廃墟のような光景の中――。
こうして夜に一人で居ると、昔のことを思い出す。……思いだせるようになったんだ。兄さんと二人で、色々な廃墟に移って寝泊りした時のことを。
夜、寝られない時は色々な話を聞かせてくれたことも。楽しくて、睡魔に飲まれて気が付くと朝になって。そういうのが僕は好きだった。兄さんも兄さんで、どこからそういう話を仕入れてくるのかわからなかったけど、たぶん図書館とかなんだろうと今なら思える。
そういえば、食糧の調達はずっと兄さんに頼りっきりだったっけ。
今思えば、あの赤々とした光景を生み出さないように、僕が暴走しないように注意をしていたんだろう。それだけ僕が危険ならば、CCGも優先的に駆逐しようとするだろうから。
そういえば、一人で身の回りのことをこなすのも随分慣れたっけ。
記憶を辿りながら、僕はコーヒー道具を取り出して動かす。
カップを二つ揃えて、それぞれに。
湯を沸かし、引いていた珈琲豆へ「の」の字に注ぐ。泡が膨らむごとに香る芳ばしいそれは、何度嗅いでも不思議な気分だ。
芳村さんの味には程遠い僕の腕前。
それでも、あんていくと出会って僕が出来るようになったことだ。
一口飲めば、まだまだな味わいと一緒に思い出す、あんていくの日々。
トーカさんに、ニシキさんに、古間さんにカヤさんに、万丈さんたちやヒナミちゃん。
四方さんに月山さんに、店長や――カネキさん。
――みんな、どうしているだろう。
胸を締め付ける痛みに、僕は大丈夫だと言い聞かせる。
自分の分と、もう一つの手を付けてないカップを手に取り、僕はテーブルに向かって運ぶ。
「――お待たせ、兄さん」
兄さんは何も言わず、ただ微笑んだ。
テーブルに並ぶ二つのカップ。僕は自分の分を手に取り、兄さんは目の前のものを取って、一口。
味について聞くと、少し困ったように笑う兄さん。
一口飲んで、僕は口を開いた。話した事が沢山あるんだ。兄さんに。
兄さんが居なくなってからのことを。
兄さんにかけてきた迷惑や、感謝を。
そして、もっともっと沢山のことを。
少しだけ兄さんみたい思えたカネキさんのこととか、ニシキさんの惚気とか、初々しいトーカさんのこととか。本当は、ちょっと好きになりかけていたこととか。
人間の食べ物の味とか、お店で働くこととか、お客さんのこととか。図書館に初めて行って、本をいくつか読んだりしたとか。前に兄さんが話してくれたものが、その中にあったりしたこととか――。
空はどこまでも、深く優しく続いていて――。
僕等は、いつまでも自由だった。
<Uc"J" END>
思ったより上手くはいかなかったかな? というのが個人的な感想でした
次回から何話か番外編? をやってから、無印後半戦に移りたいと思います。ただ番外編は今までと結構毛色が違うので、ご注意を;
それでは、また見てインサイト!