仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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chap.08 掠り傷 ―― ui ask iru Cz ――

 

 

 

 

 

「で、結局何を確認されたのですか? 一等」

「『彼女』の身内について少し」

 

 そう言いながら、安浦清子はキャリーバッグを開け、中に入っている二丁拳銃を取り出す。それを自分のデスクの上に置き、分解する。手入れ油を使い、取り外したスライドに慎重に流す。

 それを見ながら、阿藤は頭をかいた。弱ったな、という意思が垣間見える。未だ二十代だというのに既に下が見え初めている後頭部を一瞬なぞり、彼女の次の言葉を待った。

 

 もっとも待つが、安浦はすぐに答えない。

 

 手元の赤い弾丸が転がりそうになるのを押さえて、また作業を続ける。

 

「……それを準備している時点で全くもって、物騒な話になりそうなのは理解できるんですけど、だからこそ説明をですね?」

「しないわよ。だって――したら貴方も始末書を書かなきゃいけなくなるわよ?」

 

 そう涼しい顔をして言う、無表情な彼女。何を考えているか一目で理解することは難しい。

 

 実際、彼女の捜査にグレーラインが多い事も阿藤は聞いていた。定時で帰ったかと思えばいきなり刑務所の中に入れられていると連絡を受けたときには唖然とし、わざわざ休日だったにも関わらず急いで駆けつけるも、結局会えずじまい。しまいには彼女の同期の夫らしい男性から「まぁ心配はするな。彼女はいつものことだそうだ」と電話がかかってくる始末。

 出所したら出所したで、その足ですぐさま向かった先でなんとまたドンパチ! 武器を持って居なかったにも関わらず、喰種と戦うという。しかもその、明らかに強そうな喰種は取り逃がすという状況が、あまりにもあんまりだった。

 

 要するに、阿藤置いてけぼりである。

 仕事の面でも、そしてやってることに対する理解の面でも。

 

 だからこそ説明を求めたのだが、しかし彼女はどうやら、以前した以上の説明をするつもりはないらしい。むしろ以前説明されたことの方が珍しかったのか? と疑うレベルだ。

 

「まぁ、捜査官でもこういう仕事をしてるのは私くらいだろうし、あまり気にしなくていいわよ?」

 

 笑いもせずそう言う彼女に、阿藤は何も言えない。

 

 そして何故か――その背中から普段よりも、鬼気迫るものを感じてしまった。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 橘レーシング、と名の付けられたレーシング場から、一人の少年が出てきた。

 色が抜けつつある髪をした、目つきが悪い少年だ。服装は無駄にシンプルで灰色。上下共にそんな色をしているから、逆に作業着のように見えなくもない。

 

 聞いていた通りだ。

 

 そんな彼は、しかしその目つきの悪さに反して少し浮き足立っているようだった。手に持つ大きめのバッグに時々視線をずらして、にやけるのを押さえている、ように見えなくもない(実際は口の端がぴくぴく不気味に動いているだけなのだが)。

 店を出た彼は、その足で東京メトロの駅方面に向かう。ただし電車には乗らず、遠回りをして日本橋を過ぎる。

 

 そしてそのまま首都高の下を歩きだした。深夜はまだ回ってないけど夜で、誰も居ない。人気がなくなった時、彼は足を止めて口を開いた。

 

「………………………………誰だ」

 

 

「――誰かしらね」

 

 

 そう言いながら、彼女――というより、私は柱の影から姿を現した。

 既にガンベルトを腰に装着してる(ちょっとこれってワイルドガンマンイメージ)。もちろんそんな格好をしている私を前に、彼は明らかに警戒した。まぁ、逃げないだけ状況を把握しているということなのだから、間違ってはいないかしら。

 

「あー、でも安心して? すぐ殺すつもりはないから」

「……?」

「元々用事がるのは、たぶん、貴方の『姉』の方なのよ」

 

 そう私が言った瞬間、彼の体がぶれて目の前まで迫ってきていた。

 すかさずそれを、上体だけ逸らして回避。振り抜いた腕が空振りして、空中で彼の体制が崩れる。それを見越して私は彼の腕を持ち、強引に振り回して地面に叩きつけた。

 

 流石に喰種の耐久力なのかしら。――いや、喰種にしてもちょっと打たれ強いみたい。

 

 痛みを感じさせることもなく、叩きつけた後の私の蹴りを、バク転しながら回避した。その後、ちょっとだけ「……初めて成功した!」という呟きは、聞かなかったことにしてあげる。

 

「……」

「?」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

「何かしゃべってくれないと、何も答えられないわよ?」

「目的」

「だから……、まぁ良いわ。でも、残念ながらそれは『貴方を拘束してから』かしらね」

 

 言いながら、私は左手の「砂漠の鷲」の引き金を引いた。

 肩が外れんばかりの威力に身を任せ、私は後方に自分の身体をひねる。それにあわせて右側の方も引き、威力を増して空中で回転する。

 回転する視界の中、少年の喰種の目の色が変わったのが見えた。

 

「――おおおおおおおおおッ!」

 

 叫ぶ彼に向けて、回転しながら照準を合わせ――。

 

 

 

 事の発端は、どうも半年以上前。私が「彼」と組んでいた時。 

 その時も私は、ちょっとまたポカをやらかして自宅謹慎を命じられている時で、暇だったから買って放置していたスーファミを動かして「超R-型」をやって軽く宇宙戦争していたのだけれど。その裏側では、やっぱり当時私のパートナーだった彼は真面目に仕事をしていた訳で。

 まぁ年代も近い事もあって、彼も彼で結構、武器持つと人格が……。まぁそれはいいとして。

 

 無茶をやらかす性質だった彼は、こともあろうに横浜から密入航して来た、軍隊のような喰種に戦いを挑んだ。つい先日読んだ資料と照らし合わせるに、それが海外勢力の喰種のものであることに違いはない。

 

 そんな相手に対して、彼は旧型クインケ四つで挑んだらしい。剣、槍、銃、斧、四タイプをとっかえひっかえしながら戦って、結局残ったのは剣のだったりもしたそう。で、その戦いの最中――彼はあの、キュウというらしい青年の喰種と遭遇した。

 

 そして戦ったどうもその時。

 たまたま、本当にたまたま、とある喰種が巻き込まれていたらしい。

 

 その「少年の喰種」は、その場からあるものを盗んだ。それに激昂したキュウが彼目掛けて赫子の斬撃を放ち、でもそれに失敗した。少年もまた赫子を放って、戦場をかき乱して逃げて行った。

 

 そしてその時の特徴と――何より彼が盗んでいたものこそが、問題だったらしい。

 

 まぁ、そこは細かくは読み飛ばしていたからさほど興味はない。重要なのはそこから。

 盗んだ少年のことを、彼は調べていた。それこそ私が何をトチ狂ったのかスーファミでウォーリー探し始めたあたりの頃も、きちんと職務熱心に。赫子のタイプが以前CCGに登録されていたものと、精度的に7割くらいで一致した。そこからかつて、その赫子痕が発見された2区を中心に捜査を続けていた。

 丁度、捜査官殺しも再び始まっていたそのタイミング。

 そして、彼は殺された。――ほかならぬ、7割同一のRcタイプの喰種に。

 

 

 

「でも、気になっていたのよね。私」

 

 

 

 こちらの懐に潜り込んでくる彼に、拳銃を撃った反動でぐるりと腕を回して、頭に一発。嫌な感触が腕に伝わるのと一緒に、無口な少年喰種は血を吐き出した。

 彼の足を一発打ち抜きながら、距離をとり、弾丸を補充。両方ともなので、ちょっと時間がかかる。その隙に襲われない程度に距離をとったけど、まぁ、彼も彼で簡単に立ち上がれなさそうね。

 

 ま、構わないわ。私は話を続ける。

 

「普通に気にはなるけど。だって、いくら何でも半年だし、そこでいくら『彼』が貴方の手がかりを掴んだからと言っても、そう簡単に殺される? もっと言うなら、殺されるようなシチュエーションが出てくる? 逃げたい上、貴方は簡単に彼を殺すことは出来なかったとみるべきだし、それ以上にここに生活拠点があるなら、目立つことは避けたいはず。だったらば、何故?

 だから私の結論はこう。――誰かが貴方の代わりに彼を殺した。

 そして状況証拠から、身内であることに違いはない」

「……ッ」

「姉っていうのはカンだったけど、どうやら正解みたいね」

 

 いつの間にか、彼の持っていたバッグはどこかに行っていた。まぁ邪魔だしどっかに転がしたのかしら。

 

 銃弾を装填し終えて、私は彼にそれを向ける。

 

「さて、大丈夫かしら?」

「――ッ、お、おああああああああああああ!」

 

 気合を入れるよう叫んで、彼は背中から赫子を出した。羽赫ね。それも、やっぱり大きいというか何というか。

 でも、その使い方に私は目を見張った。

 

 彼は、赫子を自分の背後に射出した。

 

 射出すると同時に、まるで火でも吹いているかのように霧散する赫子。そしてそれを見た瞬間、私は生命の危機を感じとった。

 

 

 まさに逆転の発想。

 赫子を攻撃でなく、ジェット噴射のように使うというその発想は、クインケ加工が前提の捜査官にはない類のもの。

 

 でも残念なことに。今回私が一人だったら、今ので充分、不意打ちには成功したでしょう。

 

 なにせ相手は喰種で、私は人間。いかに立ち回りを上手くしたところで、基礎的な耐久力まではかわりない。

 

 

 

 だからこそ、そんな私の横から現れた、刀のようなクインケ「ツナギ」を持った彼に、少年は目を見開いた。

 もう既に動きは止められない。彼は刀の先端を彼に向ける。振りかぶって蹴りを叩きこもうとしていた彼は、ぎりぎりで足こそ逸らせたものの。その胴体かた肩にかけて、猛烈な勢いで刀がめり込み、貫通する。

 

 

「――!?」

 

 

 突撃の衝撃で阿藤くんごと跳ね飛ばされる。一緒にクインケが抜けたのが、彼にとって救いか否か。猛烈に血を噴き出し、顔を土色にして、彼は地面に転がった。

 

 後方を振り返りながら、私は阿藤君に講評。

 

「だから、ツナギくらい二本同時に使うようにしなさいって言ってるでしょ」

「無理ですって、これ一つでどれくらい重いと思ってるんですか!?」

 

 それを毎回二丁の銃撃で肩を外しかけてる私に言うのかしら。

 結果、力を確実に後方とかに受け流すって言う無駄な技術を覚えたりしたけど。

 

「ま、必要は発明の母よ。貴方もきっと使っていたら、そのうち変な悟りを開くわ」

「いや、俺、凡人ですからね? 無理ですよそんな、天才みたいなの……」

「本当の天才っていうのはそういうことを言うんじゃないのだけれど……。まぁ良いわ」

 

 ちらりと見れば、既に彼は息絶え絶え。そんな彼に、私はガンベルトにぶら下げていたもう一つの道具を向ける。

 

「俺を……拘束して、どうする?」

「貴方のお姉さんに分かりやすいメッセージを残すわ? 例えば……、さっき貴方が寄っていたレーシングショップ、お姉さん知ってるわね?」

 

 そこに張り紙でもして、連絡先を書いておく。それとなく弟くんを押さえていることを示せば、きっと彼女は私の方にくるはずだ。

 当然だ。だって――自分が討伐されるリスクをおして、弟の身を守る事を選んだ姉なのだから。

 

 目の前の弟くんの表情が歪む。

 

 まぁ、そんなこと関係なく私は、手に持った「喰種専用の拘束具」を彼の腰に――。

 

 

 

 丁度そんなタイミングで、私目掛けて発炎筒が投げられた。

 

 

 不意打ちだった。今度こそ気づかず、その煙をもろに顔面に食らってしまう。げほげほと咽て転がって、そして同時に爆竹の炸裂する音。とっさに反応してバク転して(私は余裕で成功できる)距離をとる。そっちではそっちで阿藤くんが伸びていた。どうも締め落とされたらしい。っていうか、まぁ、打たれ弱いのは仕方ないかしら。

 

 さて、問題はそんなことをやってくれた相手かしら。「無理やり」涙を流して目を洗い、前方を見る。

 

『……』

「あら、貴方もだんまり?」

 

 そこに居た彼を、何と形容……するまでもないわね。ヘルメットをした、ライダースーツ姿の男。ヘルメットのゴーグル部分は赤くなっていて色がメタルっぽく反射して、下側の顔が見えない。

 彼は倒れた少年を持ち上げて、こちらを睨んでいた。

 

「状況から見て、何かしら貴方? 人間?」

『……』

 

 何も言わない彼だったけど、でも、その左腕には赫子が纏われた。嗚呼、一応喰種なのね。

 なのに何で、

 

「まぁ、いいわ。とにかく捕らえさせてもらうわ。『二人とも』――」

 

 そう私が言った瞬間、彼がとったのは「逃げ」だった。

 

「って、ちょっと!?」

 

 思わず銃撃するけど、でも彼の腕に巻きついた盾のような赫子に阻まれ弾かれる。バレットそのものもラボに無理言ってちょっとだけ火薬量を大目に改造してもらった代物だから、それを刺さらず弾くってことは、結構強い喰種ということかしら。

 

 そして私も、足元の阿藤くんを放置するわけにもいかず、その場から動くことができない。彼が一人であるという保障もなく、結局そのまま、私は彼が逃げる背後に銃撃を続けることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 




そういえばですが本作は一応フィクションですが、時間軸と年代と地理だけは割と真面目に考えてます。
つまり過去編の時間軸は・・・?

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