ちゃん、どうしたの?」

「お、お店の中入るの怖いから」

「怖い? お化けでも出るの?」

「そうじゃなくって……」

「じゃあ、ヒナミが一緒に行ってあげる!」

 

 ええ!? という反応をする彼女の手を引いて、ヒナミちゃんが店内に入っていく。去り際、こちらの方を見て残念そうにため息をついていたけど……。まぁ、個人的には慣れて欲しいところだった。

 まだたまーにわからないところもあるし、僕ももう一週間前後でテスト期間に入るので、接触回数は必然的に増えるのだ。だったらまず、話を聞けるようになってもらうしかない。

 

 しかし、こうして一人で作業してると、なんとなく身体が二つ欲しくなってくる。

 

 「あんていく」で働きながら学校にも通って、夜は見回りもかねて歩きながら更に教育実習へ向けて色々準備と……。これに加えて読書とか、トーカちゃんの勉強見たりとかあるので、我ながら、そろそろ倒れそうだった。

 

「まぁ、お陰でトーカちゃんの勉強会が減ってるってのもあるんだけどねぇ……」

「釣った魚に餌を挙げないのは、結構酷いわよ」

「わっ!?」

 

 唐突に声をかけられ、僕は飛び退いた。

 その場に居た彼女は、髪が長く暗い印象をしている。メイクも地味に統一されている感じが作為的と言えば作為的だ。確か名前は……。

 

「三晃さん?」

「はい、どうも。芳村店長は居る?」

「たぶん地下だと思うので、待つことになりますけど」

「じゃ、待たせてもらおうかしら。そろそろ開店よね」

 

 腕時計を見ながら、彼女は鼻を鳴らす。

 気のせいか、ちょっと不機嫌そうだった。

 

「えっと……、何かありましたか?」

「……ちょっと。この間の1区の事件のせいで、実家の商売にダメージが入って。

 報復というか腹いせというか、ともかく『仮面ライダー』に情報提供しに来たの」

 

 情報提供か……。

 

「僕も、一緒に聞く事はできますか?」

「芳村店長次第じゃないかしら。まぁ大した情報という訳でもないから、聞くだけ無意味かもよ?」

「それでも、参考までに」

「……あ、駄洒落じゃないのね」

「……へ?」

「いえ、永近君ならそれにかけてきそうだなって思って。先月、一緒にお昼食べた時そんな感じだったから」

 

 参考と、三晃か。

 何やってるんだ、ヒデよ。

 

 少し気が抜けた僕に、彼女は肩をすくめて笑った。

 

「相変わらずと言えば相変わらずなのかしら。たまに掘さんから聞いてるけど」

「……なんでチエさん?」

「だって、別に私月山君の友達という訳でもないし。それに聞いてても、バイアスがかかるからうんざりするわよ。主に表現に」

「……何してんの?」

 

 そう言ってる間に、トーカちゃんが表に出てきた。ふと時間を見れば、もう開店時間か。

 

 「お邪魔するわね」と言って表の扉に向かう三晃さん。僕は一旦、店長のバイクにシートをかけた。

 

 

 

 

 




※carnavalのシナリオには行きません

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