仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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安浦さん強すぎ問題再び


chap.12 存在の証明 ―― is no aziS no homes u ――

 

 

 

 

 

 簡単に言えば、結果が出た。 

 

 阿藤くんは早々に負傷し、入院している。望願くんを呼ぼうかと思いもしたけど、あちらもあちらで色々大変らしく、後任が来るまで待機しているようにと言われてしまった。

 冗談じゃない。

 

 せっかく相手が何者か特定できたというのに。まだ足跡を残している段階だというのに。わざわざ手をこまねいて逃がしてしまうなど、もってのほか。

 お役所的体質を、戦闘屋が持ってはいけないでしょ。例え球切れになっても現地補給はシューティングの基本だし。まぁ横スクロールだから、どこに残弾があるのかわかりやすいけど。

 

 だからこそ、私は迷わない。

 まぁ、あんまりやんちゃしすぎるといよいよもってクビになっちゃうから、そこはちょっと気を付ける。具体的に言えば、ちゃんと手順を踏んで、戦えるような準備を伴って。

 

 びっちゃんと愚痴っていたことも幸いしてか、動けるようになるのに三日。

 

 場所は2区の、某大型市場近くのコンテナ。現在改修作業に入るか入らないかというところ。

 

 元々の状況が状況だったからこそここを選んだ、という側面もある。

 けれど、本丸というか、主目的はそこじゃない――。

 

 

 

「……やって来たわね」

 

 

 コンテナの向こうから現れた、黒いコートの喰種。白い髪、顔の前半部を覆うドクロのようなウサギの仮面。

 聞いていた「ナルカミ」の情報と一致していることから、阿藤くんが上手い事やってくれたという確信を私は得た。

 

 ナルカミによる襲撃は、既に三回行われた。

  

 一回は局。一回は町中。

 そして一回は、海外勢力との戦闘中。

 

 彼女が相手に味方するようにいたせいで、局での方針が「ナルカミ」単体の駆逐でなく、クロノテイルを含めた駆逐、もしくは捕獲して情報を引き出すって形になっちゃって、ちょっと面倒だったけど。

 でも、二回目で仕込みは出来ているはず。

 

「……」

「初めまして、でいいのかしら。こうして顔を合わせるのは初めてのはずよね」

 

 

 答えない彼女に、私は少しだけ肩をすくめた。顔が無表情になるのは、仕事だから、という以上の感情はない。感情はないけど、相手はおそらく、それどころではないはずかしら。

 

「ヒカリちゃん、で良いかしら?」

「――ッ」

 

 私の言葉に、明らかに彼女は動揺した。

 それは、本来なら彼女が私に知られていないと思っているだろうものだから。私も偶然当たりをつけただけなので、あんまり偉そうなことは言えないけど。 

 ただ残念なことに、何故私が知っているのか、といえば、ひとえに彼女が勤勉だったから、と言わざるを得ない。

 

 そういう意味では、「社会人として」の彼女はごくごく当たり前の女性であったのだろう。

 

「人間の記憶って、馬鹿にならないものよ?

 これ――」

 

 私がビニールから取り出したのは、とあるレーシングクラブのダンボール。

 そこの経営者の方と、懇意にしていた少年の喰種――つまるところ「彼女の弟」。

 

「たまーに貴女、迎えにいっていたんでしょ? 弟君」

「……」

「なんで名前がわかったのかって言えば、世間は狭いというか、そこのオーナーの奥さんが、貴女の上司なのよ」

「――!? いや、だって別姓……」

「珍しいとえいば珍しいけど、まぁ、職場とかだとあるのよね。苗字が変わって担当者が変わると面倒だから、そのまま前の姓で通すって」

 

 そういう意味では、びっちゃんと結婚した呉緒君なんかは、そんなに影響がなかったと言えなくもないかしら。まだそんなに名前が通っているわけじゃないし。斎君あたりは、もう真戸呼びしはじめてるし。

 彼女にとって不幸だったのは、そういう風習みたいなのがあるっていうのを知らなかったこと。確認が足りなかったということと、まぁ、せいぜい区を一つまたいだ程度の範囲で活動していたっていうことかしら。

 

「貴女が誰か特定するのは、そんなに難しくはなかった。

 問題はまぁ、アレよね。どうして今になって、あんなに慎重だった貴女が、大勢殺すような真似をしたのかってところかしら。

 貴女別に、捜査官だけ集中的に殺すつもりなんてないでしょ?」

「……黙れ」

「目立つことはしてなかった。というより、自分たちがやったって情報もほとんど残さないよう殺すのが基本だった。

 例外的に何件かはあるけど、まぁそれは本意ではなかったんでしょう?

 なのに真昼間から局に襲撃をしかけて、あまつさえ映像に残りながらね。

 それでも私の後輩を殺さなかったのは、手紙のお陰なんでしょうけど」

 

 そう、手紙。

 私は彼女に宛てて手紙を書いた。日時と場所と、ここに来ないと何が起こってもしらないという文章を。

 

 手紙を出す以前に、一度私は彼女達が住んでいると住所に書いてあった物件に行った。そこで、借りられてはいるものの、電気、水道ともに全く支払っておらず、倉庫のように使っていることを聞いた。

 後は、その周辺に拠点を構えて、倉庫のように使っている相手を張っていれば、おのずと結論は見える。まさかコンテナというか倉庫というか、間借りして暮らしているとは思わなかったけど。

 

「社会人的に、普通逆じゃない? って思わなくもないけど、まぁお金もないんでしょうし、仕方ないかしら」

「……」

「じゃあ、取引をしましょう」

「?」

 

 ヒカリちゃんは、私の言葉に疑問を抱いたらしい。

 私は表情を崩さず、右手の人差し指を立てた。

 

「――私の要求は一つ。

 貴女、私達に捕まってくれないかしら」

「……取引って言ったな。見返り何よ」

「その代わり、弟君には手を出さないわ」

「信じられるか……ッ」

「あら、これでも私、喰種相手には約束守る方よ?」

 

 まぁ100パーセント守るとは言い切れないけど、履行率は80パーセントを超えてると自負している。さすがに取引直後に同僚とか他の捜査官が来ちゃったら、クビになりたくないからそういうことがなければケースバイケースかしらね。

 ……そう考えると、阿藤くんの前の彼。ヒカリちゃんに殺されちゃった彼は黙認してくれていて、かなり都合の良いパートナーだったんだけど。

 

「私に下されている指令は、貴女を殺すか、捕まえる事。貴女の弟君までは目標になっていないの」

「……」

「元々、私が貴女の弟君を狙ったのも、貴女を捕まえるため。

 そういう訳で、良いかしら?」

「――駄目」

 

 言いながら、彼女は体を傾けて、こちらを睨むように見る。

 

「アンタが言ってるのは、『今は』ってことだろ?

 それに――今、弟は手が離せない状態。アンタらのせいで、治療してもらってる」

「……あらあら、廻り合わせが悪いわね?」

 

 私の立場からすれば、ヒカリちゃんさえとっとと捕まえられれば弟君の方はどうでも良かった。でもいざ彼女を捕まえられるタイミングになったら、彼女が自由に離れられない状態。

 まぁ、どちらにせよ交渉は決裂したんでしょうけど。 

 それがちょっと残念で、ちょっと面倒。

 

 まぁ、仕方ないかしら。知的生命体同士といえど、立場は立場よね――。

 

 

 私が構えた瞬間、ヒカリちゃん――ナルカミは距離を詰めた。

 気が付けば鼻先にはスニーカーの靴裏。瞬間的に上体を逸らしながら、手に持っていたダンボールで彼女の胴体を殴る。

 

 うめき声一つ上げず、逆にそれを利用して上空に飛び上がる彼女。そのまま右手を振り被るように構えて――。

 

 瞬間的に赫子を使われると判断し、私は地面に置いてあった旅行カバンを振り被り、盾のように構えた。案の定、空から赤い弾丸が降り注ぐ。一つ一つはダイアモンドというか宝石みたな感じで、結晶みたいになっていた。

 

 それを掻い潜れば、落ちる彼女の片足蹴りがキャリーバッグに激突。

 反動でぶっ飛ばされるそれを一瞥して、私は足元のアタッシュケースを開けながら、蹴り終わり空中を舞う彼女目掛けて投げつけた。

 驚いたような顔をしながら蹴り飛ばす彼女。と、空中を舞っていた二丁拳銃とポーチを手に、眼前の彼女の胴体目掛けて乱射。 

 

 流石にたまらないと見えて、彼女は赫子を盾みたいにしながら、地面を蹴りこちらと距離をとった。

 

「……、アンタ本当に人間?」

「ええ。まぁ、ちょっと仕事が嫌いな」

「嫌いって割に強すぎるんだけど」

「練習してるからかしらねー。まぁ、書類整備やってるよりは銃握ってる方が楽ではあるけど」

 

 あんまり頭使わなくて良いし、と愚痴をこぼしつつ、私は銃の弾装をポーチから取り出す。銃底で叩いて、とりつけてあるそれを空中に投げ出す。回転するそれ目掛けて、空の弾装を捨てた拳銃の底をぶつけるようにして装填した。

 一片たりとも彼女から目を離さない。そんな私の様子に、いえ、どちらかといえば「それが実現できてしまう私に」、彼女は形容しづらい、微妙な表情になった。

 

「――ジョーダンッ」

 

 笑えない冗談だ、といったところかしら? その言葉の意図は。

 まぁ確かに、後輩に教えていてあんぐりされることもあるけど、斎くんとかちゃんと着いて来てくれてるし、たぶん大丈夫大丈夫。生身で大気圏突入とか出来ない、普通のヒトですからねーっと。

 

 そんなことを考えながらも乱射する私に、彼女は彼女で反応できないように見える。厳密には防戦に集中していて、攻撃の準備にかかれないといったところかしら。

 

 まぁ、私も私でそんな隙はあたえない。片方が切れるタイミングで弾装を叩いて取り替えてを繰り返してるので、そうそう切れる事はないだろうと。

 でも弾丸も有限だし、いつまでも乱射していてはいつか切れるから――。

 

 視線をわずかに、キャリーバッグの方にふる。 

 すると、その一瞬目掛けて彼女が急接近してきた。

 

 その、私から隠れていた右手に、ほとばしる閃光を隠しながら。 

 

 ばちり、ばちりと。電気が放電するような、そんな音。アーケードの格闘系でよく聞くような、そんな感じの音に、私はためらわず拳銃を投げた。

 マスク越しだけど、驚いたのがわかるうめき声。咄嗟に相手も隠していた右手を、反射的に突き出してしまったみたいね。

 

 

 手元から放たれる、電気を帯びた赫子の結晶。

 拳銃目掛けて放たれたそれは、正直に言って目で追えない程度には速かった。

 

 

 そしてまた、激突した瞬間に周囲に電気がほとばしること、ほとばしること。

 

 一応対策として、胴体に「それ用の」チョッキをまとっているから良いものの、ちょっと、久々に命の危機を感じた。 

 ただ、同時に連発は出来ないみたいだというのも察知した。この一撃を放った彼女の構えが、明らかに慣れてないように見えたから。

 

 この様子だと、足を止めて射程に相手を収めた上で放つのが、本来の使い方といったところかしら。

 

 まぁ、大人しく待ってあげる通りはないけれども。

 残った方の拳銃の銃底で、彼女の左頬をぶん殴る。この距離だと銃を構えてから撃つ動作より、腕を振り回すだけの方が速いからだ。

 

 マスクが砕ける感触とともに、彼女の移動ベクトルが横にそれる。それでも赫子を展開して、こちらに射撃しながら飛び上がった。

 負けじと私も乱射。かわしながらなものの、今度は何発か当たった手ごたえが在る。

 

 ……ちょっと、ストッキングが切られた。足にダメージがないのが幸いだけど、やってくれるじゃない。これ地味に高いのに。

 いえ、ひょっとしたらわざとかしら? 見れば彼女のコート、中々良いものだし。

 

 ぐらりと、体を少し傾けながら立つ彼女。破損した仮面右半分から覗く顔は、まぁ、何というか、そこそこ綺麗な顔立ちをしていた。

 

 その目に映るのは、強い意思。何としても勝たなければならないという、確固たる意思。こう、RPGとかで魔王相手に剣を構える勇者とかって、こういう顔してるんじゃないかしら。

 ってことは、私、魔王ポジション?

 あら嫌だ、プライベートの時間に仕事が食い込んでくるのが悪いんだわ。はやく帰って続きやらないと。

 

「……アンタは、なんで戦うんだ」

「仕事だからに決まってるじゃない」

「…………言葉が、軽い」

「それは、まぁ、仕方ないんじゃなかしら」

  

 肩をすくめると、思わず無表情だった頬が、苦笑いを形作った。

 

「私にとって、CCGはあくまで仕事。仕事だから、それ以上の私情は挟まないようにしているつもり」

「?」

「例え『貴女に殺された』私の前のパートナーについて、私が何を考えていたのかとか。その相手が、付き合いが短いわりに結構付き合いやすかったとか。意外と休日、ゲーセン廻りに付き合ってくれたしたとか。色々理屈っぽく言う割には結構テキトーだったりしたところか――そういうところをひっくるめて、『私達が将来的に何か別な関係になっていた』かとか。そういうことは、貴女にも、この戦いにも関係ないことよ」

 

 私の言葉に、彼女は目を大きく見開いた。気のせいか、戦意が揺らいでいるように感じる。

 

「貴女に対して、私がどんな感情を抱いているかとか、そんなことは関係ないの」

 

 拳銃を上に向け、私は一発、空に打ち鳴らす。

 

「だから――仕事なのよ。仕事でしかないの。

 それ以上の理由は、貴女と戦うのに持って来てはいないのよ? 私は、プライベートと仕事は完全に分けて考える性質だから」

 

 だから、本当に関係ないのだ。

 どれくらい、仕事人としての私が彼の死に落胆したかとか。私人としての私が、どれほど彼を殺した相手に感情を抱いているかとか。

 

 それを、クールな女気取って受け流して切り分けて考えるようなスタンスで私が臨んでいるっていうことを含めて。

 

 ただ――思ったより動揺してくれたみたい。事前に聞いていた、彼女の人柄と合致するところだった。

 

  

 

 瞬間、駆け出した私に彼女は一瞬、反応が遅れる。

 私はキャリーバッグを手に取り、スイッチを入れる。起動するクインケ。いわゆる「旧式」のそれは、ケースから解き放たれると、巨大な「顎」を展開し――。

   

 

 

 

 

  

 

「……」

「貴女には貴女の事情があったんでしょう? だったら、そこにあんまり意味はないわ。

 そこは、問う問わないじゃないのよ」

 

 

 倒れ付す彼女。既にクインケも片付け終わり、憔悴し動けない彼女の腹部に、私は拘束道具を置く。

 と、彼女の背部から赫子が、まるでベルトの帯みたいに変化し、両端に接続された。一瞬うめき声を上げる彼女。その両手に手錠をかける。

 

「でも、約束は守るわ?

 追加で仕事が来ない限り、私は貴女の弟さんを追いはしない。その代わり――キビキビ吐いて頂戴ね」

 

 

 私の言葉に、ヒカリちゃんは、すごく悲しそうな表情を浮かべた。

 

 

 

 

 


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