No.7 亜門鋼太朗の喰種資料整理 ファイル1、ファイル2
No.9 リオwithあんていく ヒナミちゃんと月山さんとバンジョーさん
※キャラ崩壊注意(特におまけ)
※2/27ちょっと追加
『7.シ料に隠れる真実』
<――亜門鋼太朗の喰種資料整理 ファイル1――>
「何? 鯱のような男がバーでカクテルを振舞っていた? ……一応監視を続けておけ」
がちゃり、と電話を切り、俺は資料整理に戻る。
アオギリの樹による進行により、23区のコクリアから大量の喰種が脱走した。ピエロマスクのグループや、元アオギリ所属の喰種など。
20区に帰ってきた俺は、今一度、自分が何と戦うべきなのかを見つめなおすため、資料を再度確認していた。
「ここで目撃情報のあった喰種……、しかし何と言うべきか」
俺は近くにあった一つを手に取り、確認した。
片方はビッグイーター。Aレートの、通称「大喰い」と呼ばれる喰種だ。資料によれば外見は女性だが、クモのようなシルエットを捕食時に発現するという情報もある。
記述によれば、どうもこの喰種は各地を多く転々としてきているらしい。赫子の判別により特定できるが、しかしここ数ヶ月は見事に音沙汰がない。
篠原さん……俺の恩師いわく、もう既に死んでいるかもしれない、とのことだ。
「確かに動きが見られないのは不気味を通り越している。他の地区での情報も挙がってこない以上は、その可能性もあるのだろうか――」
「ばあぁん! 亜門さぁん!」
と、突然資料室の扉を全開にした少年。鈴屋什造だ。
「どうした什造。あと、いきなり開けると埃が散るぞ」
「ぺっぺ! 汚いです!
あ、それはそうとイットー、これからドーナツ食べに行くですが、一緒に行きます?」
「……言っておくが仕事中だぞ」
「でも、僕は食べないとやってけないですー。
そうです、僕が見て回ってる間、イットーがドーナッツを買ってくださいです」
かなり無茶苦茶なことを言う什造に、俺は軽く頭を抱えながら注意しようとして――。
不意に、奴が持っているチラシが目に入った。
「……おい、何だそれは」
「何って、アレですよアレアレ。新作のやつですよー。
ほら、この赤丸してあるやつ、僕のおすすめー」
さっと差し出されたそれを、俺は反射的に受け取り、凝視してしまった。
前々から気にはなっていた、つい先日CMの始まったトリプルチョコパウンド。異色の組み合わせながら映像の演出は美しく、カカオバターの光沢感がどこかエロティズムさえ放っている。だが惜しい、発売日まであと一週間とは。生殺しも良いところだ。
逆にハニーワッフルは100円セールが始まり、クリーム、チョコと一つずつ購入でポイントが倍か……。
はっ!?
「じゃ行くですよー」
俺の興味津々な反応を受けて、什造は楽しそうに笑いながら資料室を出て行った。
確かに俺は甘味には目がない。目がないが、しかしそれを職務中にするかどうかは別だ。休憩時間などならまだしもである。
以前アカデミーで教鞭を一瞬振るった際、担当したクラスの少女から「先生って、結構食べますよね。甘いの。羨ましいです私身体弱いから……」という風に羨望のまなざしを受けたこともあるが、それだって不本意なところだ。
「おい待て什造、お前は……。いや、それ以前に走るな、激突するだろう!」
「わー!」「きゃっ!?」
「いわんこっちゃない」
倒れた女性職員を抱き起こし、什造も手を貸して起こす。
「店に行くかどうかは別にしても、パトロールは必要だろう。もし買いたいというのなら、休憩時間でな」
「了解ですー」
そんなやり取りを交わしながら、俺たちはエレベータに共に乗り込んだ。
※
<――亜門鋼太朗の喰種資料整理 ファイル2――>
「フロッキー、おいしゅうございましたです」
そんなことを言いながらドーナッツを置き、什造はコーラを音を立てて飲んだ。
行儀が悪いと言うと、適当に「ごめんなさいです」と流した。まったく……。
「でも、なんでイットーはノートつけてるんですか?」
「嗚呼、これはだな。以前アカデミーで少しだけ教えた時に担当したクラスで、身体の弱い女子生徒が居てな。彼女があまり大量に食べられないから、せめて感想だけでもというようなことを言っていたんだ。
それを受けて以来、どうも他人に自分のオススメを教えようと思うと、細かく考えてしまうようになってな。こうして感想や、その時のことなどをまとめているんだ」
「へぇ……。絵、上手ですねぇ」
「味だけではなく、一目で俺がそのときの食感、質感、風味、口内への甘さの広がり方、すっぱさ、苦さ、調和など様々なバランス」
「イットー、グルメですねぇ」
「単により多くの種類を味わいたいだけだ。店舗ごとにたまに限定メニューがったりもするからなぁ。
しかし、グルメか……」
ふと思い出した情報は、喰種「美食家」だ。
いわく、様々な食べ方で人間を貪る。被害者は目だけ刳り貫かれたもの、肌を剥がされ殴り殺された者、内臓器が一部だけ抜き取られていた者など多岐にわたる。時にアスリートの心臓がくりぬかれて倒れていたという情報は、社会的にもそれなりに影響があることもあり、多くの捜査官に共有された。
そして何故か目撃情報が極端に少ない。最近で唯一取れたものによれば、容姿の整った男性であるらしい。だが残念ながら、彼女は目を刳り貫かれてしまっているためモンタージュなどの検証が出来なかった。
「喰種共に味覚があるかどうかは知らないが、生かされたにせよ殺されたにせよ、悲劇しか生んでいない。この状況は間違いなく悪だ」
「ですかねー? あ、ちなみに味はするみたいですよ」
「……」
喰種に育てられた什造の言葉だけに、その情報にはそれなりに重みがあった。
せっかくなので、俺は確認することにする。
「ちなみにだが、人間の食べものを食べるとどう感じるのか、お前は知っているのか?」
「はえ? 興味あるですか? えーっと、確か吐いてたです。ゲロとかみたいに、酷い味がするんじゃないですか?」
「そうか」
喰種にとって人間の食べ物は不純物であるからして、もしや毒物のごとき味がするのだろうか。
あの男も、それを抑えながら俺を……、止めておこう。思考を振り払って、俺はドーナッツを齧った。
しかしこのハニーワッフル、美味だ。特にハチミツとの相性が悪くない。ハチミツは後日買ってみるか。
しかし、このベタベタとしてくるのは少々頂けない。時間経過とともに浸透率が上がっていくせいもあるのだろうが……。
ノートに今日の分の情報を記載していると、什造が再び口を開く。
「そういえば、セットとかで頼まないですねイットー」
「ああ」
「なんでです? コーヒーとか飲まないです?」
「基本的に、甘味に合うのは冷水だ。雑味が薄く、口の中を引き締め、砂糖による甘さのキレを良くしてくれる」
「やっぱりグルメですよー」
什造の、何故か引いたような表情に俺は困惑した。
「い、いや、何か変なことを言ったか?」
「僕もそこまでじゃないってだけです。
でもでも、じゃあ亜門さんが喰種になったら大変ですねー」
「……は?」
俺が喰種になる?
「例え話です。甘味食べられなくなったら、大変じゃないですか?」
「それは……、いや、捜査官としても無論そうだが、確かにな」
ありえない前提の与太話だが、確かにそうなれば。俺が俺自身のアイデンティティを許すことができないだろうし、そして甘味をエンジョイすることが出来なくなる。それは、何とも酷く悲しい話だった。
そして店を出る際。
「セイドーにもお土産買って行くです」
意外と二人は仲が良いのかもしれないと思った。
――――――――――――――――
『9.ライムライト』
<――リオwithあんていく――>
今日の僕は、あんていくの非番。
カネキさんの協力の元、いつもなら
「あ、お兄ちゃん。こんにちは!」
2階で出かける準備をしてたら、不意にヒナミちゃんから声をかけられた。
元気にしているみたいだ。
「今日はどうしたの?」
「えーっとね。アヤトくんが今日は居ないから、お店で留守番しないかって」
「アヤトくん……?」
「うん。お姉ちゃんの弟さん! この間ね、すごろくやったんだけど――」
ヒナミちゃんは楽しそうに僕に話す。ただ、時々寂しそうな表情になる。
「ヒナミ、アヤトくんが来るまではずっと一人でお留守番してたの。アヤトくんもいつか出ちゃうって言ってるから……」
「寂しい?」
「うん……。お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、遊んでくれるけれど。バンジョーさんも花マンも」
シフトのことだってあるし、カネキさんはカネキさんの用事で出ることも多いだろう。トーカさんだって学校のことがあるし、いつもヒナミちゃんに構ってられる訳じゃない。そのことが分かって外に出ていかないのは、何かヒナミちゃんにも、外に出たらまずい理由があるのかもしれない。
って、花マン?
「月山さん。お花をいつも持って来るから」
な、なるほど。
「何か欲しいものでもあるかな? ちょっとだけお金を貰ったから、千円くらいなら何か買ってあげられるけど……」
「そんなの、悪いよ」
言いながらも、ヒナミの視線はちらりとカネキさんの置いて行った本の方に向いた。
作者は……?
「……じゃあ、少し公園とかに行く?」
「公園?」
「うん。あんまり楽しくないかもしれないけど――」
「うん、行ってみたい!」
少しはしゃぐヒナミちゃん。一応トーカさんに確認をとると「一応、店から歩いて十分以内のところな」と釘を刺された。やっぱり何かあるのだろうか。
店を出て公園に向かう。とりあえず駅前近くの小川を抜けようとしたところで、ヒトに呼び止められた。
「もし、そこの少年。少し尋ねたい事があるのだが」
「!」
後ろを振り返ると、女性が立ってた。猫のように鋭い目を持つ女性だ。
そして、その胸元には白い鳩のバッジ。両手にはアタッシュケースが二つ。
CCG!?
ささ、とヒナミちゃんが僕の背後に隠れた。
「む? ……んー、父親ほど目は怖くないと思ったが。まあ良い。
すまんが道を少し聞きたい。ここの近くに本屋があったと思うのだが」
「本屋? えっと、たぶん――」
僕の簡単な案内を聞いて、彼女は「感謝する」と頭を下げた。
「ぶしつけですけど、ちなみに何の本を?」
「料理本だ。父が世話になっている相手が甘味好きらしくてな。ちょっと本格的に奮発しようかと」
がんばってくださいと言って、僕とヒナミちゃんは少し早足にその場を離れた。
公園につくと、僕もヒナミちゃんも肩で息をしていた。とりあえず落ち着こうと、自動販売機で缶コーヒーを買って、ヒナミちゃんに手渡した。
そしてどこかベンチに座ろうとして――。
「……あ、月山さん」
「花マンだ!」
「ん? やぁリオくんに、リトルヒナミ」
「何、されてるんですか?」
「見てわからないかね?」
ベンチに座って両腕を広げながら、彼はふふんと微笑んだ。
「……ベンチに座ってます」
「ノン、ノン、ノン。太陽の光を浴び、深い緑の香りに浸り、瞑想していたのさ。
Nirvana……、まさに思考の極限を凝らしていたのさ!」
「?」
「そ、そうだったんですね……」
僕には格好良いヒトが座っていただけにしか見えない。ヒナミちゃんは、不思議そうに首をかしげた。
この間、バンジョーさんと特訓していた時にも現れたけど、このヒトはなんだろう、本当よくわからない。
「しかし二人とも。奇遇だね。
思い立ったがハッピー・ディ。近場で良いショップを知ってるんだ。遊びに行かないかい?」
「……」
「リオお兄ちゃん?」
「……へ? あ、えっと」
「思い立ったがハッピーディ」が気になって、その後の言葉があんまり頭に入ってこなかった。
「ショップというのは――」
「Cloth shop……、服屋さ。カネキくんに送るスーツが何かないかと考えていたのだが、一緒に選んでくれまいか」
「ヒナミ、行きたい!」
ヒナミちゃんの言葉によって、この後の僕の予定は決まった。
先に缶コーヒーだけ飲ませてもらう。月山さんは「僕は今、感覚を鋭敏にしているんだ」と微笑んで、そのままベンチで目を瞑ってる。
「服をプレゼントって、お兄ちゃんの誕生日……?」
「さ、さぁ。どうだろう」
「カネキくんの誕生日は12月さ。いやしかし、礼服の10着や20着、持っていても損ではないからね」
なんとなくだけど、そのこだわり(?)は普通じゃないような気がした。
月山さんおすすめのお店というのは、駅前にあった。公園からさほど離れた距離になかったのはちょっと驚いたけど、ウィンクしながら「リトルヒナミのことは配慮しないとね」と言っていた。
お店に入ると、女性客が皆一様に月山さんの方を振り向いた。確かにそういう容姿の優れ方をしていた。
「嗚呼、MMさん」
「やぁ! 今日はここでパートタイムジョブかい?
ふむそうだね……。彼くらいの体格のものはあるまいか」
へ? という僕の方を月山さんは紹介した。ちょっと頼りなさそうな男性定員(アルバイト?)さんは、僕の寸法をたどたどしく測ると、そのまま何着か持ってきた。
ヒナミちゃんや僕にどれが良いか聞きながら、それらの中から二点くらいに絞っていく。
「さて、ボーイリオ」
そして、何故か僕の方にハンガーを突き出してきた。
……もしかして着ろと? 僕の疑問符に、月山さんは微笑んでうなずいた。
「君も大変そうだねぇ」と意味深な笑みを(あんまり目が笑ってない感じの)浮かべた店員さんに誘導されて、僕は試着室へ。ニット帽をとり、袖を通す。
肩がごわごわしていて動きにくい……、普段から肩がぱっくり存在しない服を着ているせいもあるかもしれないけど、戦闘には邪魔になりそうな感じだ。月山さんに感想を言うと「そうか……」とちょっと残念そうだった。
「お兄ちゃんかっこいい!」
そしてヒナミちゃんは無条件でほめてくれた。なんか、ちょっと照れる……。
「素晴らしいデザインなのだけれどねぇ。質感も良いし……」
「あー、そのせいですよ。アレっすよ。スーツって基本的に、素立ちの見栄え重視で作られてまっすから」
砕けた口調で会話する店員さんと月山さん。ひょっとして知り合いなのだろうか。
お店を出ると、月山さんは「知り合いの仕立て屋に頼むよ」と言って笑っていた。
そして、あんていくに帰る途中。
「あ――」
本屋から出てきた親子を見て、ヒナミちゃんが立ち止まった。
どうしたの? と聞くとなんでもないとヒナミちゃんは頭を左右に振った。
「……本屋、寄ろうか?」
「……ううん、良い」
店に帰る途中、僕はヒナミちゃんと少し話をしてみた。
本屋には、色々楽しい思い出も多いらしい。お母さんに連れてきてもらったときや、カネキさんやトーカさんと一緒に連れてきてもらった時のこととか。
「本当は……、行きたいの。でも、ヒナミ、追われてるから」
「……」
「でも、お母さんが殺されて……、一緒に居た時のこと、思い出すと、なんだか嫌になっちゃうの。
たまにお父さんが楽しそうにしてるとき、両耳と目を覆ったりとか。
私が選んだ本、読み仮名つけて、わかりやすくしてくれたり。たくさん本読んで、大人になったらしっかり生きられるようにって……」
「……?」
最初のだけよく分からなかったけど、それもまた思い出の一つなんだろう。
最後の方は、もう声にならないくらいに小さくなってしまっている。
僕より小さなヒナミちゃんだ。きっと、その身に抱える不安は大きいんだろう。兄以外に肉親がいるかどうかさえ分からず、曖昧な記憶の僕にはよくわかる。
寂しいに決まってるじゃないか。だから、公園に出るってだけでもはしゃいだんだ。誰かと一緒に居られるから。
でも、だからこそ。バンジョーさんと話をしたときのことを思い出しながら、僕は言った。
「……つらいのは、仕方ないよ。お母さんのこと、思い出して辛くなるのは。
でも、思い出さないってことは出来ないんだと思う」
「……」
「でも、いつか。僕もそうだったけどいつかさ。
たくさんの楽しい事が、ヒナミちゃんに起きると良いと思うってる。楽しかった思い出が辛くなくなるくらいにさ。時間はかかるかもしれないけど」
「……」
「ヒナミちゃんの周りには、みんな居るからさ。僕も」
「……そんな風に、なれるかな」
「んー……、この間、バンジョーさんと一緒に特訓してたときにさ。月山さんが来たんだよね。
で、なんでか突然乱入してきて、踊りを教えてくれたり。こう手を引いて、二人で踊る感じのやつ」
「ー―くす。前にお店でもそれやってた。バンジョーさん、すごく恥ずかしそうにしてた」
少しだけ微笑み、ヒナミちゃんはそう話してくれた。……そうか、あれは二度目だったんだ。
通りで月山さん、女性側の動きをやるのに一切躊躇がなかったわけだ。
「辛いときはさ。そうやって、楽しいことを色々思い出してみて。それでも駄目だったら、我慢しないで、トーカさんとかみんなの前で、思いっきり泣いて良いんだよ」
「……」
ヒナミちゃんは声もなく頷いて。
「ありがとう、リオお兄ちゃん」
そう言って、少しだけまた笑ってくれた。
今度は本屋に行こうかと話をしながら、彼女の手を引いて歩いていく。
その後はずっと、大切そうにカネキさんたちとの思い出を話してくれた。
どうか、そんなやさしい日々が続きますように。この子の思い出が、悲しみだけであふれないように――。
そしてお店に帰ったら、バンジョーさんが逆立ちしながら腕立て伏せをしようとして、倒れていた。トーカさんにトレーニングのアドバイスをもらったらそうなったらしい。
「あ、アヤトの姉ちゃん容赦がねぇ……」
僕とヒナミちゃんは、顔を合わせて笑った。
おまけ
ロウ「この赫子の完成度が貴方にわかりまして?」
アサキ「嗚呼、わかるとも! 貴方、さては喰種も喰らってますね? この質実剛健たる安定感の中に潜む、金属らしさと無縁のしなやかさ……、時に艶かしささえ孕むこの微細な光の変調! やはりこれだから開業医は止められない……(じゅるり)。
さあさあ、とりあえずこの試験用クインケ鋼にそれを――」
ヒナミ「?」
リョーコ「見ちゃいけません。まったくあのヒトったらもう……ッ」