仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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四月初頭・・・

依子「トーカちゃん、その合格祈願のキーホルダーは?」
トーカ「お返しにもらった」
依子「お返し・・・? 今四月だけど、三月・・・、あっ(察し)」


#043 姦計/祈願

 

 

 

 

 

 トーカちゃんが先日持ってきたヘアカタログを参考に、僕はヒナミちゃんの髪を整えていた。

 大雑把な部分は本で学びはしたけど、実戦経験などほぼなし。上手くいくかどうかそれなりに不安は伴ったけれど、どうやら成功したようだった。

 

 店長から許可を貰って、二階に新聞紙を引いて簡単に床屋の真似事を僕はしていた。

 

「はい、完成」

「すっごーい! 本のまんま」

 

 鏡を見て目をまん丸にするヒナミちゃん。「じゃあ、お手伝い行ってくる!」とうきうきした様子で、二階から走って降りて行った。おそらく、入見さんや古間さんたちに見せに行くのだろう。

 

「さて、僕もどうしようかな……。

 とりあえず月山さんに連絡を――」

「おー、カネキ何やってんだ?」

「西尾先輩?」

 

 裏口から出ると、何の因果か西尾先輩が居た。

 

「掃除、サボってちゃ駄目ですよ」

「うっせ。別にサボりじゃねぇっての。アレだよ、アレ。エーキヲヤシナッテルンダヨ」

「思いっきり棒読みなんですが……」

「っていうか、今日のシフトがおかしいんだよ。午前だけだし」

「? あれ、午後は貴未さんとデートとかじゃ――」

「ふれんな」

 

 あ、なるほどケンカ中か。何があったんだろう。

 苦笑いを浮かべる僕に、西尾先輩は半眼を向けた。

 

「つーか、カネキ。てめぇトーカ連れて行けよ?」

「?」

「アイツ、大学は上井にするか悩んでるみてーだから」

「……へぇ」

「……何だその反応」

「いえ、全然知らなかったので」

 

 何で知らねぇんだよ、という西尾先輩に、僕は反応に困った。

 

「いや、何というか……。問題集にさえその存在を匂わせてなかったんで。あー、でも確かにトーカちゃんの偏差値から逆算すると、今の勉強具合は確かにそうかもですね」

「いやいや、何で他人事なんだよ。絶対お前が居るからだろ」

「? えっと、西尾先輩も居ますけ――」

「そうじゃねぇって。かー、鈍感なんだかわざとトボけてんだか……」

 

 首を傾げながら、思わず僕は口元に手を当てる。

 

「……とりあえず、ヒデは喜ぶのかな?」

「永近か。つっても最近、あいつもあんまり来ないよな」

「新しいバイトを始めたとか言ってました」

「バイトねぇ」

 

 そうこう話していると、見せの表から古間さんが来て「君たち、ちゃんとお仕事はしようかー」と得意げに微笑んだ。

 面倒くさそうにため息を付く西尾先輩。

 

「……なぁカネキ、近所に新しいショッピングモール出来たんだが――」

「今のところ利用する予定はないですね。というより、そこまでして休みたいですか?」

「別にそういう訳じゃねーけど、何だかなぁ。

 ……あんまりテキトーにやってっと、ヘタレに頭襲われるってのもあっけど」

 

 それはまた、何というか……。

 

「カネキ、お前何か用事とかあんの?」

「とりあえず、今日は午後に休みをとってあります」

「休み? 何かあんのか?」

 

 言うべきか、言わないべきか迷いながら。でも、僕はここは正直に答えた。

 

 

「――病院に行こうかなと。嘉納総合病院」

「……なんで?」

 

 

 ぽかんとした表情の西尾先輩なんてものを、僕は初めて見た。

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「――すみません。お腹が、痛いのですが」

 

 病院の受付の女性に、月山さんはいつもの調子で話しかけた。

 一目で思わず「どこら辺にお腹が痛い様子があるのか」と言わんばかりの態度だったけど、そのことについては、月山さんに任せた時点で逃れられないところか。

 いや、あれはあれで良いところもあるのだ。

 

「……何でクソ山、いつものノリで腹痛とか言ってるんだ?」

「ある意味、平常心じゃないかなぁ、と。……下手に疑われもしないですし、たぶん」

 

 結局あの後「特にやることもねーし、午後だったら付き添ってやるよ」と何故か西尾先輩が申し出た。

 本当はバンジョーさんと来る予定だったのだけど、申し出られてしまうと断る理由が出せない。とりあえず三人で行動するという方針だったこともあって、今回はバンジョーさんは店の地下に居てもらうことになった。

 

 その関係もあって、西尾先輩に嘉納教授について少し話す必要が出てきたことは、ちょっと想定外だった。

 

「……で、肝心のその医者は居ねぇと」

「手がかりも、ぱっと見て発見できないですし――」

「いや、そうでもねーだろ」

 

 疑問符を浮かべる僕に、先輩は「まぁ見てな」とせせら笑って、一度僕の元を離れた。どこに向かうのかと思えば、一人で来ていた老婆。少し足元が心もとない彼女を、好青年といった笑顔で手助けしていた。

 その後、彼女を椅子に座らせて数分会話。彼女を笑顔で見送った後、先輩は再びこっちに戻ってきた。 

 

「えっと、昔から通いつめてるヒトですか?」

「いや、気づかなかったか? ――ありゃ、喰種だ」

「ッ!」

 

 ま色々と小声で話しはしたけどな、と西尾先輩は何でもないように笑った。

 

「前、20区にあった診療医がいつの間にか殺されちまったらしくってな。家族も散り散りでどうなってるかは知らねぇらしい。

 で、そんな時に探した病院が、ここみてぇだ、てなことだそうだ」

「……すごい、ですね」

「当たり前だっつーの。喰種歴1年にも満たないお前と一緒にするのが間違ってるだろ」

「歴て」

 

 思わず苦笑いする僕に、西尾先輩は肩をすくめた。

 

 でも、これで一つはっきりしたことがある。嘉納先生本人が居る居ないに関わらず、ここは間違いなく「喰種」に関係しているのだと。

 思えばイトリさんから聞いたプロフィールからしても、喰種の医者のようなことだって、十分に出来るのかもしれない。

 

 そんなことを考えているタイミングで、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「あら、カネキさん!

 久しぶりですね」

「あ……えっと、田口さん?」

 

 話しかけてきた看護師の女性。短めの髪を後ろにまとめた彼女は、僕がここに入院していた時に世話をしてくれていたヒトだった。

 アオギリから逃げてきた後、一度だけ嘉納先生と会った時にも一緒に居たっけ。

 

「(知り合いか?)」 

「(入院していた時の看護師さんです)。

 えっと、半年くらい経ちましたか?」

「そうねぇ。あれから検査とか全然来ないけど、大丈夫?

 そっちは……、格好良いお友達ねぇ」

「先輩です、学校の」

 

 うっす、と頭を下げる西尾先輩は、完全に外用の顔を作っていた。 

 

「お魚、食べられるようになりましたか?」

「あー、ははは……。まぁ、色々(ヽヽ)食べてます」

「顔見てれば、大丈夫そうってのはわかるわよ。それから……、なんか逞しくなった? 細マッチョって感じ?」「カネキ、色々『しごかれて』ますから。女子に」

「あらー、いけない子ねぇ」

 

 西尾先輩の謎の一言に、田口さんは口元を押さえてくすくすと笑った。

 疑問符を浮かべる僕を見て、視線が一瞬空中を泳ぐ彼女。

 

「身体、大丈夫?」

「はい、お陰様で」

「嘉納先生かしら? ごめんなさいね、今、出張で病院開けてるの。他の先生になら――」

「あー、いえいえ。ちょっと今日は付き添いで。会えれば会いたかったですけど。

 お忙しいんですかね?」

「んー、ドイツだったかしら? 国外の研究会に招かれちゃったらしくて……」

「そうですか……」

 

 しばらく会話をかわした後、月山さんに先立ち僕と西尾先輩は病院を出た。月山さんはもうしばらく情報収集をしてくれるので、後でそちらの方も聞かなければ。

 病院の塀に沿って歩きながら、先輩はスマホを確認しながら口を開いた。

 

「なんつーか、アレだな。慣れてるなお前」

「嘘を付かなければ良いだけなので、……多少隠し事はしてますが」

「それ、結構性質悪くねーか……?

 しっかし国外ねぇ。どーすんだ、カネキ」

「……僕個人としては、あのヒトは決して真実を言ってるわけじゃないと思います」

「あん?」

「アオギリから救出されて逃げた後、嘉納先生の所に怪我の診断書をとりに行ったんで。その時、嘉納先生と一緒に居ました」

「つまり?」

「少なからず、彼女は先生側に近い人物であるはずです。……、とりあえず次は、渡航記録でも調べますかね」

 

 肩をすくめて笑いながら、ちらりと僕は病院の方を振り返り――。

 

「――!」 

 

 その屋上に、見覚えのある黒い少女の姿を見た気がした。

 一瞬、そこに居た彼女と目が合ったような、合わなかったような。

 

 一秒も経たず、彼女は姿を消した。

 

「どうした、カネキ」

「……いえ」

 

 ここから先は先輩には言わないけど、たぶん嘉納はまだ日本に居るはずだ。

 彼女たちが移植されてどれくらい時間が経っているのかわからないけど、少なくともそう何人も成功しているはずはないだろう。とすれば、今居る「リゼ」さんから作られた半喰種は、僕含めて三人。

 

 そのうちの二人は、マダムAの護衛にかつて台頭していた。

 だけれど逆に言えば、それは貸し与えていると言い換えることが出来る。

 

 アオギリから逃げるとき、大々的な方法をとっていないことから、嘉納のバックはあまり大きくないだろうと予想を付けることも出来るし、とするなら自分の護衛もかねているだろう彼女達から、本人がそう遠くに離れるとは考えづらい。

 

 だとするなら――。

 

「……どうでも良いけどカネキ、お前、結構重要? なの忘れてないか?」

「……重要?」

 

 西尾先輩はカレンダーを見せてきながら、そう言った。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 ……欝だ。

 

「あー、涼しい」

「いや勉強しろよ」

 

 思わず目の前の男子に乱暴にツッコミを入れてしまうくらいに、ちょっと気分は滅入ってる。

 現代文……、現代文が問題なんだ。去年までだったらたぶんDだったけど、今年に入ってCにはなったんだから、もうちょっと頑張ればいけるんだ、うん。

 自分自身にそう言い聞かせながら、私は模試の判定を再度見て、問題集を開いていた。

 

 場所は、区民図書館。前にヒナミもつれてきたところ。

 ここでとりあえず、私と同級生何人かは勉強をしていた。

 

 もっとも、あんまり身が入ってないのも居るみたいだけど。

 

「あと半年もすりゃ受験だもんなー。ヤベェよヤベェよ……」

 

 二人居る男子のもう片方が、めがねをくいっと上げて不気味な感じに笑った。

 

「その半年を後悔しないようにね、フフ」

「田畑、不吉なこと言うんじゃない。アレだ、明日から本気出す」

「日暮里が本気出したところ見た事ないけどね、フフ」

「やーめろやめろ運気が下がる。

 あ、そういや霧嶋はどこ受けんの?」

 

 聞かれて一瞬躊躇してから、それでも一応答えた。

 

「かっ、上井……」

「随分頭良いとこ狙うんだなぁ。何部?」

「理学部か、経営学部」

「飛んでるな、幅」

「落ちるよ……、霧嶋さん……」

「うっさい」

 

 とりあえずマークシート形式でいけるんだから、なんとかはなる……、はず。頑張れば。頑張れば。

 

「トーカちゃん理系は田畑君と同じくらいとれるから。文型が焼け野原だけど……」

「依子、一言多い。

 まあ知り合いが居ない訳でもないし――」勉強見てもらってるし。「最悪、問題流してもらう」

「最悪すぎんだろ」

 

 いや、本気でするつもりは……、一応、ないけど。 

 そうやって入学したら、カネキに微妙な顔されるだろうし。っていうか、カネキがもっと勉強見てくれれば判定もBくらいにはなりそうな気がする。

 

 

 

 そんな感じでしばらく話したり勉強したりして、時刻は夕方。

 駅前で、帰りにどっか寄って時間潰してから帰るか、みたいな会話をしている途中。

 

「あれ、トーカちゃん?」

 

 突然にカネキと遭遇して私は軽く素ッ転んだ。

 背後で依子が「あ!」とちょっと楽しそうにしたのに、なんとなく嫌な予感を覚える。体勢を整えると、いい笑顔で「ぐっ」と親指を立ててきた。何を察したのよ、アンタ。

 

「誰さん? 同い年くらいみたいだけど」

「……バイト先のヒト。一応、後輩?」

「……トーカちゃん、だと?」

「そこは流しとけ田畑ァ」

 

 思わず半眼になった私。田畑は、日暮里の背後に隠れる。

 そしてカネキは、大して気にせず話しかけてきた。

 

「えっと、初めまして。バイト先のヒトです、一応大学生です」

 

 もうこの時点で、私の中の羞恥心のメーターが変調をきたし始めている。そして依子は雷に打たれたかのような顔になって、やっぱり何かを察した。

 

「時期的にはテスト勉強、かな? 順調?」

「痛いトコ突くなよ……」

「あんまり遅くならないようにね」

「わかってるっての。っていうか、そのことに関しては最近のアンタにはどうこう言われたくない」

「えぇ……?」

「大体――」

 

「(おやおや、霧嶋さんなにやらかーなーり親しげなご様子)」

「(ほうほう、田畑君もわかりますかぁ)」

「(日暮里は気づいてないご様子。どれ、ここは我らで一肌脱ぎますか)。

 ところで日暮里、この間の賭けはまだ有効ですかな?」

「あ、か、賭け?」

「ほらほら、補習耐久チキンレースで負けた方が焼肉をおごるという――」

「いや、俺予算が――」

「夏休みに入ったらそれ口実に逃げるだろうし、自分調べではバイトの給料日は昨日のはず」

「何故知ってる」

「あーあー、いけませんなぁ日暮里くん、約束は守ってあげないと――」

「いや、小阪、何キャラなんだよそれ」

「まぁ私は行きませんですが」

「それでは行ってきますですが」

「は、はぁ?」

 

 

 なんだか気が付くと、男子二人は何処かへと足を向けてこの場から移動していた。

 依子が「じゃ、頑張って!」と親指を再度立て、ぱたぱたと走り去るのがちょっと露骨。

 

「あー、なんかごめんね? 邪魔しちゃったみたいで」

「……別にいいけど、なんか癪」

 

 むしろ学校に言ってから「トーカちゃん呼び」でいじられないことを祈る。

 とりあえず荷物をカネキに預けると、カネキは「あ、ちょっと待って」と言って、ショルダーバッグから何か取り出した。デパートとかでやってくれそうな、簡単にラッピングされた紙袋だった。

 

「……何これ?」

「いや、誕生日プレゼント」

「……あ」

 

 そうか、そういえば今日、七月一日か……。自分の誕生日を忘却していて、ちょっと気が滅入った。

 

「あー ……、アリガト。家帰ってから開ける」

「どういたしまして。

 じゃあまた――」

「ちょ っ と 待 て」

 

 ぐ、とカネキの手を握ると、驚いた顔をする。今更手くらいで何を、というのが私的な感想なんだけど……。いや、距離どんだけ詰めても自覚されてないなら話にはならないか。

 

「えっと、な、何?」

「いや、なんか癪だから、このまま帰るのも……」

「……? どっか寄って行く?」

「いや、そういう気分でもないけど……」

 

 上手く言語化できないでいる私。肝心なときに言葉が出てこないのは、アヤトが出て行った時もそうだったっけ。見送った時は少しマシだったとはいえ、結局似たような感じになっちゃったし。ヒナミがあんまり寂しがってないように見えるのが、ちょっと助かるところだけど。

 

 と、そこで唐突にひらめいた。

 

「……ウチ、来い」

「……へ?」

「だから、私ん家」

「え゛?」

「あ゛?」

 

 文句あんの、というように下からちょっと睨むと、何をしたいんでしょうか、みたいな目でこっちを見てくるカネキ。

 

「えっと、一応家に帰ってやることがあるんだけど……、一応すぐやろうかなって思ってたんだけど」

 

 顎触ってる。ダウト。

 

「……駄目?」

 

 少しだけ素直に聞いてみると、カネキは結構わかりやすく葛藤してるみたいだった。……出会った頃は凄めば大体怖がってたけど、怖がらなくなってからはむしろ凄まない方が色々頼みを聞いてくれるようになった。まぁ素直に聞いてるから、こっちも本当に駄目なら駄目って言ってくれるだろうし。

 

 数秒そのまま停止して。

 

「……うん、あんまり遅くならないなら――」

「ヒナミも喜ぶと思う。あー、あと遅くなりそうになったら泊まってもいいから」

「いや、流石にそれは――」

「一応、布団買ったし。来客用に」

「……」

 

 反論を色々考えてるだろうカネキの手に指を絡ませながら、ちょっとだけ私は上機嫌に家路に着いた。

 

 

 

 

 

 




トーカ「そういえば前、あんてのバックヤードにあったんだけど、何これ?」DVD:人食いババァ
カネキ「この間、ヒナミちゃんとかバンジョーさんとか皆で見てたっけ・・・」
トーカ「怖いの?」
カネキ「そこまで。ちょっと古いし」
トーカ「ふぅん。・・・見る?」
カネキ「・・・見たいの?」
トーカ「まぁ、話しのタネに。一人で見ても、まぁ・・・」
カネキ「そうだね・・・」

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