仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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トーカちゃん激おこ確定回(匂いで分かる的な意味で)


#049 上弦/混成/先達

 

 

 

 

「…………でも触ったらだめ」

 

 リゼさんの方へ歩き出そうとする僕の両側に腕をからめ、進むのを妨害しながら彼女たちは言う。

 

「――私達のママなんだから」 

 

 それが血縁上の話をしていないのは、言わずとも明らかだ。リゼさんの赫子を元に作られただろうという推測は、おおむね間違ってはいなかった。それどころか真実だったのだ。

 そして、おそらく道中で戦った実験体たちも――。

 

 腕を振ると、二人は同時に前方に飛び上がり、リゼさんを庇うように立つ。

 お互いに、対になるような赫眼がこちらを見る。

 

 僕は一度、ドライバーを落として赫子を背中から出現させ、彼女たちの目を見た。

 

 どうしてか、そこまで敵対心を抱けなかった理由が、うっすらと、なんとなくわかったような気がした。

 

「……君達がどんな不幸を味わって、今そこに居るのかはわからない。

 外部の人間が何をどう知っていたところで、それが本人たちの心の中で、どう受け止められるかが分からないのだから」

「……?」「何?」

「でも、だから言うよ――リゼさんは『ママじゃない』」

 

 元は人間だったはずの彼女達の目に、僕が感じたものは。

 只ひたすらに、家族に対する飢えだった。

 

「嘉納先生は『パパじゃない』」

 

 重ねる僕の言葉に、二人の表情が固まる。

 

 それでも、僕は続けなければならない。彼女たちに言い聞かせるように。自分に言い聞かせるように。

 

「……置き換えるなんて、誰にも、自分自身にさえ出来ないんだ。失われてしまったのなら、残ってしまった傷痕があるなら――誰かに縋ってるだけじゃ駄目なんだ」

 

 例えばそれは、リゼさんのように。自分の中にある母親を、彼女に押し付け続けるのは駄目なのだと理解しているから。だからこそ、僕は今の僕のようになってしまったのだから。

 あるいはそれは、トーカちゃんのように。父親の影を僕に見続けてしまうだけなのなら、いつかはそれを断ち切らせなければならないと。あの日、アラタさんから言われた言葉が、僕には大きく圧し掛かっているのだから。

 

 受け入れ続けるだけが、受け入れてもらい続けるだけが、優しさではないのだから。

 

 だから、僕は彼女を助けないといけない。少なくとも、その命で悲劇が増えるのならば。どうやって彼女と人間との距離をとるべきかは、きちんと考えないといけないけれど。

 

「……うるさい」

 

 二人は顔を下に向け、拳を振るわせる。

 クロナちゃんの苛立った言葉を受けても、僕は話すのを止めない。無感情な彼女の言葉に、わずかに熱が宿っていることに、僕は気づいていなかった。

 

 誰かに縋っているだけじゃ、縋られているだけでは駄目なんだ。

 だから、僕は誰かに返そう。世界が閉じないように――誰かに手を伸ばそう。

 

 例えそれが、拳を向けあう相手であったとしてもだ。

 

 

「君たちは――本当にそれで良いの?」

 

 

「――じゃなかったら」「何だって言うのよ――!」

 

 

 二人が、僕の言葉に赫子を出した。ここまで落ち着いていた二人の感情が一気に爆発した。

 さっきまでの冷静な視線が、まるで人間でも殺せそうなくらいに強い睨みに変わっていた。

 

 こちらに近寄る二人からは、怒気が起こっている。

 

 

「私達は――」「私達しか残ってないんだ――」「シロが居る――」「クロが居る――」

「「パパがみんな愛してくれる! 復讐する相手も教えてくれる!」」

 

「……」

 

 

 リゼさんの声さえ、もう聞こえない。ひょっとしたら「リゼさん本人」を見てしまった以上、もう僕の中には居なくなってしまったのかもしれない。

 だけれど、なんとなく彼女の声があったら、滑稽だと笑われていたことだろう。

 ただ、それで揺らぐわけにはいかない。

 

 僕の言葉が届いたか届いていないか。どちらにせよ――この場でリゼさんを助けないと言う選択は、僕には出来ないのだから。

 

「いくよ――ッ」

「!」「!」

 

 僕から先制されるとは思ってもみなかったのだろう。二人はそろって、防戦に回る。赫子の”手”が彼女たちに向かうのを、自身の赫子で防御する二人。それに対して、僕は瞬間的にドライバーのダイヤルを回した。

 

『――尾・赫!』

 

 ”手”を形成していた赫子が分解される前に、形成途中の尾赫を振るう。長さが本来なら足りないけど、この距離ならばそんなもの関係ない。わずかにヤモリの赫子のような色を帯びた尾赫で、彼女たちの鱗赫を引っかいた。

 

 タタラは言った。冷たく、鋭くなくてはいけないと。確かにそれも一理ある。だがこの場合、僕の目的は確実に違った。無力化できるならそれに越した事はないのだ。

 舌打ちでもしそうな二人がこちらに遅い来る前に、僕は赫子で地面をはじく。ソニックブームには流石に二人も後退。

 

 状況を見ながら、僕はドライバーに指を引っ掛ける。

 

 

「厄介……」

 

 

 冷静さをかなぐり捨てた二人は、今にも叫びそうな表情のままこちらに飛び掛り――。

 

 

 

   ※

 

 

 

「ひゃっはぁ!」

『くっ』

 

 両手持ちのクラをまとめて蹴り飛ばし、赫子でさらに遠くに弾く眼前の喰種。Sレートのナキ……、13区ジェイソンに次ぐだけはあるのか――。

 

「ママにお電話かァ? ノッポ野郎がァ!

 スキャリ!」

 

 そう言うと、ナキはアラタの間接部、右肩を狙ってきた。交しきれず、俺はそこに赫子を一撃喰らう。と同時に右手に持っていたクラが一瞬ゆるみ、そこをナキが蹴り飛ばした。 

 

「『くいんけ』持ってても腕二本だからな! 赫子の方が優秀ー!」

 

『――リコンストラクション!

 アマツ・フルツイスター!」

 

 

 振り下ろされた赫子を、アキラのアマツが弾く。弾くだけではない。アキラは体操選手のごとく、その場で回転しながら何度もアマツを振るう。

 ナキを弾いた直後も、何度も何度もムチのように振るい、そしてナキ自身を巻き付けた。

 

「ぶっとべ」

「んあ――!?」

 

 そして引き上げ、空中に投げる。 

 

「Sレートの『ナキ』。貴様確か甲赫だったな。

 生憎持ち合わせは尾赫と甲赫しかないが――十分だろう」

『――リコンストラクション!

 アマツ・フルスティング!』

 

 そして空中のナキに、持ち手を逆に構えたクインケから、槍のごとく射出される赫子。

 

 そのまま勢い良く延長し、ナキの胸部を貫いた。

 

「おむね痛ェ!」

「全く世話のやけるムッシュだね――!」

 

「!」

 

 だがアキラが引き抜くより早く、その延長したクインケの刃を、美食家が切断した。Rc細胞の量の問題か、リコンストラクション直後の強度的な問題か。アマツの甲赫側は、いとも簡単に折られてしまった。

 

「ほぅ、クインケを破壊するか……。む? いかんな。制御装置がイカれてしまったか」

『アマツ! アマt、アマt、ア――』

「見事な赫子だ。是非とも欲しかったが仕方あるまい」

 

「あんがと、お前、いいやつだな!

 んのアマ――」

「ムッシュ!」

「うぉあ!?」

 

 什造が美食家とナキに一撃。が、これはかなり綺麗に赫子で受け流されてしまった。相性が良いはずの甲赫相手だが、伊達に法寺さんや富良さんが追いかけ続けている訳ではないということか。

 

「だいじょうぶですマドちゃん?」

「アニキ、なんで俺を殺そうとするんだ……?」

「落ち着きたまえムッシュ? クインケに魂は宿らないさ――」

「あ゛に゛き゛――――ッ!」

「やれやれ、ピュアだねぇ君は」

 

『済まんアキラ、この借りは返す!』

「次回の休み、私の日程に合わせろ。それでチャラだ」

『?』

「……冗談だ。是非ともこの場で返してくれ」

『応――!』

 

 苦笑いしながら、アキラはQバレットのショットガンに持ち替える。

 美食家に一歩踏み込み、俺はクラを一度合体させた。両手持ちでなくとも、今のアラタ装備状態ならば片手で充分だ。

 

 篠原さんはラビットの相手に苦戦している。この場で最も最適な方法は――。

 

「什造! お前だけでも先行できるか?」

「テキトーに中入っていいならいくらでもですー」

「コイツらが足止めの可能性も高い。とするなら、目的は――」

「喰種殺して良いならいくですよー!」

「……あ、おいコラ!」

 

 中途半端の指示のまま、什造は勝手に走り、奥の扉目掛けて行った。

 

 思わず頭を抱えたくなるが、こちらもそういった余裕はない。

 

『くたばれオッサン!』

「アオギリの幹部か……。若いがそれに見合うだけの実力もある」

 

 篠原さんは、黒ラビットの動きをオニヤマダで牽制し続けている。だがそれも、押され方が激しくなりつつあった。射撃される赫子に防戦一方という篠原さん。

 だがそれを一度交し、オニヤマダを地面に突き刺した。

 

「やるね君。こりゃこっちも、出し惜しみするのは無理そうだ……」

 

 レッドエッジドライバーを腰に巻くと、篠原さんは制御装置のスイッチを入れる――。

 

 入り口のあたりに放置されていたクインケのアタッシュが展開し、狼のような、犬のような姿に変形し、突撃。ラビットの赫子のマントに齧りつく。

 

『……!? 何だコイツ、妙にやり難いような――』

「そりゃ、甲赫だからね。

 ――篠原、変身!」

 

『――アラタ2号(ニゴウ)! リンクアップ!』

 

 レッドエッジドライバーのハンドルを閉じると、変形していたクインケが解け、篠原さんの全身を覆う。主に上半身に集中しているのは、アラタ1号、2号の特徴だった。

 

 ラビットが息を呑む音が聞こえる。と同時に、赫子が再び射出された。

 

 オニヤマダとアラタで受ける篠原さん。先ほどにくらべ、一歩、一歩と前進することが出来ている。

 

「鬼神のごとしだね。だが、大人を舐めるんじゃないよ――!」

『――アラタ2号! ライドパワー・チャージ』

 

 制御装置が光を放ち、同時にアラタの首元、手先のアーマーが赤く輝く。次の瞬間、ラビットの射撃を篠原さんが押し切った。

 俺のG3にも劣化バージョンが搭載されている、ライドチャージ機能だ。それぞれ1号が「ライドスキル」、2号が「ライドパワー」となっており、オーバードライブさせずとも一時的に能力を底上げする機構だ。

 どうやら2号の場合は、文字通りパワーが強化されるらしい。

 

 

「ナキに美食家……。全く、一体何なんだコイツらは――」

「どうなっているんだ、この状況」

 

 アキラの愚痴に賛同しつつ、俺はクラを振るい――。

 

 

 

   ※

  

 

 

『――尾・赫! 崩壊撃破(ブレイクバースト)!』

「ふん――ッ!」

 

 飛び上がり、膨張した尾赫を高く上げた右足の踵に沿わせ、刃のように。

 

 そのまま叫びながら、僕は二人めがけて足を振り下ろす――。鉞か鎌のように拡大したその一撃を、二人はそろって赫子を構えて防御した。

 でも、相性の問題もあってか間に合いはしない。

 

 鱗赫が中ほどで切断され、ナシロちゃんもクロナちゃんも後退。それでもリゼさんの元まで行かないのは、もはや意地か。

 お互いに支えあいながら、僕を見つつ二人は言葉を交した。

  

「……クロ、試すしかない」

「……シロ、仕方ないけど」

 

「?」

 

 疑問に思う僕を前に、二人は何かを取り出した。 

 

 それは以前、タロちゃんと呼ばれていたスクラッパーが付けていたようなものであり、僕のドライバーとはいくらかデザインが省略されたものであり――同時に、本来レバーがあるべきところが、ダイヤルのようになっていたクインケドライバーだった。

 

 驚いている僕を前に、二人はそれを腰に装着し。

 

 

「変――」「――身」

『――ブレイドモード』

 

 

 そんな音声と共に、二人の全身が変化する。まるで剣道着のような姿だ。もっとも二人とも、色合いや露出している片手までは変化していない。

 あれは、量産型のドライバーか? いや、違う。レバーそのものの機構があちらにはなかったはずだ。とすれば嘉納が作ったというのか?

 

 変化は続く。彼女たちの背中から出たリゼさんの赫子が、まるで竹刀のように姿を変化させる。 

 

 それを二人は、そろって文字通り剣道のように構えた。 

 

「――ッ」

「!」

 

 先行したのはクロナちゃんだった。

 

 まるで「そうする事の方が慣れているかのように」、彼女は僕の胴を凪ぐ。剣道か、いやもっと実戦慣れしているようにさえ感じるのは何故だ?

 そして追撃してくるナシロちゃん。この連携も、双子だとかそういう次元ではなく、気味が悪いくらいにそろった動作で、何かを思い出す。 

 

 そう、まるでこれは捜査官がクインケを使っている時のような――。

 

「いや、そうか」

 

 武器にしてしまえば、そこに動作上の差異はないのだ。言うなれば彼女たちは、変身している状態でクインケを振るっているようなものなのだ。赫子による追撃こそ来ないけど、しかし赫子を扱う以上に武器として使うそれは、彼女たちにとっては馴染み深いものなのだろう。動きにさっきまでの、感情的な乱れがない。

 

 分が悪い――。武術も何も、僕は基本的に本で読んで実験しているにすぎない。月山さんがトレーニングに付き合ってくれても、お互いそれは喰種として、という前提からは逃れられない。このように「純粋な武術」として振るわれると、慣れた技術として振るわれると、どうしても行動の予測にラグが生じる。

 

「お兄ちゃん――」

 

 そして、変身により能力がいくらか底上げされた二人は、そのスキを見逃してくれるような相手ではない。

 

「「――ほっぺにキスしてあげるから、動かないで!」」

「!」

『―ー鱗・赫ゥ!』

 

 突発的に変なことを言ってくるのも、こっちの動揺を誘うためか。

 その言葉に同様したというよりは、場違いな台詞に思考が一瞬詰まったというのが正解だろう。二人そろってこちらの胸の中央目掛けて振るわれる赫子に、僕はとっさに”手”を出して応戦した。

 

 でも、身を守るのが精一杯というところか。

 

 弾き飛ばされ、そしてその途中、クロナちゃんがベルトのレバーを「無理やり」蹴り上げた。本来ならその程度で戻らないのだけれど、受けたダメージの大きさのせいだろうか。

 いとも簡単にレバーは上がり、変身解除させられながら僕はその場に転がった。

 

 壁に背を預けながら、見下ろす二人を僕は見上げる。マスクはご丁寧に赫子が外しているあたり、まだ僕の中のリゼさんは完全に消えてはいないということだろうか――?

 

「……ッ、そういえば、CCGに引き取られてたんだっけ。ならその動きも納得、だね」

「……お兄ちゃんのえっち」

「な、何で?」

「女の子の過去を無遠慮に探るものじゃない」「じゃない」

 

 言いながらも、本当に二人は僕の両側に座り……。いやいや、本当に、両頬にキスしてくるのはどういう心境だというのだろうか。

 ナシロちゃんは本当に軽く。

 クロナちゃんは……あれ、なんか吸われてる?

 

「まさか本当にするとは」

「……一応、約束?」「約束は守る。……(言いだしっぺお姉ちゃんだけど)」

 

 何か小声でつぶやいたような気がしたけど、細かくは耳に入ってこなかったので、ここは流した方が良いだろうか。……いや、二人そろって照れるならやらなくて良いだろうに。本当、余裕あるな。緊張感がそがれる。それも含めて相手の作戦だとしたら、完全に恐れ入った。

 

 そして、そんなタイミングだった――。

 

 

 

「――()ッ!」

 

 

 

 

 この場所の天井が、そんな叫びと共に破壊されたのは。

  

 

 

  

  




カネキの尾赫必殺は、ギルスあたりを想像してもらえると分かりやすいです。
 
 
・量産型ドライバー+(プラス):本来のクインケドライバーとは違い、純粋に変身者の能力を底上げするために嘉納が量産型ドライバーを改造したもの。装着時の痛みはない。「ブレイドモード」「ブラスターモード」「ライドモード」「バーストモード(必殺技)」の四種類にモードが分類、固定されている。
 二桁作ったのに使えるのがクロシロしかいなくて、ちょっと寂しい。
 
・ライドチャージ:アラタシリーズに搭載された「リビルド」機能の拡張バージョン。2号はライドパワーでパワー増強、1号はライドスキルでスピード増強。そしてG3は・・・?
 

 

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