仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#033 呵責/去行/姉弟

 

 

 

「さぁて、と……、どこだと思います? リゼさん」

 

 問いかけても返事はない。

 そのことに不思議と残念さを覚えながら、僕は階段を下る。

 

 ホールから出て扉を閉めて、下に降りている最中の僕。とにかく今は、バンジョーさん達を探さないといけない。ヤモリの口ぶりからして、ある程度健康なままどこか一箇所にまとめて監禁されているだろう。

 

「ここの構造ってどうなってたかな、と」

 

 建物は凹の字型。へこんでいる箇所が海になっていて、僕は今左側のでっぱり、5棟の向こうの別棟。

 

 そう考えると、ヤモリがホールを自由に出来ていた以上、ここの建物自体が彼の所有物と考えるのが妥当だろうか?

 

 あるいは、周辺の建物も含めるか。

 

 と、ホールから出た直後、背の低い、半分地下に突っ込んでいるような建物を見つける。そこから聞き覚えのある男性の声が聞こえて、少し僕は笑顔になった。

 

「確か、赫子は想像力だったっけ」

 

 中に入って檻を確認していくのが面倒なので、コンクリートの壁に「赫子を突き刺し」て、音を確認。イメージするのは、コウモリやイルカのソナーだ。

 

 

『――チクショウチクショウチクショウチクショウ、チクショウーッ!!!

 何で俺はこんな弱いんだ……!! リーダなのに……、何で、こんな――』

 

 

「……やっぱり、優しい人なんだよね」

 

 バンジョーさんの苦悩の声は、痛いほど僕の胸に響いてくる。リゼさんのことだから、きっとテキトーな感じに言っただけなんだろうけど、それでもバンジョーさんは頑張っていたはずだ。戦闘力が追いつかなくても、あの仲間たちのまとまり方を見ていれば、不思議と頷ける。

 

 でも、お陰で位置が分かった。

 

 何歩か歩きながら、僕自身の耳をすませる。

 喰種特有の感覚なのか、段々と、赫子をソナー変わりにしないでもわかる位置まで来た。

 

 目の前の壁を壊せば、きっと彼等の所だろう。

 

「そのまま開けたら危ないよなぁ……。よし」

 

 とりあえず再び赫子を、今度は月山さんがやってたような、ドリル状にイメージ。

 伸ばして伸ばして、天井に近いあたりで変形させて、刺す。

 

 後は回転、回転、ひたすら回転――、よし、届いた。

 

 開いた穴から赫子を抜き、大きな声で聞く。

 

「バンジョーさん? 居ますか?」

「……その声、カネキか!? カネキなのか!!?」

 

 よし、とりあえず話くらいは出来そうだ。

 今から壁を壊すから離れて下さいと言って、数秒待ってから、右の拳を構える。

 

 イメージするのは――店長が、リゼさんに見舞った一撃。赫子を拳に結集させて、殴る。シンプルだけど、その分威力も保障されている。

 

 

「――ライダー、パンチ」

 

 

 果たして殴りつけた一撃は、想像以上にコンクリートを軽く粉々にした。

 

 やりすぎたか、と思いながらちょっと慌てて室内に入り、確認。

 

「えっと、みんな大丈夫ですか? 今のでケガとかありません?」

「あ、ああ。大丈夫だ……。無事だったんだな、カネ――」

 

 砂煙なのかコンクリートの粉塵なのかはともかく、それらが視界から消えた時。バンジョーさんは僕を見て、言葉を失った。

 

「良かった、みんな無事で」

「お、お前……、その手、足、髪――」

「あー、ちょっと色々ありまして……。でも、心配しないで下さい」

 

 出来る限り笑ったつもりだけど、上手く笑えてる自信はない。

 間違いなく今の僕は、普段の僕と、暴力衝動との中間くらいに居るはずだから。

 

 こんな調子でトーカちゃんに会ったら、きっとどつかれる……。

 

「だ、大丈夫ってお前、ヤモリは――」

「倒しました。とりあえず戦闘不能に。

 回復するにしても、しばらく戦えるような状態じゃないと思いますよ」

 

 僕の言葉に、バンジョーさんが何度も確認する。ジロさんやイチミさんたちが顔を合わせる中、僕は、頭を下げた。

 

 

「――ごめんなさい」

「どうした?」

「コウトくん達を、助けられませんでした――」

 

 ケイさんとコウトくんを、とイチミさんが繰り返すのに、僕は頷く。

 

 バンジョーさんは、また酷い顔で自分を罵倒した。

 

「またッ、俺は――やっぱり何も出来ない。

 俺はどうして、こんなに、能なしなんだ――」

 

 でも、僕はそれを遮る。

 

「……バンジョーさん一人で、これ以上背負わなくても良いです」

「……!」

「自分の能力で果たせないことを、嘆くのは悪くないと思います。でも、その罪悪感で押しつぶされたら、元も子もありません。

 僕が仮にリーダーになると言ったとしても、きっと皆を守りきるなんて、不可能だと思います」

 

 それくらいは分かってる。僕は「あの」母さんの子供なのだ。どれくらい自覚したとしても、きっと根っこは同じで、僕は僕のことしか頭にないんだと思う。

 

 だから、僕が言える精一杯は。

 

「―ーだから、皆で強くなりましょう。

 強くなって、皆で力を合わせれば、きっと、誰も殺されない」

「……」

 

 どれほど大きくなったとしても、一人に出来る事は所詮、一人にできる事でしかない。

 

 でも、だったら多くの人数で協力すれば、もっともっと大きなことが出来るはずだ。それこそ、一人では決して選ぶ事の出来ない選択肢が見えてくるかもしれない。

 

 多くの選択肢を掴むため――やっぱり、僕等はもっと強くならなくちゃいけない。

 同時に決して、ヤモリのように歪んで強くなってはいけない。

 

「……CCGの部隊が攻め込んできてる、らしいです。

 このまま居残るとまずいですから、早い所逃げちゃいましょう」

「お、おぉ……」

 

 僕の言葉に連なって、バンジョーさん達は後に続いた。

 

 移動中、少なからず何人かCCGの捜査官と遭遇したけれど。

 リゼさんがやったように四本の赫子の”手”を出して、それとなく掴み投げ飛ばし続けた。

 

 少なくとも意識を飛ばし、武器をバラバラにして、通信機を壊せば気付かれず移動することくらい難しくはない。

  

「――ここまで来れば"白鳩”の連中もいないみてェだな!」

「そうですね。とりあえず、お疲れ様でした」

 

 クインケ装備の捜査官と出くわさなかったのが幸を奏し、数分とかからず僕らはアジトを抜け出た。

 

 空に向かって、とりあえず息を吐く。

 

「いやー、やっとこのアジトからもおさらばだ……!!」

「長かったですねぇ、バンジョーさん!」

「シュウ、疲れたよー」

「落ち着けハル、まだ気を抜くな」

 

 全員、明らかにテンションが上がる。

 中にニコが言ってたろう恋人同士の二人を見て、僕は少しだけ苦い思いをした。

 

 

『――カネキくん、耳をすましてごらんなさい?』

 

 

 そして、そんなタイミングでリゼさんの声。

 言われて、目を閉じて僕はアジトの建物の方に集中し――。

 

 

『――ライダースラッシュ』

『――目ェ覚ませ馬鹿アヤトぉ!』

 

 

 店長とトーカちゃんの声を聞き、足を止めた。

 

「……どうして?」

 

 いや、まさかとは思うけど僕を助けに? 可能性が高いのはそれか。

 いや、トーカちゃん達だけしか来ていないというのは、普通に考えて違うだろう。あんていくのメンバー、数人がここに来てると見るべきか。

 

「……すみませんバンジョーさん。森方向、1キロ先までくらいならアオギリもCCGも居ないみたいです。

 だから、先に行っててください」

「……カネキ?」

 

 僕は背後を振り返り、みんなに笑いかけて。

 

「少し、やり残したことがあるみたいなんで」

 

 

 それだけ言って、再び建物の方に走り出した。

 

  

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 6棟って、どこだっけ。

 移動してる途中で自分でもわからなくなりそうになるけど、カネキが居るだろう場所はこの先、五棟を抜けたホールだったと思う。

 

 少しだけ呼吸を整えて、私は四方さんの後に続いた。

 

「……5棟はアオギリと白鳩が交戦中らしい。厄介になるぞ?」

「やっと人間にPut there(ありつける)! 粗食ばかりで飽き飽きしていたところです」

 

 また馬鹿なこと言ってるクソ山に、四方さんが律儀に注意するのを聞きながら、私は思い出す。

 

 あれは、カネキがまだ店に入った直後くらいだったっけ。店長からの指示でお湯の注ぎ方を教えて、見事に失敗。それでも強がって良いんだよって言って、カネキが店長の前で同じ失敗をして。

 

 告げ口でもされるかと思ったら、あいつ、笑いながら自分が覚えられてないとか言って、私を庇って。

 

 嗚呼、思えばきっとあの時からだ。

 

 最初、私に肉を食わせられて拒否して拒否して熱まで出してたくせに。私達が人間を食べる時も、自分みたいに苦しい時があるんじゃなかなんて言って。

 なんだかその顔が誰かと被ると思ったのが、切っ掛けで。

 

 その時に、私のために嘘ついたのが、その瞬間、人間に合わせて無茶をするお父さんにダブったんだ。

 

 それからなんか、気が付くとアイツの方を気にしている自分が居て――。

 

 

「おいクソトーカ!」

「……ッ!」

 

 はっと顔を上げれば、目の前には二人くらい捜査官。

 射撃に対しては体を捻ってギリギリ反応したけど、追撃までは間に合わない――。

 

 

「はいっと」

 

 

 そんな私を、ウタさんが手前でサポートしてくれた。

 軽々と首を折る様を見て、月山が「ドルチェ!」とか変なこと言った。

 

「集中しろ、死にたいのか……!」

「ご、ごめんなさい……」

「カメラにタトゥー映っちゃったかなぁ」

「らしくないねぇ霧嶋さん!」

「何やってんだよお前」

 

 周りから一斉に言われて、私は声が小さくなる。

 確かにらしくない。何をやってるんだって言われても仕方がない。

 

 こんな調子じゃ、カネキ助けに行く前に自分がやられちゃいそうで――。

 

「……”白鳩”の部隊だ。

 最短ルートは簡単に通れそうにない」

 

 四方さんが足を止め、角の先を伺う。

 私達もちらりと見れば、言葉の通り十数人ほどの捜査官たちが武装を準備していた。クインケじゃなくて猟銃みたいなヤツは、どこかで見覚えがあるような、ないような。

 

「俺たちは強行する。

 トーカと西尾は別ルートだ」

「んん、四方氏、なら僕も霧嶋さん達の方に――」

「そしたら殺す。お前は駄目だ」

「イッツジョーク。おぅ怖い」

「蓮示くん、冗談通じないよ普段は」

 

「行くぞトーカ」

 

 ニシキが私に先行して階段を上る。

 後でなと声をかける四方さんに頭を下げて、私はニシキに続いた。

 

「おい、単細胞」

 

 階段を上りながら、ニシキが言う。

 

「……今、やんなきゃなんねーことだけ考えてろ、マヌケ!」

「……」

 

 一瞬、確かに正論だと納得してから、私は思わずいつものように。

 

「うっさい、色ボケメガネ」

「ああ!? 誰が色ボケだこんちくしょー、てめぇが言うなッ!」

「あ゛?」

「自覚なしかよ、ったく……。

 毒づく体力あんじゃねぇかよ、クソトーカ」

 

 ふん、と鼻で笑い返す私。

 

 建物内部のルートが使えない以上、もう行ける先は屋上からしかない訳で。

 そのまま扉を開けた私たちは、走る。

 

 不気味なほど静かな屋上までのルート。この時点で、警戒が少なからず堕ちていたのかもしれない。

 

 あるいは、私自身の鈍りか。

 

 

「――ッ、チッ、油断してんじゃねぇ!」

「ッ!?」

 

 

 突如、雨あられのごとく赫子の弾丸が降り注ぐ。避けられない、と私が判断するより先にニシキが庇った。

 

 くそが、と口だけ動かして、そのまま倒れる。

 

 そのまま抱き起こそうと手を貸そうとした瞬間、上空から声が聞こえた。

 

 

 

「――よォ、馬鹿姉貴。

 何しに来たんだァ?」

「アヤト……!」

 

 

 給水塔の上。黒い、兎のような仮面を首から下げて。

 嫌そうな表情をしながら、アヤトが私を見下ろしていた。

 

 

 

   ※

 

 

 

「トーカ、ひょっとしてあの眼帯野郎を助けに来たのか?

 ありえねぇ、どこまで腑抜けちまったんだァ? それとも色ボケたか……」

「……コイツもだけど、何だよ色ボケって」

「何、家族のこと無関係の半端ヤローにまで話してるんだってんだ、あ゛!?

 他に理由でもあんのかゴラ! 命令しても殴ってもずっと弟か、親戚の子供か何か見るような目で見てくんだぞ、やり辛ぇにも程あんだろうがッ!」

 

 頭をガリガリ搔きながら、そう吼えてアヤトは下りてくる。

 

 カネキ、そんな態度でアヤトに接してたとか、ちょっと想像でき……、そうで出来ない。ここまで荒れてるアヤト相手に、そんな目で第三者が見れる?

 

 っていうか、私はちょっと、アヤトの言葉が何を指し示してるのか理解が追いつかなかった。

 

 でも、数秒で会話の素材をそろえて、ある一つの結論に達した。

 

「……へ? 私が、カネキに?」

「違ぇのかよ」

「へ? いやいや」

 

 軽く否定してはみるけど、あれ、なんだろう、顔熱い。

 

 いや、別にそんなんじゃないと思うんだけど……。確かにお父さんに雰囲気とか言動とか似てるし、なんだかんだで何も言わなくても、私のこと色々察したりしてくれるけど、別にそんなんじゃない――はず。

 

 いや、でも、ちょっと待って。

 

 いやいや、別に、あり得ないから――いや、でも。

 

 

「……ひょっとしてガチのヤツか?」

「……や、や! 違うから、この!」

 

 

 慌てて否定する私を見て、やっぱり面倒そうに頭をガリガリ引っ掻くアヤト。

 

「やり辛ぇ……。でも、ま、無駄足だぜ?」

 

 そう言って、アヤトは嗤う。私が急いでいるというのを見越してか、アヤトはいっそ大笑いというレベルで声を張り上げた。

 

「教えといてやる。あいつは今、ヤモリって喰種と一緒だ。

 ヤモリは簡単に言えば、拷問マニアの変態ヤローだ」

 

 両手を広げ、私に向けて馬鹿にするように、アヤトは嗤った。

 

「――アイツ、たぶんもう死んでるぜ?

 一歩遅かったなぁ、マヌケ」

 

 

 それを聞いた瞬間、大体「遅かった」の「か」のあたりで、私は走り出して。

 

 アヤトに向けて羽赫を射出するも、向こうは自分の体に赫子を巻き付けて、コートかマントのように装備。

 その状態で、こちらの弾丸を軽く往なして、防御。

 

「この――」

「バン」

 

 顔面に向けて蹴り上げれば、それは素手で止められ流され、マントから射出。

 

 腕で胴体を庇っても、私の身体はアヤトの一撃で簡単に転がされた。

 

 

「――ったく、弱っちぃクセにちょこまかウゼェんだよテメぇよ」

「アヤト……」

「テメェも親父ん所まで、送ってやろうか、あァ?」

「――アヤト!」

 

 私は、瞬間的に頭に血が上って、あらん限り叫びながら蹴る。

 

「目ェ覚ませ馬鹿アヤトぉ!」

 

 回し蹴りは、回避。

 赫子の一撃も、飛び跳ねて避けられて。

 

「こんな訳わっかんない組織で……、何やりたいのよアンタ! どうしちゃったんだよ!」

「うっせ、姉貴にはカンケーねぇ!

 それに、どうかしてんのはテメぇだろ!? あんなに簡単に、人間に裏切られたのに、親父の真似事してままごとして――!」

 

 逆に赫子を掴まれて、フェンスに叩き付けられて。

 

 そのまま引き寄せ、背後に回って。

 

 

「――俺はお前らとは違う。テメェだって容赦しねぇ。

 半端な羽根なら――要らねぇだろ」

 

 

 

 

 そして、私の背中に激痛が走った。

 

 

 

 

 叫ぶ私。

 アヤトは、私の背中の赫子を素手で掴み、引きちぎるようにしながら自分の口で噛み千切る。

 

 なんだか熱い。きっと赫子と一緒に、血がどばどば背中から出てるんじゃないだろうか。

 

 必死にもがいて、蹴り上げても、しかしさっき程の力が入らない。

 

 

「――力はルール。世界はルール。なら、世界は力だ」

 

 

 私を蹴り飛ばして、アヤトは口を「不味い」と拭う。

 

「物事の優劣、全部力で決まる。いい加減わかれよ、じゃねぇと親父みたいに負けるだろうが」

「……ッ」

 

 立ち上がれない私の脳裏にフラッシュバックするようにお父さんの映像が蘇る。

 

 一番古いところには、お父さんもお母さんも居て。

 三人だけになってからの方が少し多いのが、ちょっと寂しくて。

 

 住んでたマンションの隣接、佐藤のおばちゃんの作った肉じゃがを不味い不味い言いながら食べる光景。

 私やアヤトに、喰種としての世界を守る為に人間の世界で生きることを説く光景。

 ごんぎつね、だったか昔話を読み聞かせる光景。

 拾った小鳥の世話のための本を読んで、色々私達に教えたり、試行錯誤していた光景。

 レシピを読みながら、人間に合わせた料理を作っておすそ分けしようとする光景。

 

 夜、公園で遊んでいた時、迷子になった年上の男の子の悩みを聞いてあげていた光景――あのお兄ちゃんは、少し振り回したような記憶があるような、ないような。

 その彼を見送って、親が両方居なくて私達より辛い状況かもしれないって話もされたりして――。

 

 でもある日、捕まったのか殺されたのか、お父さんは帰ってこなくなって。

 

 私もアヤトも、佐藤のおばちゃんに通報されて殺されかけて。

 

 だから、私はお父さんの分も、お母さんの分も、三人分アヤトの傍にいてあげないとって思って。アヤトのこと、守らなきゃって思って――。

 

 

「……チッ、こんな時まで親父の話かよ」

 

 

 うわ言で何か呟いている私に、アヤトは赫子を出現させる。

 

「んなもん、もう居ねぇんだよクソトーカ」

 

 ――トーカちゃん、学校に通ってみる気はないかい?

 

 荒れてた当時、芳村さんが私にそう言ってくれて。色々あって、私も人間について知りたいって思って。

 丁度その頃からか、アヤトが反抗的になったのは。

 

 親父のことで学習しなかったのか、とはよく言われたっけ。

 

 平和ボケしてると罵って、そのまま家を出て行って。気が付けばイトリさんからの情報で、14区で暴れてるって話が回ってきて。

 

 

「『赫胞』にダメージ与えりゃ、時間かけて回復するまで『赫子』も出せなくなる。……姉貴、あばよ――」

 

 

 一人でクッションとか、ぬいぐるみを抱えてよく寝てたっけ。

 

 寂しさで枕を濡らして、悲しみで一人打ち震えて。

 

 

 私が守りたかったアヤトまで私から離れて、そして一人ぼっちになったとき。胸の真ん中あたりに、よくわからない穴みたいなのが開いてるような気がした。

 

 抜け落ちたものは、もう、取り戻せそうもないや。

 だから――だから、誰か。

 

 

 

「――一人に、しないでよ……」

 

 

 

 私の呟きと同時に、アヤトの背中から赫子が射出され。

 嗚呼、最後の最後まで一人だったんだって、少しだけ悲しくなって目を閉じて。

 

 

 

「しないよ」

「……へ?」

 

 

 

 身体を包む浮遊感。背中と足に感じる、細くても妙な力強さを感じる感触。

 目を開けて、その正体を探せば――。

 

「――あ……、ん、た。カネキなの……?」

「ギリギリセーフ、だと良かったんだけど。大丈夫?」

 

 

 髪を真っ白にして、手も足も指先の色がぐずぐずになっていて。

 見るからに傷だらけで、顔だってどこかやつれてるのに。

 

 それでも、カネキはいつもみたいに、少し微笑んで私を見ていた。

 

 

 

 

 




※カネキの駆けつける速度がおかしいですが、アクセルフォームorクロックアップはしてません;

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