仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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カネキ「で月山さん、チエさんに僕はどうして呼ばれたんですか?」
月山「気にするほどの事ではないさ、我が友。そして、何を調べれば良いんだい?」
カネキ「リゼさんのことは引き続きなんですが、ジェイル、という喰種について――」


Uc"J" 06:違和感のある力

 

 

 

 

 

 口元を被う布。模様があしらわれたバンダナ部分。どこかカネキさんのマスクを思わせるものの、しかし目元はあえて隠さないというようなデザインだ。どこか暗殺者めいたそれは、しかしいつでも装着することが出来るようなものだろう。

 

「君は不器用なようでいて、どこかでバランスをとろうとしている部分があると思う。不器用なりにね。

 僕は不器用なヒト、結構好きだよ。だから一番、シンプルなものにした」

 

 闇夜に生きる暗殺者、といったところか。人間社会の影で生きる喰種を、一目で表しているようなデザインのマスクだった。

 気に入ってくれたか、とウタさんに聞かれて、僕は頷く。気に入る、気に入らない以前の問題として、僕にその判断基準は抜け落ちているからだ。作ってもらった以上は肯定するのが妥当だと思う。

 でも、マスクをもし付ける場合があるということは、必然それは――。

 

「マスク付けてくれるのが楽しみだね」

「……」

「争いごとは苦手?」

「はい。でも……そうも言ってられない、みたいなんで。

 ジェイルって喰種を探してるんです」

「ジェイルか。……心当たりはないかな。ごめん。

 でも、そういうのに詳しい相手は知ってるよ」

 

 へ? と驚く僕に、ウタさんはメモを取り出して文字を描いて「カタカナの方が良いかな?」と言って斜線を引いて、描きなおした。

 

「ヘルタースケルターってバー。そこにイトリっていう女のヒトがいると思うから、彼女と話すと良いよ」

「あ、あの……、僕みたいなのがいきなり行っても大丈夫なんですか?」

「さぁ。でも蓮示くんに連れて行ってもらったら、色々違うんじゃない」

「れんじ、さん?」

「四方蓮示。カネキくんか、トーカさんに聞いてみれば良いんじゃないかな。彼女からしたら伯父さんだし」 

 

 その言葉にわずかに驚きを覚えつつも、僕は彼から「カネキくんのカツラ」といって手渡された紙袋を持ち、店を後にした。 

 カネキさんが「僕のお下がりだけど」と言って、図書館に行った翌日にくれたニット帽を頭に被り、僕は街を歩く。

 

「……あれ」

 

 そして、気が付けば目の前には見知らぬ道が広がっていた。

 

『帰りは一人でテキトーに帰って。覚えてられんでしょ。私、珈琲買って買えるから。

 ……何不安そうな顔してんのよ。さっき説明したから大丈夫でしょ』

 

 トーカさんにそう言われて「努力します」と返しはしたけど、今更ながら嗚呼失敗したなと思った。

 おかしい、駅前までの道筋はぎりぎりまで覚えていたのに、20区に入った時点でどうして迷ったのか……。お金だってきちんと使ったと言うのに(切符は先にトーカさんが買ってたけど)。

 

「ヒトに聞くなんて、ちょっと怖くて出来ないし……」

 

 うろうろと、その後しばらく道をぐるぐると回るけど、日が沈んでも僕は目的地までのルートを見つけられず。

 でも、なんか怖いなこう暗くなってくると、路地のあたりとか。そんなに遠くには来てないはずだから、こうしていればいつか駅前まで帰れると思うのだけれども――。

 

「……君、少し良いかな」

「うあああああああああああッ!?」

 

 突然背後から声をかけられ、僕は思わず説教して腰を抜かしてしまった。

 長身の男性、白いコートに身を包んだ彼が、ちょっと茫然としながら僕を見下ろしていた。

 

「だ、大丈夫か? 急に叫んだが」

「あ、あの、ごめんなさい。ちょっと夜道暗くて怖いなって思って。お化けとかでそうだなーって思いながら歩いてたら、だったもので」

「す、すまない。立てるか?」

 

 差し伸べられたがっしりした手を掴み、僕は立ち上がった。その際にちらりと、彼の服の胸元に、白い鳩のバッジが付いていたのが目に入った。

 

「俺は、喰種捜査官なんだが……。ニュースで見て知ってるかもしれないが、つい先日、凶悪な喰種が大量に逃げ出す事件があってね。路地を歩く時は気を付けた方が良い」

 

 喰種捜査官、というフレーズに身体が震えそうになったけど、「不気味なほど」僕は自然な振るまいをしていた。

 

「気を付けます。……お化けどころじゃありませんね、それ」

「だな。……あ、ところで少し良いか。君、学生かな?」

「学校は……ちょっと、事情があって。年は16です」

「嗚呼、そうか……。済まない、立ち入ったことを聞いてしまって」

「あ、いえ」

「それで、これからどこに行くつもりだったのかい?」

「ちょっと駅前まで……行きたかったんですけど、考え事して歩いてたら道に迷っちゃって」

「やはりそうだったか。通りでフラフラしてると思ったよ。駅前は確か――」

 

 その捜査官は、少しどこか遠い目をしながら笑って、僕に駅の方向を教えてくれた。

 お礼を言って立ち去ると、丁度向こうも電話が掛ってきたらしい。「引きとめて悪かった」と「気を付けて帰ってくれ」という言葉を言われた。

 

 どこか、胸の奥に何とも言えないものを感じる。

 あの捜査官のそれはきっと、僕を人間だと思っていたからこその言葉なんだろうけど……。でも、ああして話しかけられても、気を使ってくれるその感情だけは、僕にはすっと受け入れることが出来たわけで。

 上手に説明できないもやもやみたいなものを胸に抱えながら歩いていると、丁度駅前にさしかかる書店の窓から、本を物色しているカネキさんの姿が見えた。

 

 思わず書店の中に入って声をかけると、カネキさんは「やあ」と笑った。

 

「リオくん、どうしてここに?」

「あの、ウタさんのお店で……」

「わかった。えっと、とするとトーカちゃんは……?」

 

 珈琲豆を買いに行ったので分かれた、と言ったら「詰めが甘いなぁトーカちゃん……」と微妙な表情になった。

 

「でも、都庁の方からこっちまで帰ってはこれたんだね。リオくん凄いよ」

「へ? ……あ、あの、なでなくて良いです」

「あ、嫌だった? ごめんごめん」

「あとこれ、ウタさんから」

「あ、ありがとね。さて、じゃあ……、ちょっと待って」

 

 そう言いながら、カネキさんは「教え授ける」というタイトルの本をレジに持って行って会計し、僕の方に歩いて来た。

 帰り道で、僕らは軽く雑談。

 

「カネキさん、どうして駅前に? てっきりそのまま『あんていく』に行ってるかと思ったんですけど」

「別にそこまで毎日行ってるわけじゃないんだけどね。えっと、学校で先生と授業の取り方について相談してた後、知り合い……? 知り合いの変なヒトの、友達って人から助けてくれ、みたいなメールが来てね。知り合いのミュージシャン志望の人とも、なんか久々に会ったし、これはこれで悪くなかったかなぁって」

「は、はぁ……?」

 

 頭を傾げる僕に「ちょっと説明が難しいんだよね」とカネキさん。

 

「月山さんって言うんだけど、一度会ったらたぶん忘れ難いと思うよ。……僕は今、ちょっと頼みごとをしてるところなんだけど」

「頼みごと?」

 

 うん、と言ったっきり、カネキさんはその話は続けなかった。

 

 お店に付くと、店長が出向かえてくれた。

 トーカさんに「遅すぎ。方向音痴?」と言われたのに対して、僕はさっき捜査官に呼びとめられた時のことを話した。

 

「アンタ……、どんだけ貧乏クジ引くのよ」

「じゃないよトーカちゃん。土地勘どころか、リオくん記憶喪失なんだから。ちゃんと注意していてあげないと」

 

 カネキさんが注意していると、店の扉が開かれて向こうからもそれに賛同する声。

 

「研の言う通りだ。ちゃんと見ておいてやれ」

「……?」

 

 長身で厚みのあるシルエットを持つ男の人。どこかぼんやりとした目がこちらを見ている。その視線とか、所々がどこかトーカさんに少しだけ似ていて。

 

「四方さん……」

 

 トーカさんの言葉で、嗚呼そうなのかと僕は納得した。ウタさんの言っていた蓮示くんとは、この人のことか。

 そしてなんとなく、この声にも聞き覚えがあるような、ないような……?

 

「そうだね、始めはしっかり面倒見てあげないといけない。只でさえ社会には不慣れなのだから」

「……すみません」

 

 芳村さんの言葉にバツの悪そうなトーカさん。僕が道を覚え切れてなかったからだと言えば「アンタ謝ったら余計私が悪いみたいじゃん」と返された。ならどう言うのが正解なんだろうか……。

 

「でも店長、リオくん戦闘したことないと思うんですけど、いざって時のためには――」

「そうだね。緊急時の対処も必要だね」

「只でさえヘナチョコだし」

 

 ヘナチョコとはどういう意味なんだろう。単純に記憶の語彙にない。

 そしてそんな会話の流れで、珈琲豆の缶を手に取った古間さんがどこからともなく現れた。

 

「ふふふ。ここで『魔猿』の出番という訳ですね」

「ま、まえん……?」

「不思議そうだねぇリオくん。何を隠そうこの僕こそ、かつてブ――」

「四方くん、頼もう。『魔猿』には、豆のローストを頼もうかな」

「……承知っ!」

 

 まるで出来た従者のように頭を下げる古間さん。

 

 準備が終わったら下に来いという四方さん。そのまま店の奥に向かったため、後には僕とカネキさんと、カネキさんに色々言われて「うへー」っとなってるトーカさんとが残された。

 

 

 

   ※

 

 

 

 少しばつが悪そうなトーカさんに案内された先、店の奥にある床にある蓋が外されていた先。大空洞と表現したらいいのか、ともかく巨大な地下道がそこには存在した。

 周囲をきょろきょろと見回していると、四方さんの声。

 

「ここはその昔、喰種たちが人間から身を隠す為に作った場所だ。慣れてない奴が先に行けば、二度と帰ってこれないぞ」

「……は、はい。気を付けます。

 あの……」

「…………」

「……あ、あの……」

「…………なんだ」

 

 どうしてこんなに間が開くんだろう。

 

「えっと、ウタさんから四方さんのこと、少し聞いて。で、イトリさんって人のお店に、連れて行ってもらいたいんですけど……、できますか? 今日じゃなくて全然構わないので」

「……」

 

 四方さんの反応はない。声は届いているんだろうか、それなりに距離は開いているし。

 

「……なぜだ?」

「へ?」

 

 ただ、返答された質問は酷く大味だった。少し面倒そうに顔を顰めながら、少しずつ四方さんはゆっくり問い質す。

 

「何故、店に行きたがる。イトリの」

「……僕の探している情報が、そこにあるかもしれないからです」

「…………そうか」

「はい」

 

 そう答えると、四方さんは上着を脱ぎ出した。まだ二月に入ってちょっとというくらいなので、寒いにも関わらず。かく言う僕も、今は肩までカットされた上着だけれど。

 一体何が始まるのかと、様子をただ眺めていた僕に四方さんは言った。

 

「一発、入れてみろ」

「……えっ?」

「芳村さんが言っていたろ。いざという時の対処を覚えないといけない。

 それに……、今のままだと、イトリの店のことは教えてやらん」

 

 一発入れる、とは殴ってみろということだろうか。

 ケンカなんてまともにした記憶はないし、その手の技術もまるで知識にない。食糧調達だって、今はあんていくに頼っている分だけだ。

 

「……」

 

 でも、と僕は深呼吸して、考え方を切り替える。これから「兄さん」を助けるためには、きっと必要になるかもしれないことだし――ジェイルどころか、あのバケモノみたいなヤツと戦うためにも、力は必要だ。

 僕は、弱いままではいられない。

 

 お願いしますと頭を下げて、僕は四方さんに走り出した。

 

  

「遅い。――赫子を使っても構わない」

「――ッ!」

 

 そう言う四方さんは、赫子さえ出さず、全く息切れせず僕を往なして、投げる。

 投げ飛ばされた瞬間、彼に言われるまでもなく、記憶にある中では出した事もないはずの赫子が、僕の背中から出る。灰色の尻尾のようなそれは、継ぎ目のような箇所に赤い鱗のようなものが見え隠れしていた。

 

 恐竜の尾のようなそれを使い、僕はバランスをとる。

 

 深呼吸。

 と同時に、僕は不自然な寒さを感じる。後ろを振り返ると、自分の赫子の継ぎ目のような箇所から、冷気が漏れてる。

 

「何だ、これ――ッ」

「余所見をするな」

 

 四方さんの肘打ちが腹に。吐瀉し、僕は中空を舞う。でも今度は尻尾が出ている分か、そのリーチで四方さんに攻撃。これをギリギリで交わした四方さんだったけど、服や足の一部が凍りついた。

 

 距離をとった僕等。そして――唐突に僕は、ある方法を思いつく。

 

「はぁぁぁ……」

 

 相手が飛びかかってこないのを見計らって、僕は背部に意識を集中させる。赫子から冷気が漏れだし、僕の背面を被い尽くす。

 そのまま尻尾のような赫子を表に振り回し、僕は四方さんの方に冷気を射出した。

 

「……なるほど」

 

 四方さんは背中から、小さな翼のような赫子を出現させ、僕の放った冷気に対して「閃光のような」赫子を射出して爆発させた。足止めくらい出来ればと考えはしたけど、しかし一撃のことごとくが雷のようにほとばしる光で撃滅させられる。

 

 それでも負けじと冷気を放ちながら、僕は走り、射程で身体を回転させて赫子で四方さんを殴ろうと――。

 

 

 

 

 

 数分後。僕も肩で息をしている。四方さんは立ったまま、僕は力が抜けて転がった状態で。呼吸一つ乱れていないのが、そのまま僕と彼との実力差を物語っているように思う。

 とてもじゃないが、これじゃ一発入れるなんてとてもとても・

 

「……さっきのは」

 

 と、息が続かない僕に四方さんが声をかけてきた。

 

「記憶にない戦い方、だったのか?」

「さっき、の? ……ああ、はい」

 

 そうか、と言って四方さんは僕の方を一瞥して、背を向けて。「行くぞ」と言った。戸惑う僕の方を振り向き、続ける。

 

「イトリの店だ。行きたいんだったろ」

「あ、あの……良いんですか?」

「…………」

 

 言葉が続かない。

 くだらない質問をするな、ということなんだろうか。表情も怖いので、ひたすらに怯えるばかり……。でも好意的に解釈すれば、さっきのアレは僕にやる気を出させる為に言った言葉なんだろうか。

 

 僕が起き上がるのを最低限待ってから、四方さんはそのままスタスタと慣れた風にトンネルの向こうの暗闇を進んで行く。置いていかれる前に急いで立ち上がり、僕も後を追った。

 入り組んだ迷路のような道筋を、慣れた様に四方さんはすいすいと歩いて進んで行く。僕はとにかく、その後を追いかけるのに必死だった。時折彼の背中を見失って立ち止まると、向こうから「こっちだ」と声がするので、一応気にかけてくれてはいるようだ。

 無口で無愛想だけど、そういうところに彼の優しさを感じる。恩に着せたりしないその真っ直ぐさが、どうしてか胸に込み上げてくるものがある。

 

 そして、僕は思い出した。

 

『――研、そっちを持て。車に入れるぞ』

『――済みません四方さん。わざわざ手伝ってもらって』

 

「あー―っ」

 

 そうだ。記憶自体は曖昧であっても、僕を見つけて運んでくれたヒト。片方はカネキさんだったらしいけど、もう片方は四方さんだったのだ。

 

 お礼を言わなきゃならない。そうは思ったものの、結局この時点では彼を見失わないよう付いて行くので精一杯だった。

 

 

 

 

 

 




カネキ「どう? ウタさんの再調整したカツラ」
トーカ「……前みたいな髪型なんだけど、ちょっともっさりしてたのね、アンタの頭」
カネキ「え……」(汗)

尻尾+冷気

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